こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「医療通訳者と上手く協働する方法」。
日本の外国人診療で最も必要となる外国語は、実は英語ではなく中国語です。ですからたとえ英語での医療面接を身につけても、実際の外国人診療では「医療通訳」を利用しないと外国人患者さんとコミュニケーションを取ることができないという場面の方が多いのです。しかし残念ながら日本の医学部で「医療通訳」について学ぶ機会はほとんどありません。
そこで今月は、中国語やスペイン語を話す外国人患者さんが来院しても困らないように、「医療通訳者との正しい協働の仕方」についてご紹介しましょう。
海外の医学部では「医療通訳」について学ぶの?
その国の言語と文化に馴染みのない人が医療機関を受診する際には、「言葉の壁」に加えて「文化の壁」も存在します。欧米の医学部では「多言語」や「多文化」に対応する医療をどのように提供するかを臨床教育で学ぶことが一般的です。移民社会である米国の医学部では「異文化を意識する態度」「異文化に関する知識」「異文化に対応できる技術」という3つを多文化医療に関する学修項目とし、これらの項目を臨床教育で学びます1。
「英語で意図した通りにコミュニケーションが取れない患者」のことを英語ではpatient with limited English proficiency (LEP) 、もしくは limited English proficient (LEP) patient と表現します。英語圏ではこういったLEP patients の数が非常に多いため、診療において「医療通訳」を利用することが日常化しています。したがって医学教育でも「異文化に対応できる技術」の一環として、「医療通訳者と協働する方法」は必須の学修項目となっているのです。
ですから「USMLEに合格して将来は米国で臨床をする」と思っている医学生の方は、「米国の患者さん全てが英語を話すわけでないので、米国の医療現場では日常的にスペイン語や中国語の医療通訳を利用する必要があり、臨床留学に備えて医療通訳者との正しい協働方法を事前に学んでおく必要がある」ということを覚えておいてください。
ちなみに日本では「日本人以外の人」という意味で「外国人」という表現をよく使いますが、「外国人患者」を英語で表現する際に foreign patients とすると「異物のような余所者の患者」というネガティブなイメージになってしまうので、international patients という表現をお奨めします。(国際医療福祉大学医学部でも「留学生」は international students と呼んでいます。)また international patients であっても日本語が堪能な方もいらっしゃるので、「日本語が話せない」と勝手に決めつけるのではなく、まずは日本語で話しかけることも大切になります。そして「日本語で意図した通りにコミュニケーションが取れない患者」を英語で表現する際には patients who cannot speak Japanese などのような「雑な」表現ではなく、 patients with limited Japanese proficiency (LJP) や limited Japanese proficient (LJP)patients という「適切な」表現を使うようにしてくださいね。
「通訳」は「翻訳」とどう違うの?
皆さんは「通訳」と「翻訳」の違いを知っていますか?「そんなの簡単だよ。話し言葉を変換するのが通訳で、書き言葉を変換するのが翻訳でしょ?」と思った方も多いことでしょう。その認識自体は正しいのですが、もう少し違いがあるのでここで確認しておきましょう。
話し言葉を変換する「通訳」は英語ではinterpreting と言います。これに対して書き言葉を変換する「翻訳」は translationと区別されます。ただし一般の人はこれらの表現を厳密に区別して使うとは限らず、英語圏の医療現場でも「通訳者」 interpreter のことを「翻訳者」を意味する translator と呼ぶ方がいます。
「翻訳」の translation が「変換する」というイメージの表現であるのに対し、「通訳」の interpreting は「解釈する」というイメージの表現で、「話し手の意図を解釈し、聞き手にわかるように再表現する」という意味があります。もちろん translationでも同じような作業が求められるのですが、interpreting では「どう伝えるか?」よりも「どう伝わったか?」がより重視される傾向にあります。通訳研究で有名な Pöchhacker は「良い通訳」として、まずは「原文に忠実で正確な通訳」があり、その上位に「聞きやすい通訳」と「意図が反映された通訳」が位置し、最上位に「対話が成立している通訳」が存在すると説明しています2。つまり「良い通訳」とは「どう伝えるか?」だけに着目するのでなく、「どう伝わったか?」まで責任を持つ行為ということになるのです。
「医療通訳」って英語で何と言うの?
「医療通訳」は「医療における異言語間の通訳」で、英語では medical interpreting や healthcare/health care interpreting と呼ばれます。前者には「話す内容が極めて医学的な場面での通訳」というイメージがあるのに対し、後者には「医療全般における通訳」というイメージがあります。
この「医療通訳」は、多文化共生を掲げるオーストラリアなどの移民国家においては地域コミュニティにおける公的サービスの通訳である、「コミュニティ通訳」 community interpreting の一部として発展してきました。この community interpreting には医療通訳の他にも「司法・法廷通訳」legal/court interpreting 、「教育通訳」education interpreting 、「行政通訳」social work interpreting などがあります。
一般的に「通訳」と聞くと、日本では多くの人が「会議通訳」 conference interpreting を想定すると思います。会議通訳では「専門家」をサービス対象として、「発表・演説」という一方向のコミュニケーションを「同時通訳」simultaneous interpreting で通訳します。そして対象となる言語は、「国際会議」の「公用語」に限定されることが一般的です。
これに対して「コミュニティ通訳」 community interpreting では、「コミュニティの住民・訪問者」をサービス対象として、「対話」という双方向のコミュニケーションを「逐次(ちくじ)通訳(話し終えてから通訳する通訳様式)」consecutive interpreting で通訳します。対象となる言語は、コミュニケーションの場面である「地域コミュニティのサービス」で使われる「多様な言語」となります。
この二つの大きな違いは、対象となるコミュニケーションが、会議通訳では「発表・演説」という一方向の monologue であるのに対し、コミュニティ通訳では「対話」という双方向の dialogue であるということです。つまりコミュニティ通訳者にはその性質上、対話の「仲介者」であるということが強く求められるのです。
「医療通訳者」にはどんな役割があるの?
医療通訳の目的は「医療者と患者のコミュニケーションにおいて、言語・文化・医療制度・医療知識の障壁を取り除くこと」となります。そしてこの目的を果たすために、医療通訳者には下記の3つの役割が期待されています2。
医療通訳者の役割
• 言語を媒介する役割:原文に忠実で正確な通訳をする役割
• 理解を確認する役割:通訳した内容が正しく理解されたかを確認する役割
• 文化を仲介する役割:文化の違いを確認して相互理解のきっかけを作る役割
先述したように医療通訳者はコミュニティ通訳者として対話の「仲介者」であることが求められます。したがって対話の最中に「通訳した内容が正しく理解されていないのでは?」と感じたら、通訳を中断して内容が正しく理解されたかどうかを確認しますし、「文化の違いがあって対話が成立していないのでは?」と感じたら、やはり通訳を中断してそれぞれの文化の違いを確認し、お互いを理解するためのきっかけを作ります。
このように医療通訳は「言葉の壁」に加えて「文化の壁」を克服する手段としても機能しているのです。したがって医療通訳者には対象となる言語において bilingual となるだけでなく、対象となる文化において bicultural であることが求められます。
このように「文化の壁」を考える際に重要となる用語として、 stereotype/bias/prejudice/discrimination という4つがありますが、皆さんはこの違いがわかりますでしょうか?
Stereotype とは「鋳型(いがた)」というイメージの表現で、その人の「認知」cognition に影響するものです。例えるならば「茶髪の医学生はチャラい」のようなものです。(私自身にはそういう stereotype はありませんのでご安心ください。)
Bias は「偏り」というイメージの表現で、その人の「視点」perspective に影響するものです。例えるならば「茶髪の医学生はチャラいから成績も悪いだろう」のようなものです。
Prejudice は「偏見」というイメージの表現で、その人の「感情」affect に影響するものです。例えるならば「茶髪の医学生はチャラくて成績も悪いだろうから嫌いだ」のようなものです。
Discrimination は「差別」というイメージの表現で、その人の「行動」behavior に影響するものです。例えるならば「茶髪の医学生はチャラくて成績も悪いだろうから嫌いなので、うちの病院では研修医として採用しない」のようなものです。
人は無意識のうちに「関西人は面白い」というような stereotype や、「関西人なら面白いからここでツッコミを入れるはず」というような bias、そして「関西人は面白くてツッコミを入れるから好き」というような prejudice や、「個人的に好きだからうちの病院では関西人を優先して採用しよう」というような discrimination をしてしまいがちです。同じようなことが特定の宗教や食生活を持つ外国人患者さんにも抱かれがちです。医療通訳者はこういった stereotype/bias/prejudice/discrimination に敏感に反応し、適切に介入するようにトレーニングされているのです。
診察の場面で医療通訳者はどこに座るの?
では皆さんが外来で外国人患者さんを診察する場面で、医療通訳者にはどこに座ってもらえばいいと思いますか?
医療通訳について何も知らない医療者は医療通訳者に「医療者と患者さんのちょうど真ん中」に座ってもらおうとしますが、これは間違いです。もし医療通訳者が中央に位置したら、医療通訳者がコミュニケーションの「統括者」となってしまい、医療者と患者さんが直接コミュニケーションを取ることができなくなってしまいます。
ですから医療者は、日本人の患者さんに診察する場合と全く同じように外国人患者さんと正対し、医療通訳者は外国人患者さんへの精神的支援という役割も考えて「外国人患者さんの斜め後」に座ります。こうすることで医療者と患者さんが直接目を見て話すことが可能となります。
先述したように医療通訳では「逐次通訳」consecutive interpreting という通訳様式を使います。これは医師や患者さんが話し終わってから通訳するという様式で、同時通訳に比較して正確性が担保されます。
また医療通訳では「一人称」first person を使って通訳します。したがって患者さんが “I have a headache.” と言った場合、「頭痛があるそうです。」のように「三人称」third person を使って通訳するのではなく、「頭痛があります。」のように話者が話した通りに first person を使って通訳します。また話す内容だけでなく、話し手の「語調」も可能な限り再現するように通訳をします。
そして医療通訳者は「医療者や患者さんが話している内容がよくわからない」「医師が使う専門用語や患者さんが使う慣用表現がわからない」「通訳した内容が正しく理解されているかわからない」「文化の違いを確認する必要がある」「誤訳をしてしまった」といった場面では、通訳を中断します。こういった中断は正確な医療通訳のためには必要不可欠なものですので、「時間がかかって面倒くさいな」と思わずに対応してくださいね。
医療通訳者にはどんな行動規範があるの?
医療者には「守秘義務」などの「倫理規定」 code of ethics や「行動規範」 code of conduct があります。これは「医療者だったら〜して欲しい」という社会や他の医療者からの期待のことですが、医療通訳者にも同様に「医療通訳者だったら〜して欲しい」と社会や他の医療通訳者から期待されているものがあります。
現在、日本の医療通訳者養成の指針となっているのが、厚生労働省が一般社団法人日本医療教育財団に委託して作成した「医療通訳育成カリキュラム基準」ですが、そこでは下記の12項目が医療通訳の「行動規範」とされています2。
医療通訳の行動規範
1. 基本的人権の尊重:外国人患者さんの基本的人権を尊重する姿勢を取って欲しい
2. 守秘義務:医療者としての守秘義務を守って欲しい
3. 忠実性と正確性:原文に忠実で正確な通訳をして欲しい
4. 中立・公平:中立な立場を取り、人によって態度を変えないで欲しい
5. 役割の境界を明確にする:利用者と個人的な関係を持たず、自分の能力の限界を知って欲しい
6. プライバシーへの配慮:患者さんのプライバシーに配慮して欲しい
7. 異文化理解と文化仲介:異文化理解を促進するために適切に仲介して欲しい
8. 権利擁護:患者さんの生命が危機の際には、適切な部署に誘導して欲しい
9. 専門職意識:高い職業意識を持って能力向上に努めて欲しい
10. 品行の保持:医療者としての礼儀とマナーを守って欲しい
11. 健康の増進:感染予防と体調・メンタル管理を徹底して欲しい
12. 他の専門職との連携:チーム医療の一員として、他の医療者と連携して欲しい
医療通訳者は上記の規範に従って行動しますので、医療者である皆さんもこれらに反する内容を医療通訳者に依頼することは謹んでくださいね。
医療通訳にも国家試験があるの?
このように医療通訳者には「対象言語において bilingual であること」「対象文化において bicultural であること」「話されていることを正確に理解・記憶し、異なる言語で正確に表現すること」「医療者が使う専門用語を正しく使いこなせること」「患者さんが使う慣用表現を正しく使いこなせること」「外国人患者さんが直面する医療制度の問題に精通していること」などといった高度な知識と技術が求められます。
しかし日本では医療通訳に国家試験はありません。これまでの日本において、医療通訳は職業としての社会的地位や報酬が確立されておらず、多くの医療通訳者は「ボランティア」として外国人患者さんのために時間や労力を提供してくださってきました。しかし近年では、医療機関で働く専属の医療通訳者や mediPhone のような電話やタブレットなどを使った遠隔医療通訳などで専門職として働く医療通訳者も出現しています。
医療現場において一定の品質が保証された医療通訳者の需要が高まったことに伴い、2014年に厚生労働省は「外国人患者受入れ環境整備推進事業」として、医療通訳者およびコーディネーターの配備による拠点病院構築を開始しました。そして2017年には先述したように、同省が一般社団法人日本教育財団に委託して「医療通訳育成カリキュラム基準」を作成しました。また2018年には国際臨床医学会の制度委員会の部会として「医療通訳認定部会」が発足し、一定の能力を有する医療通訳者を認定する「国際臨床医学会(ICM)認定『医療通訳士®』認定制度」が2020年3月に始まりました。今後はこの「ICM認定医療通訳士®」を利用した医療通訳が医科診療報酬の対象となり、その結果として医療通訳者の待遇改善に繋がり、最終的により安全な外国人診療が実現されることが期待されています。
医療通訳者と協働する際にはどんなことに気をつけたらいいの?
では今回の主題である「医療通訳者と上手く協働する方法」をご紹介しましょう。詳しくは最後に列挙させていただきますが、その中でも特に重要と思われるものをここではご紹介させて頂きます。
患者さんの家族や知人に通訳させず、専門的なトレーニングを受けている医療通訳者に依頼する
医療通訳に限らず、通訳は複数の言語が話せれば誰でもできるというものではありません。特に医療通訳には専門用語や医療知識など、高度な知識と技術が求められるので、「専門的なトレーニングを受けていない医療通訳者」 ad hoc healthcare interpreters に通訳を依頼することは避けてください。
特に患者さんの家族や知人に通訳を依頼することは避けてください。家族や知人は個人的な助言をしてくる場合があります。また患者さん自身が私的な内容を話しにくくなることもあり、患者さんの医療を受ける権利も損なうことに繋がるので、家族や知人に医療通訳を依頼することは緊急時を除いて避けてください。
「やさしい日本語」を使う
たとえ専門のトレーニングを受けている医療通訳者であっても、医療者や患者さんが専門用語や慣用表現、理解するために文化的な背景知識を必要とするような表現を使うと、通訳するのが難しくなります。ですから医療者としては「短く区切って話す」「話す内容を1度に一つとする」ということに加え、「やさしい日本語」を使う必要があります。
現在は患者さんだけでなく、医療者にも日本語を母国語としない方が増えてきています。そのため「誰にとっても優しくやさしい」日本語を使う重要性が高まってきています。順天堂大学医学部の武田裕子教授が中心となって推奨されているこの「やさしい日本語」は、多言語医療において全ての医療者が頑張って身につけるべきものだと思われます。是非皆さんも日常の診療の中で意識してみてくださいね。
医療通訳者にではなく、患者さんに話しかける
外国人患者とコミュニケーションを行う主体は皆さん医療者自身です。医療通訳者はそのコミュニケーションにおいて言語、文化、医療制度、医療知識の障壁を取り除くための補助にすぎません。外国人患者さんと医療コミュニケーショを取る主体は皆さん自身であると自覚し、医療通訳者にではなく、外国人患者さんに直接話しかけるようにしてください。
医療通訳者に書類の翻訳を依頼しない
医療通訳者は「通訳者」であり、書類を翻訳する「翻訳者」ではありません。問診票のような簡単な書類の記入であれば「ここに書いてある内容を患者さんに説明して、通訳者の方が患者さんの代わりに日本語で記入してください」と依頼することも可能ですが、検査や手術の同意書といった複雑な書類を口頭で翻訳するように依頼することは絶対に控えてください。同意書のような書類を説明する場合には、医療者自身が日本語でその書類を説明し、それを医療通訳者に通訳させるようにしてください。
Dr. 押味の大学院「医療通訳・国際医療マネジメント分野」ではどんな教育をしているの?
現在の私の仕事は大きく二つあって、一つは国際医療福祉大学医学部で「日本で最先端の医学英語教育を統括・実践すること」です。そしてもう一つが本学赤坂キャンパスで開講している大学院「医療通訳・国際医療マネジメント分野」の分野責任者として「医療機関で求められる医療通訳者の養成を行うこと」です。
ではこの「医療機関で求められる医療通訳者」とはどんな通訳者なのでしょう?色々な要素があると思いますが、私は下記の三つが特に重要であると考え、本学の教育で重視しています。
「学び続ける力がある」
医師になることと同様に、医療通訳者にも「生涯学び続ける力」が必要になります。大学院で学べる時間は限られていますが、卒業後も医療・言語・通訳技術を学び続ける力が身につくように、「学び方を共有する」ことと「医療現場を再現する」ことを重視して教育しています。
「医療者としての自覚がある」
外国人患者さんが医療機関を受診する際には、医療通訳以外にも様々な業務が発生します。もし医療通訳者が医療保険や在留資格といった内容に精通し、外国人患者さん受け入れ業務を担当できるならば、「外国人患者さんの受け入れに関してはこの人がいれば全て解決する」となり、医療現場では優遇されます。そのような知識を身につけて医療通訳者としてだけでなく、医療者としての自覚を持てるようになるため、本学では医療通訳に加え、「国際医療マネジメント」を専門的に学べる環境を整えています。
「対話を成立させる責任を持つ」
医療通訳では「原文に忠実で正確な通訳」が基本となり、初級者は「何も足さない・引かない・変えない」で通訳することが重要となります。しかしそれだけでは医療現場では不十分です。よりレベルの高い「聞きやすい通訳」や「意図が反映された通訳」を目指すのはもちろん、最も高度な「対話が成立している通訳」を目指し、毎回の授業では高い水準の通訳を学生さんには求めています。
多文化医療教育においては「態度」「知識」「技術」の獲得が重要となります。もしも皆さんが医療通訳者と適切に協働するための「技術」を臨床場面で学べば、外国人患者の背景に関する「知識」も身につき、さらには多様な背景を持つ外国人患者に柔軟に対応できる「態度」も涵養されることが期待されます。
「共に生きる社会」の実現が国際医療福祉大学の理念です。もし今回の医学英語カフェを読んで、「うちの大学でも医療通訳を通して多文化医療を学びたい」という方がいらっしゃったら、是非お声がけください。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に医療通訳者と協働する際に気をつけておきたいポイント3をまとめておきます。
医療通訳者と上手く協働する方法(Dr. 押味による翻訳)3
• どの患者に医療通訳が必要かを把握する
• 通常よりも診察に時間的余裕を持つ
• 診察前に医療通訳者に患者情報を伝える
• 医療通訳者の名前を記録に残す
• 医療者が発言することは全て患者に伝わると考える
• 医療通訳者は患者の斜め後に座らせる
• 医療通訳者にではなく、患者に話しかける
• 一人称を使って患者に話す
• 短く区切って話す
• 1度に一つのことしか質問しない
• 通訳者が通訳をするための時間を与える
• 伝える内容は三つ以内に収める
• 通訳するのが困難な慣用句、略語、専門用語、ユーモアは使わない
• 会話が混乱しないように、必ず1文ずつ通訳してもらう
• 医療通訳者には1時間毎に10分間の休憩を与える
• 正しく理解したか確認するために、患者に伝えたことを反復してもらう
• 必要な場合には診察が終わった後に医療通訳者とブリーフィングを行う
では、またのご来店をお待ちしております。
引用文献
1. Betancourt JR, Cervantes MC. Cross-cultural medical education in the United States: key principles and experiences.
Kaohsiung J Med Sci. 2009 Sep;25(9):471-8. doi: 10.1016/S1607-551X(09)70553-4. PMID: 19717365
2. 一般財団法人日本医療教育財団. 医療通訳育成カリキュラム基準(平成29年9月版)準拠 医療通訳. September 2017,
URL: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000385181.pdf (accessed on September 24, 2021).
3. Juckett G, Unger K. Appropriate use of medical interpreters. Am Fam Physician. 2014 Oct 1;90(7):476-80. PMID: 25369625.
参考文献
押味貴之. 医療通訳を通して学ぶ多文化医療. 医学教育. 2020; 51(6):650-654.
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之