こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「けいれんに関する英語表現」。
医学教育モデル・コア・カリキュラムの「37の症候・病態」の中でも、「けいれん」はその診断だけでなく、関連する英語表現も含めて苦手としている学生さんが多いという印象があります。
そこで今月は「けいれんに関する英語表現」を様々な視点からご紹介します。
そもそも「けいれん」って英語で何と言うの?
「けいれん」とは「発作的に起こる不随意運動」の総称で、医学用語ではありません。ですから患者さんが「けいれん」と言った場合、それが具体的にどのような動きなのかを確認する必要があります。
「けいれん」は英語では convulsion となり、日本語と同様に “a sudden involuntary contraction of the muscles” という定義になります。この動きは通常、複数であることが一般的ですので、convulsions のように複数形で表現することが一般的です。
そしてこの「けいれん」には、 convulsions 以外にも様々な英語表現が使われます。
「けいれん」が起こっている状態を fit や spell と表現します。これら は「発作」というイメージの名詞で、「けいれんが起こっている状態」や「突然意識を失った状態」という意味でも使われ、子どもが「癇癪(かんしゃく)を起こす」という動作も throw a hissy fit と表現されます。
身体が「ビクッと動く」や「ガックンガックンと動く」様子は一般的には jerking と表現されます。
このうち「ビクッと動く」は医学的には myoclonus 「ミオクローヌス」と表現されます。具体的には hiccups「しゃっくり・吃逆(きつぎゃく)」や入眠時に身体がビクッと動く「入眠時ミオクローヌス」などがこれに当たります。この「入眠時ミオクローヌス」は英語では hypnic/hypnagogic jerks や「発作・突然起こる不随意運動」を意味する starts を使って sleep starts と表現されます。どちらも必ず複数形で表現するのでご注意を。
「ガックンガックンと動く」様子は具体的には「関節の屈曲と伸展が交互に起こる様子」を意味し、医学的には clonus 「間代(かんたい)」と表現されます。
目蓋(まぶた)やなどが「ピクピクと動く」様子は一般的には twitching と表現され、医学的には fasciculation「繊維束性収縮」と表現されます。
また人によっては「ブルブルと震えるように動く」様子も「けいれん」と表現する場合があります。この「ブルブルと震えるように動く」様子は、一般的には shaking と呼ばれ、医学的には tremor「振戦」と表現されます。(「振戦に関する英語表現」はこちらをご覧ください。)
このように「けいれん」には様々な英語表現が使われるのですが、日本語の「けいれん」に相当する英語表現としては convulsions が使われるということをまずは押さえておきましょう。
Seizure と Epilepsy は何が違うの?
「けいれん」が convulsions であることは確認しましたが、良く似た用語に seizure と epilepsy というものもあります。皆さんはこれらの違いがわかりますか?
seizure とは “a sudden surge of electrical activity in the brain” を意味する表現で、日本語では「てんかん発作」と呼ばれます。これも通常、複数であることが一般的ですので、seizures のように複数形で表現することが一般的です。
この seizure に関する重要な形容詞として ictal というものがありますが、これは「てんかん発作中の」という意味になります。ここから preictal「てんかん発作前の」、peri-ictal「てんかん発作前後の」、postictal「てんかん発作後の」のような形容詞も派生しています。
epilepsy とは “a condition characterized by recurrent unprovoked seizures” を意味する表現で、日本語では「てんかん」と呼ばれます。
このように紛らわしい用語ではありますが、convulsions は「けいれん」、seizures は「てんかん発作」、そして epilepsy は「てんかん」という意味になるということをしっかりと押さえておきましょう。
いくつ言える?Seizures の種類
では次に convulsions の原因として重要な seizures 「てんかん発作」の種類を見ていきましょう。
大脳全般で過剰な神経の興奮が起こる seizures を generalized seizures 「全般発作」と呼びます。この generalized seizures の発作中、患者さんは意識を失っています。
この generalized seizures において最も頻度が多いのが tonic-clonic seizures 「強直間代(きょうちょくかんたい)発作」です。これは tonic seizures 「強直発作」という全身が強くこわばる発作と、clonic seizures 「間代発作」という手足をガックンガックンと動かす発作を交互に繰り返すけいれん発作で、以前は “grand mal seizures” 「大発作」とも呼ばれていました。
この tonic seizures と clonic seizures はそれぞれ単独に現れる場合がありますが、この他にも「ビクッと動く」myoclonus が突然起こる myoclonic seizures 「ミオクロニー発作」や、筋肉の緊張が突然低下するため “drop seizures” とも呼ばれる atonic seizures 「脱力発作」、そして不随意運動は現れずに意識だけ失ってしまう absence seizures 「欠神発作」(以前は “petit mal seizures” 「小発作」と呼ばれていました)なども generalized seizures に含まれます。
これに対して過剰な神経の興奮が大脳の一部に限局して起こる seizures を focal/partial seizures「部分発作」と呼びます。
このうち「意識が保たれる部分発作」focal onset seizures with awareness を simple focal/partial seizures「単純部分発作」と呼び、「意識を失う部分発作」 focal onset seizures without awareness を complex focal/partial seizures 「複雑部分発作」と呼びます。また部分発作から始まって全般発作に進展するものは secondary generalized seizures 「二次性全般化発作」と呼ばれます。
そして “a seizure that lasts longer than 5 min” 「5分以上続くてんかん発作」、もしくは “multiple seizures occurring back to back without full recovery of consciousness in between” 「短い発作の場合でも繰り返し起こり、その間意識のない状態が続くてんかん発作」は status epilepticus 「てんかん重積状態」と呼ばれ、迅速な処置が必要となります。
「けいれん」をきたす疾患を英語で挙げてみよう!
それではここで convulsions の鑑別疾患を考えてみましょう。
convulsions の原因には様々なものがありますが、大きく non-seizures 「非てんかん発作」と seizures 「てんかん発作」に分けて考えてみるとわかりやすいと思います。
non-seizures の代表例としては syncope 「失神」に伴う convulsions と、psychogenic non-epileptic seizures (PNES) 「心因性非てんかん(性)発作」があります。
syncope は様々な原因で起こります。そしてこの syncope の発音は「シンコピィ」のようになるので注意してください。
PNES は心因性の病態で、簡略的に non-epileptic seizures (NES) とも呼ばれます。代表的なものとして conversion disorder 「転換性障害」がありますが、これは不安やストレスなどが身体の症状に「転換」されてしまう心身症で、昔は原因が子宮にあると考えられたことから hysteria 「ヒステリー」と呼ばれていました。
これら non-seizures と seizures の区別は難しく、丁寧な病歴聴取が重要となります。
次に seizures ですが、これも誘因のある2次的なものと、誘因のない epilepsy に分けることができます。
誘因のある seizures の原因としては様々なものがありますが、神経症状に対してはどんな場合でも下記の4つの red flags 「危険な疾患」を考えるとわかりやすいと思います。
• stroke 「脳卒中」
• meningitis 「髄膜炎」
• intoxication「(薬物やアルコールなどの)中毒」
• metabolic conditions「代謝性疾患」
このうち seizures を引き起こす metabolic conditions としては hypoglycemia (低血糖)、hyponatremia (低ナトリウム血症)、hypernatremia (高ナトリウム血症)、hypocalcemia (低カルシウム血症)などを押さえておくと良いでしょう。この他、妊娠後期に起こる eclampsia「子癇(しかん)」も重要ですので覚えておきましょう。
Non-seizures と Seizures を見分けるためにどんな質問をすればいいの?
では次に「けいれん」を主訴として来院した患者さんに医療面接をする際に役立つ英語表現を見ていきましょう。
先ほど述べたように、non-seizures と seizures の区別は難しいので、丁寧な病歴聴取が重要となります。
Sheldonらが作成した Diagnostic Questions to Determine Whether Loss of Consciousness Is Due to Seizures or Syncope は、 seizures と non-seizures の代表格である syncope を下記の9つの質問によって簡単に鑑別することを可能にしています。
Seizures を疑わせる項目を尋ねる質問
• At times do you wake with a cut tongue after your spells?(Yes で 2点)
• At times do you have a sense of deja vu or jamais vu before your spells?(Yesで1点)
• At times is emotional stress associated with losing consciousness?(Yes で1点)
• Has anyone ever noted your head turning during a spell? (Yes で1点)
• Has anyone ever noted that you are unresponsive, have unusual posturing or have jerking limbs during your spells or have no memory of your spells afterwards? (Yes で1点)
• Has anyone ever noted that you are confused after a spell? (Yes で1点)
Syncope を疑わせる項目を尋ねる質問
• Have you ever had lightheaded spells? (Yes で -2点)
• At times do you sweat before your spells? (Yes で -2点)
• Is prolonged sitting or standing associated with your spells?(Yes で -2点)
上記の質問表現で、deja vu と jamais vu はフランス語なのでわかりにくいと思いますが、前者は「見たことのないものを見たことがあるように感じる」という「既視感」を、後者は「見慣れたものを初めて見たように感じる」という「未視感」を意味します。
上記9つの項目に対する回答の合計点が1点以上であれば seizures と、1点未満であれば syncope と考えられます。
この他にも urinary incontinence「尿失禁」は seizures を疑わせる項目ですが、これを尋ねるには “Did you lose control of your bladder?” や “Did you wet yourself?” といった質問表現を使うと良いでしょう。
知っておきたい seizures への対処方法
では最後に seizures 「けいれん発作」に対する対処方法と、それに関する英語表現を確認しておきましょう。
もしも皆さんが generalized seizures を起こして倒れている人を見かけた場合、まずは落ち着いて患者さんの安全確認をしましょう。そして発作の時間を計測してください。5分以上続く場合は status epilepticus となり、発作が収まったとしても医療機関への受診が必要となります。発作中は患者さんの周りから危害が及ぶようなものを取り除きますが、けいれんが起きている間、身体を拘束することは避けましょう。また舌や口の中を噛むことを抑制するために口の中に指や物を入れることは絶対に避けてください。指が食いちぎられたり、歯が折れてしまう可能性があります。発作が収まった後は誤嚥を防ぐためにも横向きの recovery position にしてあげましょう。
Status epilepticus の治療には benzodiazepine (「ベンゾダィアゼピン」のような発音で、benzos や BDZs とも呼ばれます)を intravenous (IV) で投与します。この benzos には diazepam (「ダィアゼパム」のような発音)や lorazepam などが含まれます。
generalized seizures のうち、tonic-clonic seizures には valproate/valproic acid が、そして absence seizures には ethosuximide が使われます。
そして focal seizures には carbamazepine が使われますが、この発音も「カァバマゼピィン」のようになるので気をつけてください。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回ご紹介した「けいれん」に関する英語表現の要点をまとめておきます。
Convulsions: けいれん
Seizures: てんかん発作
Epilepsy: てんかん
Seizures の種類
Generalized seizures: 全般発作
• Tonic-clonic seizures: 強直間代発作
• Tonic seizures: 強直発作
• Clonic seizures: 間代発作
• Myoclonic seizures: ミオクロニー発作
• Atonic seizures: 脱力発作
• Absence seizures: 欠神発作
Focal/partial seizures: 部分発作
• Simple focal/partial seizures: 単純部分発作
• Complex focal/partial seizures: 複雑部分発作
• Secondary generalized seizures: 二次性全般化発作
Status epilepticus: てんかん重積状態
Convulsions の鑑別疾患
Non-seizures: 非てんかん発作
• Syncope: 失神
• Psychogenic non-epileptic seizures (PNES): 心因性非てんかん(性)発作」
Seizures: てんかん発作
Seizures caused by other conditions
• Stroke: 脳卒中
• Meningitis: 髄膜炎
• Intoxication: (薬物やアルコールなどの)中毒
• Metabolic conditions: 代謝性疾患
• Eclampsia: 子癇
Epilepsy: てんかん
では、またのご来店をお待ちしております。
引用文献
Sheldon R, Rose S, Ritchie D, Connolly SJ, Koshman ML, Lee MA, Frenneaux M, Fisher M, Murphy W. Historical criteria that distinguish syncope from seizures. Journal of the American College of Cardiology 2002 July 3, 40 (1): 142-8
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之