Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 41 医学生のOET 対策

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「医学生のOET 対策」。

COVID-19の感染拡大に伴い、米国で臨床研修を受けるために必要な ECFMG Certificate 取得条件の1つであった USMLE Step 2 Clinical Skills (CS) という実技試験が廃止されました。これまではこの Step 2 CS が臨床場面での英語力を評価する試験として機能していたのですが、この試験に代わって Occupational English Test (OET) という医療英語の試験が採用されました。

そこで今月は「医学生の OET対策」をご紹介したいと思います。

日本人の英語学修は「試験至上主義」?
私は全国の医学部で講演をする機会があり、講演を聞いた学生さんから「先生の話を聞いて英語を話せるようになりたいと思いました」という声をよく聞きます。そしてその後に、実に多くの学生さんが「そのためにはどんな試験の勉強をしたらいいですか?」と聞いてこられます。

日本では試験で測定される能力による選抜が大きな意味を持っているためか、「試験で高い点数を取ること」が過剰に高く評価されていると個人的に感じています。他の国では「自分には実際に使える能力が備わっているのだが、筆記試験や実技試験という試験が苦手なので、試験では自分の実力を正しく評価できない」と開き直って考える人がある程度いるのですが、日本にはそのように考える人が極端に少ないと感じています。

このように日本では「試験で高い点数を取ること」が過剰に高く評価されているためか、英語力に関しても「英語試験で高い点数を取ること」が、「実際に使える英語力を身につけること」よりも優先される傾向にあると感じています。

もちろん日常的に英語を使う環境を作ることが容易ではない日本国内では、「実際に使える英語力を身につけること」は簡単なことではありません。そのため「まずは英語力の目安となる英語試験で高い点数を取る」ということは、ある意味で自然な対策とも言えます。

しかし英語学修の本来の目的は、「実際に使える英語力を身につけること」のはずです。この「実際に使える英語力」があれば、「英語試験に特別な対策をしなくても一定以上の点数は取れる」と考えるべきだと思います。もちろん英語試験でも高得点を取らなければならない場合、試験前にはそれなりの「練習」が必要ではありますが、英語試験対策はあくまでも「英語試験本番で実力を発揮するための練習」に過ぎず、それ自体が英語学修になるべきではないと考えています。そうしないと「英語試験で高い点数を取ってから、実際に使える英語力を身につける」という作業が新たに必要になるからです。

ですから私が学生さんから「英語を話せるようになるには、どのような試験の勉強をしたらいいですか?」と聞かれる際には、毎回下記のように答えています。

「英語試験対策をするのではなく、英語が話せるようになったらやりたいと思っていることを英語でやってみてください。

こう聞くと「英語が話せないからそれができないのです!」と反論されそうですが、それには同意できません。もちろん英語力によってできることの範囲は変わりますが、日本国内にいても英語でできることはたくさんあります。英語には “Fake it till you make it.” という表現があります。これは「できるようになるまでできるように演じろ」という意味で、語学学習ではとても重要な考え方として認知されています。具体的には「英語力を高めから国際学会で発表する」という順序で行動するのではなく、「国際学会で発表すると決めてから英語を何とかする」という順序で行動するという発想です。少なくとも年に1回は今の自分の英語力では手に負えないイベントを計画し、そのイベントを乗り切るために日本にいながらにして英語力を高めざるを得ない環境を作り出すことが「実際に使える英語力」の獲得には有効なのです。

ですから英語試験対策を考える際には、「実際に使える英語力を身につけること」を優先し、その後でそれぞれの試験に対して「試験本番で実力を発揮するための練習をする」という順番で行動するようにしてください。

最近話題の OET ってどんな試験なの?
ではここから医学生にとって極めて重要な医療英語試験である Occupational English Test (OET) についてお話ししていきたいと思います。試験の詳しい情報はこちらのオフィシャルページからご確認ください。

この OET とは「英語圏で医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」を評価する国際的な試験(様々な国で実施されている試験)であり、下記の12の医療分野の医療英語試験が用意されています。

•   Medicine
•  Nursing
•  Dentistry
•  Pharmacy
•  Physiotherapy
•  Occupational therapy
•  Podiatry
•  Radiography
•  Speech pathology
•  Optometry
•  Dietetics
•  Veterinary science

医師として英語圏で医療に従事するためには、この中の OET Medicine という試験において、Listening, Reading, Writing, and Speaking という4つの sub-tests でそれぞれ 350点以上の点数を獲得する必要があります。

この OET は世界で唯一の国際的な医療英語試験ではあるのですが、近年特に重要度が高まり、受験生が増加しました。その最大の理由は、コロナ禍で USMLE Step 2 Clinical Skills (CS) が廃止され、この Step 2 CS の代わりに OET Medicine が採用されたことなのです。この結果、米国で臨床研修をするために必要な ECFMG を取得するためには、OET Medicine の Listening, Reading, and Speaking のそれぞれの項目で 350点以上、そして Writing の項目で 300点以上の点数を獲得することが必要となったのです。(Writing の 350点以上は獲得が難しいと判断されたようです。)

この OET Medicine ですが、2022年7月時点で日本ではオンライン受験は認められておらず、東京の1カ所Prometric Testing Center Ochanomizu Sola City) と大阪の2カ所UK Plus Osaka & Prometric Testing Center Osaka Nakatsu)のいずれかで受験可能です。このうち大阪の UK Plus Osaka では紙に記入する OET on Paper ですが、他の2会場ではコンピュータに記入する OET on Computer となっています。

受験費用は587 AUD(オーストラリアドル)で、日本円でおよそ5万5千円程度と英語の試験としてはかなり高額となっています。

受験日は USMLE Step 1 や Step 2 CK とは異なり、自分の好きな日を受験日として選ぶことはできません。しかし毎月2回の受験日が定められていますので、その中で自分に都合の良い日程を選ぶことが可能です。

そして試験は基本的に下記のような時間で実施されます。

•  9:00: Listening (40 min)
•  10:00: Reading (60 min)
•  11:00: Writing (45 min)
•  15:30: Speaking (20 min)

OET ではどんな問題が出題されるの?
では医学生が受験する OET Medicine ではどのような問題が出題されるのでしょうか?

Listening Sub-Test では、40分間3 parts に分かれた 42 questions を解きます。この Listening Sub-Test の問題はMedicine 特有の問題ではなく、12の医療分野共通の問題となっています。

Part A では 5分程度の医療者と患者の会話文2つ聴きます。この会話文は consultations と呼ばれ、医師だけでなく、様々な医療職と患者の間の会話となっています。ここでは聴き取った言葉を「穴埋め」していくという問題が合計24 questions が出題されます。「穴埋め」形式ですので、「正しく聴き取る能力」だけでなく、その表現を「正しく記述できる能力」も求められます。

Part B では 1分程度の医療現場での会話文6つ聴きます。この会話文は workplace extracts と呼ばれ、医師だけでなく、様々な医療職間の会話となっています。ここではそれぞれの会話文に対して1つの multiple-choice question が出題され、合計6 questions が出題されます。

Part C では 5分程度の医療に関するプレゼンテーション2つ聴きます。ここではそれぞれのpresentationに対して6つの multiple-choice questions が出題され、合計12 questions が出題されます。

試験の難易度によって変動はしますが、Listening Sub-Test にて 350点以上を獲得するためには、42問中30問以上を正答する必要があります。

Reading Sub-Test では、60分間3 parts に分かれた 42 questions を解きます。この Reading Sub-Test の問題もMedicine 特有の問題ではなく、12の医療分野共通の問題となっています。

Part A では 15分間で1つのテーマに関する4つの文章を速読します。ここではどの文章にどのような情報が書かれているかを問う様々な様式の問題が出題され、合計20 questions が出題されます。

Part BPart C には合わせて45分間の時間が当てられています。

Part B では 100-150 words 程度の文章6つ読みます。この文章は医療現場で遭遇する様々な書類を想定した文章となっています。ここではそれぞれの文章に対して1つの multiple-choice question が出題され、合計6 questions が出題されます。

Part C では 800 words 程度の文章2つ読みます。この文章は医療現場で遭遇する様々な書類を想定した文章となっています。ここではそれぞれの文章に対して8つの multiple-choice questions が出題され、合計16 questions が出題されます。

試験の難易度によって変動はしますが、Reading Sub-Test にて 350点以上を獲得するためには、42問中30問以上を正答する必要があります。

Writing Sub-Test では 45分間でそれぞれの医療分野に特有の問題が出題され、Medicine では Case Note(カルテ)を読み、それに基づいた Referral Letter(紹介状) を書きます。

そしてこの Referral Letter は下記の6項目で評価されます。
 Purpose: 紹介状の目的が明示されているか (0-3 の4段階評価)
 Content: 必要な情報が正しく記載されているか (0-7 の8段階評価)
 Conciseness & clarity: 簡潔にわかりやすく記載されているか (0-7 の8段階評価)
 Genre & style: 紹介状として適切な様式で記載されているか (0-7 の8段階評価)
 Organization & layout: 紹介状として適切な構造で記載されているか (0-7 の8段階評価)
 Language: 正しい文法・スペル・句読法を用いて記載されているか (0-7 の8段階評価)

試験の難易度によって変動はしますが、Writing Sub-Test にて 350点以上を獲得するためには、Purpose にて2以上それ以外の5項目にて 5以上の評価を獲得する必要があります。

Speaking Sub-Test では 20分間でそれぞれの医療分野に特有の問題が出題され、Medicine では試験官を相手に医師として2つのRole Plays を行います。

最初に warm-up を行なった後、課題文を読みます。Role Play と聞くと「問診」をイメージしてしまいますが、ここでは「問診」だけではなく、「患者が何を心配しているのかを見極める」「患者に運動習慣の重要性を理解させる」「患者に術後のリハリビテーションに参加するように説得させる」など様々な tasks が提示され、それらの tasksを意識しながら試験官を模擬患者に見立てて2つのrole plays を行います。

そしてこの Role Play は4つLinguistic Criteria5つClinical Communication Criteria で評価されます。

Linguistic Criteria
Intelligibility: 発音がわかりやすいか (0-6 の7段階評価)
Fluency: 適切な速度で話せているか (0-6 の7段階評価)
Appropriateness of language: 言葉遣いが適切か (0-6 の7段階評価)
Resources of grammar & expressions: 文法や表現が適切か (0-6 の7段階評価)

Clinical Communication Criteria
Relationship-building: 共感を示して患者とラポールを形成しているか (0-3 の4段階評価)
Understanding and incorporating the patient’s perspective: 患者の解釈モデルを理解できているか (0-3 の4段階評価)
Providing structure: 話題の変更が適切か (0-3 の4段階評価)
Information-gathering: 患者が答えやすいように質問しているか (0-3 の4段階評価)
Information-giving: 患者が理解できるように説明しているか (0-3 の4段階評価)

試験の難易度によって変動はしますが、Speaking Sub-Test にて 350点以上を獲得するためには、Linguistic Criteria にて5以上Clinical Communication Criteria にて 2以上の評価を獲得する必要があります。

OET の試験対策として何をしたらいいの?
では最後にこの OET Medicine の試験対策として何をしたらいいのか、私なりのアドバイスをご紹介しましょう。

まず強調しておきたいことは、OETの試験対策そのものではなく、まずは皆さんが「英語圏で医師として医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」をしっかりと身につけることです。その上で「OET Medicine本番で実力を発揮するための練習をする」ことをすれば、それぞれの sub-tests で350点以上の点数を獲得することができます。

逆に OET の試験対策を中心に勉強をしてそれぞれの sub-tests で 350点以上の点数を獲得できたとしても、「英語圏で医師として医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」がしっかりと身についていない場合、英語圏の医療現場で苦労をしますし、改めて実践的な医療英語を勉強し直す必要があります。

ではここから OET Medicine の各 sub-test で 350点以上を獲得することができるために十分な「英語圏で医師として医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」をどのようにして身につけるかのヒントをお話ししましょう。

これを聞くとがっかりされる方もいらっしゃるかもしれませんが、まず重要なのが一般的な英語力です。

OET Medicine のスコアは Common European Framework of Reference for Languages (CEFR) に対応しており、OET Medicine の350点CEFR の C1 レベル に対応しています。これは「上級レベル」に相当し、TOEFL iBT で95点以上、IELTS で6.5点以上のスコアに相当します。

つまり「英語圏で医師として医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」を獲得するためには、まずC1 レベルの Listening, Reading, Writing, and Speaking skills を身につけておくことが前提となるのです。受験生の中には C1 レベルに到達せずに OET Medicine の試験だけで結果を出す方もいらっしゃると思いますが、そのような方は実際に英語圏で医療に従事する際にかなり苦労されることと思います。

OET Listening Sub-Test では、様々な会話文とプレゼンテーションを聴きます。これを理解するために、まずは一般的な英語表現を理解できるようになる必要があります。その上で、医療現場で使われるlay termsmedical terms の両方を身につけておけば、何が話されているかを理解できるようになります。

OET Reading Sub-Test でも同様に、まずは英語を英語のまま(日本語に翻訳しないで)理解できるようにする必要があります。その上で普段から医療に関する情報を英語で取得するようにしておけば、医療現場で遭遇する様々な書類も短時間でしっかりと理解できるようになります。

OET Writing Sub-Testと OET Speaking Sub-Test でも、基礎となるのは一般的な英語の writing と speaking のスキルです。ただOET Writing と OET Speaking の2つは OET Medicine 特有の試験となることもあり、 OET Listening と OET Reading の2つと比べて、より医療に特化した writing とspeaking のスキルを練習する必要があります。

このように書くと「ハードルが高い!」と感じる方もいらっしゃるでしょう。確かに日本の医学部で日本語だけで医学を学んでいるとそう感じることと思います。

この「医学英語カフェ」では何度も繰り返しているので、いつも読んでくださっている方には「耳タコ」かもしれませんが、OET Medicine の受験対策として、一見遠回りに見えて実は一番効率が高いのが「医学を英語で学ぶ」という方法なのです。

このOETに関して2022年7月17日に開催された「第25回日本医学英語教育学会学術集会」にて「OETってどんな試験?学生と一緒に考える医学部での試験対策」というパネルディスカッションを行いました。ここで素晴らしい発表をしてくださった国際医療福祉大学医学部5年の金本すずさんは「医学を英語で学ぶことで一般英語と医療英語の能力を高めた後、OETの試験本番で実力を発揮するための練習をする」という「王道」の学修方法をご紹介してくださいました。その結果、金本さんは4年生の6月に受験したOET Medicine において、全ての sub-tests で無事に350点以上を獲得されたのです。

もちろん金本さんも受験対策をしっかりと行いました。 OET Online という民間企業のコースを使い、特に OET Writing Sub-Test と OET Speaking Sub-Test では専門のコーチからたくさんのフィードバックをもらって練習を重ねたようです。しかしそのような2ヶ月強の試験対策はあくまでも「試験本番で実力を発揮するための練習」に過ぎません。金本さんが無事に合格したのは、彼女が「医学を英語で学ぶ」という難しい勉強方法を選択して「英語圏で医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」を実際に獲得していたからです。その作業をせずに安易な試験対策だけをしても、実際に英語圏で医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力は獲得できなかったことでしょう。

ネット上にあらゆる教材が存在する現在、日本に居ながらにして「英語圏の医療現場」を体験することは十分に可能です。これから OET 受験を考えている方は、まずはネット上にある英語教材を利用して「英語圏の医療現場」を経験してください。そして医学部で学んでいる内容の一部でも「英語で学ぶ」ように心がけてください。そうすることで一般英語の能力医療英語の能力も必ず高まります。その後で OET Medicine の試験対策を「試験本番で実力を発揮するための練習」として行うようにしてください。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。
最後に今回紹介した医学生の OET 対策の要点をもう一度まとめておきます。

Occupational English Test (OET) とは「英語圏で医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」を評価する国際的な試験である
米国で臨床研修を行いたい場合、OET Medicine の Listening, Reading, and Speaking のそれぞれの項目で 350点以上、そして Writing の項目で 300点以上の点数を獲得することが必要である
ネット上にある教材を使い、英語圏の医療現場を経験することで「英語圏で医師として医療に従事するために必要な英語での臨床コミュニケーション能力」を身につける
試験本番で実力を発揮する練習」として民間企業のコースを利用する
OET Writing Sub-Test と OET Speaking Sub-Test では、練習を通して専門のコーチからフィードバックを受けることが有効である

では、またのご来店をお待ちしております。


「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。

国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 准教授 押味 貴之

「Dr.押味の医学英語カフェ」で扱って欲しいトピックを募集中!