Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 69 医療器具に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「医療器具に関する英語表現」です。

医療現場では様々な医療器具が使われていますが、「シーネ」や「サーフロー」といった医療器具は英語では何と言うのでしょうか?また英語圏の医療現場で “Go get a gurney!” や “You’ll need to don PPE here.” と言われた場合、それらの意味を正しく理解できるでしょうか?

そこで今月は「医療器具に関する英語表現」をいくつかご紹介いたします。

Donning & Doffing PPE って何?
医療器具」の「器具」とは、「単純な構造の道具」であり、英語では instrument と表現されます。そしてこの instrument可算名詞であり、複数ある場合には instruments と複数形で表現されます。

これに対して「医療機器」の「機器」とは、「複雑な構造の装置」であり、英語では deviceequipment と表現されます。device がそれぞれの機器を表現する可算名詞であるのに対し、equipment は複数の器具や機器によって構成されるシステムを表現するため不可算名詞となります。ですからコロナ禍でよく使用された「個人用防護具」は、複数の器具によって構成されているため personal protection equipment (PPE)equipment を使って表現されるのです。

この PPE を「身につけるputting on ことを日本語でも「着用する」のように畏(かしこ)まって表現しますが、英語でも同じように donning PPE と表現します。そして PPE を「脱ぐtaking off ことを日本語で「着脱する」と表現するように、英語でも doffing PPE と表現します。この don という動詞は do on の省略、そして doff という動詞は do off の省略であり、PPE の「着用」と「着脱」に関してはよく使われる表現です。

この PPE には「ガウンgown の他に「ゴーグルgoggles や「手袋gloves などが含まれます。(左右で対になっている goggles や gloves は複数形になります。)また一般的な「飛沫の拡散を防ぐためのマスク」は英語でもそのまま maskface mask となりますが、PPE で使用される N95 や FFP2 のような「有害な粒子を吸い込むことを防ぐためのマスク」は respirator と区別されて呼ばれています。この respirator のことを「人工呼吸器」と勘違いされている方も多いのですが、「人工呼吸器」の英語表現は ventilator となりますのでご注意を。

「救急箱」の英語表現は?
では次に、身近な医療器具として「救急箱」に入っている器具の英語表現を確認していきましょう。

日本の「救急箱」には「応急処置に必要な器具を入れた箱」というイメージがありますが、英語圏でこれに相当するものが「応急処置に必要な器具を入れたバッグ」である first-aid kit です。「救急箱」の「救急」という表現に影響されて emergency kit のように表現すると、「災害時に持ち出す防災グッズの詰め合わせ」の意味になり、「保存食」non-perishable food や「懐中電灯」flashlight などの詰め合わせが想起されますのでお間違えなく。

この first-aid kit には「包帯」「ガーゼ」「絆創膏」などが入っていますが、これらは英語では何と言うのでしょう?

包帯」の英語表現は bandage です。このうち伸縮性を伴うものは elastic bandagecompression bandage と呼ばれます。ただ compression bandage は「圧迫」が目的の際に使われる包帯です。ですから圧迫することが目的の「弾性ストッキング」は elastic stockings ではなく、compression stockings と呼ばれます。

ガーゼ」の英語はそのまま gauze なのですが、その発音は「ゥズ」のようになります。ちなみに針の太さを表す単位は「ゲージgauge であり、そのスペルは gauze とよく似ていますが、こちらの発音は日本語に近い「ィジ」のようになります。

gauze を含めて創傷を覆う行為や医療材のことを dressing と呼びますが、これらを固定する際には「医療用テープ」を使います。これは通常 medical tapedressing tape などと呼ばれます。ちなみに「セロテープ」は英国ではそのまま sellotape と呼ばれますが、米国では scotch tape と呼ばれます。また「ガムテープ」は duct の接続に使われていたことから、英語圏では duct tape などと呼ばれています。

絆創膏」は「粘着性の包帯」という意味で adhesive bandage と呼ばれる他、簡略的に patch とも呼ばれます。英語の plaster は元来「患部に塗る薬や保護材」という意味であり、英国では今でもこの plaster は「絆創膏」という意味で使われています。ただ米国では plaster は plaster of Parisパリの石膏」のことであり、建築の材料や後述する「ギプス」の材料という意味で使われます。米国では「絆創膏」は商品名である Band-Aid と呼ばれることが一般的です。

「シーネ」や「サーフロー」は英語で何と言うの?
では、ここからは病院内で使われる医療器具の英語表現を確認していきましょう。

ドイツ語の gips から生じた日本語の「ギプス」ですが、これは英語では cast と呼ばれます。そしてこの cast には「型にはめる」というイメージがあるため、映画やドラマの「配役」や「尿円柱」という意味でも使われています。

そして古くから使われている「石膏ギプス」は、 先述した plaster of Paris を使って plaster cast と呼ばれます。ここから plaster は動詞としても使われ、plaster the broken arm は「(石膏)ギプスをつける」 という意味になるのです。最近ではプラスチックやグラスファイバー製のギプスが多く使用されていますが、これらは synthetic cast と呼ばれています。これらのギプスを切る際には「ギプスカッター」が用いられますが、これを英語では cast sawcast cutter などと呼びます。ちなみに一般に使われる「カッターナイフ」は英語では box cutterutility knife と呼ばれます。

外固定external fixation の手段としては、ギプス以外にも「シーネ」や「装具」などがあります。取り外しが容易で、かつては「副木添え木)」とも呼ばれていた「シーネ」は英語では splint と表現されます。そして、一定の制限された動きが可能な「装具」は brace と呼ばれます。「歯の矯正具」も dental/teeth braces となりますが、こちらは歯の一つ一つにつく brace が集まったものなので、braces のように複数形になります。

骨折している場合には「松葉杖」を使いますが、これを英語では crutch と呼びます。2つの crutches が必要な場合には「患部の足を地面につけない」必要があるため、患者さんに “Hold the crutches under your arms and lift your injured leg while walking.” と指示しましょう。そして1つの crutch のみで良い場合には「患側と反対側の腕で松葉杖を使う」必要があるため、患者さんに “Hold the crutch on the side opposite your injured leg and avoid putting weight on that leg.” のように指示しましょう。

日本の医療現場で「留置針」として使われている「サーフロー」ですが、これは日本の商品名であり、英語では全く通じません。英語で「留置針」は cannula(「ニュラ」のような発音) となります。ここから「サーフロー留置針を使ったルート確保」も IV cannulation のように表現します。日本語の「カニューラ・カニューレ・カヌラ」には「鼻カニューラ」というイメージがありますが、それは英語では nasal cannula となります。cannula 単体では日本の「サーフロー」の意味にしかなりませんのでご注意を。

「鑷子」「スピッツ」「ストレッチャー」の英語表現は?
最後にもう少し様々な医療器具の英語表現を見ていきましょう。

外科医が使用する「メス」の英語表現は scalpel(「スゥプゥ」のように発音)であり、「替刃」の部分は blade となります。この scalpel には traditional scalpel 以外にも laser scalpel など様々な種類がありますが、「超音波振動メス」は harmonic scalpel と呼ばれます。

日本語の「ピンセット」はオランダ語の pincet から転じた表現であり、一般的には tweezers と呼ばれますが、医療目的で使われる「鑷子せっし)」の英語表現は forceps となります。どちらも「ハサミ」scissors のように複数形になるので注意してください。

採血blood draw/phlebotomy では「駆血帯」や「スピッツ」が使われますが、これらは英語で何と呼ばれるのでしょう?「駆血帯」は英語では tourniquet となり、米国では「タァニィキッ」、そして英国では「タァニィケィ」のような発音となります。

日本の医療現場では「真空採血管」を「スピッツ」とも呼ぶのですが、英語では単純に test tubes となります。複数本扱うことが一般的ですので、test tubes のように複数形で表現します。ただ tube の発音は「チューブ」ではなく、「トゥーブ」のようになります。ですから YouTube の発音も「ユーチューブ」ではなく、「トゥーブ」のようになるのでご注意を。

一般の方は「注射器」を injection と呼びますが、厳密に言えばこの injection は「注射をする」という行為を意味します。ですから「筋肉注射」の英語は intramuscular injection と、そして「皮下注射」は subcutaneous injection となります。そしてこれらは簡略的に IM injectionsubcut/sub-Q injection とも呼ばれます。「注射器」の正しい英語表現は syringe & needle です。この syringe は barrel という「外筒」と、plunger と呼ばれる「押子・吸子」で構成されます。トイレが詰まった際には「ラバーカップ」を使いますが、この英語は toilet plunger となります。日本語の表現をそのまま英語にした rubber cup では全く通じませんのでご注意を。

尿道カテーテル」のことを日本の医療現場では「ハルンカテーテル」のように呼ぶことがありますが、英語では urinary catheter となります。そしてこの catheter の発音は「キャセタァ」のようになりますので注意してください。英語圏ではこの urinary catheter は Foley catheter という商品名で呼ばれることも多く、“Let’s remove the Foley.” のように表現されます。日本語の「KY」は「空気読めない」の意味になりますが、英語圏の医療現場で “K-Y”と言えば、この Foley catheter の挿入などに使う「潤滑剤lubricant の商標である K-Y Jelly を想起させるので注意してくださいね。

この jelly は日本語ではなぜか「ゼリー」という発音になり、食べ物の jelly は「ゼリー」と発音されます。(英語の jelly は「ジェリィ」のような発音となります。)しかし K-Y Jelly のように「ゼリー状」の物体にも使われるので、「軟膏ointment の成分である「ワセリン」の一般名は petroleum jelly と呼ばれます。(日本語の「ワセリン」は Vaseline という petroleum jelly の商品名から生まれた表現です。)ちなみに “I’m jelly.” のように jelly が形容詞として使われる場合、それは jealous のくだけた表現であり、「いいなぁ」や「うらやましぃ」という意味になります。

この jelly とよく混同されるものとして gel があります。日本語では「ゲル」と呼ばれていますが、英語の発音は「ジェゥ」のようになります。超音波検査の際に使われるのはこの gel であり、jelly ではありません。ですから腹部超音波検査の際に “I’ll apply some jelly to your abdomen now.” のように表現すれば、患者さんは「お腹に食べ物のゼリーが塗られる!」と誤解してしまうでしょう。しっかりと “I’ll apply some gel to your abdomen now.” のように gel を使って表現してください。

英語の go get は「取って来い」という意味ですが、英語圏の病院で “Go get a gurney!” と言われたら皆さんは何を持って来ますか?

日本では病院内で使用される「車輪付きベッド」のことを「ストレッチャー」と呼びますが、多くの英語圏の病院ではこれを gurney と呼びます。(英語の stretcher は、患者さんがその上で stretch out できるような簡易的な運搬器具を意味します。)ただ、「救急車ambulance に積載される ambulance stretcher のような wheeled stretcher も gurney と呼ばれる場合があります。このように英語圏でも gurney と stretcher はあまり厳密には区別されておらず、地域や病院によっては「車輪付きベッド」を日本と同様に stretcher と呼ぶ場合もあります。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後にもう一度、instrument, device, and equipment の違いをまとめておきます。

  •  Instrument: 単純な構造の道具である「器具」(可算名詞)
  •  Device: 複雑な構造の装置である「機器」(可算名詞)
  •  Equipment: 複数の器具や機器によって構成される「システムとしての機器」(不可算名詞)

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 
押味 貴之

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