Dr.押味の医学英語カフェ

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こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「医療保険に関する英語表現」です。

日本には「国民健康保険National Health Insurance という医療保険がありますが、国際比較において日本の医療保険制度は National Health Insurance model には分類されません。また米国などの英語圏で医療保険を利用する際には、 deductiblecopay など聞き慣れない用語に戸惑う方も多いことでしょう。

そこで今月は、「医療保険に関する英語表現」をご紹介したいと思います。

日本の医療保険制度は National Health Insurance model じゃないの?
医療保険」は英語では health insurance となります。そしてこの health insurance の制度である「医療保険制度」は healthcare systemhealth insurance system と呼ばれ、その model は国によって異なります。

これらの models を考える上で重要な要素が insurers/insurance companies/payers保険提供者」と「医療提供者providers です。

insurance companies保険会社」は「保険を提供してくれる者」として insurers と呼ばれる他、患者などの「被保険者」のために「保険金を払ってくれる者」として payers とも呼ばれます。

そして、病院や医療従事者は「医療提供者」として healthcare providersproviders と呼ばれます。

世界の医療保険制度はこの3つの要素から下記の4つに大きく分類されます。

 Beveridge model
 National Health Insurance Model
 Bismarck model
 Out-of-Pocket model

これらの制度にはどのような特徴があり、日本の医療保険制度はどれに分類されるのでしょうか?1つずつ見ていきましょう。

まずは Beveridge model です。この Beveridge とは制度を提唱した英国人の William Beveridge からついた名称です。「水以外の飲み物」である beverage とはスペルも発音も異なるので注意してください。

Beveridge model では insurers も providers も government政府」と一体化しています。つまり保険提供者も医療提供者も「国営」として機能しているのです。

この Beveridge model の代表例が英国です。コロナ禍では日本でも英国の National Health Service (NHS) の名称を聞く機会が増えたと思いますが、英国では一部の private sectors を除き、ほぼ全ての医療がこの NHS の管轄で提供されています。

National Health Insurance model はこの Beveridge model から providers が「民営」となったものと考えられます。この National Health Insurance model の代表例はカナダですが、カナダでは insurers は government と一体化しており、Beveridge model と同様に single payer として機能しているために、これら2つは single-payer model とも呼ばれています。どちらでも医療保険は「税金」主体で賄われますが、National Health Insurance model では医師や病院などの providers は「民営」として機能しているのが Beveridge model とは異なる点です。

これら single-payer model とは異なり、複数の insurers が存在して multiple-payer model となり、そして insurers と providers の両方が「民営」として機能しているのが Bismarck model なのです。この Bismarck はドイツ人の Otto Von Bismarck からついた名称ですが、その発音は日本語的な「ビスマルク」ではなく、「ビィズマゥク」のようになるので注意してください。

この Bismarck model の代表例はその名称からも推察できるようにドイツですが、日本の医療保険制度もこの Bismarck model に分類されるのです。

日本の医療保険制度を National Health Insurance model と誤解している方も多くいらっしゃいますが、それは日本の「国民健康保険」の英語訳が National Health Insurance (NHI) だからでしょう。確かに日本の医療は政府主体で医療費が定まっており規制も多いのですが、民営の insurers と providers が複数存在し、医療費は「税金」ではなく「保険料」として賄われています。ですから日本の医療保険制度は Bismarck model なのです。

そして insurers が基本的に存在せず、民間の providers に患者本人が医療費を out-of-pocket自己負担」で支払うという制度が Out-of-Pocket model となります。

ちなみに「国民皆保険制度」のことを英語で national health insurance system と表現すると誤解されている方も多いようですが、「国民全員がその社会的背景に関わらずに必要な医療を受けることができる」という意味では、 universal health coverage (UHC)universal insurance system という用語が使われますので覚えておいてくださいね。

HMO? POS? EPO? PPO? 知っておきたい米国医療保険の用語
上記の4つが世界の医療保険制度の分類なのですが、GDP世界1位の米国は一体どれに分類されるのでしょうか?

米国の医療保険制度はよく hodgepodge of systems と揶揄されたりします。この hodgepodge とは「ごちゃ混ぜ」というイメージの用語で、米国では上記4つの制度が混在しています。

米国には Army陸軍」、Air Force空軍」、Navy海軍」、Marine Corps海兵隊」、そして Coast Guard沿岸警備隊」という5つの US Armed Forces が存在しますが、それぞれの soldiersveterans退役軍人」 には Beveridge model の医療が提供されています。

また、65歳以上の高齢者が対象(他にも特定の障害や end-stage-renal disease や amyotrophic lateral sclerosis がある人も対象)となる Medicare と、一定の条件を満たした低所得者が対象となる Medicaid という公的医療保険は National Health Insurance model としての特徴を持ちます。

そして多くの労働者は、Bismarck model のように民間の医療保険に加入しています。

日本では fee-for-service plan/indemnity plan出来高払い制度」が一般的ですが、米国の医療保険では定額の自己負担率に沿って医療費を払うという managed care が一般的です。

そして、この managed care には下記の4つが存在します。

 Health Maintenance Organization (HMO)
 Point of Service (POS)
 Exclusive Provider Organization (EPO)
 Preferred Provider Organization (PPO)

HMO では、その HMO が定める in-networkネットワーク内」で primary care physician (PCP) を選んで受診することが求められます。専門医に診察してもらう必要がある場合にはその PCP からの referral紹介状」が必要で、その専門医や医療機関も必ず in-network である必要があります。また紹介先は PCP が決定し、患者には原則として選択権はありません。

POS では最初に in-network PCP に受診する必要がある反面、追加費用を払えば point of service として out-of-networkネットワーク外」の専門医や医療機関に紹介してもらうことが可能です。ただし、その場合には PCP からの referral が必要となります。

EPO では in-network であれば最初から医師や医療機関を自由に選ぶことができます。ですから referral は原則不要となります。ただし exclusive という名称の通り、out-of-network の専門医や医療機関を受診する際には完全な自己負担となります。

PPO はこれらの managed care の中で最も自由度が高く、契約している複数の providers から自由に医師や医療機関を選ぶことができます。また追加料金を支払うことで、 out-of-network の専門医や医療機関を受診することも可能となります。

このように米国の労働者は、自分でどの医療保険を選ぶのかを決めなければなりません。そして自由度が高くなる程に高額となるのが米国の原則と言えます。またこういった民間の医療保険を活用できない人が、 uninsured として数多く存在しています。そういった方達は本人の意思に関わらず、 Out-of-Pocket model として医療を受けざるを得ないというのが米国の現状なのです。

こういった状況を改善すべく導入された Obamacare という法案ですが、その正式名称は Patient Protection and Affordable Care Act (PPACA) であり、省略して Affordable Care Act (ACA) とも呼ばれています。

ご存知の通り、自由を重んじる米国ではこの Obamacare に対する反発も強く、universal health coverage (UHC) を socialized medicine として嫌悪する人たちが一定数いるのです。

ただ Obamacare の内容自体は、日本やドイツのような Bismarck model の国から見てもそれほど強制力が強いものではなく、米国内でも「内容自体には同意する」という人も多いようです。こちらのトークショーでは、道行く人に「Obamacare と Affordable Care Act のどちらを支援するか?」と尋ねています。(もちろん両者は同じものです。)英語では “six of one, half a dozen of the other”「12個入りの1パックの卵のうちの6個か、もう一方の半パックの卵か」という表現があります。これは「厳密に言えば違いはあるのだろうが、ほとんど同じなのでどっちでもいいもの」という意味の慣用表現で、省略して “six of one” などとも表現されます。これを見ると Obamacare に反対していても、実際には多くの人が ACA の内容自体には理解を示していることがわかりますね。

premium? deductible? copay? coinsurance? 知っておきたい医療保険用語
では、ここから医療保険に加入した際に使われる用語をいくつか見ていきましょう。

保険加入者」である enrollee が「毎月支払う保険料」のことは、 monthly premium や単純に premium と呼ばれます。そしてこの premium は保険だけでなく、動画配信サービスなどに「毎月支払う料金」という意味でも使われます。

米国のような民間の医療保険では、 premium を支払い始めればすぐに insurer が医療費を払ってくれるわけではありません。enrollee が「医療保険を有効とするために毎年支払わなければならない一定の金額」のことを deductible と言います。形容詞のように思われるかもしれませんが、これは名詞ですので注意してください。

そして、enrollee が医療を受ける際に支払う一定の「自己負担金額」のことを copayment、もしくは単に copay と言います。保険者である insurer/payer が医療費を一緒に支払ってくれている、というイメージなのでこう呼ばれているのです。これとよく似た表現として coinsurance という用語がありますが、こちらは金額ではなく「自己負担金割合」ですので、実際には % で表示されます。

日本の公的医療保険は大別すると「被用者保険Employee Health Insurance (EHI) と先述した「国民健康保険National Health Insurance (NHI) 、そして「後期高齢者医療制度」に分類されます。このうち EHI と NHI に関しては英語表現も明確でわかりやすいのですが、「後期高齢者医療制度」には様々な英語表現が使われています。個人的にはそれらの英語表現はどれもわかりにくいと感じており、私が説明する際には Health Insurance for Seniors Aged 75 and Over のようなものを使うようにしています。お役所などではそれぞれ事情もあると思いますが、実際に英語圏の方に伝わりやすい表現をお探しの方は、是非こちらの表現を使ってみてください。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に医療保険に関する英会話表現をいくつかご紹介します。

「今日は保険証診察券をお持ちですか?」
Do you happen to have your health insurance card and patient ID card with you today?

「健康保険を利用した場合の医療費の自己負担割合は3割です。」
If you have health insurance, you’ll need to cover 30% of your medical expenses out-of-pocket.

「こちらは保険適用外となります。」
This service is not covered by insurance.

「この治療は追加費用がかかります。」
There will be an additional charge for this treatment.

「保険情報をお持ちでない場合、全額自己負担となります。」
If you do not have your insurance information, you will have to pay the full amount yourself.

では、またのご来店をお待ちしております。

「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。

国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

 
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