こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「出版倫理に関する英語表現」。
英語論文の執筆を終えて「さぁようやく投稿だ!」という段階になると、authors’ contributions や disclosure statement など、なんだかよくわからない文書も提出することが求められます。しかし、こんな文書の書き方なんて医学部で習ったこともないし、そもそもどんな内容をどんな英語表現を使って良いのかわからない!という声をよく聞きます。
そこで今月は英語論文を投稿する際に役に立つ、出版倫理に関する英語表現をご紹介します。
医者なら知っておきたい International Standard と AMA Manual of Style
まだ医学論文を書いたことのない医学生の方でも「学術誌に論文を投稿する際には何らかのルールがある」ということは想像できると思います。昔は学術誌によって投稿規定が違っていて、最初に投稿した学術誌に掲載されず、他の学術誌に再投稿しようとした場合には、論文を最初から書き直さないといけないという手間が生じていました。
この状況を改善するために、1978年に各国の生物医学系学術誌の編集者が Canada の Vancouver に集まり、統一投稿規定を作りました。これが長らく Vancouver Style として定着し、世界中の生物医学系学術誌は、この統一投稿規定を採用するようになりました。
今ではこの統一投稿規定は International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE) によって定期的に改訂され、そこで推奨されている Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals が、医学系学術誌における International Standard として世界中で採用されています。またこの統一投稿規定に加え、医学論文の書き方の詳細なマニュアルとして、米国医師会である American Medical Association (AMA) が発行している、 AMA Manual of Style というものもあります。これは「英語医学論文執筆における Bible」として、世界中の医学研究者が参照している貴重な参考資料です。
今回ここでご紹介する「出版倫理に関する英語表現」も、この International Standard と AMA Manual of Style で説明されている内容ですので、より詳しく調べたいという方は、是非これら2つのリンクもご参照ください。
Authors’ contributionsには何を書いたらいいの?
ではまず一つ目の authors’ contributions という文書から見ていきましょう。
オンラインでの投稿の際に提出が必要な文書として、authors’ contributions というものがありますが、これは「各著者がどのような研究業務を担当したのか」を詳細に記述するものです。ここで注意が必要なのは、authorship criteria、つまり「著者となるための条件」です。ICMJEの International Standard によると、著者となるためには下記の4つを全て満たしていることが必要であると定めています。
1. Substantial contributions to the conception or design of the work; or the acquisition, analysis, or interpretation of data for the work
2. Drafting the work or revising it critically for important intellectual content
3. Final approval of the version to be published
4. Agreement to be accountable for all aspects of the work in ensuring that questions related to the accuracy or integrity of any part of the work are appropriately investigated and resolved
要は「研究内容を考える」「実際に論文を書く」「内容を確認する」「論文全体に責任を持つ」という4つの条件を全て満たした場合のみ、著者となることができるのです。
つまり「論文のほとんどは他の著者が執筆して、自分はデータだけを提供した」という場合や、「最終投稿版を確認して、少しだけ訂正を加えた」といった場合、そして「自分が執筆した部分に関しては責任を持つが、他の研究者が担当した部分に関しては全く関知していない」という場合は「著者」としては資格不十分で、その場合は著者としてではなく acknowledgments「謝辞」に載せられるべきとなっているのです。
残念ながら日本を始め東アジアの多くの国では、こういった「著者の資格条件を満たしていないにも関わらず著者として掲載されている」という guest/gift authors が氾濫しているとして、欧米諸国を中心に強い反感が見られています。
したがって、各著者がどのような研究業務を担当したのか詳細に記述する authors’ contributions では、最初に下記のような「全員が著者となるための4つの条件を全て満たしています」と宣言する必要があります(AMA Manual of Style 10th Edition のp. 130 を一部改編)。
Authors’ Contributions
I, Takayuki Oshimi, the corresponding author of the work certify that all authors have participated sufficiently in the conception and design of the work and were involved in the acquisition of data. All of them have also participated in the analysis and interpretation of the data, as well as drafting the work. All authors also revised the work and contributed to the final approval of the version for publication. Each author also agreed to be accountable for all aspects of the work in ensuring that questions related to the accuracy or integrity of any part of the work are appropriately investigated and resolved.
上記のように記述すれば、記載されている著者全員が上記4つの条件を全て満たしているということが明確になります。これを記述せずに「誰が何をした」だけを記述した場合、学術誌から「この人には著者としての資格がありません」と連絡が来る場合があります。ちなみに黄色でハイライトされている certify という動詞は「間違いなく〜です」という意味の動詞です。学術誌によっては authors’ contributions という名称の文書ではなく、author statement という名称の文書の提出を求める場合があります。この author statementを含め、 statement と名前がつく文書では全てこの certify という動詞を使うことが期待されています。
もちろん実際には、全ての研究者が全く同じ研究業務をしているわけではありませんから、上記の表現に続いて「各著者がどのような研究業務を専門に担当したのか」も詳細に記述する必要があります。その際には下記のような表現が役に立ちます(AMA Manual of Style 10th Edition のp. 130 を一部改編)。
Authors’ Contributions
I, Takayuki Oshimi, the corresponding author of the work certify that all authors have participated sufficiently in the conception and design of the work and were involved in the acquisition of data. All of them have also participated in the analysis and interpretation of the data, as well as drafting the work. All authors also revised the work and contributed to the final approval of the version for publication. Each author also agreed to be accountable for all aspects of the work in ensuring that questions related to the accuracy or integrity of any part of the work are appropriately investigated and resolved.
While each author was involved in all the aspects above, specific authors carried a greater burden of responsibility as follows:
As principal investigator, (Name) had full access to all the data in the study and takes responsibility for the integrity of the data and the accuracy of the data analysis.
(Name) developed the study concept and design of the work.
(Name) obtained funding.
(Name) recruited patients and acquired data.
(Name) produced the figures.
(Name) statistically interpreted the data.
(Name) drafted the work.
(Name) revised the work critically for important intellectual content.
Acknowledgment statement には何を書いたらいいの?
次に acknowledgement statement という文書の書き方を見ていきましょう。
この文書は statement ですから、certify という動詞を使い、「著者の資格を満たしてはいないが、十分にこの研究に貢献した人は全て acknowledgements 「謝辞」の部分に間違いなく載せています」と記述します。具体的には下記のような表現を使います。
Acknowledgement Statement
I certify that all persons who have made substantial contributions to the work but do not fulfill authorship criteria are named with their specific contributions in the acknowledgement section of the work.
or
I certify that no other persons have made substantial contributions to the work.
そして実際の acknowledgements では、十分に研究に貢献した人に対して「〜に感謝します」という表現を使って謝意を表します。その際には We are indebted to (name) for (support) というように indebted to 「〜に借りがある」という表現が便利です。
具体的には acknowledgments は下記のように表現します(AMA Manual of Style 10th Edition のp. 140を一部改編)。
Acknowledgments
We are indebted to (name) for (support).
• for assistance in conducting this study
• for scientific advice
• for insightful discussions
• for providing data on the patients
• for radiographic consultation
• for writing and editorial assistance
もし英語論文の英訳や翻訳を、medical writer という医学論文執筆の専門家に依頼した場合、それらを行なった人や会社も acknowledgements に記載する必要があります。その際には具体的なサポート内容やその財源などに加え、そのサポート行為がmedical writingのガイドラインに沿ったものであったことも明確になるように記述する必要があります。
Acknowledgments
We are indebted to Mr. John Smith for his medical writing services, and International University of Health and Welfare, Japan, who provided an educational grant to support the writing of the manuscript. The manuscript was developed in adherence to the guidelines of the European Medical Writers’ Association.
Disclaimer には何を書いたらいいの?
3番目にご紹介するのが disclaimer 「免責宣言」という文書です。
「免責」という言葉は、使われる状況によって色々な意味に解釈できますが、一般的に医学論文を投稿する際に求められる disclaimerとは、「この論文内で述べられている意見は、自国の政府や自分が所属する組織の意見を代表するものではありません」という文書です。もし投稿する論文が、 perspective という論文のように著者の個人的見解を表明する種類の場合、この disclaimer の提出が求められます。その際には下記のような表現を使いましょう。
Disclaimer
I certify that the opinions expressed herein are only those of the authors. They do not represent the official views of the government of Japan or International University of Health and Welfare.
Duplicate publicationって絶対にやってはいけないの?
実際に論文を執筆された経験を持つ医師の中には、「海外の学術誌に掲載された自分の論文を和訳して、日本の学術誌に投稿できるのか?」や、「日本の学術誌に掲載された自分の論文を英訳して、海外の学術誌に投稿できるのか?」といった疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。現在 International Standard には、この overlapping/duplicate publication「二重投稿」にも具体的な記述があります。これによると overlapping/duplicate publication は下記の条件を満たした場合のみ、認められています。
Acceptable Secondary Publication
1. The authors have received approval from the editors of both journals (the editor concerned with secondary publication must have access to the primary version).
2. The priority of the primary publication is respected by a publication interval negotiated by both editors with the authors.
3. The paper for secondary publication is intended for a different group of readers; an abbreviated version could be sufficient.
4. The secondary version faithfully reflects the data and interpretations of the primary version.
5. The secondary version informs readers, peers, and documenting agencies that the paper has been published in whole or in part elsewhere and the secondary version cites the primary reference.
6. The title of the secondary publication should indicate that it is a secondary publication (complete or abridged republication or translation) of a primary publication. Of note, the NLM does not consider translations to be “republications” and does not cite or index them when the original article was published in a journal that is indexed in MEDLINE.
これを私なりに噛み砕いて表現すると、下記のようになります。
1. 出版する両方の学術誌から許可を得る
2. 2回目の出版時期は、著者と2つの学術誌が協議して決める
3. 2回目の出版は1回目の出版とは異なる読者層を対象とする
4. 2回目の出版は1回目の出版と同じデータと解釈を扱う
5. 2回目の出版では同じものが既に出版されたということを読者に伝える
6. 業績を2倍に見せるようなことをしない
つまり上記の6つの条件を全て満たす場合にのみ、「海外の学術誌に掲載された自分の論文を和訳して、日本の学術誌に投稿できる」ということになるのです。
同様に「学会で発表した内容を学術誌に論文として投稿する」際にも、投稿する論文内に下記のような記述をすることが求められます。
I certify that a part of this paper was orally presented at the 1st Annual Meeting of International Society of Clinical Medicine (Tokyo, December 17, 2016), but the entire paper has not previously been published.
Disclosure statement には何を書いたらいいの?
最後に disclosure statementという文書についてみていきましょう。
繰り返しになりますが、学術誌から依頼されるstatementという文書は「〜ということで間違いありません」ということを宣言する文書です。したがってdisclosure statement では下記のように「著者に関する conflict of interest 「利益相反」は全て謝辞の部分に開示しています」と記述することが求められるのです。
Disclosure Statement
I certify that all my affiliations or financial involvement with any organization or financial conflict with the subject matter discussed in the manuscript are completely disclosed in the acknowledgement section of the manuscript.
そして、もし開示すべき conflict of interest がある場合、下記のように表現します。
Financial Disclosure
(Name) serves as a consultant to (company).
(Name)’s (family member) is chairman of (company).
(Name) received a research grant from (company).
(Name) received lecture fees from (company).
(Name) holds a patent on (product).
(Name) has been reimbursed by (company) for attending several conferences.
(Name) received honoraria for writing promotional material for (company).
ただ読者の多くの方にとっては、「開示すべき利益相反はない」ということが多いと思われます。その場合には下記のような表現を使いましょう。
Financial Disclosure
The authors have nothing to disclose.
The authors have no conflict of interest.
以上が今回ご紹介する「出版倫理に関する英語表現」となります。
医師・研究者としては、このような文書にかける時間はできるだけ短くしたいものです。今回ご紹介した英語表現を使って、皆さんの貴重な時間をより生産的なものに使っていただければ幸いです。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に本日紹介したポイントをまとめておきます。
• 世界中の医学系学術誌が International Standard と呼ばれる統一投稿規定を採用している
• 英語医学論文の書き方に関する細かいルールに関しては、AMA Manual of Style を参照する
• 学術誌から依頼される statementという文書は「〜ということで間違いありません」ということを宣言する文書であり、その際には certify という動詞を使う
• 論文の著者になるためには「研究内容を考える」「実際に論文を書く」「内容を確認する」「論文全体に責任を持つ」という4つの条件を全て満たす必要がある
• Authors’ contributions という文書では、著者全員が4つの条件を全て満たしていることに加え、それぞれの著者がどのような研究業務を専門に担当したのかを詳細に記述する
• Acknowledgement statement という文書では、著者の資格を満たしてはいないが、十分に研究に貢献した人は全て acknowledgements 「謝辞」の部分に載せていると記述する
• 著者となるための条件を満たさないものの、十分に研究に貢献した人の功績はWe are indebted to (name) for (support) という表現を使って acknowledgements 「謝辞」に記述する
• Medical writer に英訳や校閲を依頼した場合、それらを行なった人や会社も acknowledgements 「謝辞」に記述する
• 投稿する論文が著者の個人的見解を述べる種類の場合、「この論文内で述べられている意見は、自国の政府や自分が所属する組織の意見を代表するものではありません」と記述した disclaimer という文書の提出が必要になる。
• 「学会で発表した内容を学術誌に論文として投稿する」際には、その旨を論文に明示する
• Disclosure statement という文書では、著者に関する conflict of interest 「利益相反」は全て acknowledgements 「謝辞」の部分に載せていると記述する
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之