こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「骨と筋肉に関する英語表現」。
最近では「解剖学」anatomy で解剖用語を日本語だけでなく、英語でも教える医学部が増えています。そのため「医学英語なら骨や筋肉の名称が言える」という方も多いと思います。ただ、英語圏で一般の方が使う名称となると自信がないという方も多いことでしょう。
そこで今月は、骨と筋肉に関する様々な一般英語表現をご紹介します。
“I have a bone to pick with you.” ってどんな意味?
まずは「骨」に関する英語での慣用表現をいくつかご紹介しましょう。
日本語では「非常に痩せている状態」を「骨と皮」のように表現しますが、英語ではこの順番が逆になって skin and bones と表現します。具体的には “He is nothing but skin and bones.” のように nothing but や just などと同時に使われます。日本語の「骨身に染みる」という表現は「寒さ」に関しては英語でも chilled to the bone のように「骨に染みるくらい寒い」として使われますが、 “Feel it in your bone.” のように使われた場合には「直感で理解しろ」という意味になります。そして “That was close to the bone.” と言えば「さっきの話はきわどかったよね」のように「核心に迫りすぎている」のような意味になります。
この他にも日本語と英語では骨に関する印象が異なるため、日本人にはわかりにくい慣用表現もあります。英語の bone には「乾いている」というイメージもあるため、「ひどく乾いている」様子は dry as a bone 「骨のように乾いている」と表現されます。また「論争の元」のことを英語では bone of contention 「論争の骨」のように表現します。おそらくは「犬が骨を巡って争う」という様子から生じた表現だと思いますが、これもまた日本語にはないイメージの表現と言えます。わかりづらいと言えば「ちょっと話があるんだけど」という意味で使われる “I have a bone to pick with you.” や、「はっきり言わせてもらうけど」という意味で使われる“To make no bones about it,” という表現でしょう。どちらもかなり強い口調で使われる表現で、これらの表現の後にはあまり望ましくないことが言われると覚悟しておいてください。
humerus や femur の一般用語は?
では次に代表的な骨の一般用語を見ていきましょう。
「頭蓋骨」 cranium は一般的には skull と呼ばれます。「胸骨」 sternum は chest の真ん中に位置するにも関わらず、「乳房」を意味する breast を使って breastbone と呼ばれます。「肩甲骨」 scapula は「肩にある刃物のような骨」であることから shoulder blade となり、「鎖骨」 clavicle は「襟にある骨」ということで collarbone と呼ばれます。日本人の学生さんを見ていると「色」color と「襟」 collar の発音の違いに苦労していますが、この2つの違いは後ろの -lor と -llar の違いではなく、同じスペルの co- の部分にあります。前者は but のような短い音、後者は not を発音する際のように、少し口を広げて発音する音となります。
「上腕骨」 humerus は humor という言葉に近いこともあり funny bone と呼ばれます。この funny bone のちょうど下には「尺骨神経」ulnar nerve があって、肘をドアなどにぶつける際には痺れることがありますが、この上腕骨の下にある尺骨神経をぶつける動作を英語では hit one’s funny bone のように表現します。また手首にある8つの「手根骨」 carpals/carpal bones は wrist bones と呼ばれ、指にある「指骨」phalanges は finger bones と表現されます。
この他にも「大腿骨」 femur は「太ももの骨」ということで thigh bone と、「脛骨」 tibia は「すねの骨」ということで shinbone と呼ばれます。
「膝蓋骨」patella には日本語にも「膝の皿」という表現がありますが、英語にも同じように kneecap という表現があります。ちなみに英語で leg と言うと解剖学的には「膝」 knee から「足首」 ankle までの部位を指しますが、英語圏の一般の方は「下肢全体」のことを leg と表現しますので、会話の状況によってはどの部位を意味しているのか確認することも必要です。
「シーネ」は英語で何と言う?
では次に、「骨折」に関する英語表現を見ていきましょう。
「骨折」は医学的には fracture もしくは bone fracture と表現されますが、一般的には broken bone とも呼ばれます。「毛髪骨折」 hairline fracture は日本語で「骨にヒビが入る」のように表現されますが、英語でも同じように a crack/break in a bone のように表現されます。
骨折にはこれ以外にも下記のような種類がありますが、これらはほぼ全て英語圏では一般の方にも広く知られている表現です。
• greenstick fracture「若木骨折」
• comminuted fracture「粉砕骨折」
• compression fracture「圧迫骨折」
• avulsion fracture「剥離骨折」
• stress/fatigue fracture「疲労骨折」
骨折の治療には一般的に「内固定」と「外固定」が用いられます。「内固定」である「観血的整復固定術」は open reduction and internal fixation となり、この頭文字から ORIF (「オリフ」のように発音)と呼ばれています。
また、「外固定」である 「ギプス」「シーネ」「装具」は、それぞれ cast/splint/braceとなります。特に「ギプス」と「シーネ」はカタカナとして定着しているためか、正しい英語表現が咄嗟に思いつかない方も多いので、これを機会に覚えておいてくださいね。
「大胸筋」や「広背筋」の一般用語は?
では次に、筋肉に関する一般的な表現をご紹介しましょう。
首を支える「僧帽筋」trapezius(「トラピィジィアス」のように発音)は一般的に traps と呼ばれます。このように「筋トレ」 workout (muscle training という表現はあまり使われません)で対象となるような代表的な筋肉は、簡略化されて呼ばれる傾向にあります。ここでは一般の方も知っている有名な筋肉の一般用語と、それをトレーニングするための筋トレの英語名をご紹介しましょう。
「胸板(むないた)」を形成する筋肉として知られる「大胸筋」 pectoralis major ですが、これは一般的には pecs と呼ばれ、この筋肉を鍛える「腕立て伏せ」は push-ups と呼ばれます。
上腕の「力こぶ」を形成する「上腕二頭筋」は biceps brachii ですが、この発音は「バィセプス ブレェィキアィ」のようになり、一般的には biceps と省略して呼ばれます。この筋肉を鍛えるために「ダンベル」 dumbbells を使って鍛える筋トレは、 biceps curl や arm curl などと呼ばれます。
同じように「上腕三頭筋」 triceps brachii は triceps と呼ばれ、これを鍛えるダンベルトレーニングは triceps kickback と呼ばれます。ちなみにダンベルなどを持ち上げる筋トレは free-weights と呼ばれ、「マシン」weight machines を使った筋トレと区別されています。 またコロナ禍で人気となった「自重を使った筋トレ」bodyweight workout ですが、「美容体操」を意味する calisthenics とも表現されます。
「逆三角形」を形作る「広背筋」 latissimus dorsi ですが、これは一般的には lats と呼ばれていて、これを鍛えるために鉄棒にぶら下がって顎を引き上げる「懸垂」は chin-ups と、そしてウェイトを引き下げて広背筋を鍛える筋トレは lat pull-downs と呼ばれます。
「腹筋」の総称は abs ですが、「割れた腹筋」は「6 つのビール缶パック」を上から見た様子から six-pack abs と呼ばれます。主に「腹直筋」 rectus abdominis を鍛える「腹筋(運動)」は、古典的には sit-ups と呼ばれていますが、最近では完全に上体を起こさない crunch という筋トレも人気です。
hip injury ってお尻の怪我?
「お尻」の大きな筋肉である「大臀筋」は gluteus maximus となり、一般的には glutes と呼ばれます。ここで気をつけていただきたいのが、「お尻」の英語表現です。実に多くの日本人が「お尻 = hip」と考えているのですが、これは間違いです。英語の hip というのは日本語の「股関節」に近い表現です。「腰筋」 psoas(pは発音せず「ソアス」のように発音)に代表される「股関節の屈曲に関わる筋肉群」を一般的には hip flexor と呼び、これらの筋肉を負傷した場合を hip flexor injury や hip injury と呼ぶのです。また「大腿骨頭置換術」hip arthroplasty は 「股関節」hip joint の手術であることから、一般的には hip replacement surgery や単純に hip surgery/operation などと呼ばれます。
では「お尻」は英語で何と言うのかですが、これには bum や buttocks の他、bottom や butt など実に様々なものがあります。皆さんもご存知の ass は日本語の「ケツ」に相当する品の悪い表現ですが、これが badass となると「イケてる」「カッコいい」という意味になります。また意外に思われるかもしれませんが、backside や behind なども名詞として「お尻」の意味にもなるので、使う際には気をつけてください。
膝の伸展の際に使う「大腿四頭筋」 quadriceps femoris は、一般的に quadriceps と呼ばれますが、膝の屈曲の際に使う「大腿二頭筋」biceps femoris は biceps(これは「上腕二頭筋」の呼び名でしたね)ではなく、太腿裏にある他の筋肉と合わせて hamstring と呼ばれます。
「ふくらはぎ」calf にある「腓腹筋」gastrocnemius(cは発音せず「ガストロニィミアス」のように発音)と「ヒラメ筋」soleus は、まとめて calf muscle と呼ばれます。
こういった筋肉の一般用語は、どのように学ぶことができるのでしょう?答えは簡単で、「英語で筋トレをする」ことです。コロナ禍で動画やアプリを使って筋トレをする方が増えたと思いますが、それらの動画やアプリを英語圏で作られたものにしていただくだけで、筋肉を鍛えるだけでなく、一般の方が使う英語表現も同時に身につけることができます。
「肉離れ」は英語で何と言う?
ちなみに「筋トレ」 workout の後には「筋肉痛」がやってきますが、これは sore muscles や muscle soreness と表現されます。「筋肉痛」のつもりで muscle pain と表現すると、それは「肉離れによる筋肉の痛み」のように、筋肉痛よりも重症のように聞こえてしまいます。
私くらいの年齢になると筋トレの翌日ではなく、少し時間が経ってから筋肉痛がやってきますが、このような「遅れてくる筋肉痛」は一般的に DOMS(「ドムス」のように発音)と呼ばれます。これは Delayed-Onset Muscle Soreness の略で、英語圏の筋トレ愛好者の間でよく使われている表現です。
では「肉離れ」は英語でどのように表現するかというと、pulled muscle や muscle strain のようになります。前者には「引っ張られて起こる外傷」、後者には「酷使して起こる外傷」といったイメージがあります。ですから eye strain と言った場合には「目の肉離れ(?)」ではなく、「眼精疲労」という意味になるのです。また日本語の「首を寝違えた」という表現ですが、この場合の痛みは neck pain from sleeping wrong のように表現されます。
筋力が低下すると「動きがぎこちなく」なりますが、そのような状態は clumsy という形容詞で表現されます。逆に筋収縮が急激に起こった状態、いわゆる「筋肉がつった」状態は英語で muscle spasm と表現されます。ですから日本語の「ギックリ腰」は、英語では lower back spasms のように表現されます。
また、ふくらはぎやハムストリングなどで足が「つった」と言いたい場合には、cramp という英語がよく使われます。これは a cramp in the hamstring のように名詞としても、また “My hamstring cramped up so bad.” のように、動詞としても使われます。ただ女性が cramps と複数形で表現した場合、それは「生理痛」という意味として使われるので注意してくださいね。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回ご紹介した英語表現をまとめておきます。
Bone を使った英語の慣用表現
• skin and bones: 非常に痩せている状態
• to the backbone: 骨の髄まで
• chilled to the bone: 骨に染みるくらい寒い
• to feel it in one’s bone.: 直感で理解する
• close to the bone: きわどい・核心に迫りすぎている
• dry as a bone: ひどく乾いている
• bone of contention: 論争の元
• To make no bones about it,: 正直に言うと
代表的な骨の一般用語
• cranium「頭蓋骨」: skull
• sternum「胸骨」: breastbone
• scapula/scapulae「肩甲骨」: shoulder blade
• clavicle「鎖骨」: collar bone
• humerus「上腕骨」: funny bone
• carpals/carpal bones「手根骨」: wrist bones
• phalanges「指骨」: finger bones
• femur「大腿骨」: thigh bon
• tibia「脛骨」: shinbone
• patella「膝蓋骨」: kneecap
骨折に関する英語表現
• fracture「骨折」: broken bone
• hairline fracture「毛髪骨折」: a crack/break in a bone
• greenstick fracture「若木骨折」
• comminuted fracture「粉砕骨折」
• compression fracture「圧迫骨折」
• avulsion fracture「剥離骨折」
• stress/fatigue fracture「疲労骨折」
• open reduction and internal fixation (ORIF)「観血的整復固定術」
• cast「ギプス」
• splint「シーネ」
• brace「装具」
代表的な筋肉の一般用語
• trapezius「僧帽筋」: traps
• pectoralis major「大胸筋」: pecs
• biceps brachii「上腕二頭筋」: biceps
• triceps brachii「上腕三頭筋」: triceps
• latissimus dorsi「広背筋」: lats
• rectus abdominus「腹直筋」: abs
• gluteus maximus「大臀筋」: glutes
• psoas muscle「腰筋」: hip flexor
• quadriceps femoris「大腿四頭筋」: quadriceps
• biceps femoris「大腿二頭筋」: hamstring
• gastrocnemius & soleus「腓腹筋 & ヒラメ筋」: calf muscle
筋肉に関する英語表現
• workout「筋トレ」
• sore muscles/muscle soreness「筋肉痛」
• delayed-onset muscle soreness (DOMS)「遅れてくる筋肉痛」
• pulled muscle「(引っ張られて起こる)肉離れ」
• muscle strain「(酷使して起こる)肉離れ」
• muscle spasm「筋肉の痙攣・こむら返り」
• cramp「筋肉の痙攣・こむら返り」
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之