こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「血尿に関する英語表現」。
「排尿」urination は医学教育において極めて重要な学修項目であり、医学教育モデル・コア・カリキュラムでも習得すべき37症候として「尿量・排尿の異常」と「血尿・蛋白尿」の2つが設定されています。しかしあまりにも身近であるが故に、排尿には様々な口語表現も存在します。
そこで今月は「血尿に関する英語表現」をテーマに、排尿に関する様々な英語表現をご紹介します。
「英語ではトイレのことをtoiletとは言わない」というのは本当?
まずは「トイレ」の英語表現を見ていきましょう。
皆さんの中には英語の授業で、「英語で toilet とは便器のことであるから、 “Where is the toilet?” ではなく “Where is the restroom?” と言いましょう。」と習ったことがある方もいるのではないでしょうか?そのため「英語ではトイレのことを toilet ではなく、 bathroom や restroom と表現する」と記憶されている方も多いのではないでしょうか?
実はこれは米国でのお話です。米国では toilet は「便器」そのものであり、通常日本人が「トイレ」として表現するものは、個人宅のものは bathroom、そして公共施設のものは restroom や ladies/gents (ladies’/men’s room) などと表現されます。また restroom はやや婉曲的な表現でもあるので、個人宅を訪問している場合でも “May I use your restroom?” の方がより丁寧な表現となります。このような理由から米国で「トイレはどこですか?」と尋ねる場合には、 “Where is the restroom?” や “Where is the gents?” などと表現するのが自然なのです。
「でも米国でも lavatory や washroom といった表示も見ますよ。」という声も聞こえてきそうですね。lavatory(「ラヴァタリィ」のように発音) は飛行機内などの表示で「書き言葉」としてよく使われる表現で、「話し言葉」としては米国でもあまり使われません。(そしてこの lavatory は「血液検査」を意味する laboratory(「ラボラトリィ」のように発音)と混同されることがあるので注意してください。)また washroom は「話し言葉」としても使われますが、どちらかというと米国でも「書き言葉」として表示に使われることが多い表現と言えます。
このように米国では toilet は便器という意味になるのですが、英国では日本と同様に toilet は「トイレ」として使われます。ですから “Where is the toilet?” という表現は英国では極めて自然な表現です。「英語ではトイレのことを toilet とは言わない」と覚えていると、英国人から「誰からそんなことを習ったんだ!」と怒られてしまいますのでご注意を。
英国や豪州ではこの他にも、 loo という表現が「トイレ」として一般的に使われます。また少し婉曲的な表現として、 facilities というものも使われます。英国でも bathroom という表現は使われますが、これは文字通り「bathが併設されているトイレ」というイメージになります。日本でもよく表示で使われる WC ですが、これは water closet の略で、現在では「書き言葉」としてのみ使われています。
この他「トイレ」には、かなりカジュアルな「口語表現」colloquial expressions も存在します。
トイレは米国では John 、豪州では Dunny 、そして英国では Bog/Khazi/Jacks などとも呼ばれます。どれも固有名詞のように見えますが、 a/the restroom と同様に、a/the john や a/the dunny のように冠詞をつけて使われます。そして男性が「用を足してくる」という意味で使うのが “I’m gonna hit the head.” という表現です。これは昔の船ではトイレが「船首」にあったことから生まれた表現で、現在でも使われています。
英語圏ではどこでも「洋式トイレ」が使われ、「和式トイレ」はほとんど使われていません。ただどちらにも英語表現が存在します。前者は使用した後に水を流すところから flush toilet と、そして後者はしゃがむことから squat toilet と呼ばれています。世界には squat toilet が使われている地域もまだありますので、必要に応じてこれらの英語表現を使ってみてください。
いくつ知っている?排尿に関する英語表現
では次に、「排尿」に関する英語表現を見ていきましょう。
「排尿する」は urinate となります。これは専門用語なのですが、一般の方も理解できる極めて便利な表現です。ですから医学生・医師としては、まずこの urinate を使うようにしましょう。
また「尿」urine は婉曲的に water と、そして「泌尿器」は waterworks と表現されます。ここから urinate は pass water とも表現されるのですが、英国以外ではこの表現を使う人は少ないので注意してください。
実際に皆さんが医学生・医師として使わなくても、患者さんがよく使う表現として piss や pee というものがあります。どちらも動詞・名詞の両方で使われます。日本ではこの pee のことを「子供が使う表現」と思っている方も多いようですが、実際には大人も普通に使います。少し子供っぽい表現としては wee や wee-wee という表現があります。
そして「排尿」にも様々な「婉曲表現」euphemisms が存在します。
日本語にも「お化粧直し」という婉曲表現がありますが、これと同じ意味で使われるのが powder my nose という表現です。また日本語の「生理現象」に相当する英語が call of nature です。英国ではその昔、公衆トイレを使うのに one penny が必要だったため、spend a penny という古風な婉曲表現も存在します。そして日本語の「小」と「大」に匹敵するのが、英語の number one と number two です。実際にこの表現を大人が使うことはあまりないのですが、人前で小さな子供に「どっちがしたいの?」と聞く時には、 “Do you need a number one or number two?” のように使います。
どう考えたらいい?血尿の鑑別
ではここから「血尿」hematuria の鑑別を考えながら、それに関する英語表現を見ていきましょう。
「血尿」hematuria の定義は、尿沈渣において presence of at least 5 red blood cells (RBCs) per high-power field (hpf) が確認されることとなります。このうち「肉眼的血尿」は macroscopic/gross hematuria と、そして「顕微鏡的血尿」は microscopic hematuria と呼ばれます。
この hematuriaを確定するには「尿検査」urinalysis (UA) が必要ですが、この UA は試験紙を使う dipstick urine test と、尿沈渣を顕微鏡で観察する microscopic urine test に大別されます。
この UA で RBCs が確認されない「色が赤い尿」は、 pseudo-hematuria となります。
この pseudo-hematuria の原因としては、「ビリルビン尿」bilirubinuria 、「ミオグロビリン尿」myoglobinuria 、そして「ヘモグロビン尿」hemoglobinuria などの他に、「脱水」dehydration や尿の色を変えるような「内服薬」medications などが挙げられます。この他にも欧州でよく食べられている「ビーツ」 beets などの赤い食べ物の過剰摂取も pseudo-hematuria の原因となります。
UA で hematuria が確認されたら、尿沈渣で「赤血球円柱」RBC casts の有無を確認しましょう。映画やドラマの「配役」としても使われる cast という単語には「型にはめる」というイメージがあり、医療では「ギプス」や「尿円柱」としても使われています。そして尿沈渣で RBC casts が確認されれば、その hematuria は糸球体が原因で起こる「糸球体性血尿」 glomerular hematuria であると考えられます。
これに対して糸球体が原因でない hematuria は、「尿路」 urinary tract のいずれかから「出血」 bleeding をしていることが原因と考えられます。そして bleeding があればそこには止血作用が働くため、尿沈渣で「血栓」blood clots が確認されることとなります。つまり尿沈渣で blood clots が確認されれば、それは「非糸球体性血尿」non-glomerular hematuria であると考えられるのです。
“Can’t see, can’t pee, can’t hear a bee” って何の病気のこと?
ではまず glomerular hematuria の原因となる疾患を見ていきましょう。
皆さんご存知の通り「糸球体疾患」 glomerular diseases は、大きく分けて hematuria が主症状の「腎炎症候群」 nephritic syndrome と、proteinuria が主症状の「ネフローゼ症候群」 nephrotic syndrome の2つに分類できます。
この nephritic syndrome には多くの疾患が含まれますが、ここでは代表的な5つの疾患を簡単にご紹介しましょう。
「IgA腎症」IgA nephropathy (IgAN) と「溶連菌感染後糸球体腎炎」post-streptococcal glomerulonephritis (PSGN) の2つは「上気道感染」upper respiratory tract infection (URTI) 後に発症するのですが、IgAN はURTIに続いて比較的早く発症するのに対し、PSGN は「溶連菌咽頭炎」strep throat などの streptococcal infections の後、数週間の潜伏期間を経て発症します。
遺伝性疾患である「アルポート症候群」 Alport syndrome は、hematuria の他にも visual loss や hearing loss を引き起こします。進行すると「末期腎不全」end-stage renal disease (ESRD) となって尿が出なくなることから、 “Can’t see, can’t pee, can’t hear a bee” という韻を踏んだ「暗記法」 mnemonics が英語圏の医学生には使われています。
「グッドパスチャー症候群」Goodpasture’s syndrome と「ウェゲナー肉芽腫症」 Wegener’s granulomatosis は、どちらも hematuria の他に「血痰」hemoptysis などのような呼吸器症状も引き起こします。そして Wegener はこの2つに加えて「副鼻腔炎」 sinusitis も引き起こします。
以上、これらの nephritic syndrome の5つの疾患の要点をまとめると下記のようになります。
Nephritic Syndrome
• IgA nephropathy (IgAN): recent URTI & recurrent episodes
• Post-streptococcal glomerulonephritis (PSGN): 3 weeks after strep throat
• Alport syndrome: hematuria + hearing loss + visual loss
• Goodpasture’s syndrome: hematuria + hemoptysis
• Wegener’s granulomatosis: hematuria + hemoptysis + sinusitis
「尿路閉塞を示唆する症状」の英語表現
では次に blood clots (+) となる non-glomerular hematuria の原因を見ていきましょう。ここにも様々な疾患がありますが、国際医療福祉大学医学部の「医学英語」の授業では初学者向けに “MISTER” という mnemonics をお勧めしています。
MISTER
• Malignancy
• Infections
• Stones
• Trauma
• Extra
• Renal
最初の M は「悪性腫瘍」を意味する malignancy です。
urinary tract での代表的な malignancy には、 kidney cancer, bladder cancer, and prostate cancer があります。そしてその代表的な癌の種類はそれぞれ renal cell carcinoma (RCC), transitional cell carcinoma (TCC), and prostatic adenocarcinoma となります。また悪性ではありませんが、「前立腺肥大症」enlarged prostate / benign prostatic hyperplasia (BPH) も hematuria を引き起こす場合があります。
こういった腫瘍性疾患は肥大化すれば「片側性の腫瘤」 unilateral mass を引き起こす他、「尿路閉塞を示唆する症状」 urinary obstructive symptoms も引き起こします。下記に具体的な尿路閉塞を示唆する症状の医学英語と、それを英語圏の患者さんがどのように表現するのかを示しておきます。
Urinary Obstructive Symptoms
• Urinary hesitancy: “When I try to urinate, it takes a while to get started.”
• Terminal dribbling: “Once I’ve finished, a few drops keep coming out for a little while.”
• Nocturia: “I’m up twice a night to urinate.”
• Urinary straining: “I have to push hard to urinate.”
尿が出にくい「排尿遷延(せんえん)」を urinary hesitancy と呼びます。サッカーやバスケットボールでボールを小刻みに触ることを dribble と呼びますが、「尿が滴る」ことも dribble と呼び、そこから BPH などで排尿後に尿漏れする「終末滴下」を terminal dribbling と表現します。また夜に排尿のために起きることを「夜間(頻)尿」nocturia と呼びますが、これはいわゆる「おねしょ」bedwetting や「尿失禁」 urinary incontinence とは異なります。そして排尿するためにお腹に力を入れなくてはならない「腹圧排尿」は urinary straining と表現されます。
「尿路感染症を示唆する症状」の英語表現
“MISTER” の I は「感染症」の infections です。
「尿路感染症」 urinary tract infection (UTI) の起因菌として最も多いのが「グラム陰性菌」 gram-negative bacteria である「大腸菌」 E. coli です。そして urinalysis において gram-negative bacteria が存在すると、「硝酸塩」nitrates が「亜硝酸塩」nitrites に変化します。この nitrates(「ナィトレィト」のように発音)とnitrites(「ナィトラィト」のように発音)はよく似ているので注意してくださいね。
UTI として urethra が感染すると「尿道炎」 urethritis が、bladder が感染すると「膀胱炎」cystitis が、そして kidney が感染すると「腎盂腎炎」 pyelonephritis が発生します。自己免疫性疾患や代謝性疾患で腎臓に炎症が生じる場合には nephritis という表現が使われるのに対し、この pyelonephritis は感染症の場合のみに使われる表現であることに注意してください。
そしてこれらの UTI では下記のような「尿路感染症を示唆する症状」UTI symptoms を引き起こします。下記に具体的な症状の医学英語と、それを英語圏の患者さんがどのように表現するのかを示しておきます。
UTI Symptoms
• Dysuria: “It burns when I pee.”
• Urinary frequency: “I feel like I want to pee all the time.”
• Urinary urgency: “Once I get the feeling I need to pee, I have to go right away.”
• Foul-smelling urine/pyuria: “My pee smells bad.”
「呼吸困難」を意味する dyspnea の dys- は「困難」という意味ですが、dysuria の dys- は「痛み」という意味になるので「排尿痛」という意味になります。尿量の異常である「多尿」polyuria と「乏尿」oliguria と異なり、「頻尿」には -uria を使った pollakiuria ではなく、urinary frequency の方が医学英語としても使われています。また「尿意切迫」は urinary urgency となり、臭いが強い foul-smelling 「膿尿」は pyuria となります。
覚えておきたい尿路結石症に関する英語表現
“MISTER” の S は「結石症」の stones です。
この stones は医学英語では calculus(単数形)calculi(複数形)の他、「結石症」を表す lithiasis となります。そして結石ができる部位によって「尿路結石症」 urolithiasis の医学英語は下記のように変化します。
Urolithiasis
Kidney stones: nephrolithiasis/renal calculus
Ureter stones: ureterolithiasis/ureter calculus
Bladder stones: cystolithiasis/bladder calculus
痛みの「現病歴」 history of present illness では OPQRST という checklist が有名ですが、urolithiasis の痛みには下記のような特徴が現れます。
Onset: sudden onset
Provoking & Palliating Factors: can’t keep still
Quality: stabbing pain
Region & Radiation: flank/loin to groin/testicles
Severity: 11/10, worse than childbirth
Timing: colicky
このurolithiasis での pain は「突然の発症」sudden onset で始まり、体位を変えても軽快せず「じっとしていることができない」can’t keep still 痛みとなります。またその性状は sharp で「ナイフで刺される」stabbing ような痛みと形容されます。また「脇腹」flank や「腰」loin から始まり、「鼠径部」groin や「精巣」testicles に放散し、痛みの程度は「1から10で言うと11」11 out of 10 となり、「出産」childbirth の痛みよりもひどいと表現されます。また尿路も「結腸」colon と同様に「蠕動運動」peristalsis をするために、その経過は「波の往来のように現れる」comes in waves というイメージの colicky という形容詞で表現されます。
“K-Y” って英語ではどんな意味になるの?
では最後に MISTER の後半である T・E・R をそれぞれ見ていきましょう。
“MISTER” の T は「外傷」の trauma です。
この trauma には様々なものがありますが、「尿道カテーテル」を意味する Foley catheter の挿入による外傷が代表的です。ちなみに日本語の「KY」は「空気読めない」の意味になりますが、英語圏の医療現場で “K-Y” と言えば、 Foley catheter の挿入などに使う「潤滑剤」 lubricant の商標である K-Y Jelly を想起させるので注意してくださいね。
“MISTER” の E は「その他」の extra です。
ここでは「激しい運動」を意味する strenuous exercises や「月経」menstruation/menses などが重要になります。
そして最後の “MISTER” の R は「腎臓」の renal です。
ただこの場合の renal diseasesは、「glomerular diseases でも kidney cancer でもない疾患」という意味になります。その代表的な疾患としては「多発性嚢胞腎」polycystic kidney disease (PKD) を覚えておきましょう。腫瘤が unilateral であることが一般的である malignancy とは異なり、この PKD では bilateral masses を認めることが重要です。
以上が hematuria の簡単な鑑別方法です。初学者の方もこの簡単な鑑別方法を雛形にして練習すれば、英語の Post CC OSCE でhematuria を主訴とした症例にもうまく対応することができると思います。
さて、そろそろコーヒーを飲みすぎて urinary urgency を感じている方も多いと思います。そんな皆さんが off to spend a penny する前に、今回ご紹介した血尿の鑑別疾患とその要点をまとめておきます。
Approach to Hematuria
RBC casts (+): Glomerular Hematuria
Nephritic Syndrome
• IgA nephropathy (IgAN): recent URTI & recurrent episodes
• Post-streptococcal glomerulonephritis (PSGN): 3 weeks after strep throat
• Alport syndrome: hematuria + hearing loss + visual loss
• Goodpasture’s syndrome: hematuria + hemoptysis
• Wegener’s granulomatosis: hematuria + hemoptysis + sinusitis
Blood Clots (+): Non-Glomerular Hematuria
“MISTER”
• Malignancy: Urinary obstructive symptoms/unilateral mass
• Infections: URI Symptoms
• Stones: sudden onset/can’t keep still/stabbing/loin to groin/very severe/colicky
• Trauma: Foley catheter
• Extra: Strenuous exercises & menses
• Renal: polycystic kidney disease (PKD)/bilateral masses
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之