こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「皮膚に関する英語表現」。
「皮膚科」 dermatology の授業が始まると、どこの大学でも「斑」や「丘疹」といった皮膚病変 skin lesions の表現を学びますよね。大学によってはそれらに対応するmacule や papule といった英語表現も必須の学修項目としていますが、「かぶれる」や「そばかす」といった一般的な英語表現を学ぶ機会は意外と少ないのではないでしょうか?今回はそんな「皮膚」 に関する様々な一般英語表現をご紹介しましょう。
皮膚科で扱うのはどんな system の疾患?
「循環器内科」 cardiology では「循環器/心臓血管系」circulatory/cardiovascular system の疾患、「消化器内科」gastroenterology では「消化器系」 digestive system の疾患をそれぞれ扱いますが、「皮膚科」 dermatology で扱う疾患はどんな system に分類されるかご存知ですか?これは「外皮系」integumentary system と呼ばれ、米国では「皮膚科医」 dermatologist の他、「形成外科医」 plastic surgeon もこの 領域の疾患を扱います。どちらも米国では報酬とquality of live (QOL) が高いためか人気があり、とても競争率の高い専門領域となっています。
この integumentary systemは USMLE Step 1 においても重要な学修項目の一つで、 “Musculoskeletal, Skin, and Connective Tissue” という項目で出題されます。このように英語圏でも内科的な視点からしっかりと学ばれる integumentary system ではありますが、それを専門としない医師は skin care の要点を以下のようにユーモアを込めて表現します。
“If it’s dry, wet it. If it’s wet, dry it. If you don’t know what it is, don’t touch it. If you know what it is, you don’t have to touch it. If they’re not on steroids, start them. If they are on steroids, stop them. Biopsy everything.”
「(皮膚病変が)乾いているなら湿らせる。湿っているなら乾かせる。よくわからないなら触っちゃダメで、わかっていても触る必要ありません。ステロイドを使っていないなら使ってみて、使っているならすぐやめよう。それが何であれバイオプシーはやってみよう。」
皮膚科の先生にはとても失礼な表現ではありますが、ある程度 skin care の核心をついた表現とも言えそうですね。
「かぶれる」や「マメ」は英語で何と言う?
ではまず「皮膚病変」 skin lesions に関する様々な一般表現をご紹介しましょう。最初に押さえておきたいのが rash という表現です。これは「皮疹」という意味ですが、「皮膚がかぶれる」「できものができる」など、実に様々な皮膚のトラブルの表現に使えるとても便利な表現です。ただ発音には注意が必要で、「ラッシュアワー」rush hour の rush や、「ムチ」を意味する lash、そして自然素材のソープやシャンプーを売っているお店の名前でもあり、「香りが豊かな・緑が生い茂った」を意味する lush という単語の発音にならないように気をつけてくださいね。
この rash の中でも「ぶつぶつ」した皮膚病変を表現したい場合には bumps を使いましょう。関西弁で「さぶいぼ」と呼ばれる「鳥肌」もこれを使って goose bumps と表現されます。「火傷(やけど)」は burns のように複数形になることが多く、second-degree burns で認められる「水ぶくれ」は blisters と表現されます。ただこの blisters は野球選手の手などにできる「マメ」としても使われます。「マメ」は blisters となりますが、足にできる「タコ」は calluses(カルシィズ)と、「魚の目」はトウモロコシに似ているために corns と呼ばれます。
真菌の一種によって起こる「白癬」 tinea はその特徴的なリング状の皮疹から ringworm と呼ばれています。そして足にできる「水虫」には athlete’s foot、隠部にできる「いんきんたむし」には jock itch という一般英語の表現があります。
皮膚が赤くなる「紅斑」には erythema という医学英語を使いますが、「紅潮した皮膚」として flushed skin という一般英語も覚えておきましょう。この flush には「赤くする」以外にも「水で流す」というイメージもあるため、トイレで水を流す動作としても使われます。よく似た発音の単語で flash というものもありますが、これには「眩しい光」というイメージがあり、「閉経」 menopause に特有の症状である「ほてり」 hot flashes として使われます。どちらも似たような表現で紛らわしいのですが、hot flushes は誤った使い方ですので注意してくださいね。
「そばかす」や「カミソリ負け」は英語で何と言う?
「尋常性痤瘡」acne vulgaris は一般的にはacnes 「ニキビ」と呼ばれますが、初期の「白ニキビ」には whiteheads、角質が黒く変色した「黒ニキビ」には blackheads という一般名もあります。
一般英語でありながらも意外と多くの日本人が知らないのが「そばかす」を意味する freckles です。この「そばかす」を含む「しみ」は一般的に brown spots と呼ばれますが、加齢に伴ってできる「老人性色素斑」は特に age spots と呼ばれます。
目の下にできる「クマ」は、陰影を表す 「隈(くま)」という意味ですが、英語では「目の下の「暗い円」を意味する dark circles となります。この他にも under-eye darkness などの表現がありますが、いずれにしても dark という表現を使うことを意識しておいてください。この他、加齢と共にできる「目の下のたるみ」には eye bags のように bag という表現が使われます。
「カミソリ負け」は英語ではどう表現するのでしょうか?これには少し注意が必要で、カミソリで剃った後にできる「赤み」や「ヒリヒリとした感覚」を razor burn と言い、剃った後にできる「ブツブツ」のことを razor bumps と言います。
“skin tone and texture” ってどういう意味?
次にお肌の美容に関する一般表現をいくつかご紹介しましょう。浅くて細い「小じわ」は fine lines と言い、深くて太い「しわ」を意味する wrinkles とは区別して使われます。会話の中では「小じわとしわ」という意味で fine lines and wrinkles のように2つがセットで使われることが多いので、 “fine lines and wrinkles” という表現でまとめて覚えておくといいでしょう。この wrinkles を取り除く美容外科手技が facelift と呼ばれ、医学英語では rhytidectomy 「rhyti- (しわ)+ -ectomy (切除)」と表現されます。「肌のハリ」は「皮膚の弾力」というイメージで skin elasticity となります。これに対して「肌のキメ」は「皮膚の質感」というイメージで skin texture と表現されます。ただ「肌の色」を表す skin tone と一緒になった “skin tone and texture”というセットの表現の方がよく使われますので、こちらを覚えておく方が実用的だと思われます。
日本人医師にはあまり普及していない皮膚に関する英語表現
「蕁麻疹」の医学英語である urticaria と一般英語である hives は日本人医師にも広く知られていると思いますが、皮膚に関する英語表現には日本人医師の間であまり普及していないものもあります。「アトピー性皮膚炎」は本来ならばatopic dermatitis となりますが、一般の方の多くは eczema という表現を使います。日本では「蝶形紅斑」の英語として、その言葉からイメージしやすい butterfly rash という表現の方が定着していますが、英語圏では「頬骨紅斑」を意味する malar rash という表現の方が一般的です。この malar rash が認められる systemic lupus erythematosus は日本では略語を使って SLE と呼ばれています。英語圏でも SLE と表現するのですが、米国では lupus と表現するのが一般的です。
「鉄欠乏性貧血」 iron deficiency anemia の所見として知られている「さじ状爪」は spoon nails として日本では定着していますが、この医学英語である koilonychia はあまり定着していないように感じます。
日本ではそれほど多くない「悪性黒色腫」 melanoma ですが、大きなオゾンホールが上空にある Australia では国民的関心事と言えるほど大きな健康問題です。そこで Australia では昔から “SLIP, SLOP, SLAP, SEEK, SLIDE” というキャンペーンを行っているのですが、この英語の意味がわかりますか? これは “Slip on clothing, slop on sunscreen, slap on a hat, seek shade, and slide on sunglasses” の略で、「上着を羽織ろう、日焼け止めクリームを塗ろう、帽子をかぶろう、日陰に入ろう、サングラスをかけよう」を意味するのです。ちなみに太陽の光が遮られた空間を「日陰」と言い、英語では shadow ではなく shade と表現するのでお間違えなく。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に本日ご紹介した皮膚に関する英語表現をまとめておきます。
• Integumentary system「外皮系」
• Rash「皮疹」
• Bumps「ぶつぶつ」
• Goose bumps「鳥肌」
• Burns「火傷」
• Blisters「水ぶくれ・マメ」
• Calluses「タコ」
• Corns「魚の目」
• Tinea/ringworm「白癬」
• Athlete’s foot「水虫」
• Jock itch「いんきんたむし」
• Flushed skin「紅潮した皮膚」
• Hot flashes「ほてり」
• Whiteheads/Blackheads「白ニキビ/黒ニキビ」
• Freckles「そばかす」
• Brown spots「しみ」
• Age spots「老人性色素斑」
• Under-eye darkness「目の下のクマ」
• Eye bags「目の下のたるみ」
• Razor burn/bumps「カミソリ負け」
• Fine lines and wrinkles「小じわとしわ」
• Facelift/rhytidectomy「フェイスリフト」
• Skin tone and texture「肌の色とキメ」
• Eczema「アトピー性皮膚炎」
• Malar rash「蝶形紅斑・頬骨紅斑」
• Lupus「SLE」
• Koilonychia「さじ状爪」
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之