こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「薬に関する英語表現」。
医療面接において「服薬歴」は必須の項目ですが、患者さんが使う「薬」に関する英語表現には実に様々なものがあり、これらを正しく理解するのはそう簡単ではありません。
そこで今月は、薬に関する英語表現を基本からご紹介します。
知っておきたい処方箋に関する英語表現
「薬」は皆さんご存知の drug の他、medicine や medication と表現されます。この「薬」を扱う「薬局」 pharmacy には「薬剤師」pharmacist が勤務していますが、彼らは米国では druggist と、そして英国や豪州などでは chemist とも呼ばれます。
英語圏の pharmacy や drug store などに入ると、 “Drop Off” と “Pick UP” というサインが目に入ります。これらはどちらも「処方薬」 prescription drugs に関する場所のことで、前者は「処方箋を薬剤師に手渡す(drop off)場所」であり、後者は「処方薬を薬剤師から受け取る(pick up)場所」を意味します。このような「処方薬を受け取る行為」のことを、英語では to get the prescription filledと表現するので、日本語の「院内処方と院外処方のどちらがいいですか?」を英語で表現する場合には、 「この病院内の薬局で処方薬を受け取るか、それとも院外の薬局で処方薬を受け取るか、どちらがいいですか?」という意味の “Where do you want to get your prescription filled? Our hospital pharmacy or a pharmacy out of this hospital?” という表現を使いましょう。
薬剤師は処方箋を受け取ると、そこに記載されている処方薬を準備 to fill the prescriptionするのですが、「処方薬が保管されている区域」のことは dispensary と呼ばれ、処方薬を「調剤する」という行為は compounding と呼ばれています。
「処方箋」prescription の略語には Rx というものが使われます。これはラテン語由来の表現で、読む時にはそのまま “prescription” と読みます。実際の英語圏でのprescription (Rx) は下記のようなものとなります。
Perindopril 5 mg tablets
1 t od
qty 30. 5 repeats
ご覧いただいてわかる通り、英語での prescription (Rx) には数多くの略語が使われるので、それらを知らないとRx を理解できません。これが全てではありませんが、Rx において使われる略語の中で代表的なものを下記に示します。
• tab/t: tablet
• cap/c: capsule
• po: by mouth (orally)
• pr: by rectum
• aaa: apply to the affected area
• prn: as needed/as required
• stat: immediately
• mdu: to be used as directed
• mane: morning
• nocte: night
• od: once daily
• bid/bd: twice daily
• tid/tds: three times daily
• qid/qds: four times daily
• q: every
• q4h: every four hours
• ac: before meals
• pc: after meals
• cc: with food
• qty: quantity
これらの略語の多くはラテン語由来ですので、ほとんどの英語圏の医療者も po が “per os” の略語であり、 prn が “pro re nata” の略語であるということを知りません。ただ、それらが “by mouth” 「経口」や “as needed” 「頓服(症状がある際に服用する)」であるということは覚えているのです。
これらを踏まえて先程紹介したprescription の意味を考えると、「Perindopril(Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitor の一種)5ミリグラムの錠剤を1日1錠服用すること。今回処方するのは30錠で、この処方箋で医師の診察なしに5回まで同じ処方薬を受け取ることができる」ということになります。
“DAA” や “Personal Care” って何のこと?
処方薬について「効果」effects(専門的には mechanism of action (MOA) と表現されます)、「用法」administration、「用量」dosage、「注意事項」precautions などについて説明するのは、日本でも英語圏でも変わらない pharmacist の役目です。最近では、 polypharmacy と呼ばれる「多くの薬を服用する」患者さんが増えてきているため、「何曜日の何時にどの薬を服用すればいいか患者さんが理解できるようにたくさんの薬を整理する」という dose administration aid (DAA) と呼ばれるサポートが日本でも英語圏でも盛んに行われています。ただ日本では、「予防接種」vaccination/immunization を薬剤師が行うことはありませんが、英語圏では pharmacist が行う場合もあり、その役目は国や地域によって異なります。
また、薬局やドラッグストアで扱っている health device に関しても、英語圏では日本のドラッグストアではあまり見かけない「血糖値測定器」 blood glucose monitor や、「血圧計」 blood pressure machine/sphygmomanometer、そして「吸入器」 inhaler なども普通に扱っています。
英語圏の pharmacy では、 prescription drugs 以外にもたくさんの「市販薬」 over-the-counter (OTC) drugs を扱っていますが、その売り場では “Personal Care” というサインも目にします。ここでは condoms などの様々な「避妊用具」contraceptives の他、 sanitary pads や tampons などの生理用品などを扱っています。これ以外にも英語圏の pharmacy や drugstore には、日本では見慣れないたくさんの英語表現に溢れています。COVID-19の感染状況が落ち着いて英語圏に旅行に行く機会があれば、英語の勉強も兼ねて地元の drugstores に立ち寄ることを強くお勧めします。
「坐薬」や「塗り薬」って英語で何と言う?
では次に薬の「剤形」である dosage forms に関する英語表現を確認していきましょう。
今では少なくなりましたが「丸薬」は英語では pill と呼ばれます。ただこれに the がついて “the pill” となると、「経口避妊薬」である oral contraceptive pill (OCP) の意味になるので注意してください。また日本では「アフターピル」として知られる「緊急避妊薬」ですが、英語では morning after pill もしくは “Plan B” となります。
内服剤のdosage form の主流は、「錠剤」tablets と「カプセル」 capsules です。日本では「大きなカプセルだと喉につかえる」という理由からか「粉薬をオブラートに包んで飲む」ということも行われてきましたが、英語圏ではpowder medicine は全て capsules に入れて飲むため、「粉薬をオブラート(oblaat はオランダ語です)に包んで飲む」という習慣は全くありません。もし「この粉薬をオブラートに包んで飲んでください。」と英語で表現したい場合には、 “Please take this powder medicine wrapped in this soluble medical wafer so that you can avoid tasting the bitter powder.” のように説明する必要があります。
この他にも「点眼薬」や「点耳薬」は、 eye drops や ear drops となります。ただしこれらの薬を「注す(さす)」場合には drop ではなく、use やput といったカジュアルな動詞の他、apply や instill というやや堅い感じの動詞も使われます。
「点鼻薬」はスプレーとして使うのでdrops を使わずに nasal spray となり、「坐薬」は suppository となります。日本の医療現場ではこの suppository を省略した “Sp” や「サポ」といった用語が使われていますが、当然これらは英語では全く通用しませんのでご注意を。
油分の多い「軟膏」ointment や、油分の少ない「クリーム」 cream といった「塗り薬」は英語で何と表現するのでしょう?英語ではこれに完全に対応する表現はありませんが、「局所的に使う外用薬」という意味の topical medicine というのがこれに近い表現です。ただ厳密には eye drops や ear drops なども topical medicine に含まれます。そしてこれらの外用薬を使う際には、 apply という動詞が使えるということも覚えておきましょう。
また日本人にあまり知られていないのが、 lozenge という表現です。これは「菱形」というイメージの英語表現なのですが、「トローチ」troche とほぼ同じ意味でよく使われるものですので、知らなかった方はこれを機会に覚えておいてください。
「下剤」や「血液をサラサラにする薬」って英語で何と言う?
皆さんご存知の通り、医療面接では「服薬歴」Medications/Drug History (DH) も非常に重要な項目です。英語での一般的な医療面接では、「既往歴」Past Medical History と「手術歴」 Past Surgical History を尋ねた後で、 Medications について尋ねます。
• Chief Complaint (CC)
• History of Present illness (HPI)
• Past Medical History (PMH)
• Past Surgical History (PSH)
• Medications/Drug History (DH)
• Allergies
• Family History (FH)
• Social History (SH)
• Review of Systems (ROS)
ここではまず、 “Are you currently taking any medications?” もしくは “Are you currently on any medications?” という質問をします。もし患者さんが何か薬を飲んでいる場合、患者さんはそれらの薬剤名を言って回答しますが、もし皆さんがそれらの薬剤名についてよくわからない場合には、 “What is that medication for?” と尋ねましょう。
ただ日本語でも「抗生物質」や「下痢止め」などの表現を一般の人でも当たり前に使うように、下記の薬の一般名に関する英語表現は、一般の人でも当たり前に使いますので、これを機会にしっかりと確認しておきましょう。
• Antibiotic: 抗生物質
• Antihistamine: 抗ヒスタミン剤
• Antidepressant: 抗うつ剤
• Sedative: 鎮静剤
• Anti-inflammatory: 抗炎症剤
• Painkiller/Analgesic: 痛み止め・鎮痛剤
• Laxative: 下剤
• Antidiarrheal: 下痢止め(止痢剤)
• Blood thinner/Anticoagulant: 血液をサラサラにする薬・抗凝固剤
• Water pill/Diuretic: 利尿剤
ここでよく使われている anti- という接頭辞 prefix は「アンティ」と「アンタィ」の両方の発音があります。またsedative と laxative は両方とも「セデティブ」と 「ラキシァティブ」のようにアクセントが最初にあるので注意してください。
また「抗凝固剤」を日本語で「血液をサラサラにする薬」というのと同じように、英語でも anticoagulant のことを、「血液を薄める薬」という意味で blood thinner と呼びます。日本語では「薄め液」は「シンナー」という呼び名で定着していますが、英語で thinner を発音する際には「シンナー」のようには発音しないでくださいね。
日本では「お薬手帳」という非常に便利なものがありますが、英語圏ではこのようなものは存在しません。英語圏の患者さんに「お薬手帳はお持ちですか?」と尋ねたい場合には、 “Do you happen to have a small booklet that keeps your prescription records?” のように、少し説明的な表現で尋ねる必要があります。
患者さんが「医師の服薬指導に従って服薬していること」を adherence と言い、その逆を poor adherence などと表現します。これを確認するためには “Do you take the medications as the doctor prescribed?” のように尋ねると良いでしょう。
「抗生物質」antibiotics などの処方では、「症状がなくなっても必ず飲みきってください。」というような指示も重要です。その場合には「処方箋にある薬を全て指示された通りに飲む」というニュアンスで、 “Please finish the whole prescription even after the symptoms disappear.” のような表現を使いましょう。
また「この薬は副作用が少ないです。」と言いたい場合に、特に有用な表現として是非覚えておいていただきたいのが、 “This medicine is well-tolerated.” というものです。この well-tolerated は「患者さんにとって負担が少ない」というイメージの形容詞で、服薬指導においてはよく使われる表現です。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に医療面接での「服薬歴」での質問表現をまとめておきます。
Medications /Drug History (DHx)
• “Are you currently taking any medications/supplements?”
• “Are you currently on any medications/supplements?”
• “What is that medication for?”
• “Do you happen to have a small booklet that keeps your prescription records?”
• “Do you take it as the doctor prescribed?”
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之