Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 52 失神に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「失神に関する英語表現」。

失神」の医学英語は syncope ですが、この発音は「ンコゥプ」のようなものではなく、「ンコピィ」のようになります。ただその厳密な定義は loss of consciousness のような単純なものではありません。またその鑑別を考える際には「めまい」と「けいれん」との関係も正しく理解しておく必要があります。

そこで今月は「失神」に関する英語表現と、その診断をどのように考えていけば良いかを簡単にご紹介します。

意外と難しい?「失神」の定義
まずは「失神」の定義から見ていきましょう。

上述したように「失神」の医学英語は syncope であり、その発音は「ンコピィ」のようになります。その定義を loss of consciousness や fainting と思っている方も多いと思います。その定義が間違っているわけではないのですが、syncope の鑑別疾患を考える場合、もう少し解像度の高い定義が必要となります。

意識を失う」ことを「意識消失」と言い、英語では loss of consciousness (LOC) と言います。そしてこの LOC は一般的には faintingpassing out のように表現されます。

この LOC がそのまま継続してしまうと「昏睡coma となってしまいますが、突然発症した LOC が自発的に回復する場合、それを transient loss of consciousness (TLOC) と呼びます。つまり TLOC の定義は abrupt LOC with spontaneous recovery となるのです。

では「失神syncope の定義は何かと言うと、TLOC due to global cerebral hypoperfusion脳への血流が全般的に低下することで生じる TLOC」となるのです。つまり「何らかの原因で脳全体への血流が少なくなることで起こる突然の意識消失で、何もしなくても意識が戻るもの」が syncope の解像度の高い定義なのです。

そしてこの syncope の前には、 lightheadednessdiaphoresis といった prodrome symptoms前駆症状」が現れます。

この lightheadedness とは「頭がフラフラする感覚」という意味の表現で、dizziness「めまい」の一種です。そしてこの lightheadedness は syncope の前に現れることが多いので pre-syncope とも呼ばれます。ただ dizziness にはこの lightheadedness 以外にも、「回転性めまい」である vertigo や「平衡障害」である disequilibrium、そして非特異的な non-specific dizziness という分類があります。ですから患者さんが dizziness を訴える場合、その鑑別として syncope も重要になるのです。

そして prodrome symptoms の1つである diaphoresis は、 abnormal sweating発汗過多」という意味で、これが後に紹介する seizures との鑑別で極めて重要となります。

以上をまとめると syncope とは abrupt loss of consciousness with spontaneous recovery due to global cerebral hypoperfusion であり、意識を失う前に lightheadednessdiaphoresis などの prodrome symptoms が現れるということになります。

どう考えればいい?syncope の鑑別疾患
では syncope の診断はどのように考えれば良いのでしょう?

症状として患者さんは passing out や fainting のように表現しますが、まずそれが trauma外傷」によるものかということを尋ねましょう。そして患者さんの passing out/fainting がnon-traumatic transient loss of consciousness (TLOC) であるということを確認します。

この non-traumatic TLOC の原因としては、下記のように分類して考えると Post CC OSCE などで実用的だと思います。

Causes of Non-Traumatic Transient Loss of Consciousness (TLOC)
  Red Flags (Stroke/Meningitis/Intoxication/Metabolic Conditions)
  Syncope
  o Cardiogenic Syncope
     Arrhythmia-Related Syncope/Adam-Stokes Syndrome
     Structural Cardiogenic Syncope
        Aortic Stenosis (AS)
        Aortic Dissection
        Pulmonary Embolism (PE)
        Hypertrophic Cardiomyopathy (HCM)
  o Reflex Syncope
     Vasovagal Syncope
     Situational Syncope
     Carotid Sinus Syncope
  o Orthostatic Syncope
     Medications
      (Antihypertensives/Antidepressants/Antipsychotics0
     Autonomic Failure (Aging/Diabetes/Parkinson’s/Multiple Sclerosis)
  Seizures
  Psychogenic Pseudo-Syncope

「失神」を含めて神経症状に関しては、それがどんなものでも下記の4つの red flags危険な疾患」を考えることをお勧めします。
  Stroke 「脳卒中」
  Meningitis 「髄膜炎」
  Intoxication「(薬物やアルコールなどの)中毒」
  Metabolic conditions「代謝性疾患」

これらはどれも生命に関わる危険なものですので、まずはこれらを除外するという習慣を身につけましょう。特に metabolic conditions では hypoglycemia低血糖」が頻度も高い危険な病態ですので、必ず想定できるように習慣づけましょう。もちろんこれらによって引き起こされる loss of consciousness (LOC) は、定義上 syncope とはならないのですが、救急外来などの history taking では、患者さんの LOC が syncope であるかどうかを確認する作業も必要です。ですから最初は上記4つの red flags も想定して、これらを確実に除外するという意識を持つと良いでしょう。

TLOC が global cerebral hypoperfusion による syncope と考えられる場合、その種類として下記の3つを考えましょう。

  Cardiogenic syncope心原性失神
  Reflex syncope反射性失神
  Orthostatic syncope起立性失神起立性低血圧による失神)」

特に syncope との鑑別で極めて重要になるのが seizuresてんかん発作」です。また conversion disorders転換性障害」などによる psychogenic pseudo-syncope心因性擬似失神」も TLOC の原因として忘れてはいけません。

TLOC を訴える患者さんを診察する場合、まずは上記のような鑑別疾患を考え、TLOC の onset, before the onset, and after the onset に関して詳細な情報が得られるように open-ended questions を使って尋ねるように心がけてください。

Adam-Stokes syndrome って何だっけ?
ではここから syncope の3つの種類を詳しく見ていきましょう。

syncope の種類としてまず考えなければならないのが cardiogenic syncope心原性失神」です。というのもこの cardiogenic syncope には生命に関わるような重篤な疾患が含まれるからです。

そしてこの cardiogenic syncope には arrhythmia不整脈」によって起こる arrhythmia-related syncope の他、aortic stenosis大動脈弁狭窄症」や aortic dissection「大動脈解離」など、構造の問題によって起こる structural cardiogenic syncope があります。このうち arrhythmia-related syncope のことを Adam-Stokes syndrome と表現するのですが、語順が入れ替わった Stokes-Adam syndrome と表現する場合もあります。

Situational syncope でよく聞く micturition ってどういう意味?
次に syncope の種類として考えるのが、頻度の高い reflex syncope反射性失神」です。そしてこの reflex syncope には下記の3種類があります。

  Vasovagal Syncope血管迷走神経性失神
  Situational Syncope状況失神
  Carotid Sinus Syncope頸動脈洞症候群

このうち最も頻度が高いのが vasovagal syncope血管迷走神経性失神」です。きっかけとしては prolonged sitting or standing の他、emotional stress や blood draw などが代表的です。

他の2つの reflex syncope も「反射的に迷走神経が興奮することで末梢血管が拡張して血圧が下がり、脳への血流が低下する」ことに違いはないのですが、病態生理に特徴があるので vasovagal syncope とは区別された名称がついています。

ある状況や動作によって迷走神経が興奮して失神するものを situational syncope状況失神」と呼びます。そのきっかけとしては coughing や sneezing の他、micturition や defecation での straining が代表的です。この straining とは「力を入れること」であり、micturition は「排尿」、そして defecation は「排便」を意味します。どちらも situational syncope に関する semantic qualifiers特定の診断を示唆するキーワード」としてよく使われるものですので、是非覚えておいてください。

そして carotid sinus頸動脈洞」を圧迫することで迷走神経が興奮して失神するものを carotid sinus syncope頸動脈洞症候群」と呼びます。これは carotid sinus が過敏になっている人に見られるので carotid sinus hypersensitivity などとも呼ばれ、そのきっかけとしては head turning や wearing tight collar などが代表的です。

薬や Parkinson病で失神するのはなぜ?
syncope の種類として3番目に考えるのが orthostatic syncope起立性失神起立性低血圧による失神)」です。我々が起立、つまり立ち上がったり座ったりする場合には脳への血流が重力で低下します。それを autonomic nervous system「自律神経」によって補正し、脳への血流を確保するのですが、この autonomic nervous system が上手く働かない autonomic failure や脱水などで血液量が少ない場合、起立時に systolic blood pressure が 20 mmHg 以上、diastolic blood pressure が 10 mmHg 以上も低下して syncope が起きます。

そのきっかけとしては antihypertensives降圧薬」や antidepressants抗うつ薬」、そして antipsychotics抗精神病薬」などの medications の他、aging/diabetes/Parkinson’s disease/multiple sclerosis などによる autonomic failure などが代表的です。

Syncope と Seizures を見分けるためにどんな質問をすればいいの?
上述したように syncope との鑑別で極めて重要になるのが seizuresてんかん発作」です。そしてこの2つの区別は難しいので、丁寧な病歴聴取が重要となります。

Menu 33 でもご紹介しましたが、Sheldonらが作成した Diagnostic Questions to Determine Whether Loss of Consciousness Is Due to Seizures or Syncope は、 syncope と seizures の鑑別を下記の9つの質問によって可能にしています。

Syncope を疑わせる項目を尋ねる質問
 • Have you ever had lightheaded spells? (Yes で -2点)
 • At times do you sweat before your spells? (Yes で -2点)
 • Is prolonged sitting or standing associated with your spells?(Yes で -2点)

Seizures を疑わせる項目を尋ねる質問
 • At times do you wake with a cut tongue after your spells?(Yes で 2点)
 • At times do you have a sense of deja vu or jamais vu before your spells?(Yesで1点)
 • At times is emotional stress associated with losing consciousness?(Yes で1点)
 • Has anyone ever noted your head turning during a spell? (Yes で1点)
 • Has anyone ever noted that you are unresponsive, have unusual posturing or have jerking limbs during your spells or have no memory of your spells afterwards? (Yes で1点)
 • Has anyone ever noted that you are confused after a spell? (Yes で1点)

先ほど prodrome symptoms の1つである diaphoresis は、 abnormal sweating発汗過多」という意味で seizures との鑑別で極めて重要となると述べましたが、spell「発作」の前に汗をかいている場合、その TLOC は syncope による可能性が高まるのです。

また deja vujamais vu はフランス語なのでわかりにくいと思いますが、前者は「見たことのないものを見たことがあるように感じる」という「既視感」を、後者は「見慣れたものを初めて見たように感じる」という「未視感」を意味します。

上記9つの項目に対する回答の合計点1点未満であれば syncope と、そして1点以上であれば seizures と考えられます。

最後に syncope の原因として psychogenic pseudo-syncope心因性擬似失神」も考えましょう。この代表的なものとして conversion disorder転換性障害」がありますが、これは不安やストレスなどが身体の症状に「転換」されてしまう心身症で、昔は原因が子宮にあると考えられたことから hysteriaヒステリー」と呼ばれていました。

以上が TLOC を訴える患者さんを前にして、どのように診断を考えれば良いかのまとめです。上記のような鑑別疾患を考え、TLOC の onset, before the onset, and after the onset に関して詳細な情報が得られるように open-ended questions を使って尋ねれば、英語の医療面接でも正しく診断がつくと思います。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に TLOC の鑑別疾患の分類リストをもう一度まとめておきます。

Causes of Non-Traumatic Transient Loss of Consciousness (TLOC)
  Red Flags (Stroke/Meningitis/Intoxication/Metabolic Conditions)
  Syncope
  o Cardiogenic Syncope
     Arrhythmia-Related Syncope/Adam-Stokes Syndrome
     Structural Cardiogenic Syncope
        Aortic Stenosis (AS)
        Aortic Dissection
        Pulmonary Embolism (PE)
        Hypertrophic Cardiomyopathy (HCM)
  o Reflex Syncope
     Vasovagal Syncope
     Situational Syncope
     Carotid Sinus Syncope
  o Orthostatic Syncope
     Medications
      (Antihypertensives/Antidepressants/Antipsychotics0
     Autonomic Failure (Aging/Diabetes/Parkinson’s/Multiple Sclerosis)
  Seizures
  Psychogenic Pseudo-Syncope

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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