こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「英語での医療面接のコツ」。
医学英語教育において「英語での医療面接」は基本的な学修項目であり、現在多くの医学部で取り入れられています。その中には「英語を話す模擬患者さんを使った医療面接」や「英語でのOSCE」などを導入している大学もあります。また、米国医師国家試験 USMLE に合格して米国での臨床研修を考えている医学生にとっては、実技試験である USMLE Step 2 Clinical Skills (CS) は日本人には最もハードルが高い試験であり、その対策に苦労している学生さんも数多くいます。私自身、医学英語教師としてこの「英語での医療面接」は、これまでずっと取り組んできている大きなテーマでもあります。
そこで今月は、現時点で私が最適と考える英語での医療面接の学び方とそのコツをまとめてお伝えしたいと思います。
Tip 1:「型」を覚える
日本の「医療面接」に相当する英語の表現は medical interview となりますが、他にも patient encounter や history taking などの表現もあります。USMLE Step 2 CS では patient encounter として下記の項目を15分間で行うことが求められます。
Patient Encounter
• Introduction
• History Taking
• Summary
• Physical Examination
• Closure
ここでおわかりいただけるように、patient encounter とは「病歴聴取」history taking と、「身体診察」physical examination などを含めた患者さん(特に外来患者さん)とのコミュニケーション全体のことを表します。
ここでは「医療面接」として上記の physical examination を除いた introduction, history taking, summary, and closure の4つを扱いたいと思います。
英語での医療面接を学ぶ上で大切なことは、まずこれらの基本構造とそれぞれの質問表現を「型」として覚えることです。この中でも特に history taking は下記の基本構造を持っていますので、まずはこれをしっかりと覚えましょう。
• Chief Complaint (CC)
• History of Present illness (HPI)
• Past Medical History (PMHx)
• Past Surgical History (PSHx)
• Medications (DHx)
• Allergies
• Family History (FHx)
• Social History (SHx)
• Review of Systems (ROS)
これらは皆さんが日本のOSCEで学んだものと少し異なるかもしれませんが、上記が英語圏での history taking の基本構造となります。
そしてこれらの項目に関して、それぞれの質問表現を「型」として暗記します。もちろん質問表現は「主訴」 chief complaint によって変わりますが、「痛み」が主訴の場合に使う英語での質問表現をこちらにまとめておきましたので、まずはこれらの質問表現をしっかりと「型」として暗記しましょう。
Tip 2:「現病歴」では「会話」をする
英語での医療面接を学ぶ場合、多くの学生さんが上記の「型を覚える」だけで終わってしまいます。しかし、ただ決まった質問をするだけなら英語の問診票で十分です。医療面接の最大の目的は「患者さんとラポール(短時間で築く信頼関係)を形成すること」 building a rapport with your patient です。そのためには患者さんと「会話」をすることが重要です。
この「会話」をする項目として最も重要なのが、「現病歴」 history of present illness (HPI) です。患者さんは「主訴」 chief complaint (CC) が原因で受診しているわけですが、その CC を詳細に尋ねていくのが HPI です。ですからこの HPI が患者さんとの「会話」において最も重要になるのです。
この HPI の尋ね方に関してはこちらに詳しくまとめてあるので詳細は省きますが、基本的には以下の3つのステップでアプローチします。
1. Open-ended questions: 開放型質問を使い「発症」「発症前」「発症後」の様子を詳細に語ってもらう。状況に合わせて質問を加え、適宜話を要約する。
2. Closed-ended questions: “pain’s OPQRST” や “SOCRATES” などをチェックリストとして使い、 聞き漏らしがないか確認する。
3. Associated symptoms: 鑑別疾患に伴う関連症状の有無を尋ねる。
最初の段階では、「患者の話に対応する」 responding to the patient’s remarks ということが何よりも重要になります。自分が用意した「開放型質問」を立て続けに浴びせるのではなく、患者さんの話に沿って自然な「会話」をすることが大切なのです。必要ならば “You said the stomachache started after you had a breakfast. What did you have for the breakfast?” や “You said you have been stressed out at work. Could you tell me more about your work?” のように質問を重ねていくことが重要です。そしてこの会話の最中に患者さんの話を適宜「まとめる」summarize ことをしてみましょう。そうすることで自分が何を聞き忘れているか、自然に思いつくようになります。
次に現病歴を尋ねる際によく使われている “pain’s OPQRST” や “SOCRATES” などをチェックリストとして使い、聞き漏らしがないかどうかを確認します。これらをいきなり機械的に尋ねていくと、患者さんとラポールを形成することが難しくなるばかりか、診断に必要な十分な情報を得ることもできなくなります。ですからこれらの質問項目は、「発症」「発症前」「発症後」について患者さん自身が十分に語り、さらに皆さん自身が要約した後に、聞き漏らしがないように確認するチェックリストとして使うようにしてください。
現病歴の最後は鑑別疾患に伴う関連症状の有無を尋ねます。この関連症状に関する質問を review of systems (ROS) と混同される方もいますが、ここでは主訴から考えられる鑑別疾患 differential diagnosis に関連する症状の有無を尋ねていきます。具体的には下記の6つのパターンを使えば、どんな症状についても尋ねることができます。
• Do you have (symptom: noun)?
• Do you feel (symptom: adjective)?
• Have you noticed any change in (habit)?
• Has anyone you know noticed any change in (appearance)?
• Have you been (verb)ing more than usual?
• Sometimes patients with (chief complaint) have (symptom: noun). Has this happened to you?
特に “Have you noticed any change in (habit)?” は開放型質問となり、患者さんにとっても回答において自由度が高い質問表現と言えます。また「勃起不全」 erectile dysfunction といった尋ねにくいような症状なども、 “Sometimes patients with high blood pressure have erectile dysfunction. Has this happened to you?” のように間接的に尋ねると、患者さんは回答しやすいと感じます。上記の6つの質問表現を組み合わせて、自分が尋ねたい関連症状の有無を尋ねてみると良いでしょう。
このように history taking において HPI は極めて重要な部分です。USMLE Step 2 CS では physical examination を除いた patient encounter におよそ12分間を使うことができます。ですから、英語での医療面接も基本的に12分間で練習することをお勧めしますが、その際には12分間の半分である6分間をこの HPI に使うことが目安となります。もしこれから英語での医療面接を本格的に練習したいと考えている方がいらっしゃいましたら、どんな症状でも上記の3つのステップを6分間で行えるように練習してみてください。
Tip 3: 医療面接の後半は尋問形式にならないように気をつける
医療面接で最も重要となる HPI について尋ね終えたら、次は past medical history から review of systems までを尋ねていきます。ここでは患者さんの主訴に関わらず、どんな主訴にも同じような質問をしていくことが求められます。ですから、この部分では機械的な尋問形式にならないように特に注意をすることが大切です。
具体的には患者さんの回答に合わせて質問を重ねたり、質問項目の順番を変えることが求められます。例えば past medical history を尋ねていて患者さんが内服薬の話を始めたら、そこで medications や allergiesの質問を重ねたり、同じような病気を持っている人が家族にいるかどうかを確認するために、 family history の質問をします。もちろんこれをやり過ぎると、何を尋ねて何を尋ねていないのか、わからなくなってしまう危険性もありますが、患者さんの回答に合わせて臨機応変に話題を変えることで、ありがちな尋問形式の医療面接を回避することができます。
そうは言っても history taking の最後に尋ねる review of systems (ROS) ではたくさんの質問をする必要があり、どうしても尋問形式になりがちです。そこでこの ROS の尋ね方に関しては少し丁寧に解説したいと思います。
日本語では「システムレビュー」という表現が一般的ではありますが、英語では語順が変わって一般的に review of systems (ROS) と呼ばれています。これはその名の通り、「臓器系統」である body systems を「振り返る」review ことで、患者の医療情報を包括的に理解する質問です。ここでは body systems を全て包括的に尋ねていくわけですから当然時間もかかり、忙しい日本の外来診療ではあまり尋ねられることはありません。しかし英語圏の history taking では必ず尋ねることが求められています。
英語の医療面接では、話題を変える際に transition と呼ばれる一言を伝えます。これは「これから〜を尋ねます」ということを伝える表現で、「社会歴」 social history を尋ねる際の transition としては “Now I would like to ask about your lifestyle.” のように伝えます。ROSの際には “In order to make sure we’ve not missed anything, I’d like to ask more broadly about your health.” のような表現を使います。
実際にROSを包括的に尋ねようとしても、何らかの効率的な「システム」がないと短い時間で尋ねるのは難しいと思います。そこで最初に尋ねるROSの質問項目として、「全身症状」「精神症状」「頭頸部」をお勧めします。「全身症状」は英語では general symptoms や systemic symptoms の他、constitutional symptoms とも呼ばれます。ここでは “Have you noticed any change in your appetite/weight/sleeping?” のように “Have you noticed any change in your…?” という開放型質問の表現が役に立ちます。「精神症状」 mental symptoms では、スクリーニングとして「気分障害」 mood disorders に関する開放型質問の “Have you noticed any change in your mood?” が便利です。そして「頭頸部」ですが、これは英語では Head, Eyes, Ears, Nose, and Throat の頭文字を取った HEENT と呼ばれています。発音はアルファベットをそのまま使って「エイチ・イー・イー・エヌ・ティー」のようになります。ここでは “Do you have any symptoms in your head/eyes/ears/nose/throat?” のように、 “Do you have any symptoms in your…?” という開放型質問表現が時間短縮においても役に立ちます。
次に各 body systems を効率的に尋ねていきます。とは言えbody systems を短い時間に全て思い出すのは難しいので、覚えやすい「語呂」mnemonics があると便利です。そこでお勧めするのが “MR DICE RUNS” 「サイコロさんが走る」というものです。
これは Muscular system, Respiratory system, Digestive system, Integumentary system, Circulatory system, Endocrine system, Reproductive system, Urinary system, Nervous system, and Skeletal system の頭文字を取ったものです。この中でもIntegumentary system は見慣れない方も多いと思いますが、これは「外皮系」、つまりskin & hair に関する臓器系統を表します。
実際に ROS を尋ねていく際には、この “MR DICE RUNS” を使って効率良く質問を重ねていきます。そしてこれらについて尋ねていく際には 、“Do you have diarrhea?” のような閉鎖型質問を使うのではなく、 “Have you noticed any change in your…?” や “Do you have any symptoms in your…?” といった開放型質問表現を使っていきます。もしそこで患者さんが何らかの症状を認めたならば、そこから具体的な質問を重ねていきます。そうすることでたくさんの質問が必要な ROS でも尋問形式となることを避けることができます。
このように、 transition, constitutional symptoms, mental symptoms, HEENT, and “MR DICE RUN” という「システム」があるだけでも、英語で ROS を包括的に尋ねることは可能です。またどうしても時間がない場合には、この中でも特に bowel movements, urinary habit, and menstruation だけでも聞き逃すことがないように心がけましょう。
Tip 4:最後に必ず “ICE” の質問をする
ROSが終われば患者さんに質問がないかどうか、そして自分が言ったことが伝わったかどうかを確認します。(“Do you have any questions? Is there anything I said which you did not understand?”)
そして患者さんの話を要約するのですが、要約が終わった後にもそれが正しいかどうか、そして他に付け加えることがないかどうかも確認します。(“Is that correct? Is there anything else you want to add?”)
また、ここで医療面接を終わらせずに、是非下記にある “ICE” の質問をするようにしてください。
• Ideas(患者さんが主訴についてどう考えているか)
“Do you have any ideas about it yourself?”
• Concerns(患者さんが主訴についてどのような心配事を持っているか)
“Is there anything particular that you are concerned about?”
• Expectations(患者さんが医師や病院にどのようなことを期待しているか)
“What are your expectations about this visit today?”
これらは患者さんの「解釈モデル」を尋ねるためにとても有効な質問です。医療面接の最後には必ずこの “ICE” の質問をして、患者さんがどのように解釈しているのかを確認するようにしてください。
Tip 5:患者役の練習をする
上記の4つが英語での医療面接において大切な留意点です。後は様々な症状に対してしっかりと医療面接ができるように「臨床推論」 clinical reasoningのスキルを高めていくことが求められます。
USMLE Step 2 CS では小児科や違法ドラッグなども含めた様々な症状が主訴として扱われていましたが、日本の医学生にとって最優先すべきは「医学教育モデル・コア・カリキュラム」にある37の症状です。この中で外来患者さんの主訴となりにくい「ショック」と「心停止」を除いた35の症状に関して、しっかりと臨床推論ができるように準備をしていくことを、まずは求められます。
もちろんこれは一朝一夕にできる対策ではありませんが、簡単な方法としては USMLE Step 2 CS の様々な対策本を使い、各症状に対するアプローチを自分なりにまとめていくことが挙げられます。
そしてこれらのアプローチをまとめていく中で、是非実践していただきたいのが「患者役の練習をする」ということです。
英語での医療面接における英語力として重要なことは、「患者さんが何を話しているのか理解できる」というリスニング力と、患者さんの話に柔軟に対応できるスピーキング力です。これらはどちらも皆さんの「英会話スキル」と相関しており、簡単に向上することはできません。
しかし医療面接という限られた状況においては、このリスニング力とスピーキング力を上げることはそれほど難しいことではありません。そしてそれらを効率的に向上させることができるのが「患者役の練習をする」ということです。
具体的には自分が演じる患者さんの「疾患名」を決め、それに合致するようなシナリオを英語で考えるのです。その際には Web MD や Mayo Clinic といった英語圏の患者さんが参照する医療情報サイトや、YouTube などの動画でそれぞれの疾患の患者さんが自分の体験などを語るものを見て、実際の患者さんがどのような英語表現を使うのかを参考にします。そしてそれらを使って患者役を練習するのです。
また、皆さんの大学には必ず英語の教員がいると思いますが、それらの教員には「患者役を演じてもらう」よりも、「患者役を演じるための台本作りを手伝ってもらう」方がはるかに効率的に英語の慣用表現などを学ぶことができるはずです。
これまでの私の経験から言っても、「医師役の練習をする」よりも「患者役の練習をする」方が、結果として医師役としてのスキルも向上すると感じています。是非35の症状に関する数多くの疾患の患者役を準備して、医療面接での英語スキル向上につなげていってください。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に本日ご紹介したポイントをまとめておきます。
• 英語の医療面接の基本表現を暗記する
• 「現病歴」 HPI では最初に開放型質問を使い、「発症」「発症前」「発症後」の様子を詳細に語ってもらう。状況に合わせて質問を加え、適宜話を要約する
• 「現病歴」 HPI での “pain’s OPQRST” や “SOCRATES” などは聞き漏らしがないか確認するためのチェックリストとして使う
• 「現病歴」 HPI の最後には鑑別疾患に伴う関連症状の有無も尋ねる
• 英語での医療面接は USMLE Step 2 CS 対策として12分間で終えるように練習し、そのうち半分の6分間は「現病歴」HPI に使う
• 「現病歴」HPI 以外の項目は尋問形式にならないように、患者さんの話に合わせて質問項目の順番を適宜変更する
• 「システムレビュー」は transition, constitutional symptoms, mental symptoms, HEENT, and “MR DICE RUN” という「システム」を使って尋ね、その際にも開放型質問を多用する
• 医療面接の最後には必ず患者さんの Ideas, Concerns, and Expectations を確認する “ICE” の質問をする
• 「医学教育モデル・コア・カリキュラム」にある37の症状のうち、ショックと心停止を除いた35の症状の臨床推論ができるようにする
• 特定の疾患を選び、その疾患の患者さんがどのような英語表現を使うかをインターネットや英語教師の助けを借りて調べ、患者役の練習をする
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之