こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「手と足に関する英語表現」です。
2024年の初夏は「手足口病」hand-foot-and-mouth disease が流行しましたが、「手」や「足」の病気やその英語名となると、咄嗟に思いつかないという方も多いのではないのでしょうか?また手や足には医療現場でも使われる慣用表現も多く、それらを正しく知っておかないと困る場面もあることでしょう。
そこで今月は「手と足に関する英語表現」をいくつかご紹介します。
“I’m all thumbs.” ってどういう意味?
まずは「手」hand の表現から見ていきましょう。
皆さんご存知の通り hand は「手首」wrist と「手掌(手の平)」palm、そして「手指(手の指)」fingers から成り立ちます。そして手の平の裏である「手の甲」は back of the hand のように表現します。
手首の動きである「回内」と「回外」は、英語ではそれぞれ pronation と supination となります。英語ではうつ伏せの「伏臥位」を prone position と、仰向けの「仰臥位」を supine position と言います。ですから palm を prone position にする「回内」は pronation と、palm を supine position にする「回外」は supination となるのです。
野球や鉄棒などをしていると手の平に「タコ = 胼胝(べんち)」ができる場合がありますが、これを英語では calluses(「カルシィス」のように発音)と呼びます。これに対して指などにできる「マメ = 水ぶくれ」は blisters と呼びます。
ただ fingers の名称には注意が必要です。私は毎年1年生の医学英語の授業内で下記のようなクイズを尋ねていますが、皆さんはすぐに答えられますか?
“Now I’m going to give you an English quiz. How many fingers do you have on one hand?”
いかがでしょうか?答えを見る前にまずは手の指の英語の名称を確認しましょう。
親指:thumb
人差し指:index/first finger
中指:middle/second finger
薬指:ring/third finger
小指:little/fourth finger or pinky
これは English quiz ですので、親指の thumb は finger とは数えません。ですからこの quiz の答えは “four fingers” となるのです。(もちろんこれは「屁理屈」ですので、一般的に “How many fingers do we have on one hand?” と聞かれれば、英語圏でも普通は “five fingers” と答えます。)
この thumb を使った慣用表現としては rule of thumb というものをまずは覚えておきましょう。これは「親指の法則」、つまり親指を使って長さを測るような「大雑把な経験則」を意味し、 “As a rule of thumb, I recommend drinking at least eight glasses of water a day to stay hydrated.” のように “As a rule of thumb”「一般的に言うと」という形式で使われます。
また all thumbs という慣用表現もよく使われます。これは「全ての指が親指 = 不器用」という意味になり、 “Sorry, I’m all thumbs today; let me try that again.” のように使われます。
必ずしも不器用という意味ではないのですが、「つかんでいる物をよく落とす」場合には butterfingers「バターがついた指 = 滑って物をよく落とす指」という表現が使われます。ですからうっかり物を落としてしまった場合には、 “Oops, I’ve got butterfingers today.” のように表現できるのです。
そしてこれら「手の指」と、後述する「足の指」toes を総称して digits と呼びます。日本語にもなっている「デジタル」は英語では digital となりますが、この本来の意味は「指の」というもので、そこから「指で数える数字」、そして「0と1で置き換えられる情報」のような意味で使われるようになりました。ただ医療現場で “Let’s perform a digital.” と言われたら、それは digital rectal examination (DRE)「直腸指診」の意味になるのでご注意を。
ちなみに「手の指の爪」は単に nail と呼ばれる他、「親指の爪」は thumbnail と、「母指以外の指の爪」は fingernail と呼ばれます。今ではすっかり日本語となった「サムネ」も、元々は「thumbnail のように小さな画像」という意味なのです。
MCP? PIP? DIP? これらは何の略か正しく言えますか?
では、このhand をもう少し医学的な側面から見ていきましょう。
wrist を構成する骨は「手根骨」carpals であり、片方の手首に8つあります。この8つの carpals の英語での覚え方はこちらに詳しく紹介してありますのでご確認ください。
palm を構成する骨は「中手骨」ですが、これは carpals から見て遠位にあるので metacarpals と呼ばれます。これらは5本の指に繋がるので片方の手に5つあります。
thumb & fingers を構成する骨は「指骨」phalanges となります。これらは thumb には2つ、そして4つの fingers にはそれぞれ3つずつありますので、片方の手に14個あります。
これらの骨が手の関節を構成していますが、それぞれの関節名はそれを構成する骨の名前の組み合わせとなっています。
metacarpal と phalange の間にある関節は metacarpophalangeal (MCP) joint となり、一般的には knuckle と呼ばれます。
phalanges の間の関節は interphalangeal (IP) joint となり、2つの phalanges しかない thumb にはこの IP joint しかありません。
これに対して4つの fingers にはそれぞれ2つの IP joints があり、近位の IP joint は proximal interphalangeal (PIP) joint と、遠位の IP joint は distal interphalangeal (DIP) joint と呼ばれます。
「関節軟骨」 articular cartilage が「擦り減る」 wear & tear することで生じる「変形性関節症」osteoarthritis (OA) では、これら2つの IP joints に「結節」nodes が生じますが、PIP joint に生じるものを Bouchard’s nodes「ブシャール結節」と、そして DIP joint に生じるものを Heberden’s nodes「へバーデン結節」と呼んでいます。ただ英語での発音はそれぞれ「ブシャーヅ」や「ヘバデンズ(もしくは「ヘバディンズ」)」のようになり、日本のカタカタ発音とは異なるので注意が必要です。
これに対して「関節滑膜」synovium の炎症で生じる「関節リウマチ」rheumatoid arthritis (RA) では、synovium が少ないと言われる DIP joint には痛みが生じません。またこの RA では、屈曲した PIP joint の骨がその部位の腱に「ボタン穴」のような穴を開ける「ボタン穴変形」が生じます。そしてこれを英語では buttonhole deformity ではなく、boutonniere deformity と表現します。boutonniere は「(上着の襟の)ボタン穴」という意味なのですが、そこから転じて「上着の襟のボタン穴につけるアクセサリー」という意味でも使われていて、日本語でも「ブートニエール」という表現で定着しています。ただ英語ではboutonniere は「ブートニィァ」のように発音されるので注意してください。また rheumatoid arthritis の rheumatoid も「リゥマトィド」ではなく、「ルゥマトィド」のような発音となるので、こちらも注意してくださいね。
「扁平足」の医学英語は?
では次に「足」foot に関する英語表現を見ていきましょう。
「足首」ankle よりも遠位の部分を「足」foot と呼び、ankle よりも近位の部分を「脚」leg と呼びます。ただ解剖学的には leg は膝よりも遠位の部分のことであり、膝よりも近位の thigh は解剖学的な意味での leg には含まれません。ですから leg という名詞は、使われている文脈によって意味が変わる場合がありますので注意をしてください。
日本人がなかなか理解できない単位として foot/feet (ft) というものがありますが、これは欧米人の足の長さから生まれた尺度であり、1 ft = 30.48 cm となります。また、手の親指の幅から生まれた長さの尺度として inch/inches (in) というものがありますが、ft と in の間には 1 ft = 12 in という関係があります。また yard (yd) とは 3 ft = 1 yd という関係もありますので、これらの単位の関係を知らなかったという方は、これを機会に是非覚えてみてください。
英語で「足の甲」は top of the foot や instep と、そして「足の裏」は bottom of the foot や sole となります。「土踏まず」は arch of the foot ですが、「足底の」を表す plantar を使って plantar arch とも呼ばれます。そしてこの plantar arch が小さくなったものを「扁平足」flat foot/feet と呼び、逆に planter arch が大きくなったものを「ハイアーチ・凹足(おうそく)」high arch と呼びます。医学英語で pes は足を意味し、planus と cavus はそれぞれ flat と arched を意味するので、flat foot/feet は pes planus と、そして high arch は pes cavus とも呼ばれます。
「踵」は皆さんご存知の heel となりますが、「踵骨(しょうこつ)」の英語である calcaneus(「カルケィナス」のように発音) はあまり知られてはいないようですので、ここで覚えておきましょう。この calcaneus は7つある「足根骨」tarsals の1つです。ここでは7つの tarsals 全てをご紹介しませんが、ankle bone とも呼ばれる足首の大きな「距骨(きょこつ)」talus(「ティラス」のように発音)は是非覚えておいてくださいね。
「外反母趾」は英語で何と言う?
「足の指(趾)= 足趾」は toes となります。足趾は全て toe となり、親指(趾)から小指(趾)にかけて first toe → second toe → third toe→ fourth toe → fifth toe という名称になります。ただ「足の親指(趾) = 母趾」は一般的には big toe と呼ばれ、医学英語としては hallux「母趾」というものもあります。ですから「外反母趾」はこの hallux に turned outward を意味する valgus を加えて hallux valgus となります。ただこの用語は一般の方にはほとんど使われず、外反母趾の結果として生じる「腱膜瘤」bunions(「バニオン」のように発音)という用語の方が使われます。また「足の小指(趾)」にも俗称があり、手の小指のように pinky toe と呼ばれています。ですから「テーブルの脚に足の小指をぶつけちゃったよ!」と言いたい場合には “I accidentally stubbed my pinky toe on the leg of a table!” のように表現するのです。
「巻き爪」や「足底腱膜炎」は英語で何と言う?
では最後に足に関する症状や病名の英語表現をご紹介しましょう。
「足趾の爪」は toenail となります。「巻き爪」は「内側に成長する爪」というイメージから ingrown toenails と呼ばれます。(手指の巻き爪は ingrown fingernails となります。)
足にできる「タコ = 胼胝(べんち)」や「マメ = 靴擦れ = 水ぶくれ」は、手と同様に calluses や blisters となります。そして足には「角質の芯がある有痛性のタコ」である「魚の目 = 鶏眼」もありますが、英語ではこれを corn と表現します。
踵の痛みの原因として頻度が高い「足底腱膜炎」は、英語では plantar fasciitis となります。ランニングや体重増加で「足底腱膜」plantar fascia に負荷がかかることが原因で、高齢者だけでなく若い医学生の皆さんにも多く見られます。
サッカーやバスケットボールなどでは「足首を挫く」sprain the ankle という外傷が多いのですが、中でも「前距腓靭帯」anterior talofibular ligament (ATFL) の捻挫が多いので、この名称は覚えておきましょう。
「足根骨」は tarsals であり、その遠位にある「中足骨」は metatarsals となります。足の「趾骨」は手と同様に phalanges となりますので、足趾の付け根の関節は metatarsophalangeal (MTP) joint となります。この MTP joint に負荷がかかる姿勢や動作が長期に渡って繰り返されると「モートン病」を発病しますが、英語ではこれを Morton’s neuroma のように「モートン神経腫」と表現します。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に「手根管症候群」carpal tunnel syndrome の診察として重要な、 Tinel’s test と Phalen’s test を英語で行う際の表現をご紹介します。
Tinel’s Test:
- 1. Place your arm on the table with your palm up.
- 2. I will tap on your wrist gently.
- 3. Tell me if you feel any tingling in your fingers.
Phalen’s Test:
- 1. Put your arms out in front with your palms facing away and fingers down.
- 2. Press the backs of your hands together and hold for a minute.
- 3. Let me know if you feel any tingling or discomfort in your hands or wrists.
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之