Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 29 アレルギーと食事に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「アレルギーと食事に関する英語表現」。

医療面接において「アレルギー」は必須の質問項目です。多くの方は「花粉症」の英語表現は hay fever と考えていますが、これはあくまでも英国での表現であり、米国ではあまり使われない表現です。また医療面接では患者さんと「食事」に関する会話も行われますが、そこにも日本の医学生が知らない英語表現がたくさん使われます。

そこで今月は、アレルギーと食事に関する、日本の医学生があまり知らない英語表現をご紹介します。

アレルギーに関しては英語でどんな質問をするの?
英語での医療面接ではこちらでご紹介している通り、下記の項目に沿って質問していくのが一般的です。
 • Chief Complaint (CC)
  History of Present illness (HPI)
  Past Medical History (PMH)
  Past Surgical History (PSH)
  Medications/Drug History (DH)
  Allergies
  Family History (FH)
  Social History (SH)
  Review of Systems (ROS)

日本語では「アレルギー」となりますが、英語の allergy は「レジィ」のような発音となります。

この allergies ではまず下記のような質問をします。
  Do you have any allergies?
  Are you allergic to any medications?
  Are you allergic to any food?
  Are you allergic to anything else?

アレルギーを引き起こす物質を「アレルゲンallergen と言いますが、この発音はカタカタ的には「ラジン」に近いものになります。逆に「アラジンと魔法のランプ」で有名な Aladdin は、英語では「アディン」のような発音になるのでご注意を。

では、代表的な allergen をいくつか見ていきましょう。

代表的な薬の allergen としては penicillin が有名です。日本でも毎年「スズメバチhornet に刺される被害が報告されています。こういった hornet や「アシナガバチwasp といった動物が持つ「」は英語では venom と呼ばれ、これにアレルギーを持つ方も多くいらっしゃいます。また shellfish も代表的な allergen ですが、これには「エビshrimp/prawn や「カニcrab の他、様々な種類の「二枚貝clam が含まれます。ネコなどの動物にアレルギーがある方の多くは、その動物の「」にアレルギーがあるのですが、この「」は英語では dander と言います。「過敏性肺臓炎hypersensitivity pneumonitis では「カビ」に対するアレルギーが問題となりますが、「黒いカビ」を英語では mold、そして「白いカビ」を mildew と呼びます。日本では「ソバ粉buckwheat が allergen として有名ですが、英語圏では「小麦粉wheat が allergen として有名です。また小麦などに含まれる「グルテンgluten というタンパク質が引き金となって起こる自己免疫疾患は「セリアック病celiac disease と呼ばれています。

「花粉症」は英語で何と言う?
多くの日本人を悩ます「花粉症」ですが、多くの方がこの英語を hay fever と考えています。英語の hay とは「干し草」ですので、なぜ「干し草熱」である hay fever が「花粉症」になるのでしょうか?

実はこの hay fever は英国での表現です。英国では干し草を刈り取る時期に、干し草にアレルギーを持つ人が「微熱」の症状をきたすことが多かったので、「季節性のアレルギー症状」という意味で hay fever という表現が定着したのです。

日本の場合、「花粉症」は「スギ花粉cedar pollen に対するアレルギー症状のことを示すので、英語にする場合には「スギ花粉症cedar pollinosis と表現するべきでしょう。もしくは「アレルギー性鼻炎」や「アレルギー性結膜炎」として allergic rhinitisallergic conjunctivitis と表現する方が医学的にも適切と言えます。

ちなみに米国では「花粉症」に匹敵する「季節性のアレルギー症状」のことは単純に allergies と呼ぶことが一般的です。英国式の hay fever という表現も通じますが、米国人の患者さんが “I have allergies.” と言った場合には「季節性のアレルギー があります。」や「アレルギー性鼻炎があります。」という意味であるということを覚えておいてください。

eczema って何のこと?
患者さんにアレルギーがあることが確認できたら、具体的にどのような症状が生じたのかを下記の質問で確認しましょう。

What happened when you got the allergy?

その症状が「蕁麻疹hives/urticaria のような「皮疹skin rash であったのか、それとも「アナフィラキシーanaphylaxis のような深刻な症状であったのかでは臨床的に大きく意味が異なります。患者さんに anaphylaxis の既往がある場合、「エピペンEpiPen の使い方を正しく指導する必要があります。この EpiPen を使用する際には「ブルー」のキャップを上に向けて外し、針が入っている「オレンジ」の側を太腿の外側に押し付ける必要がありますが、英語圏の指導ではこれを “Blue to the sky” and “Orange to the thigh” のように「韻を踏むrhyming ことで患者さんの記憶に残りやすくしています。

もし患者さんにアレルギーの既往が全くない場合、「カルテ」である patient note には、 no known allergies を意味する NKA という略語を記載します。そして薬に対するアレルギーの既往がない場合には no known drug allergies を意味する NKDA を記載します。

アレルギー関連の疾患として有名な「アトピー性皮膚炎atopic dermatitis ですが、英語圏では一般的に eczema と呼ばれています。英語圏の患者さんとの会話ではよく使われる表現ですので、知らなかった方はこれを機会に是非覚えておいてください。

意外と知られていない英語の sushiの意味
では次に「食事」に関する英語の表現をご紹介しましょう。

皆さんご存知のように「食べ物」は英語で food となります。これは通常単数形で使われます。先ほどご紹介したように「何か薬にアレルギーはありますか?」は “Are you allergic to any medications?” のように複数形が使われますが、「何か食べ物にアレルギーはありますか?」は “Are you allergic to any food?” として単数形が使われます。

単数形が基本である food ですが、複数形の foods で用いられる場合もあります。それは「色々な種類の食べ物」として話し手が頭の中で数えている場合です。皆さんが「不可算名詞」uncountable noun として認識している water も「色々な種類の水」として話し手が頭の中で数えている場合には waters のように複数形になります。

英語には「食事」として dish/meal/cuisine/diet という表現がありますが、これらは全て異なるイメージを持った表現です。皆さんはその違いがおわかりになりますか?

英語の dish には「お皿」の意味がありますが、そこから「お皿に用意された料理」というイメージがあります。ですから「食事のメインとなる肉や魚などの料理」は a main dish と呼ばれますし、それ以外の料理は a side dish と呼ばれます。

これに対して meal には「特定の時間に摂取するまとまった食事」というイメージがあります。ですからたくさんの dishes がある meal は、a big/heavy meal と呼ばれ、あまり dishes がない meal は a light meal などと呼ばれます。食習慣は人によって異なりますが、一般的に人は1日に3回の meals を食べ、それぞれ breakfast/lunch/dinner と呼ばれます。このうち「朝食」は、寝ている間に「絶食fasting した後に最初に摂る食事であることから breakfast と呼ばれます。

日本食」は皆さんご存知の通り Japanese food と呼びますが、Japanese cuisine と呼ぶ場合もあります。英語の cuisine には「特徴のある料理方法」といったイメージがあり、Italian cuisine と言った場合には、 Italian food に比べてその料理方法を重視した表現となっています。

では、英語の diet にはどんなイメージがあるのでしょう?これには「一定期間の食生活」というイメージがあり、「健康的な食生活」や「バランスの取れた食生活」は a healthy dietwell-balanced diet となり、「食物繊維に乏しい食生活」は a low-fiber diet と、そして「脂肪の多い食生活」は a high-fat diet などと呼ばれます。ですから医療機関などで活躍する「管理栄養士」は「食生活を指導する専門職」として、英語では dietitian となります。これに対して英語の nutritionist は「食事に含まれる栄養に関する専門職」というイメージの表現となり、日本でいう「栄養士」に相当します。

また英語圏の患者さんと食事の話をする際には、日本と英語圏で意味が異なる表現に注意が必要です。

日本語で「スナック」というと「パサパサした食感のお菓子」というイメージがありますが、英語の snack は果物や軽食を含む「間食」という意味になります。また日本語の「ジュース」には炭酸飲料も含まれますが、英語の juice は orange juice や apple juice のような「果物のジュース」という意味であり、「炭酸飲料」である sodapop などとは区別して使われます。このように juice という表現は日本では拡大解釈されて使われていますが、その逆に当たるのが英語圏で使われている sushi です。日本の「寿司」も当然 sushiに含まれるのですが、英語の sushi には日本でいう「刺身」も含まれます。このように英語の sushi は「生魚を使った低脂肪の健康的な料理」という広い意味で使われていますので、英語圏の人が “I eat sushi every day.” と言った場合、それが必ずしも日本人が考えるような「寿司」を毎日食べているとは限らず、「私は毎日何らかの生魚を使った健康的な料理を食べています。」という意味になっていると覚えておいてください。

「糖質制限ダイエット」は英語で何と言う?
日本では「痩せようとする行為」を総称して「ダイエット」と呼ぶ方がいらっしゃいますが、先述したように英語の diet は「一定期間の食生活」という意味で使われます。ですから英語の “I am on a diet.” というのは「(体重を減らすためにある特定の制限を強いる食生活をするようにしています。」という意味になるのです。

体重を減らすための diet には数多くの種類があり、その時々で「流行fad があります。こういった「流行のダイエット」のことを英語では fad diet と呼びます。

一時米国では Zone diet というダイエットが流行りましたが、これは「タンパク質」 protein と「炭水化物carbohydrate/carb そして「脂質fat をそれぞれ30%-40%-30% の割合で摂取すれば、摂取するカロリーの総量はあまり気にしなくて良いというものだったので、多くの米国人が飛びつきました。

今も「低炭水化物ダイエット」「糖質制限ダイエット」である、 low carb diet という人気の高い食生活があります。これらの代表例である Atkins dietketogenic diet などはそれぞれ Atkinsketo として英語圏の会話の中では普通に使われます。英語圏の患者さんはこれらの表現を「医師であれば知っていて当然だろう」と思って使いますので、知らなかった方は是非覚えておいてください。

また食事制限をしていると、「低血糖hypoglycemia になってイライラすることもありますが、「お腹が空いてイライラする」という状態を hungryangry を組み合わせた hangry という新しい形容詞も生まれています。

IBS では超重要!押さえておきたい low FODMAP diet
では最後に、患者さんが「お腹の張りbloated abdomen を訴えた際に役に立つ食事の表現をご紹介しましょう。

お腹の張りbloated abdomen が主観的な症状であるのに対し、コアカリキュラムの37の症状に含まれている「腹部膨満abdominal distension は客観的な腹部サイズの増大を意味します。この abdominal distension の原因としては 6 Fs が有名です。

これは Fluid, Flatus, Feces, Fat, Fetus, and Fatal mass の6つの F のことですが、このうち flatus とは「オナラgas の医学英語です。「過敏性腸症候群irritable bowel syndrome (IBS) の場合、この gas が腸の中に溜まってしまうと腸が引っ張られて腹痛を起こしてしまいます。そのため IBS の患者さんは gas を生み出す食べ物は控えた方が良いわけです。

では、どんな食べ物が gas を生み出すのでしょうか?それが FODMAP と呼ばれる炭水化物です。これは Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides And Polyols の頭文字で表される炭水化物で、小腸において水分を引き寄せて下痢を起こし、大腸において腸内細菌の栄養源となって発酵し、そこから gas を発生させて腹痛や便秘を引き起こします。ですから IBS の患者さんでは特に注意が必要となるわけです。豪州の Monash Universitylow FODMAP diet を簡単に見分けるためのアプリを開発していますので、英語圏の患者さんへの食事指導に活用してみるのも良いでしょう。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回ご紹介したアレルギーに関する医療面接での質問表現をまとめておきます。

  Do you have any allergies?
  Are you allergic to any medications?
  Are you allergic to any food?
  Are you allergic to anything else?
  What happened when you got the allergy?

では、またのご来店をお待ちしております。

「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。

国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

「Dr.押味の医学英語カフェ」で扱って欲しいトピックを募集中!