こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ。
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんで頂くコーナーです。
本日のテーマは「膝の外傷に関する英語表現」です。
Menu 35 「関節痛に関する英語表現」において、「関節痛の診断では最初に外傷を除外することが重要です」とお伝えしました。Menu 35 では手首の外傷(手根骨の骨折)のみ説明しましたが、関節の外傷には他にも色々とあります。
その中でも knee injury「膝の外傷」は頻度が高く、プライマリケアの場面でも重要なトピックです。しかし自信を持って膝の各靭帯や半月板の診察をできる医師や医学生は少ないのではないでしょうか?
そこで今月は「膝の外傷に関する英語表現」をご紹介いたします。
なぜ「内側靭帯」ではなく「内側側副靭帯」と呼ばれるの?
knee injury において損傷を受けるのは、主に下記の構成物となります。
- • Anterior Cruciate Ligament (ACL)「前十字靭帯」
- • Posterior Cruciate Ligament (PCL)「後十字靭帯」
- • Medial Collateral Ligament (MCL)「内側側副靭帯」
- • Lateral Collateral Ligament (LCL)「外側側副靭帯」
- • Medial Meniscus「内側半月板」
- • Lateral Meniscus「外側半月板」
皆さんご存知のように「十字架」の英語は cross です。cross oneself で「十字を切る」という意味になりますので、“It’s very common for South American football players to cross themselves during games.” のように表現されます。この cross の語源となっているラテン語が crux であり、今でも「イエス像がついた十字架」のことは crucifix と呼び、「十字架にかける」「十字架刑に処す」「酷評する」という意味で crucify という動詞が使われています。そして同じようにこの crux から「十字形の」や「交差した」を意味する cruciate という形容詞が派生しているのです。
この cruciate を冠する靭帯が anterior cruciate ligament (ACL) と posterior cruciate ligament (PCL) です。ACL が大腿骨の後外側と脛骨の前方を結ぶことで脛骨の前方動揺を抑えているのに対し、PCL は大腿骨の前内側と脛骨の後方を結ぶことで脛骨の後方動揺を抑えています。この ACL と PCL が「十字形に交差している」ために、これらの靭帯には cruciate という表現が使われているのです。
medial は「内側」、そして lateral は「外側」ですが、collateral とはどんな意味なのでしょう?またなぜmedial ligament「内側靭帯」ではなく、medial collateral ligament「内側側副靭帯」と呼ばれるのでしょうか?
英語の collateral は、「共に」を意味する co- が lateral に付いています。そこから collateral には「横に付随している」というイメージがあります。ですから collateral damage と言えば「本来意図していない損害」や「巻き添えになった損害」のような意味に、そして collateral loan と言えば「特定の財産を担保として横に添えてお金を借りる行為」という意味になるのです。
膝関節の主な動きはflexion「屈曲」と extension「伸展」であり、基本的には側方には移動しません。MCL と LCL は膝関節の横に付着して、主要な動きである屈曲と伸展を「付随して支える」ことで膝関節の側方安定性を保っています。ですからこれらは medial ligament や lateral ligament ではなく、「内側や外側の部位に付着し、屈曲や進展を付随して支える靭帯」という意味で medial collateral ligament や lateral collateral ligament と呼ばれるのです。
膝関節において shock absorber かつ stabilizer として機能しているのが meniscus「半月板」です。「月経」menstruation も「月」を意味する men- から派生していますが、meniscus も little moon を意味する meniskos というギリシア語が語源です。単数形の meniscus の発音は「メニスカス」のように、そして複数形の menisci の発音は「メニスカィ」のようになります。
これらの menisci のうち、内側にある medial meniscus は MCL との連動が強いために可動性が低く、損傷頻度が高い傾向にあります。これに対して lateral meniscus は可動性が高いために medial meniscus よりも損傷頻度が低い傾向があります。
「O脚」と「X脚」の英語表現は?
では次に膝の湾曲に関する英語表現を確認しておきましょう。
皆さんは膝の「内反」と「外反」がどのようなものか、正しくイメージができますか?
膝が外側に湾曲して、前方から見ると両脚がアルファベットの O のように見える状態を日本語では「O脚」と呼びますが、英語ではこれを「2つの弓が並んでいるような脚」という意味で bowlegs と呼びます。
そして膝が内側に湾曲して、前方から見ると両脚がアルファベットの X のように見える状態を日本語では「X脚」と呼びますが、英語ではこれを「ぶつかっている両膝」という意味で knock-knees と呼びます。
膝の「内反」と「外反」と聞くと、膝が内側に湾曲している knock-knees が「内反」で、外側に湾曲している bowlegs が「外反」と思いがちですが、これは誤りです。
正しくは、膝から見て足が内側に伸びている bowlegs が「内反」varus であり、膝から見て足が外側に伸びている knock-knees が「外反」valgus なのです。
ですから膝の内側から衝撃がかかり、bowlegs の状態になることを varus stress と呼び、そこでは LCL が損傷を受けます。皆さんも想像できると思いますが、膝の内側から衝撃がかかることは稀ですので、LCL injury は4つの靭帯の損傷の中では最も頻度が低い injury となっています。
逆に膝の外側から衝撃がかかり、knock-knees の状態になることを valgus stress と呼び、そこでは MCL が損傷を受けます。ラグビーやサッカーなどで膝の外側からの衝撃である valgus force を受けたり、スキーブーツを履いたまま膝を内側に折れ込むことなどで MCL は損傷を受けます。MCL injury は4つの靭帯の損傷の中では ACL に次いで2番目に高い頻度の injury となっています。
膝の外傷で患者さんが使う英語表現は?
ではここから、それぞれの ligament や meniscus を損傷した場合、英語圏の患者さんがどのような表現を使うのかを見ていきましょう。
まずは Anterior Cruciate Ligament (ACL) の外傷から見ていきましょう。
ACL injury は4つの靭帯の損傷の中で最も頻度が高く、下記のような場面でよく見られます。
- • Cutting「急な切り返し動作」
- • Pivoting on one leg「片足を軸にした回旋動作」
- • Sudden deceleration「急停止」
- • Awkward landing「バランスを崩した着地」
- • Twisting while the foot is planted「足が地面に固定された状態での回旋」
このような動作の後、患者さんは下記のような症状を訴えます。
- • I heard a pop.
- • My knee gave out.
ACL の断裂の際には「ブツッ」のような音がしますが、英語ではそれを a pop sound と呼びます。また「膝がガクッと崩れました」というのも典型的な症状ですが、これを英語では give out を使って表現します。
PCL injury は頻度で言えば4つの靭帯損傷の中では3番目で、典型的には交通事故で脛骨がダッシュボードで後方に押し込まれて起こる dashboard injury が原因で起こります。患者さんは下記のような症状を訴えます。
- • The back of my knee hurts.
- • It hurts when I bend my knee.
- • I have trouble going downstairs.
膝の後方に痛みが現れ、また膝の屈曲や下り動作では PCL に力が加わるため、それらの動作で痛みが生じるのです。
MCL injury は ACL に次ぐ頻度の損傷であり、knock-knees の状態になる valgus stress が主な原因です。患者さんは下記のような症状を訴えます。
- • I got hit on the outside of my knee.
- • My knee bent inward.
- • It hurts on the inside of my knee.
LCL injury は4つの靭帯の損傷の中では最も頻度が低く、bowlegs の状態になる varus stress が主な原因です。患者さんは下記のような症状を訴えます。
- • I got hit on the inside of my knee.
- • My knee bent outward.
- • It hurts on the outside of my knee.
最後に meniscus injury ですが、先述したように medial meniscus は MCL との連動が強いために可動性が低く、medial meniscus injury の頻度は高い傾向にあり、その受傷場面は MCL injury や ACL injury と重なります。これに対して lateral meniscus は可動性が高いため、単独の lateral meniscus injury は頻度が低い傾向があります。受傷場面は ACL injury と重なることがほとんどです。
そしてこれらの meniscus injury では下記のような表現が使われます。
- • My knee clicks when I bend it.
- • My knee catches when I bend it.
- • My knee locks when I bend it.
meniscus injury が軽症の場合には click「軽い音が聞こえる」という症状が、中症の場合には catch「引っかかる」という症状が、そして重症の場合には lock「動かなくなる」という症状が現れます。
そして valgus force によって膝が内側に折れ込む場合、 ACL, MCL, and medial meniscus の3つを同時に損傷することがありますが、これを英語では unhappy triad と呼んでいます。
膝の診察でよく使われる laxity ってどんな意味?
では最後にこれら ligaments と menisci の診察に関する英語表現を見ていきましょう。
ligaments の診察でよく使われるのが laxity という表現です。これは「緩み」や「不安定性」を意味する表現で、靭帯損傷を強く疑わせる所見として使われます。lax は「緩んでいる」という形容詞であり、皆さんご存知の relax 「再び緩める」の語源でもあります。そしてこの laxity を確認する際には、必ず左右差を確認することを忘れないようにしましょう。
4つの ligaments と2つの menisci の診察に関しては、こちらの動画の視聴をお勧めします。そしてこの動画の中では下記の診察が紹介されています。
ACL injury
PCL injury
- • Posterior Drawer Test
- • Posterior Sag Sign
MCL injury
- • Valgus Stress Test
- • Apley Distraction Test with External Rotation
LCL injury
- • Varus Stress Test
- • Apley Distraction Test with Internal Rotation
Medial Meniscus Tear
- • McMurray Test with External Rotation
- • Apley Compression Test with External Rotation
- • Tessaly Test with External Rotation
Lateral Meniscus Tear
- • McMurray Test with Internal Rotation
- • Apley Compression Test with Internal Rotation
- • Tessaly Test with Internal Rotation
ACL injury を確認する anterior drawer test では「両手」を使いますが、Lachman’s test は「片手」のみを使います。覚え方としては「Lachman は片手で楽(ラク)」というダジャレをお薦めします。
Valgus Stress Test が MCL injury を、そして Varus Stress Test が LCL injury を診察できるのは先述した通りですが、うつ伏せになった患者が膝を曲げ、それを上方に引き上げながら回旋させる Apley Distraction Test も MCL と LCL の診察に使えます。この際に「外旋」である external rotation によって MCL injury が、「内旋」である internal rotation によって LCL injury が診察できます。
そして下記の3つの診察で meniscus injury を調べることができます。
- • McMurray Test
- • Apley Compression Test
- • Tessaly Test
それぞれ external rotation によって medial meniscus injury が、そして internal rotation によって lateral meniscus injury が診察できます。
ただ患者が患側の脚で立って回旋する Tessaly test では注意が必要です。右脚で立って回旋する場合、身体を右向きに回旋させる動きが external rotation と、左向きに回旋させる動きが internal rotation と思われがちですが、膝を中心とした実際の回旋はこれとは逆になり、正しくは身体を右向きに回旋させると膝は internal rotation の動きを、そして身体を左向きに回旋させると膝は external rotation の動きをするのです。
これら McMurray, Apley, and Tessaly の3つの診察名を覚えることに困難を感じている方も多いことでしょう。そこで私が考える便利な覚え方をご紹介します。
この3つの診察名の頭文字は M-A-T です。英語の mat はクッションの意味ですから、M-A-T で表されるこの3つの診察は「M-A-T = クッションである meniscus の診察」と覚えれば良いのです。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後にもう一度、膝にある4つ靭帯と2つの半月板の損傷を確認する診察を確認しておきましょう。
ACL injury
- • Anterior Drawer Test
- • Lachman’s Test
PCL injury
- • Posterior Drawer Test
- • Posterior Sag Sign
MCL injury
- • Valgus Stress Test
- • Apley Distraction Test with External Rotation
LCL injury
- • Varus Stress Test
- • Apley Distraction Test with Internal Rotation
Medial Meniscus Tear
- • McMurray Test with External Rotation
- • Apley Compression Test with External Rotation
- • Tessaly Test with External Rotation
Lateral Meniscus Tear
- • McMurray Test with Internal Rotation
- • Apley Compression Test with Internal Rotation
- • Tessaly Test with Internal Rotation
ではまたのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では、読者の皆さまがこの連載で取り上げてほしい医学英語のトピックを募集しています。こちらのリンクよりご希望のトピックを自由に記載してお送りください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
押味 貴之


