こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ。
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんで頂くコーナーです。
本日のテーマは「呼吸困難に関する英語表現」です。
「Menu 59: 咳と痰に関する英語表現」では cough & sputum に関する英語表現をご紹介しましたが、「呼吸困難」も日常診療で非常に頻繁に遭遇する症状であり、 Post-Clinical-Clerkship OSCE においても重要な症状の一つです。しかし実際の臨床では、short of breath や breathless といった日常的な言い回しに加えて、 gasping や air hunger など、日本の医療者にはあまり馴染みのない英語表現が使われることも少なくありません。
そこで今月は実際の臨床現場で対応できるように、「呼吸困難に関する英語表現」を基礎からじっくりとご紹介したいと思います。
breath と breathing の違いは?
まずは「呼吸」に関する基本的な英語表現から確認していきましょう。皆さんは breath と breathing の違いを説明できますか?
breath は「一回の呼吸」、つまり「ひと呼吸」という単位を表す可算名詞です。一方で breathing は、breathe という動詞から派生した不可算名詞で、「呼吸という動作そのもの」や「呼吸の仕方・様式」を表します。ですから海外でも人気の高い「鬼滅の刃」Demon Slayer に登場する「日の呼吸」や「蛇の呼吸」の英語表現には、Sun Breath や Serpent Breath ではなく、Sun Breathing や Serpent Breathing のように breathing が使われています。breath と breathing は混同されやすいので、その違いをまずはしっかりと押さえておきましょう。
では次に、この breath を使った表現を見ていきましょう。
映画 Top Gun の挿入歌として有名な “Take My Breath Away” は、「私の息を奪う」、つまり「息をのむほど心を奪われる」という意味で使われています。また、 The Police の “Every Breath You Take” も広く知られた楽曲ですが、こちらは甘いラブソングというよりも、「君の一つ一つの呼吸を見ているよ = (ストーカーのように)お前を見張り続けるぜ」というニュアンスを含んだ少し不穏な内容です。いずれのタイトルからも、breath が take という動詞とともに使われることが多いことがわかります。
そしてこの知識は臨床現場でもそのまま役立ちます。たとえば「胸部レントゲン」 chest X-ray の撮影時には、“Please take a deep breath. Hold it. Now relax.” という声かけが定型表現として用いられます。
ここの hold your breath は「息を止める」という意味で使われていますが、日常会話では「固唾をのんで待つ」「期待して待つ」というニュアンスにもなり、“Don’t hold your breath. He never shows up on time.” のように使われます。
また catch one’s breath は「息を整える」という意味で、 “Give me a second to catch my breath.” のように使われます。また、日本語の「無駄骨を折る」に近い表現として waste one’s breath というものがあり、“You’re wasting your breath trying to convince him.” のように使われます。その反対の表現が save one’s breath「どうせ無駄だからやめておく」というもので、“Save your breath. She’s already made up her mind.” のように使われます。
このように、breath という名詞には、 take, hold, catch, waste, and save といった動詞が使われます。まずはこれらをしっかりと区別して使えるようにしておきましょう。
gasp と pant の違いは?
では次に異常な breathing について見ていきましょう。
まずは gasp と pant という2つの動詞を確認しましょう。
gasp は「空気を求めて急激に息を吸い込む」というイメージの動詞で、gasping for air のようにも表現されます。そして救急救命室で gasping と聞けば、それは agonal breathing を意味します。これは「苦しい戦いに伴う呼吸」というイメージの表現で、日本語では「死と戦う時期に現れる呼吸」という意味で「死戦期呼吸」と呼ばれます。そしてこの agonal breathing は、しばしば snoring「いびき」のように息を吸い込む音に聞こえます。しかし実際にはこれは正常な呼吸ではなく、心停止前後に見られる極めて重篤な状態を示唆します。ですからこの gasping は、 CPR のような緊急対応が必要なサインとして認識することが重要です。
これに対して pant は「速く浅い呼吸を繰り返す」というイメージの動詞です。運動や発熱時の呼吸を表現する際によく使われ、panting for breath のようにも表現されます。pant 自体にも「呼吸する」という意味があるにも関わらず、なぜ pant for breath という表現が使われるのかというと、ここでの breath は「一回一回の呼吸」を指し、乱れた呼吸の中でその breath を取り戻そうと速く呼吸するというイメージになるために panting for breath という表現になるのです。
成人の respiratory rate の正常値は 12-20/min ですが、12未満の slow breathing を bradypnea「徐呼吸」と、そして20以上の fast (rapid) breathing を tachypnea「頻呼吸」と呼びます。前者は「ブラディプニーア」と、そして後者は「タキプニーア」のように発音します。ただ呼吸が止まる apnea「無呼吸」の発音は「アプニーア」のようにアクセントが最初に来るので注意してください。
この tachypnea や bradypnea とよく混同されるのが、hyperventilation「過換気」と hypoventilation「低換気」です。tachypnea と bradypnea は respiratory rate の増減を指すのに対し、hyperventilation と hypoventilation は ventilation、すなわち肺胞換気の過不足を指します。したがって呼吸が速くても換気が過剰でなければ hyperventilation とは言えませんし、逆に呼吸数が正常でも換気が不足していれば hypoventilation と評価されます。
そして breathing の異常として有名なものに Kussmaul breathing と Cheyne-Stokes breathing があります。
Kussmaul breathing は、deep and fast breathing that stays steady and does not stop というもので、metabolic acidosis「代謝性アシドーシス」、とくに diabetic ketoacidosis (DKA)「糖尿病性ケトアシドーシス」で認められます。これは metabolic acidosis を hyperventilation「過換気」による respiratory alkalosis「呼吸性アルカローシス」で代償しようとする反応と言えます。
これに対して Cheyne-Stokes breathing は、breathing that gets deeper, then shallower, with short pauses in between というもので、心不全や中枢神経系などで delayed feedback in the respiratory control system が生じる場合に認められます。
この他にも Biot’s breathing と呼ばれる irregular breathing with unpredictable pauses というパターンもあります。これは延髄の障害などで見られ、呼吸中枢の調節が破綻することで不規則な呼吸と無呼吸が繰り返されるものです。無呼吸の結果、CO₂ が体内に蓄積して hypercapnia「高二酸化炭素血症」となり、これに対する脳幹の反射として呼吸が再開される、というのが特徴です。
「呼吸困難」の英語表現は?
ではここからいよいよ「呼吸困難」に関する英語表現を見ていきましょう。
「呼吸困難」の医学英語は dyspnea です。「ディスプニーア」のように発音する方が多数派なのですが、p の音を弱くして「ディスニーア」のように発音される方もいます。どちらも英語圏の臨床現場では自然に通じますので、あまり神経質になる必要はありません。
この「呼吸困難」を一般の患者さんは「息切れ」と表現しますが、英語では shortness of breath と表現します。英語圏のカルテでは SOB と略されることもあります。ただこの SOB は日常会話では son of a bitch の略として使われる swear word / curse word にもなるため、患者さんの前では使わないように注意してください。
この shortness of breath の有無を確認する際には、“Do you have shortness of breath?” のように名詞を使って表現するよりも、 “Are you feeling short of breath?” のように形容詞を使って表現する方が自然です。
この他にも「息が切れる」という動詞表現としては get out of breath がよく使われます。これを使って「労作時の息切れ」を尋ねたい場合、 “Do you get out of breath when you exercise?” と言うと「しっかりとした運動をする場合」という意味になりますので、「日常動作を含めて身体に負荷がかかる場合」という意味の “Do you get out of breath when you exert yourself?” という表現の方が、「労作時」という意味を正しく反映します。
さらに「息切れしている状態」は、breathless を用いて、 “I feel breathless.” や “I have breathlessness.” のように表現されます。英語の楽曲には Breathless というタイトルのものがありますが、当然こちらは医学的な「息切れ」ではなく、「息をのむほど夢中になっている」というロマンティックな意味で使われています。
左心不全などで生じる orthopnea「起坐呼吸」ですが、この発音は「オーソプニーア」のようになります。この有無を尋ねる際には “Do you feel short of breath when you lie flat?” や “Do you need extra pillows to sleep?” のような質問をすると良いでしょう。
Dyspnea の鑑別疾患は?
ではそもそも dyspnea「呼吸困難」とは何なのでしょう?
Dyspnea は a subjective experience of breathing discomfort と定義されます。
そしてその本質は、脳が感じる respiratory demand と actual ventilation とのミスマッチにあります。つまり、脳が必要としている呼吸の需要と、実際に肺や呼吸筋によって行われている換気との間にズレが生じると、患者さんは dyspnea を感じるのです。
このミスマッチの原因は、大きく下記の2つに分けて考えると理解しやすくなります。
1つ目は、血液ガスの異常による air hunger です。hypoxemia「低酸素血症」や hypercapnia「高二酸化炭素血症」が生じると、脳は「空気が足りない」という強い感覚、すなわち air hunger が引き起こされます。これがまさに gasping for air と表現されるような切迫した呼吸困難です。
もう1つは、work of breathing が増加している状態です。気道抵抗の上昇や肺コンプライアンスの低下などにより、呼吸そのものに大きな力が必要になると、患者さんは「呼吸に努力が必要だ」と感じます。これが work of breathing を増大し、 effortful breathing とも表現される呼吸困難を引き起こします。
以上を理解した上で、dyspnea の鑑別疾患を考えていきましょう。
まず全体像として押さえておきたいのは、呼吸困難の原因の約85%は pulmonary「肺」または cardiac「心臓」の疾患に由来するという点です。
dyspnea は、その経過から acute「1か月未満」と chronic「1か月以上」に分けて考えることが重要です。そのうえで、pulmonary と cardiac の代表的な疾患を、acute と chronic に分けて整理しておくと、鑑別が楽になります。
Acute (<1 month) pulmonary
- • Pulmonary embolism「肺塞栓症」
- • Pneumonia「肺炎」
- • Asthma exacerbation「喘息の増悪」
Chronic (>1 month) pulmonary
- • Chronic obstructive pulmonary disease (COPD)「慢性閉塞性肺疾患」
- • Asthma「喘息」
- • Interstitial lung disease (ILD)「間質性肺疾患」
Acute (<1 month) cardiac
- • Acute coronary syndrome「急性冠動脈疾患」
- • Acute heart failure「急性心不全」
- • Arrhythmia「不整脈」
Chronic (>1 month) cardiac
- • Chronic heart failure「慢性心不全」
- • Valvular disease「心弁膜症」
pneumonia などが悪化して急激に呼吸が困難になると、acute respiratory distress syndrome「急性呼吸窮迫症候群」と呼ばれますし、congestive heart failure (CHF)「うっ血性心不全」が悪化し、それまで保たれていた循環バランスが崩れて、治療なしでは元に戻れない状態になると acute decompensated heart failure (ADHF)「急性非代償性心不全」と呼ばれます。
そして残りの約15%には、肺・心臓以外の下記のような原因が含まれます。
Air Hunger
- • Anxiety
- • Anemia
- • Acidosis
Increased work of breathing (effortful breathing)
- • Deconditioning
- • Upper airway obstruction
- • Neuromuscular disorders
Air hunger に関連する疾患としては、anxiety, anemia, and acidosis などがあります。Anxiety としては急性の panic attack や、慢性の anxiety-related dyspnea があります。
そして work of breathing に関連する疾患としては、deconditioning, upper airway obstruction, and neuromuscular disorders などがあります。
Deconditioning とは「使わないことで機能が低下した状態」のことであり、長期間の安静や退院後、そして運動不足などで起こります。upper airway obstruction では特に吸気が困難になるため、吸気時に inspiratory stridor と呼ばれる高調で大きな呼吸音が聴取されます。そして neuromuscular disorders では呼吸筋そのものが十分に働かなくなり、換気が障害されます。代表的な疾患としては、Guillain-Barré syndrome (GBS)「ギラン・バレー症候群」、multiple sclerosis (MS)「多発性硬化症」、Lambert-Eaton myasthenic syndrome (LEMS)「ランバート・イートン筋無力症候群」、amyotrophic lateral sclerosis (ALS)「筋萎縮性側索硬化症」などが挙げられます。
なぜ pulse oximetry では in room air ではなく on room air と言うの?
では最後に、dyspnea を訴える患者さんに対する physical examination「身体診察」を見ていきましょう。
本来であれば head-to-toe physical examination が必要なのですが、Post-CC OSCE などでは時間が限られているため、これら全てを行うことは実際には難しいと思います。ただ COPD は身体診察だけでかなりの情報を得ることができます。是非こちらの動画を見て、特徴的な所見を押さえておいてください。
dyspnea に対しては、少なくとも下記の項目だけは最低限の focused exam として必ず行うようにしましょう。
Focused Exam for Dyspnea
- • Pulse Oximetry
- • Jugular Venous Distention
- • Lung Auscultation
- • Heart Auscultation
- • Lower Extremity Edema
詳細はそれぞれのリンク先をご確認頂くとして、ここでは dyspnea の診察として絶対に忘れてはいけない項目である pulse oximetry を見ていきましょう。
まず混同しやすいのが、pulse oximetry と pulse oximeter の違いです。 -metry は「測定」を、そして -meter は「測定する道具」を意味します。つまり pulse oximetry は「脈拍と酸素を測定するという行為」を指すのに対し、pulse oximeter は「脈拍と酸素を測定する機器」を指すのです。
この pulse oximetry で測定できるのは主に次の2つです。
Pulse rate「脈拍数」60-100 /min
Peripheral capillary oxygen saturation (SpO₂)「経皮的動脈血酸素飽和度」95%-100%
よく “SpO₂ is 98% on room air.” という表現をよく目にしますが、このとき、なぜ in room air ではなく on room air という表現を使うのでしょうか。
これは on に「〜という条件下で」という意味が含まれているためです。
この「〜という条件下で」の on は、通常下記のように使います。
- • SpO₂ is 98% on oxygen
- • SpO₂ is 98% on 2L nasal cannula
- • SpO₂ is 98% on face mask
- • SpO₂ is 98% on ventilator
- • SpO₂ is 98% on CPAP
つまり「酸素投与なし = 室内気という条件で」というニュアンスになるため、on room air という表現になるのです。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に dyspnea の鑑別疾患をもう一度まとめておきます。
Causes of Dyspnea
85%: Pulmonary & Cardiac
Acute (<1 month) pulmonary
- • Pulmonary embolism
- • Pneumonia
- • Asthma exacerbation
Chronic (>1 month) pulmonary
- • Chronic obstructive pulmonary disease (COPD)
- • Asthma
- • Interstitial lung disease (ILD)
Acute (<1 month) cardiac
- • Acute coronary syndrome
- • Acute heart failure
- • Arrhythmia
Chronic (>1 month) cardiac
- • Chronic heart failure
- • Valvular disease
15%: Miscellaneous
Air Hunger
- • Anxiety
- • Anemia
- • Acidosis
Increased work of breathing (effortful breathing)
- • Deconditioning
- • Upper airway obstruction
- • Neuromuscular disorders
ではまたのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では、読者の皆さまがこの連載で取り上げてほしい医学英語のトピックを募集しています。こちらのリンクよりご希望のトピックを自由に記載してお送りください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
押味 貴之


