Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 42 医学生のTOEFL ITP 対策

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「医学生のTOEFL ITP 対策」。

英語能力の評価方法として TOEFL ITP という試験を採用している医学部が数多くあります。その中には TOEFL ITP のスコアを必修科目の単位認定や進級要件にしている大学もあり、その大学の医学生にとって TOEFL ITP のスコアは「死活問題」とも言えるほど重要になっています。

そこで今月は私なりの「医学生の TOEFL ITP対策」をご紹介したいと思います。

何で医学部では TOEFL ITP が採用されているの?
TOEFL とは Test of English as a Foreign Language の略で、「トォゥフル」のように発音します。ごく稀に「トイフル」のような呼称を使われている方を散見しますが、それは誤りですので気をつけてください。

この TOEFL は、 Educational Testing Service (ETS) という団体が開発・運営をする
北米(米国とカナダ)の大学・大学院に留学する際に必要な英語力を測定するための試験」です。よく学生さんから「何でTOEIC ではなく TOEFL を採用しているのですか?」と聞かれることがありますが、Test of English for International Communication の略である TOEIC は日本国内の企業に就職する際には活用できますが、医学生が留学などで活用することはできません。従って医学生にとって有用な一般英語の試験としては、北米の留学で活用できるこの TOEFL か、英国や豪州などの留学で活用できる International English Language Testing System の略語である IELTS という試験のどちらか(あるいはその両方)が、英語試験としては適切なものとなるのです。

TOEFL を使って留学をする際、実際にそのスコアを留学の際に活用できる試験は TOEFL iBT というものです。この iBT は internet based testing の略語で、文字通り インターネットを使った試験です。受験料は 245 USD(アメリカドル)で、日本円にすると3万円を超える受験料となっています。IELTS には IELTS Academic と IELTS General Training の2種類がありますが、医学生が留学の際に活用できるのは IELTS Academic となっています。この IELTS Academic には試験会場で受験するものとしてコンピュータ版の IELTS on Computer とペーパー版の IELTS on Paper の2種類があります。この他自宅からインターネットを介して受験できる IELTS Online というものもあります。受験料は IELTS on Computer が 26,400円、IELTS on Paper が 25,380円、そして IELTS Online では 198.18 USD(日本円で約27,000円程度)となっています。

TOEFL iBT と IELTS Academic はどちらも Listening, Speaking, Reading, and Writing という4技能を評価する試験で、本来であれば医学部でもこれらの試験を採用したいところですが、どちらも受験料が2万円を超えて高額なことと、定められた試験会場で受験しなければならないこと(IELTS Onlineでは自宅の受験環境に一定の条件が揃っていることが求められます)が、これらの試験の採用を困難にさせています。

そこで、これらの試験の代替案として多くの医学部が採用しているのが TOEFL ITP という試験なのです。この ITPInstitutional Test Program の略で、その名の通り施設での団体受験に適した TOEFLとなっています。この TOEFL ITP にはインターネットを使ったデジタル版もありますが、多くの医学部で採用されているのがマークシートに記入するペーパー版です。また Level 1とLevel 2 の2種類がありますが、Level 2 は医学生には簡易すぎるため、通常は Level 1 が採用されています。

この TOEFL ITP にはSpeaking と Writing は含まれないため、4技能を評価できるその他の英語試験に比べると見劣りしてしまいますが、私が考えるその最大の利点は受験料の安さにあります。受験料は受験者数によって変わりますが、10-99名の受験では一人当たり 3,830円、100-199名では 3,720円、そして 200名以上では 3,360円と、 TOEFL iBT や IELTS Academic と比べてかなり安価な受験料となっています。また学生の一般英語の能力の評価方法としてこの TOEFL ITP を既に採用している医学部も多いため、大学間で点数を比較することも可能という利点もあります。

私が教えている国際医療福祉大学医学部(IUHW)でも、この TOEFL ITP を英語能力の評価方法として採用しています。IUHW では1年次に3回、そして2年次以降は各学年の年度末に1回ずつ、6年間合計で8回の TOELF ITP を受験します。これだけの頻度で受験してもらうためには、受験料が低いことは学生にとっても極めて重要な条件です。また各大学の教室で実施することが可能ですので、各大学のカリキュラムに合わせて自由に試験日程を調整することも可能です。もちろん実際に留学する際には TOEFL iBT か IELTS Academic のどちらかのスコアが必要になるのですが、各医学部で学生の一般英語の能力を評価する試験としては TOEFL ITP が極めて実用的と言えます。

以上をまとめると、多くの医学部で TOEFL ITP を採用している理由は
   英語圏の大学・大学院に留学する際に必要な英語力を測定するための試験であること
   受験料が安価であること
   各大学の教室で実施でき、柔軟に日程を調整することが可能なこと
   多くの医学部で導入しているために大学間で点数の比較が可能なこと
によるものだと考えられます。

医学生は何点を目指せばいいの?
ではこの TOEFL ITP を受験するとして、医学生は具体的に何点を目指すべきなのでしょうか?

外国語の評価指標としては Common European Framework of Reference for Languages (CEFR) が世界中で使用され、文部科学省も新学習指導要領における英語能力の評価指標として使用しています。そして TOEFL ITP では下記のスコアがそれぞれの CEFR のレベルに対応しています。(「最上級」である C2 レベルは通常の英語試験では測定できないので、TOEFL ITP で満点であったとしてもそれだけでは C2 レベルとは見做されません。)

CEFR の各レベルとTOEFL ITP(677点満点)の対応
C1(上級)627点以上
B2(中上級・準上級)543点以上
B1(中級)460点以上
A2(基礎)337点以上

日本の医学教育における「医学英語」のガイドラインとしては、日本医学英語教育学会が定めた「医学教育分野別評価基準日本版(グローバルスタンダード)に対応するための医学英語教育ガイドライン」というものがありますが、医学教育における「一般英語」のガイドラインはまだ存在せず、医学生が CEFR のどのレベルの一般英語の能力を身につけるべきかという判断は各大学によって変わります。

IUHW では6年次に全員が海外臨床実習を経験します。そのため全員が海外臨床実習に必要な「中上級(準上級)」レベルである B2 の一般英語能力を獲得することを目標と定めています。ちなみに2021年度のIUHW の1年生の入学時の TOEFL ITP の平均点は541点でしたが、9ヶ月後の1月には 566点と25点の上昇となりました。このように実際に学生全員が B2 に到達することは困難ではありますが、学生全員が B1 のレベルに到達することは実現可能な目標です。ですから日本の医学生が目指すべき点数としては「543点以上」と設定し、「最低でも460点以上」というのが現実的な数値になるのではと考えています。

もちろん将来英語圏で働きたいと考えている方には B2 では不十分です。Menu 41 でもご紹介したように、OET Medicineでの 350点は C1 に相当します。既に B2 の一般英語の能力がある方は是非 627点以上を目指して頑張ってください。

TOEFL ITP ってどんな試験なの?
ではここから具体的に TOEFL ITP の内容を見ていきましょう。

先述したように TOEFL とは「北米(米国とカナダ)の大学・大学院に留学する際に必要な英語力を測定するための試験」です。具体的には「学生同士の会話が理解できる」「教職員に学業に関するサポートを求めることができる」「講義を理解することができる」「教材を読むことができる」「レポートを書くことができる」という大学で求められる英語能力を直接・間接的に評価します。

TOEFL ITP は下記のように3つのセクションに分かれており、各セクションで50問、40問、50問をそれぞれ 35分、25分、55分の決められた時間内で解いていきます。

Section 1: Listening Comprehension
50 questions in 35 minutes


Section 2: Structure & Written Expression

40 questions in 25 minutes


Section 3: Reading Comprehension

50 questions in 55 minutes

このように TOEFL ITP はおよそ 115分間で終了します。ではそれぞれのセクションの対策を見ていきましょう。

実は最初の30問が最難関?リスニング問題の対策
まずは Section 1 のリスニング問題です。これは下記の3つのパートに分かれています。
Section 1: Listening Comprehension
50 questions in 35 minutes
   Part A: 30 short conversations( 30 questions)
   Part B: 2 long conversations (4 questions/conversation = 8 questions)
   Part C: 3 long talks (4 questions/talk = 12 questions)

リスニング問題では「要点を理解すること」が求められます。受験英語に慣れた日本の医学生の多くはこの Section 1 で「全てを理解して記憶する」ことをやろうとしますが、それは不可能ですし求められてもいません。ですからそれぞれのパートでどのようなことが「要点」となっているのかを理解することが大切です。

Part A では「学生同士の会話が理解できる」能力が評価されます。ここでは男女の学生間の会話を聴きます。
Sample Question
(Narrator) Question 3.
(Woman) I heard the math requirements for graduation are being charged.
(Man) Yes. And I may be short one course.
(Narrator) What does the man mean?
3.
A. He is not sure what course to take.
B. He may not meet the graduation requirements.
C. The math course is too short.
D. The graduation date has been changed.
Answer: B

この Part Aの構造は下記のようになっています。
Female or male student: 会話の背景を示すコメント
Male or female student: そのコメントに対応するコメント
Question: What does the man/woman mean?

質問は必ず2人目の学生のコメントの意味を尋ねるという形式なのですが、その意味を理解するために、必ず1人目の学生のコメントを理解しなければならないという構造となっています。

意外かもしれませんが、CEFR A2 や B1 レベルの学生の多くが、Section 1 の中でもこの Part Aを最も苦手と感じています。その理由として、Part B やCは情報量が多く、多少わからない部分があったとしても聴き取れた内容からわからない部分を類推することが可能なことに対し、この Part A では1人目のコメントの意味がわからなければ会話の背景が分かりませんし、2人目のコメントの意味を正しく理解できなければ誤った選択肢を選んでしまうように設計されているからです。特に “You can say that again!” 「その通り!」や “I’ve been there too.” 「自分にも経験あるよ」といった英会話での相槌表現に慣れていない方は特に苦戦するパートとなっています。

この Part Aの対策としては、「英会話の定型表現を身につけること」が重要です。個人的にはYouTube にある様々な英会話の動画を使い、毎日少しずつでもいいので英会話の定型表現を身につけていくことをお勧めします。

Part B では「学生同士の会話が理解できる」能力と「教職員に学業に関するサポートを求めることができる」能力が評価されます。ここでは学生同士の会話か、学生と教職員の会話を聴き、その会話に関して4つの質問に答えます。

Part C では「講義を理解することができる」能力が評価されます。ここでは様々なトピックの講義を聴き、その講義に関して5つの質問に答えます。

この Part B と C では Who?/What?/When?/Where?/Why?/How? という 5W1H の質問が問われます。受験英語に慣れているともっと複雑な質問を予想してしまいがちですが、このパートの質問はもっと単純なものです。また細かい内容まで覚えていなくても答えらえる質問がほとんどです。問題冊子には問題文が印刷されていますので、できるだけ素早く問題文を読み、何が「要点」となっているかを確認してから会話や講義を聴くようにしてください。

この Part B と C を正確に理解するには語彙を充実させる必要もあります。個人的には BBC が提供している Learning English のコンテンツが Part B と C の対策としては極めて有効だと思います。忙しい医学生の生活の中でも使えるコンテンツが豊富にありますので、是非活用してみてください。

「読む」ためではなく「書く」ために重要な文法
次に Section 2 の文法問題です。ここでは下記の2種類の問題が出題されます。
Section 2: Structure & Written Expression
40 questions in 25 minutes
Structure: Fill in the blanks (15 questions)
Written Expression: Error Analysis (25 questions)

文法は「読む」ためにも重要ではありますが、この Section 2 では「レポートを書くことができる」能力が評価されています。つまりここでは「自分が書いた英文を正しく修正することができる」という能力が評価されているのです。

この Section 2Structure では「空所補充問題」が、そして Written Expression では「誤文訂正問題」が出題されます。この Section 2 は受験英語の問題と近いため、日本の医学生にとって最も解きやすい問題となっています。

私から一つだけアドバイスをするなら、この Section 2 では “Read aloud the sentence in your head!” 「頭の中で音読するように問題文を読んで正解を見つける」ということです。英文を最初から読んでいき、後に戻るようなことをしないで正解を見つけるという練習をしてください。そうすることで問題を解くだけでなく、「自分が書いた英文を正しく修正することができる」という能力を身につけることができます。

「著者」として読むことが重要なリーディング問題
最後に Section 3 のリーディング問題です。ここでは5つの文章を読み、それぞれの文章につき10問の問題に答えます。

Section 3: Reading Comprehension
50 questions in 55 minutes

こちらのサンプル問題をご覧いただけたらわかるように、Section 1のPart C のような 5W1H を使った単純な内容を問う質問とは限らず、代名詞の意味を尋ねたり、語彙の意味を尋ねたりと、様々な種類の問題が問われます。

このセクションでも簡単に得点を上げる方法はありませんが、私からは2つほどアドバイスがあります。

1つ目が Paragraph Reading という方法です。
英文は paragraph によって構成されています。そして一つの paragraph は基本的に一つの theme について記述しています。またその paragraph で記述されることの概要は paragraph の最初の文である topic sentence で記述されるというのが原則です。したがって paragraph の最初の文である topic sentence を読めば、その paragraph で何を記述するのかがわかるのです。このようにしてそれぞれの paragraph の topic sentence を確認することで、各 paragraph の theme が理解でき、文章全体の構造を把握することも可能となるのです。

2つ目が “Read like the writer!” 「著者のように読め」ということです。
文章を読者としてではなく、書き手として読むことで “Identify the writer’s choices” 「なぜ著者がその書き方をしたのかを理解する」ことも可能となります。もちろんこれも一朝一夕には難しいことではありますが、私自身、このアドバイスを受けて日本語でも英語でも読解力が高まった経験があります。もしまだ試したことのない方がいらっしゃったら、騙されたと思って試してみてください。

最後にこういう英語試験対策を考える際には、「実際に使える英語力を身につけること」を優先し、その後でそれぞれの試験に対して「試験本番で実力を発揮するための練習をする」という順番で行動するようにしてください。ですから TOEFL ITP の対策をする際にも、「学生同士の会話が理解できる」「教職員に学業に関するサポートを求めることができる」「講義を理解することができる」「教材を読むことができる」「レポートを書くことができる」という英語能力を獲得することを目標とすることを忘れないでくださいね。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。
最後に今回紹介した医学生の TOEFL ITP 対策の要点をもう一度まとめておきます。

   Section 1: Listening Comprehension では全てを理解しようとせず、要点を理解すればいいと開き直る
   Section 1 のPart A(学生同士の短い会話)では必ず2人目のコメントについて出題される。
   Section 1 のPart A の対策としてはYouTube の英会話動画を見て、英会話の定型表現を身につける
   Section 1 のPart B と C では5H1H の質問が出題されるので、問題冊子に印刷されている問題文を読んで要点を確認してから聴く
   Section 1 の Part B と C の対策として BBC Learning English のコンテンツを活用する
   Section 2: Structure & Written Expression では “Read aloud the sentence in your head!” 「頭の中で音読するように問題文を読んで正解を見つける」ことを心がける
   Section 3: Reading Comprehension では Paragraph Reading と “Read like the writer!” を心がける

では、またのご来店をお待ちしております。


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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 准教授 押味 貴之

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