こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「医学論文の抄読会を楽しく乗り切る方法」。
臨床実習が始まると、指導医の先生から「来週までにこの英語の論文を読んできてね。そしてその内容を発表してね。」などと言われて医学論文を渡される、という経験をすることでしょう。しかし「そもそも医学論文って何なのかよくわからない」という学生さんにとっては、医学論文を読んでその内容を議論するというこの「抄読会」Journal Club は苦痛以外の何ものでもないことでしょう。
そこで今月は、「英語の論文を読んで発表しなさい」と言われた際に、どのようにしてその抄読会を楽しいものにしていくか、その具体的な方法をお伝えしたいと思います。
そもそも「医学論文」って何なの?
何かについて「論じる」ことをしている文章は全て広義の「論文」です。その意味では皆さんが入試の際に書いた「小論文」essay や、 実習の際に提出する「レポート」 report も全て「論文」と言えます。しかし我々が通常「医学論文」と読んでいるものは、「医学の領域に関する内容を論じて出版(公開) publish されたもの」を指します。そしてこのような「医学論文」medical articles には様々な種類があります。
医学論文の中で最も重要視されるのが「原著論文」 original articles で、「新しい知見を世界で最初に報告する」という論文です。これは「これまでの研究でここまではわかっている。しかし、この部分についてはまだ誰も検証していない。我々は誰も検証していないこの部分を世界で最初に報告する」という論文であり、その成果が実施した研究に「特有」original であることから、 original article と呼ばれています。通常「医学学術誌」 medical journals に掲載される original articles は、その内容が「医学的」なものとなりますが、中には「社会科学的」な内容の original articles が掲載される場合もあります。その場合、これらの original articles は「医学学術誌に掲載される論文としては内容が少し『特別』だよね」という理由で、 special articles と呼ばれます。そしてこれらの論文は、新しい知見の「一次情報」であるという理由から 、primary literature とも呼ばれています。
こういった primary literature を評価し、そこから新たな知見を引き出す論文は secondary literature と呼ばれます。その代表的なものが「総説」 review articles です。これは特定のテーマに関する無数の原著論文の中から特に意義の高いものを取り上げて紹介するという論文で、そのテーマの研究領域の第一人者に執筆が依頼されることが一般的です。医学生の皆さんにわかりやすく例えるならば、「授業スライド」が original articles であり、その授業に出席した真面目な学生さんが作成した「まとめ資料」が review articles に相当します。
これ以外にも学術誌には様々な医学論文が掲載されます。
「編集後記」editorials は、医学学術誌のその号に掲載された様々な論文を批評した論文です。世界的に著名な学術誌では、論文ごとに editorial を掲載することが一般的で、その号に掲載された original articles を批評する editorials が掲載されます。つまりこの editorial を読めば、批評対象となる original article の「その研究分野での意義」がわかるのです。
「通信欄」 correspondences は、その学術誌に過去に掲載された論文に関する「読者から編集者に寄せられた手紙」 letters to the editor と、「著者からの回答」author’s reply からなる論文です。寄せられる手紙の著者は同じ分野の研究者であることが多く、この correspondence を読むことで批評対象の original article が持つ「他の研究との関係」を知るきっかけとなります。
このように editorial を読めば、対象となる original article の「その研究分野での意義」がわかり、 correspondence を読めばその original article の「他の研究との関係」のヒントが得られるのです。
もし皆さんが「好きな論文を選んで発表してね」と言われた場合、どんな論文を読めば「効率的」かもうおわかりですね。そうです。この editorial と correspondence が存在する original article を選べば、指導医からの「君が読んできたこの論文なんだけど、この研究分野においてはどんな意義があったの?」や、「この論文だけ読んできたわけじゃないよね。他にどんな研究があって、それらとどんな関係があるの?」といった意地悪な質問にも、自信満々に答えることができるのです。
タイトルと著者の話から始めよう
では、 editorial と correspondence のある original article を選んだとして、具体的にどのような手順で読み、発表していけば良いのでしょう?
私は「発表の準備」がそのまま医学論文を「読む作業」になると考えています。もし皆さんが、英語で書かれた医学論文の抄読会を「楽しい」と思えるものにしたいと考えているならば、15分程度の時間で下記の10のステップを使って発表することをお勧めします。そしてできればこの抄読会を「英語で」やってみましょう。そうすることで国際学会での口頭発表の良い練習にもなります。
1. Examining the Title
2. Examining the Author Affiliations
3. Examining the Conclusions
4. Determining the original contribution of the article (Background)
5. Evaluating the PICO/PECO (Methods)
6. Evaluating the Results
7. Evaluating the Discussion (Interpretation & Generalizability)
8. Evaluating the value of the article (Editorial)
9. Evaluating similar studies (Correspondence)
10. Evaluating the impact on the community (Conference Report)
ではこれらのステップを具体的に紹介していきましょう。
1. Examining the Title
“Today’s paper investigated whether (Conclusion).”
まずはタイトルを紹介します。論文のタイトルは、「それを読めば結論が類推できる」くらい具体的に書かれていることが一般的です。また original article は新しい知見を報告するわけですから、その分野の背景知識があれば実際にタイトルから結論を導くことも可能です。
英語で説明をする際には “Today’s paper/article’s title is…” のように、タイトルをそのまま読んでも良いのですが、スライドを用意する場合には、スライドの表現とは異なることを口頭で伝える方が、英語の発表では自然です。具体的には、上記のように結論が類推されるような表現に言い換えて、タイトルを説明すると良いでしょう。
2. Examining the Author Affiliations
“The study was conducted by (Research Group Name), and the authors are with (Author Affiliations).”
論文の内容に入る前に述べておいた方がいいのが「研究グループ名」 Research Group Name です。大規模な臨床研究の場合には、「収まりのいい」略語を用いた「研究グループ名」があります。そのグループ名を spell out して述べることで、「著者たちはどんな研究をするために集まったグループなのか」がわかります。また忘れてならないのは、「著者の所属機関」Author Affiliations です。これを述べることでその研究が、「複数の国にまたがった国際的な研究なのか、単一の国や地域における研究なのか」がわかります。
また、スライドを用意する場合には、ここで 筆頭著者 corresponding author の写真をGoogle などで検索してスライドに載せると良いでしょう。著者の顔を見ることで抄読会の参加者はこの研究を身近に感じることができます。
覚えておきたい「抄録」のチェックポイント
次にいよいよ論文の中身について発表します。その前に original article の構造を確認しておきましょう。
医学における original article は、ほぼ例外なくIMRaD と呼ばれる構造を持っています。これは Introduction, Methods, Results, and Discussion の略で、それぞれ下記のような内容を論じています。
Introduction: Why?(なぜその研究を行なったのか?研究の「目的」)
Methods: How?(どのようにその研究を行なったのか?研究の「方法」)
Results: What?(何がその研究から観察されたのか?研究の「結果」)
and
Discussion: So what?(そこから何が導き出されるのか?研究の「考察」)
この IMRaD から成り立つ本文の前に、「抄録」abstract という論文の要約が載っています。これは、IMRaD とよく似た構造を持っていますが、Introduction の代わりに Background、そして Discussion の代わりに Conclusions という要素を持ち、下記のような構造になっています。
Background: Why?(なぜその研究を行なったのか?研究の「背景」)
Methods: How?(どのようにその研究を行なったのか?研究の「方法」)
Results: What?(何がその研究から観察されたのか?研究の「結果」)
and
Conclusions: So what?(そこから何が導き出されるのか?研究の「結論」)
では、この抄録について発表する際のチェックポイントを見ていきましょう。
3. Examining the Conclusions
“The major finding of this study is (Conclusions).”
抄読会に参加している方も、まずは結論を知りたがるでしょうから、個人的には「結論」 conclusions から説明することをお勧めします。その際には、 “This paper’s conclusions are…” という素直な表現でも良いのですが、Title の時と同様に、スライドに書かれている表現とは異なる表現を用いる方が良いでしょう。
4. Determining the original contribution of the article (Background)
“Previous studies revealed that (Previous Findings). The aim of this study was to investigate (Objectives).”
次に抄録の最初の項目である「背景」background を説明します。よく “The goal of this study was…” のように研究の目的から述べる方がいますが、backgroundには一般的に 1) 先行研究で分かっていること、 2) まだわかっていないこと、 3) この研究の目的 の3つが書かれています。研究の「背景」をしっかりと理解してもらうためにも、「1) 先行研究で分かっていること」と「3) この研究の目的」を対比させて、この研究の「独自性」 original contribution がわかるように発表しましょう。
5. Evaluating the PICO/PECO (Methods)
“In this (study type), the authors constructed the following clinical question: For (Patients), is (Intervention/Exposure) better than (Comparison) for (Outcome)?”
abstract でbackground に続くのが「方法」methodsです。ここでは、この研究がどのような臨床研究の種類で行われたのか(例: Prospective Cohort Study や Randomized Controlled Trial など)を述べます。
このmethodsの部分では、abstractをそのまま英語で読み上げるという方が多いと思うのですが、たくさんの論文を紹介していく journal clubでは、毎回使う形式があった方が、説明する側も聞いている側も理解しやすいと言えます。その論文が臨床研究であれば、研究の仮説として “For (Patients), is (Intervention/Exposure) better than (Comparison) for (Outcome)?” 「(患者)にとって(介入)は(比較)と比べて(評価項目)において有意差があるか? 」という clinical questionを設定していることが多いので、これらの頭文字を取った PICO/PECO という形式を使って clinical question を説明するという方法を使えば、どんな臨床研究のmethodsも同じ形式で解説できます。是非試してみて下さい。
6. Evaluating the Results
“The primary outcome occurred in ( )% of patients in the (intervention/exposure) group as compared with ( )% in the (comparison) group with ( ) of (odds/risk/hazard ratio), and ( ) to ( ) of 95% confidence interval, which leads to ( ) of the p value. So, there was a significant/no significant difference between the (intervention/exposure) group and (comparison) group.”
abstract でmethodsの次に続くのが「結果」resultsです。ここではこの研究で「最も重視した評価項目」である primary outcome が、 intervention/exposure 群と comparison 群の間で、有意差があったかどうかを述べています。その際のチェックリストとなるのが 1) ratio(オッズ比やハザード比などの比)2) confidence interval(95%信頼区間)3) p value(p値)です。これらを述べた後で、例文のように、有意差があったのかなかったのかを簡潔に述べるといいでしょう。
「編集後記」「通信欄」そして「学会レポート」を活用しよう
abstractを説明した後、多くの日本人の医学生や医師は本文中の図や表の解説をして、それで journal club の発表を終えてしまいます。なぜ日本人の多くがこのように「図」 figures や「表」 tables の解説をしたがるのかというと、そこに論理的な根拠はなく、ただ単に「図や表は英語が少ないから」というのが主な理由です。
しかし、時間が限られている journal clubでは、こういった図や表の解説は効率が高い方法とは言えません。それよりも abstract には載っていない情報がある本文中の「考察」discussion を重視しましょう。
7. Evaluating the Discussion (Interpretation & Generalizability)
“What we can interpret from the findings is that (interpretation).” “This study has some limitations: (limitations).”
本文中の「考察」 discussion は複数のパラグラフから成り立ち、 1) summary of the results(「結果」のまとめ) 2) interpretation of the results(「結果」の解釈) 3) limitations of the study(研究の限界) 4) conclusions(結論)で構成されています。
1) summary of the results(「結果」のまとめ)を解説している最初のパラグラフは abstract の results に、そして 4) conclusions(結論)を解説している最後のパラグラフは abstract の conclusions に相当するわけですから、この最初と最後の2つのパラグラフは読む必要はありません。ですから discussion を発表する際には2番目以降のパラグラフが解説する 2) interpretation of the results と、最後から2番目のパラグラフが解説する 3) limitations of the study の2つに力点を置いて発表すると良いでしょう。
8. Evaluating the value of the article (Editorial)
“Dr (editorial’s author name) from (editorial’s author affiliation) wrote an editorial, and he/she says (the value of the original article).”
「考察」 discussion を紹介したら、そのoriginal article が持つ「その研究分野での意義」を紹介する editorial を解説しましょう。この editorial は2ページ程度になることが一般的ですが、「その研究分野での意義」を紹介しているパラグラフは大抵最後か、最後から2番目あたりになることが一般的ですので、その部分だけを読むことで、「その研究分野での意義」を見つけることができます。
9. Evaluating similar studies (Correspondence)
“In the correspondence article, Dr (letter’s author) argues that… In response to that, Dr (study’s author) argues that… ”
海外のjournal clubでは、自分が担当した原著論文以外の論文にも言及することが、当たり前のように求められます。しかし忙しい時間の中で、「同じ研究領域では他にどのような研究者がいて、彼らはこのテーマに関してどのような意見を持っているのか」を見つけるのは容易なことではありません。そこで役に立つのが「読者から編集者に寄せられた手紙」 letters to the editor と、「著者からの回答」author’s reply からなる「通信欄」correspondence という論文です。この中で「著者からの回答」の部分だけを読むことでも「他の研究との関係」にも視点が広がり、journal club の議論も盛り上がります。
10. Evaluating the impact on the community (Conference Report)
“At (conference name), Dr (study’s author) strongly insisted that…”
最後にご紹介するのが「学会レポート」 conference report の活用です。海外の有名な学術誌に掲載されるような original article は、論文が掲載される前に、大きな国際学会にて発表されていることが一般的です。そのような口頭発表では英語による conference report を見つけることができます。このconference reportでの著者のコメントをチェックすることによって、論文では見つけられなかった著者の「本音」を確認することができます。特に最近では研究を動画や SNS などで紹介している場合も多いので、そういったメディアから論文には現れてこない、「人間味溢れる情報」を集めてみるのも面白いと思います。こういう人間らしいコメントを紹介することで、無味乾燥になりがちな journal club も楽しくなること必至です。
もし、これを読んで英語論文の抄読会をやってみたいと思った方は、最初は The New England Journal of Medicine という米国の医学総合誌の original article を選ぶことをお勧めします。この学術誌は、他の学術誌に最も引用されている世界で一番 impact factor (IF) が高い臨床系医学学術誌で、内容も英文も世界最高峰の医学学術誌です。また、南江堂が抄録の日本語版も公表しているので、英語が苦手な医学生にとってもハードルが低いと言えます。また、それぞれの号には audio summary もついていて、original article に関しては abstract が読み上げられ、editorial は「その研究分野での意義」を論じている部分を読み上げてくれているので、英語で発表する際の参考にもなります。
上記の条件を満たした original articles の中で、自分が興味を持てそうなものを見つけたら、本日紹介した10のステップを使った英語での発表を15分間で行なってみましょう。「15分間」という短い時間で発表することで、気楽に1つの original article を紹介することが可能となり、「また発表してみよう」という前向きな気持ちになることができます。また「編集後記」「通信欄」「学会レポート」などの original article 以外の情報を使うことで、多角的な視点でその論文を捉えることが可能となり、発表者も聴衆も、著者の研究者の視点を疑似体験することができるので、皆がその抄読会を楽しむことができるようになると思います。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に本日ご紹介したポイントをまとめておきます。
• 「医学論文」 medical articles には original articles などの primary literature と、 review articles などの secondary literature がある。
• 「原著論文」 original articles は「新しい知見を世界で最初に報告する」という論文である。
• 「原著論文」 original articles の中でも「社会科学的」な内容を扱うものは special articles と呼ばれる。
• 「総説」 review articles は「特定のテーマに関する無数の原著論文の中から特に意義の高いものを取り上げて紹介する」という論文である。
• 「好きな論文を選んで発表しなさい」と言われたら、「編集後記」editorial と「通信欄」 correspondence、そして「学会レポート」conference report が揃っている The New England Journal of Medicine の original article の中から、興味のあるものを選ぶ。
• 医学論文の抄読会は頑張って英語で発表する。
• タイトルから結論を聴衆に類推させ、次に著者の情報を紹介する。
• 「抄録」 abstract はそれぞれのポイントを押さえて解説する。
• 図や表を解説するのではなく、「考察」 discussion にある「結果の解釈」 interpretation と「研究の限界」 limitations を解説する。
• 「編集後記」 editorial を使って「その研究分野での意義」を解説する。
• 「通信欄」 correspondence を使って「他の研究との関係」を解説する。
• 「学会レポート」 conference report を使って「著者の本音」を紹介する。
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之