こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「皆さんからの質問への回答」。
2019年4月から始まったこの「医学英語カフェ」も、今年度で4年目を迎えました。「コーヒー1杯分の時間で楽しむ医学英語よもやま話」として医学生・医師・英語医療通訳者の方々にとって役に立つ内容をご紹介させていただこうと毎月更新しておりますが、光栄なことにこれまでに読者の方々から多くの質問もいただいております。その中にはこれまでの連載で間接的に回答させていただいたものもありますが、毎回のテーマに沿わないためにうまく回答できないものもありました。
そこで今月は、これまでに頂戴した「皆さんからの質問への回答」をご紹介したいと思います!
「医師国家試験で出題される英語問題にはどんな対策をすればよいですか?」
多くの医学生の皆さんにとって最大の関心事は「医師国家試験」であると思いますが、その中の英語問題に関して、医学生や医学英語の教員の方から「医師国家試験の英語問題の過去問ってどこで調べることができますか?」や「必要最低限の対策は何ですか?」という質問をいただくことがあります。
医師国家試験の英語に関連する問題に関しては「Menu 14: 医学英語の学び方」でもご紹介しましたが、「平成21年版医師国家試験出題基準」において「必修の基本的事項 18. 一般教養的事項(約2%)」の項目に「診療に必要な一般的な医学英語」が設定され、第103回医師国家試験(2009年2月)から医学英語に関連する問題が毎年1問から3問出題されるようになりました。その問題数は増加傾向にあり、第116回医師国家試験(2022年2月)では5題が出題されました。
これまでの過去問は全てこちらの Quizlet にまとめておきました。第117回以降の問題も随時同じ Quizlet のフラッシュカードにアップデートしていく予定ですので、「医師国家試験の英語問題の過去問ってどこで調べることができますか?」と感じている方は是非お気軽にご活用ください。
第114回(2020年2月)からは設問を含め全文英語での出題が見られ、その傾向が現在も続いています。ここではその中から第115回の問題を1つご紹介しましょう。
115B-32
A 60-year-old man presented with sensory disturbance of his fingers and toes. He lived alone and drank alcohol every day. The amount of his alcohol intake was over 60 g/day. He had muscle weakness and burning sensation of his extremities. Examinations showed nystagmus and heart failure.
Which of the following vitamins is related to his symptoms?
a) Vitamin A
b) Vitamin B1
c) Vitamin B6
d) Vitamin C
e) Vitamin D
いかがでしょうか?全く英語の対策をしていない学生さんであっても “fingers and toes” や “drank alcohol every day” というキーワードを拾い、「アルコール依存に関連して手や足の指に異常が出るビタミン不足ならビタミンB1だな」と連想して、正解の b) Vitamin B1 を選べることと思います。
全国には82の医学部があり、その中には「受験以来、英語とは縁を切った」という医学生の方も一定数いることでしょう。医師国家試験では極端に正答率が低くなる問題は出題できませんので、結果として「本当に英語ができる医学生しか解けない問題は出題できない」というのが現状なのです。
このように医師国家試験での英語問題は簡単であるとは言え、それなりに対策も必要です。その最高の勉強方法がこの医学英語カフェで何度も繰り返して伝えている「医学を英語で学ぶ」という「内容言語統合型学修」 Content and Language Integrated Learning (CLIL) なのですが、それに抵抗がある医学生の方が多くいらっしゃるのも事実です。そんな英語嫌いの医学生さんがどこから手をつければ良いのかと聞かれると、私は下記の5つをお勧めします。
1つ目は「診療科の英語表現」です。皆さんが何科に進むにしても、全ての診療科の英語名は常識として知っておく必要があります。そして2つ目は「医療職の英語表現」です。これも医師としては常識としておきましょう。どちらもそれぞれのリンク先の Quizlet にまとめておきましたので、まずはここから学ぶようにしてください。
3つ目は「身体の英語名」です。「膵臓」pancreas や「胆管」bile duct といった基本的な名称はもちろん、解剖学で学ぶ「小円筋」teres minor や「腕神経叢」brachial plexus といった専門的な名称も日本語と英語の両方で学ぶようにしてください。
4つ目は「疾患の英語名」です。「慢性閉塞性肺疾患」chronic obstructive pulmonary disease (COPD) や「播種性血管内凝固」disseminated intravascular coagulation (DIC) など、英語の略語が定着しているものはその正式名称もしっかりと覚えましょう。疾患名の中には「バセドウ病」Graves’ disease や「イレウス」bowel obstruction のように日本語の表現をそのまま英語にしても通用しないものもありますので、必ず「英語圏ではどのように表現されているのか」を確認する習慣を身につけてください。
5つ目は「症状・兆候(所見)の英語表現」です。患者さんが訴える主観的な情報である「症状」symptom と、医療者が客観的に発見する「兆候(所見)」sign は、必ず一般英語と医学英語の両方で学ぶという習慣を身につけてください。例えば患者さんとの医療面接では「息切れ」shortness of breath という一般英語を使いますが、他の医師に症例報告をする際には「呼吸困難」dyspnea という医学英語を使う必要があります。
以上まとめますと、皆さんの中で「国家試験の英語問題対策としてどこから手をつけて良いかわからない!」という方がいれば、まずは「診療科の英語表現」「医療職の英語表現」をそれぞれのリンクにある Quizlet で身につけてください。そして解剖学では日本語の用語だけでなく、「身体の英語名」も同時に学ぶように心がけてください。また臨床医学の勉強を始めたら、その時に自分が勉強している診療科で扱っている疾患に関して、その「疾患の英語名」とその疾患に伴う「症状・兆候(所見)の英語表現」も確認するようにしましょう。その際には一般英語と医学英語の両方を確認するようにしてください。
この5つを身につけておけば、現状の医師国家試験の英語問題には十分対応できると思います。そしてこれらは全て医師として働いてからも必須となる基本知識ですので、学生時代に必ず身につけるようにしてくださいね。
「USMLE対策の勉強会をしようと思うのですが、どのような教材を使って、どんな形で運営するのが良いと思いますか?」
上記の5つは「医学生が最低限身につける語彙」なのですが、医学英語の学修はこれだけでは不十分です。「医学英語」の定義が「医師としてのコミュニケーションを英語でもできる能力」であるならば、「医療面接」「身体診察」「患者教育」「症例報告」「論文読解」「論文執筆」「口頭発表」といった、医師としてのコミュニケーションを英語でもできるようにする必要があるからです。
このような医学英語の能力を証明する資格試験として、現在最も妥当性が高いと考えられているものが Occupational English Test (OET) という豪州の試験です。米国で臨床研修をするためには、 United States Medical Licensing Examination (USMLE) の Step 1 と Step 2 Clinical Knowledge (CK) という2つの computer based test (CBT) に合格しなければなりませんが、コロナ禍以前にはこれらに加えて Step 2 Clinical Skills (CS) という実技試験を米国で受験する必要がありました。しかしコロナ禍でこの Step 2 CS は廃止され、その代替措置として OET が「医師としてのコミュニケーションを英語でもできる能力を判定する試験」として導入されたのです。つまり米国で臨床研修をするためには OET の4つの領域(Listening, Reading, Writing, and Speaking) 全てで 350点 (Grade B) 以上の点数を取得することが必要となったのです。
米国臨床留学に必要になったことで、一気に試験としての重要度が高まった OET ではありますが、米国臨床留学を実現するためには以前と変わらず Step 1 と Step 2 CK の2つに合格する必要があります。どちらも相当な労力が必要な試験ではありますが、基本となる対策は同じです。
それは「オンラインの問題集を使ってたくさんの問題を解くこと」です。どちらの試験も CBT ですので、印刷された問題集を使わずにパソコンの画面上で問題を解いていくことに慣れる必要があります。Step 1 に関しては米国の医学生のほぼ全員が使っている First Aid for the USMLE Step 1 という「バイブル」的な参考書があり、この書籍の内容がそのまま Step 1 の試験に出題されるのですが、Step 2 CK は米国の臨床実習の内容に直結しているため、米国の医学生のほとんどは「オンラインの問題集を使ってたくさんの問題を解くこと」以外の特別な対策をしていません。
では、日本の医学生がどのようにして Step 1 と Step 2 CK の対策をすれば良いのかと言うと、「基礎医学・臨床医学の勉強をする際に First Aid for the USMLE Step 1を参考書として使って関連する英語表現を学び、オンラインの問題集を使ってたくさんの問題を解く」ということになります。
これから USMLE の勉強を始めようと考えている方は、まずこの First Aid for the USMLE Step 1 を購入して、日本語で自分が今勉強している分野のページを眺めることから始めると良いでしょう。勉強会を企画するならば、担当者が特定の範囲をまとめて他の参加者に講義をしても良いですし、問題集の中から難しかった問題の解説をするような形式でも良いと思います。
いずれにしても Step 1 と Step 2 CK は個人での勉強が中心となります。では大学で行う同級生や教員といった他者を巻き込んで行う勉強会としては、どのような教材を使って、どのような形で運営するのが良いのでしょうか?
私の中ではその答えはハッキリしています。それは「First Aid for the USMLE Step 2 CS のSection 4: Practical Cases を担当者が読み上げ、参加者がそれを聞いて鑑別疾患を考える」という勉強会です。
先述した通り、Step 2 CS は既に廃止されていますし、この勉強会自体は Step 1 や Step 2 CK の直接的な試験対策とはなりません。たしかにその通りではあるのですが、Practical Cases にある Patient Note を読み上げることで英語での「症例報告」Patient Note の基本表現が身につきますし、音読することで「症例プレゼンテーション」Oral Case Presentation の実践的な練習にもなります。また Patient Note の情報は History Taking と Physical Examination に特化していますので、日本の医学生全員が受験する Post Clinical Clerkship OSCE の対策としても機能します。そして医学生だけでなく医師や英語講師などの教員にも参加してもらえるならば、その教員から様々なフィードバックをもらえることもできます。そして何より勉強会の準備はほとんど必要なく、参加者全員が気軽に行うことができます。その結果として継続した勉強会の運営が可能になるのです。
米国臨床留学を考えていない人にとっても「米国でも通用する医学英語スキルを獲得すること」は極めて有用と言えます。新年度から友人と勉強会を企画しようと考えている方は、ここでご紹介した「医学英語勉強会のやり方」を試してみてください。心からお勧めいたします。
「臨床留学が夢だったのですが、それが叶わなかった日本人医師が英語を使って日本で活躍するアイディアはありますか?」
医療者の中にも英語が好きな方はたくさんいらっしゃって、「もっと英語を上達させたい」「仕事の中で英語を使いたい」と思っている方も多いと思います。
もちろん臨床留学を通して海外でどうしてもやりたいことがあるのであれば、今からでも留学を検討すべきだと思いますが、日本に生活の基盤があって、今後も日本国内で医療に従事したいと思っているのであれば、日本国内で「英語を上達させる」「仕事の中で英語を使う」ということに是非目を向けていただければと思います。
私は「医療通訳」の教育にも携わっていますが、通訳者の教育でよく言われるのが「英語圏に居住しなくても高い英語を身につけることができる」ということです。特に現在は、英語圏に留学しても充実したネット環境のおかげで日本語だけで生活することも可能ですので、「単に留学をするだけでは英語力を高めることが困難な時代」とも言えます。
充実したネット環境は日本国内にいても海外の医療者との頻回なコミュニケーションも可能としました。コロナ禍においてこれまで「絶対に対面でなければならない」と考えられていた学術集会も、軒並みオンラインで実施されるようになりました。そういう意味では「海外の医師とオンラインでプロジェクトを企画する」ことが本当に容易になったのです。
これは学位取得に関しても同様で、現在では現地に赴かなくても学位取得できる大学院が数多くあります。もしこれから学位の取得を考えている方がいらっしゃれば、日本で医療者として働きながら海外の大学院で修士号や博士号を取得するということも検討してもらえればと思います。
また医師として「仕事の中で英語を使う」ということになると、外国人患者さんを英語で診察する場面を想像する方が多いと思いますが、日本国内では特定の地域や病院を除くと、英語よりも中国語や韓国語を話す外国人患者さんの方が多いのです。このように日本では英語で診察する場面というのはまだ多くはないのですが、「自分以外の他の医師・医療者とのコミュニケーションで英語の医療通訳をする」ということも可能です。「国際臨床医学会(ICM)認定『医療通訳士®』認定制度」が2020年3月に始まりましたが、この「ICM認定医療通訳士®」の資格取得を目指すのも良い学修目標だと思います。実際に医師や看護師の方で英語医療通訳者として認定された方もいらっしゃいますので、興味のある方は是非ご検討ください。
「小さな子どもに説明する際の英語表現で気をつけることはありますか?」
「小児科」pediatrics で小さな子どもに説明する際には、「子ども特有の英語表現を使わないといけないのではないか」と考えていらっしゃる方も多いと思います。しかし実際にはそんなことはありません。下記に私が考える「小さな子どもに説明する際に気をつけること」をご紹介します。
1. Get on their level literally: 大人と同じように接するように心がける。その際には身体的に子どもと同じ目線に合わせて会話する。
2. Give your full attention: 子どもに顔と身体を向け、その話に傾聴する。
3. Repeat or rephrase what the child has said: 子どもが話したことを繰り返したり言い換えたりする。
4. Let the child finish talking and then respond: 子どもが話している間は絶対に遮らず、子どもが話し終わるのを待ってから話すようにする。
5. Keep it positive: 自己肯定感が高まるような発言をする。具体的には下記のような表現を会話の中で頻回に使うように心がける。
• “Good job!”
• “That’s amazing!”
• “That was a great try!”
• “You did that really well!”
• “Thanks for helping!”
注意をする際にも「否定的」ではなく「肯定的」な表現を用いる。
• “Stop running!”
→ “Walking feet, please.”
• “Stop yelling!”
→ “Inside voice, please.”
• “Stop touching that!”
→ “Hands to yourself, please.”
6. Turn Talking: 「順番」の概念を理解している子どもが多いので、何か指示を出す際には「まずは先生の番だよ。よく見てね。じゃあ次は君の番だよ。やってみて。」と伝える。
• “It’s my turn. Watch me. Now you can try.”
これらを意識すれば「子ども特有の英語表現」を知らなくても、小さな子どもの診察で苦労することはないと思います。是非実践してみてください。
「医学論文での時制のルールを教えてもらえますか?」
「Menu 15 医学論文の抄読会を楽しく乗り切る方法」でもご紹介させていただきましたが、医学における「原著論文」 original article は、IMRaD と呼ばれる構造を持っています。これは Introduction, Methods, Results, and Discussion の略で、それぞれ下記のような内容を論じています。
Introduction: Why?(なぜその研究を行なったのか?研究の「目的」)
Methods: How?(どのようにその研究を行なったのか?研究の「方法」)
Results: What?(何がその研究から観察されたのか?研究の「結果」)
and
Discussion: So what?(そこから何が導き出されるのか?研究の「考察」)
Introduction では一般的に 1) what is known(先行研究で分かっていること) 2) what is unknown(まだわかっていないこと) 3) purpose of the study(この研究の目的)の3つが書かれています。このうち1) は過去形で、2) と3) は現在形を使って書きます。
Methods と Results の本文では過去形を使いますが、「図」 figures や「表」tables などの記述では現在形を使います。
Discussion は一般的に1) summary of the results(「結果」のまとめ)2) interpretation of the results(「結果」の解釈)3) limitations of the study(研究の限界)4) conclusions(結論)で構成されています。このうち 1) は過去形で、2) 3) 4) は原則として現在形を使って書きます。
もちろん例外的な書き方もありますが、上記が原則となっていますので参考にしていただけたら幸いです。
「スラッシュ “/” の読み方を教えてもらえますか?」
こちらは “Levine II/VI” などでの “/”「スラッシュ」の読み方についての質問です。
これは「Levine分類の6段階で2」という意味ですので、 “two out of six” と読みます。このように “/” が「段階」を示す場合には “out of” と読みます。
ただ血圧の表記の場合、”120/80” は “one-twenty over eighty” のように “over” となりますので注意してください。
先述した First Aid for the USMLE Step 1 では “1 °” や 2 °” という表記があり、この読み方についてもよく質問を受けるのですが、これは “primary” や “secondary” のように読み、 “first degree” や “second degree” とは読まないので注意してくださいね。
「日本語の『悪化』『増悪』『進行』は英語ではどのように表現されますか?」
これに関して実際にお寄せいただいた質問は下記のものです。
医学用語では、「悪化」を表す際に「増悪」や「進行」或いはそのまま「悪化」等を使い分ける必要があり、それらの言葉に明確な定義はおそらく存在せず、慣習により区別が行われている印象を持ちます。(文献で用いられている言葉を拝見しますと、医師の先生によってかなり異なります。)日本語のみではなく英語でも、疾患別にどの様に言葉を使い分ける必要があるのか、具体的にお示しいただけましたら大変有難く思っております。
日本語の用語を慣習的に使っている人が多いのは事実だと思いますが、実はこれらの用語には下記のような定義があります。
• 「悪化」=「悪くなること」
• 「増悪」=「(元々悪かったものが)ますます悪くなること」
• 「進行」=「(病状などが)悪い方向に進むこと」
そしてこれらには英語にも対応する表現があります。
• 「悪化」= deterioration
• 「増悪」= exacerbation/flare-up
• 「進行」= progression
ただ、それぞれの用語がどのように使われているのかを確認することも重要です。同じ「増悪」であっても COPD と systemic lupus erythematosus (SLE) では使われる用語が異なり、COPD exacerbation や flare-up of lupus のように使い分けられています。ただその使い分けには厳密なルールがあるわけではなく、「この疾患にはこの表現を使う」ということを各論的に覚えていただく必要があると思います。
「院内表示を英訳する際にはどのようなことに気をつければ良いでしょうか?」
これに関して実際にお寄せいただいた質問は下記のものです。
病院設備の各部門の英語名称、外来outpatient 手術室 operation room のように、他の名称、受付、会計、患者相談室、処置室、薬局、リハビリ室、売店、病棟、中央材料室、診察室、呼吸機能検査室、医局、院長室、副院長室、看護部長室などなど思い付く範囲で、外国人にとって違和感のない英語表現を教えていただけるとありがたいです。
これはとても難しい質問です。と言うのも院内表示の英訳には「高度な翻訳力」が必要となるからです。
私の医療通訳の授業では「『これは英語で何と言う?』という問いではなく、『日本人がこう言うのと同じような状況で英語圏の人は何と言う?』という問いを立てなさい」と指導しています。これを今回の質問に応用すると、「日本の病院の中でこのように表現しているものは、英語圏の病院の中ではどのように表現しているのか?」という問いを立てる必要があるのです。
英語圏と言っても英国と米国の病院では表示が異なります。もし米国の病院での表記に寄せて表現したいのであれば、参考にしたい米国の病院を探し、その病院のホームページで Floor Guide/Map を確認して、その病院の英語表示を参考にすることが最も確実な方法です。
ただ日本と英語圏では制度や文化の違いがあります。日本の「病院長」は、英語圏の病院経営トップである Chief Executive Officer (CEO) とは職業背景も役割も異なります。また日本では「院長室」や「看護師長室」のように、役職に紐付けた部屋の名称があり、施設案内でも公開することが多いのですが、英語圏ではこういった office の詳細な情報まで施設案内で公開することは稀です。また実際のドアの表示にも役職名よりも個人名を使うことが多く、ドアには役職名しか表示しない日本とは事情が異なります。
「医局」の英語表現も難しいと言えます。大勢の医師が軽食をつまんで懇談できる大部屋の場合、Doctors’ Lounge のように表現しますが、これだと「医師しか使えないのか。」という排他的な印象を与えるため、Staff Lounge と表現した方が良いとも言えます。また単に医師の机が並んでいるだけの部屋の場合、これも単純に Office と表現した方が良いとも考えられます。
いずれにしてもこういう「翻訳」を考えるのは、自分達が当たり前に思っていることを改めて考える良い機会と言えます。自分が働く病院の院内表示を英訳することで新たに気づくことも多いと思いますので、まずは参考にしたい英語圏の病院を探し、その病院のホームページで Floor Guide/Map を確認して、その病院の英語表示を参考にするということから始めてみてください。
「これからどんなテーマを扱うのでしょうか?」
この「医学英語カフェ」では主に下記の医学英語のスキルをテーマにしています。
医師-患者間のコミュニケーション:「医療面接」「身体診察」「患者教育」
医師-医師間のコミュニケーション:「症例報告」「論文読解・執筆」「口頭発表」
そして医学生の方が全員行う Post Clinical Clerkship (CC) OSCE の「医療面接」「身体診察」「口頭発表」をこれからも重視していきたいと思います。
「医療面接」に関しては、これまでにも「外国人患者さんとの会話の始め方」「英語での医療面接のコツ」「英語で現病歴を上手く尋ねるコツ」「既往歴・手術歴・家族歴に関する英語表現」「薬に関する英語表現」「アレルギーと食事に関する英語表現」「社会歴に関する英語表現」「お酒と違法ドラッグに関する英語表現」という8つのMenu で詳細にご紹介させていただきました。
「身体診察」に関しては、「循環器の身体診察に関する英語表現」「呼吸器と腹部の身体診察に関する英語表現」「脳神経に関する英語表現」という3つの身体診察をご紹介させていただきました。
「口頭発表」に関しては、「英語での症例プレゼンテーション:基礎編」をご紹介させていただきました。こちらに関しては今後「中級編」と「応用編」もご紹介する予定です。
そして Post CC OSCE の対象となる「35の症候」のうち、これまでに「胸痛」「腹痛」「頭痛」「けいれん」「関節痛」「動悸」「もの忘れ」という7つの症候に関する英語表現をご紹介させていただきました。今後は残りの症候を全て網羅したいと考えています。
この他にも読者の方々から「手術前の診察・手術中に使う表現」「耳鼻科・呼吸器科の診療時の英単語」「胸部レントゲン写真の所見など、画像診断に関連した医療英語」「妊婦さんとの英会話表現」など、多数のご要望をいただいております。
こういった読者の皆様のご要望にも上手く応えながら、連載4年目も皆さんに役立つ「医学英語カフェ」にしていきたいと考えております。これからも応援していただけると嬉しいです。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回最初にご紹介した「医師国家試験英語問題の対策」と「医学英語勉強会のやり方」をもう一度まとめておきます。
医師国家試験英語問題の対策
下記の5つの語彙を身につける
1. 診療科の英語表現
2. 医療職の英語表現
3. 身体の英語名:解剖用語は日本語に加えて英語でも覚える
4. 疾患の英語名:疾患名は英語でも覚える
5. 症状・兆候(所見)の英語表現:一般英語と医学英語の両方を覚える
医学英語勉強会のやり方
1. First Aid for the USMLE Step 2 CS のSection 4: Practical Cases を教材に
する
2. 担当者がPractical Cases の中から一つの Patient Noteを選び、それを読み上
げる
3. 必要に応じて Patient Noteをスライドなどで提示する
4. Patient Noteにある英語表現を全員で確認する
5. 参加者が Patient Note で提示された症例の鑑別疾患と必要な検査を考える
6. 担当者が教材にある鑑別疾患と必要な検査を提示する(「答え合わせ」をする)
7. 教員が参加している場合、教員の背景に応じたフィードバックを与える
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之