こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「頭痛に関する英語表現」。
「頭痛」の英語が head pain ではなく、 headache であることは常識ですが、そもそも pain と ache がどのように使い分けられているか考えたことはありますか?また、英語での症例報告において non-blanching rash や osmophobia という表現を聞いて、それらが頭痛とどのように関連しているのか、すぐにわかるでしょうか?
そこで今月は「頭痛」の鑑別を通して、様々な臨床英語表現をご紹介します。
そもそも pain と ache ってどう違うの?
「痛み」と聞いて pain を思い浮かべる方は多いと思いますが、headache や stomachache に使われている ache とどのように違うのかご存知ですか?一般的に pain には「急性で鋭い痛み」、ache には「慢性で鈍い痛み」というイメージがあります。ですから一般的に「急性で鋭い痛み」であることが多い胸痛には chest pain という表現が、そして「慢性で鈍い痛み」であることが多い頭痛や腹痛には ache を使った headache や stomachache という表現が使われ、それらがそのまま定着したと考えられます。もちろん頭痛や腹痛にも「急性で鋭い痛み」がありますが、その場合には an acute severe headache のように headache 自体は変えずに表現されます。
そうは言っても例外が多いのが英語の厄介なところです。「慢性で鈍い痛み」であることが多い気がする腰痛や首の痛みも back pain や neck pain となりますし、「筋肉痛」は pain や ache も使わずに sore muscles や muscle soreness と sore を使うのが一般的です。ちなみに最近特に人気が高まった感のある「筋トレ」ですが、これは一般的には muscle training ではなくworkout と表現されます。特に「時間が経ってから来る筋肉痛」には DOMS という通称があります。これは Delayed Onset Muscle Soreness の略で、「ドムス」のように発音します。英語圏の筋トレ愛好者の間でよく使われている表現ですので、筋トレ好きな医学生は要チェックの表現です。また ache は動詞としても使われ、「全身筋肉痛」のような場合には “My body aches.” と、そして派生語の achy という形容詞を使って “My body is achy.” のようにも表現されます。このように英語は例外が多い「厄介な」言語と言えますが、そのような「厄介なもの・人」も英語では a pain in the neck のように表現します。
「項部硬直なし」の英語は “No stiff neck” でいいの?
患者さんが headache を訴えて来院された場合、まずは “red flags” を除外していきます。Menu 9でも紹介しましたが、英語での red flags 「赤い旗」には「危険な症状・所見・疾患」という意味があります。headacheのred flag として忘れてはいけないのが stroke 「脳卒中」です。この stroke は hemorrhagic stroke 「脳出血」と ischemic stroke 「脳梗塞」に分類され、前者の代表格である subarachnoid hemorrhage 「クモ膜下出血」の略語である SAH の発音は「ザー」ではなく、「エス・エー・エイチ」のようになります。また日本ではこの SAH による痛みを「バットで殴られたような」のように形容することがありますが、英語では thunderclap 「雷で打たれたような」のように形容することが一般的です。
このほか、 meningitis 「髄膜炎」も headache の red flag として忘れてはいけません。 pyrexia 「発熱」や emesis 「嘔吐」といった症状のほか、non-blanching rash という「(ガラス板で圧迫しても)退色しない皮疹」も bacterial meningitis 「細菌性髄膜炎」ではよく認められる所見で、 英語圏で “headache with a fever, vomiting and non-blanching rash” と聞けば、一般の方でも meningitis が思いつくくらい有名な所見として知られています。ちなみに「白くなる・させる」という意味の blanch は、「遅い朝食」の brunch や「枝・部門」の branch と紛らわしいので注意してください。
この meningitis では meningeal sign 「髄膜刺激症状」として nuchal rigidity 「項部硬直」が認められますが、これは一般英語では stiff neck となります。ただし症例報告などで「項部硬直なし」と表現する場合には “The neck is supple.” のように supple を使うことが一般的です。この supple は「グルグル回るくらい柔らかい」というイメージの形容詞で、stiff の対義語として使われます。
これら stroke や meningitis は life-threatening condition 「命に関わる病気」と呼ばれますが、同じheadache の red flag でも glaucoma 「緑内障」は sight-threatening condition 「視力に関わる病気」と呼ばれます。この glaucoma の症状で気をつけていただきたいのが「光の周辺に輪が見える現象」を表す halo の発音です。日本語では「ハロー」というカタカナで発音されていますが、英語では「ヘィゥロゥ」のような発音になります。「ハロー」と発音しても hello のようにしか聞こえませんのでご注意を。
Semantic Qualifier って何?
実際にはred flags を伴う secondary headaches は稀で、common cold/upper respiratory tract infection (URTI) 「風邪・上気道炎」や hangover 「二日酔い」といったものが原因となる secondary headaches が一般的です。このうち「頭痛を引き起こす風邪」のことを英語では head cold と呼びます。前頭部に “dull pressure” を引き起こす sinusitis 「副鼻腔炎」を一般的に「蓄膿」と呼びますが、これに該当する英語が「副鼻腔に症状を引き起こす風邪」というイメージの sinus cold となります。
頭痛の多くは他に原因のない primary headaches で、tension headache 「緊張型頭痛」、 migraine 「片頭痛」、cluster headache 「群発頭痛」の3つに分類されます。
筋緊張が原因の tension headache は「締め付けられる」痛みとして表現されます。英語圏の患者さんはこれを squeezing pain のように表現します。この squeezing以外にも tightening 「締め付けられる」や band-like 「バンドで締め付けられる」 のような形容詞もよく使われます。
migraine は pulsating pain「拍動性」の痛みを引き起こしますが、患者さんはこれを throbbing/pounding pain 「ズキズキする」痛みと表現します。
痛みのエピソードが「群れ」 cluster でやって来る cluster headache はpenetrating pain 「突き刺すような」痛みとして表現されますが、これ以外にも stabbing 「ナイフで刺されるような」や piercing 「針で刺されるような」、そして drilling 「ドリルで刺されるような」といった形容詞も使われます。また「アイスピックで刺されるような頭痛」として ice pick headache なんていう表現も存在します。
症例報告では患者さんが使った表現を semantic qualifier (SQ) 「臨床的な意義を与える医学用語」に変換する必要があります。例えば “bilateral squeezing headaches with distracting intensity” のように bilateral 「両側性」、squeezing 「締め付けられる」、 distracting 「集中を妨げる」という3つの SQ を使えば tension headache が想起されます。同じように「片側性」「拍動性」「日常生活に支障をきたす」 というSQ を使って unilateral pulsating headaches with disabling intensity と表現すれば migraine が、「眼窩周囲の」「突き刺すような」「死にたくなるような」というSQ を使って orbital penetrating headaches with suicidal intensity と表現すれば cluster headache が想起されます。このように症例報告ではSQ を使う習慣をつけることを意識すると、臨床推論のスキルも自然に向上します。ですから医学英語を学ぶに際にも是非こういった SQ を意識して身につけるようにしてください。
片頭痛の「前兆」と「予兆」って英語で何て言うの?
頭痛が migraine による場合、患者さんの中には「これから頭痛が来るのが何となくわかる」という人がいます。この「なんとなくわかるという感覚」を aura 「前兆」と呼び、そのような片頭痛を migraine with aura と呼びます。ただし migraine の患者さんが自分で aura という表現を使うことは稀で、頭痛が始まる前に感じる visual disturbances として表現することが一般的です。ですから aura を伴うのかどうかを確かめたい場合には、 “Do you have any visual disturbances?” のような表現で尋ねるといいでしょう。よく誤解されているのですが、 visual/hearing loss というのは「視力・聴力の低下」であり、「視力・聴力の消失」ではありません。これらが完全に消失した状態はそれぞれ blindness/deafness と区別して表現されますので注意してください。
このような visual disturbances 以外にも numbness and weakness という症状も現れる場合もありますが、前者は「感覚の低下・消失」であり、後者は「運動(機能)の低下」という意味になります。名詞で使う際には “I have numbness and weakness.” のように to have を使い、形容詞で使う際には “I feel numb and week.” のように to feel を使います。
migraine の患者さんには aura の前に「前駆症状・予兆」 prodrome symptoms が現れる方もいます。その中で「(何か特定の食べ物を)無性に食べたくなる衝動」は food cravings と呼ばれ、「気分の変調」は feeling などは使わずに mood changes と呼ばれます。話したり考えたりすることが困難になることは difficulty in thinking/speaking と表現されますが、この in が省略されて difficulty thinking/speaking とも表現されます。
これ以外にも prodrome symptoms として「光」「音」「匂い」などに「過敏」になる場合があり、医学英語ではそれぞれ photophobia, phonophobia, and osmophobia となり、一般英語では sensitivity to light/sound/odor (smell) のように sensitivity/sensitive を使った表現になります。この場合の phobia は agoraphobia 「広場恐怖症」や claustrophobia 「閉所恐怖症」などとは違い、「恐怖症」ではなく「過敏症」という意味になるので注意してくださいね。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に本日ご紹介した頭痛に関する英語表現をまとめておきます。
• Pain: 急性で鋭い痛み
• Ache: 慢性で鈍い痛み
• Sore muscles/muscle soreness: 筋肉痛
• Delayed onset muscle soreness (DOMS): 時間が経ってから来る筋肉痛
• A pain in the neck: 厄介なもの・人(慣用句)
• Non-blanching rash: bacterial meningitis に多く見られる「退色しない皮疹」
• Meningeal sign: 髄膜刺激症状
• Nuchal rigidity: 項部硬直
• The neck is supple: 項部硬直なし
• Halo: glaucoma などで認められる「光の周辺に輪が見える現象(「ヘィゥロゥ」のような発音)」
• Head cold: 頭痛を引き起こす風邪
• Sinus cold: 副鼻腔に症状を引き起こす風邪(「蓄膿」に該当する英語表現で sinusitis の一般英語)
• Semantic qualifier (SQ): 臨床的な意義を与える医学用語
• Tension headache: 緊張型頭痛
o Bilateral: 両側性
o Squeezing: 締め付けられる
o Tightening: 締め付けられる
o Band-like: バンドで締め付けられる
o Distracting: 集中を妨げる
• Migraine: 片頭痛
o Unilateral: 片側性
o Pulsating: 拍動性
o Throbbing: ズキズキする
o Pounding: ズキズキする
o Disabling: 日常生活に支障をきたす
• Cluster headache: 群発頭痛
o Orbital: 眼窩周囲の
o Penetrating: 突き刺すような
o Stabbing: ナイフで刺されるような
o Piercing: 針で刺されるような
o Drilling: ドリルで刺されるような
o Ice pick headache: アイスピックで刺されるような頭痛
o Suicidal: 死にたくなるような
• Aura: 前兆(片頭痛が来るのがなんとなくわかる感覚)
o Visual disturbances: 視覚異常
o Numbness: 感覚の低下・消失
o Weakness: 運動(機能)の低下
• Prodrome symptoms: 予兆
o Food cravings: (何か特定の食べ物を)無性に食べたくなる衝動
o Mood changes: 気分の変調
o Photophobia: 光線過敏
o Phonophobia: 騒音過敏
o Osmophobia: 嗅覚過敏
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之