こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「血液に関する英語表現」。
「貧血」は患者さんが訴える「症状」ではなく、血液検査で判定できる「病態」であり、医学教育モデル・コア・カリキュラムにある習得すべき37の症候の1つとして定められています。その診断には「血液検査」が必須ですが、この医学英語カフェではこれまで血液や血液検査に関する英語表現はあまり扱ってきませんでした。
そこで今月は貧血の鑑別も含めて「血液に関する英語表現」をご紹介したいと思います。
blue blood ってどんな血?知っておきたい blood を使った慣用表現
日本語にも「血の気が多い」や「血も涙もない」など、「血」を使った様々な慣用表現がありますが、英語の blood にも数多くの idioms が存在します。
Sylvester Stallone の代表作として名高い 「 ランボー」 という映画ですが、この映画の英語のタイトルを皆さんはご存知ですか?「え? “Rambo” じゃないの?」と思った方も多いことでしょう。実はこの映画の英語タイトルは “ First Blood” というものです。劇中の Rambo のセリフに “They drew first blood.”「あいつらが先に手を出したんだ。」というものがありますが、 draw blood には「流血させる/怪我をさせる/採血する」というイメージが、そして draw first blood には「最初に流血させる/先に手を出す/先に痛手を負わせる/(戦いやスポーツで)先制する」というイメージがあるのです。逆に英語タイトルが Rambo となっている作品が日本では「ランボー/最後の戦場 として上映されたシリーズ4作目なのですが、この映画はシリーズの中でも特に激しい銃撃戦で有名です。そしてこのような「血や内臓が飛び散る惨状」を英語では guts「腸」を使って blood and guts と表現します。ちなみにランボーの映画は全部で5作あり、順番に下記のようになっています。(「」の中は邦題です。)
1. First Blood「ランボー」
2. Rambo: First Blood Part II「ランボー/怒りの脱出」
3. Rambo III「ランボー3/怒りのアフガン」
4. Rambo「ランボー/最後の戦場」
5. Rambo: Last Blood「ランボー ラスト・ブラッド」
このように英語のタイトルは(私のような)ファンにとっても混乱する名称になっています。ただ最後が Last Blood となっており、見事な円環構造ともなっているわけです。
この他にも blood を使った idioms には様々なものがあります。
have bad blood「わだかまりがある」や in cold blood 「冷酷に」、そして new blood 「(それまでの組織にはないものを組織に持ち込む)新入り」や blood, sweats, and tears「血と汗と涙」などは日本語の発想に近くて意味もわかりやすいのですが、一見すると意味がわかりにくい idioms も存在します。
“It is like getting blood out of a stone.” は「石から血液を採取するくらい難しい = ほとんど不可能だ」という意味になりますし、 “Blood is thicker than water.” は「血は水よりも濃い = 血縁は何よりも重要だ」という意味になります。
特に “She has blue blood.” のように使われる blue blood という表現には少し説明が必要です。これは「高貴な血筋」を意味するのですが、その語源は「王家の人間は肌の色が白いので血管が青く浮かんで見える」というものです。また米国に “Blue Bloods” というタイトルのテレビドラマがあります。これは「代々ニューヨーク市警の警察官である家族の物語」なのですが、このタイトルには色々な意味が含まれています。
英語には thin red line という表現がありますが、これは戦争の最前線を少数の精鋭部隊が死守したという逸話から生まれた表現で、「(誇りを持って大勢と対峙する)少数の勇者」というイメージを持ちます。そしてこの thin red lineから「治安を維持する警察や(主に白人の)警察官」を意味する thin blue line という表現が生まれました。皆さんご存知の “Black Lives Matter” という運動に対して、米国では「(白人の)警察官の命も重要だ」という “Blue Lives Matter” という運動も生まれました。つまりblue という単語には「(主に白人の)警察官」というイメージもあるのです。ですから先ほどの “Blue Bloods” というドラマのタイトルには「代々誇りを持って警察官という仕事に就いている白人名家の物語」のような意味が含まれているのです。
ご想像頂けるように、この blue blood のような表現は使い方によっては microaggression 「無意識の偏見や差別で他人を傷つける行為」に繋がる可能性があり、その背景やニュアンスを正しく理解していても使い方が非常に難しい英語表現と言えます。ですからこういった表現は「意味はわかるが自分では積極的に使わない」ように心がけることをお勧めします。
「採血」や「ルート確保」の英語表現は?
では次に「採血」に関する英語を見ていきましょう。
上述したように draw blood には「流血させる/怪我をさせる」というイメージがあり、そこから「採血する」という動詞としても使われます。そして「採血」という名詞としては blood draw というものが一般英語として使われます。
これに対して病院内で手技としての「採血」として使われるのが phlebotomy です。これは phleb- 「静脈」と -tomy「切開」を組み合わせた医学英語で、米国ではこれを専門とする phlebotomist という医療職も存在します。(そしてこの phlebotomistはユーモアを持って “vampire” とも呼ばれています。)この phlebotomy とよく似た医学用語に venipuncture「静脈穿刺」というものがありますが、これは「静脈を切開してそこから採血する」phlebotomy とは異なり、単に「静脈に針を刺す」という意味になります。
採血の際には「駆血帯」が必要になりますが、これを英語では tourniquet(「タァニィキッ」のように発音)と呼びます。そして針の太さは「ゲージ」で表しますが、英語の gauge の発音は日本語に近い「ゲィジ」のようになり、英語圏では21 gauge needles がphlebotomy で最も多く使われます。(この gauge は「ガーゼ」を意味する gauze(「ゴゥズ」のように発音)とスペルが似ているので注意してください。)「翼状針」は英語では butterfly needle と呼ばれ、一般的な注射針である straight needle と区別されます。
採血から少し話は変わりますが、日本で「(静脈)ルートを取る」と呼ばれる医療行為は英語では starting an IV や starting an IV line のように表現し、route という単語は使いません。また日本の医療現場では「留置針」の表現として当たり前のように使われている「サーフロー」ですが、これは英語では cannula となり、「(サーフロー留置針を使った)ルート確保」は IV cannulation となります。
「中心静脈カテーテル」は英語ではそのまま central venous catheter (CVC) となり、その挿入は central line placement と呼ばれます。日本では「中心静脈栄養」を intravenous hyperalimentation (IVH) と呼んでいる医療機関もあるようですが、この IVH という表現は英語圏では全く通用しません。(英語で IVH と言えば intraventricular hemorrhage「脳室内出血」となります。)英語では「中心静脈栄養」は total parenteral nutrition (TPN) と表現します。この parenteral とは para-: besides と enteral: intestine からなる用語であり、「経口以外の」を意味します。
これらは全て英語圏の臨床現場では誰もが知っている「基本的な英語表現」となっていますので、知らなかった方はこれを機会にしっかりと覚えておいてくださいね。
crit って何のこと?知っておきたい血液検査の英語表現
では次に「血液検査」の英語表現を見ていきましょう。
「血液検査」の英語表現としては blood test の他にも、先ほど紹介した blood draw や blood work のようなものがあります。
「血液培養」は blood culture となり、「血液塗沫標本」は blood smear となります。ただこの smear の発音は日本語の「スメア」と異なり、「スミィア」のようになるので注意してください。
貧血の診断で重要となる「全血球計算/血算」は、米国では complete blood count (CBC) と、そして英国では full blood count (FBC) と呼ばれます。
米国の病院では CBC のような lab values を視覚的にわかりやすく伝えるために、それぞれの検査結果を「魚の骨」のような表を使って提示する fishbones/lab value skeletons という提示方法があります。CBC では white blood cells, hemoglobin, hematocrit, and platelets という4項目をこちらのように提示します。この fishbones にはこれ以外にも sodium, potassium, chloride, bicarbonate, blood urea nitrogen, creatinine, and blood glucose の7項目を提示する chem-7 や、total/direct bilirubin, AST, ALT, and ALK phosphate という5項目を提示する liver panel などがありますので、興味のある方はこちらの動画をご覧ください。
貧血ではこのCBC の中でも hemoglobin (Hgb) と hematocrit (Hct) が重要になりますが、このうち hematocrit は採血した血液を centrifuge「遠心分離」し、沈殿した赤血球が血液全体のうちどのくらいの体積を占めるのかを表すわけですから、 packed-cell volume (PCV) とも呼ばれています。そしてこの hematocrit は臨床現場では短縮して crit とも呼ばれます。日本では「ヘマト」と前の部分が残るのに対し、英語では後の crit の部分が残るわけです。
koilonychia? cheilosis? 知っておきたい鉄欠乏性貧血の所見
ではここから「貧血」に関する英語表現を見ていきましょう。
日本では「貧血」の英語は anemia で認識されていますが、これは米国でのスペルです。英国では anaemia となりますので注意してください。
皆さんご存知の通り、この anemia/anaemia は hemoglobin の低下が定義となるのですが、日本語で「貧血っぽい」のように症状として使うのと同様に、英語でも “I feel anemic/anaemic.” のように症状としても使われます。つまりこの anemic とは、全ての貧血に共通した症状である fatigue/low energy や dizziness /lightheadedness などが存在することを意味するわけです。
この anemia の診断においては CBC に含まれる mean corpuscular volume (MCV) という検査が重要になります。この corpuscular とは「バラバラの小さな細胞 = 血球やリンパ球」というイメージの単語ですので、MCV とは「平均的な赤血球の大きさ」を意味します。そして皆さんご存知のように、この MCV によって anemia は下記の3つに分類されます。
MCV < 80 fL or μmm3: microcytic anemia「小球性貧血」
MCV 80-100 fL or μmm3: normocytic anemia「正球性貧血」
MCV > 100 fL or μmm3: macrocytic anemia「大球性貧血」
ちなみに MCV の単位である fL は femtoliters と、そして μmm3 は micro cubic millimeters と読みます。
これらの anemia の中で最も多いのが microcytic anemia である iron deficiency anemia「鉄欠乏性貧血」です。そしてこの iron deficiency anemia では下記のような身体診察所見が現れます。
• conjunctival pallor「眼瞼結膜蒼白(これは貧血全般に認められる所見)」
• koilonychia/spoon nails「匙(さじ)状爪」
• glossitis「舌炎」
• cheilosis/angular cheilitis「口角症・口角炎」
この中でも koilonychia と cheilosis/cheilitis という英語表現は、日本の医学生にはあまり認知されていないので、これを機会に是非覚えておいてくださいね。
一度覚えたら絶対に忘れない!Dr. 押味式 ビタミンの覚え方
ここでは貧血の鑑別疾患について全て述べることはしませんが、最後に macrocytic anemia の一つであるmegaloblastic anemia「巨赤芽球性貧血」について少し説明しましょう。
これは vitamin B9 である folate/folic acid「葉酸」もしくは vitamin B12 である cobalamin「コバラミン」が不足、もしくは吸収できないことによって生じる貧血でしたね。
この vitamin B9 とB12は DNA synthesis に必要なため、不足すると red blood cell macrocytosis が生じて megaloblastic anemia を生じるだけでなく、hyper-segmented neutrophils「過分葉好中球」も生じます。
vitamin B9 は vitamin B12 と共に homocysteine をmethionine に変換する際に必要になるので、vitamin B9 が不足するとhomocysteine が上昇しますが、vitamin B12 はこれ以外にも methylmalonyl-CoA をsuccinyl-CoA に変換する際に必要なので、vitamin B12 が不足すると homocysteine の他にも methylmalonyl-CoA の前駆体である methylmalonic acid が上昇します。そしてこの vitamin B12 の不足は neurological symptoms も引き起こします。
このように vitamin B9 と B12の不足は臨床的にも極めて重要なのですが、皆さんはそもそも全てのビタミンを覚えていますか?
vitamin は米国では「ヴァイタミン」のように発音しますが、英国では日本語の「ビタミン」に近い「ヴィタミン」のように発音します。ここでは私が大学でいつも学生さんに教えている 13 の vitamins の覚え方をご紹介します。
まず vitamin は fat/lipid soluble vitamins「脂溶性ビタミン」と water soluble vitamins「水溶性ビタミン」に分かれます。そしてこの fat soluble vitamins は皆さんもよく使っている「これだけ」を意味する DAKE、つまり vitamin D, A, K, and E で覚えます。そして water soluble vitamin に B とC の2種類があるですが、Bは複数あるため、この B を覚えるのに皆さん苦労していると思います。
私が紹介しているvitamin Bの覚え方は「B は数字の 8 に似ていて、全部で8個あります。1, 2, 3 と来て4はなく、5, 6, 7 と来て8 はありません。9と12は力技で覚えましょう。」というものです。イメージで示すとこちらのようになります。個人的にはこれで13個のvitaminを忘れたことはありませんし、これまで教えてきた学生さんからも好評を頂いております。一度覚えてしまえば忘れにくい覚え方だと思いますので、是非皆さんもお試しください。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。
最後に First Aid for USMLE Step 1 で紹介されている anemia の主な鑑別疾患を私なりにまとめたものをご紹介します。Post CC OSCE の際の参考にしてください。
• Microcytic anemia
o Iron deficiency anemia
o Anemia of chronic disease
o Sideroblastic anemia
o Lead poisoning
o Thalassemia
• Normocytic anemia
o Hemolytic anemia
■ Intrinsic hemolytic anemia
・ Hereditary spherocytosis
・ Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria
・ Sickle cell anemia
■ Extrinsic hemolytic anemia
・ Autoimmune
・ Microangiopathic hemolytic anemia
・ Macroangiopathic hemolytic anemia
・ Infections
o Non-hemolytic anemia
■ Aplastic anemia
■ Chronic kidney disease
• Macrocytic anemia
o Megaloblastic anemia
■ Folate (B9) deficiency
■ B12 deficiency/pernicious anemia
o Non-megaloblastic anemia
■ Liver disease
■ Alcoholism
■ Diamond-Blackfan anemia
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 准教授 押味 貴之