Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 35 関節痛に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「関節痛に関する英語表現」。

関節痛」の原因となる「膠原病」には様々な疾患がありますが、それらの英語表現や発音を苦手としている方も多くいることでしょう。また膠原病以外の関節痛の鑑別疾患に関しても、そこには日本人にあまり知られていない英語表現も数多く存在します。

そこで今月は、「関節痛に関する英語表現」をご紹介します。

関節を意味する医学英語にはどんなものがあるの?
関節」の英語として最も使われるのは当然 joint です。そして「関節痛」の英語もシンプルに joint pain となります。

ただこの joint は一般英語で、医学英語としては arthro– という接頭辞が使われます。したがって joint pain は、この arthro– に「痛み」を表す –algia という接尾辞と組み合わせて arthralgia とも表現されます。

新聞記事」や学術誌に掲載される「論文」のことを article と呼びますが、これは元々「小さな関節」というイメージの表現です。そして、そこから生じた articulation は「はっきりと区切る」というイメージの表現であるため、「関節」という意味でも使われます。さらにここから生じた articular という形容詞は、関節の数を表す際によく使われ、「1つの関節の」を表す形容詞として monoarticular が、そして「少ない」を意味する oligo– や「多い」を意味する poly– と組み合わせて、「4つ以下の関節の」を表す形容詞の oligoarticular や、「5つ以上の関節の」を表す形容詞の polyarticular が使われています。

そして「関節痛」の鑑別で重要な「関節炎」は、arthro– に「炎症」を表す –itis を組み合わせて arthritis と表現されます。これに先ほどの mono-/oligo-/poly- を組み合わせて、monoarthritis/oligoarthritis/polyarthritis と表現されますが、炎症のある関節の数を特に強調したい場合には先ほどの articular を使い、monoarticular arthritis/oligoarticular arthritis/polyarticular arthritis のようにも表現されます。

関節痛の診断はどう考えればいいの?
関節痛」がある場合、患者さんは pain in my joint(s) のような表現の他、痛む部位の名称を述べて pain in my wrist(s) のような表現も使います。日本語では名詞に「単数形」と「複数形」の区別がありませんが、英語の pain in my wrist は「片方の手首が痛い」であり、「両方の手首が痛い」を意味する pain in my wrists とは意味が大きく異なることに注意してください。

ではこの「関節痛」の鑑別疾患をどのように考えていけばよいのでしょうか?色々な考え方があると思いますが、ここでは初学者を対象とした簡単なものをご紹介しましょう。

「関節痛」の診断を考える場合、まずは「外傷trauma/injury を除外しましょう。というのも、これは比較的簡単に病歴から判断することができるからです。そしてその関節痛が「外傷」による場合、日本の医療では「整形外科orthopedics に「紹介refer することが一般的です。

次にその「関節痛」が「外傷以外」の場合、関節痛がある部位に「炎症inflammation があるかどうかを確認します。ここで重要になるのが皆さんも「病理学pathology で習った「炎症の5徴」です。これは英語では the 5 cardinal signs of inflammation と呼ばれています。この cardinal は「ローマ教皇の最高顧問が着る真紅の色の」というイメージの表現で、そこから「極めて重要な」という意味で使われます。

The 5 Cardinal Signs of Inflammation: 炎症の5徴
   Redness (rubor): 発赤
   Pain (dolor): 疼痛
   Heat (calor): 熱感
   Swelling (tumor): 腫脹
   Loss of function (functio laesa): 機能障害(「関節痛」の場合は limited range of motion)

上記の括弧の中の表現はラテン語なのですが、海外の医学生たちはこの cardinal signs をラテン語でも覚えるのが一般的です。ですので「海外の医学生と同じ水準の語彙を身につけたい」と考えている方は、rubor(「ルゥボゥ」のように発音), dolor(「ドロゥ」のように発音 ), calor(「カロゥ」のように発音), tumor(「テュモゥ」のように発音), and functio laesa(「ファンクシオ レィザ」のように発音)という5つのラテン語も覚えてみてください。

ちなみに英語の swelling は名詞ですので、「手首が腫れている」と言いたい場合には、 “My wrist is swelling.” ではなく、 “My wrist is swollen.” のように swollen という形容詞を使ってくださいね。

「関節痛」にこれらの cardinal signs があればそれは「関節炎arthritis となります。その場合には「急性acute と「慢性chronic とに分けます。そしてそれぞれを「単数の関節炎」である monoarticular arthritis と、「複数の関節炎」である polyarticular arthritis に分けて考えます。

外傷でもなく、そして炎症の cardinal signs がなければそれは「関節炎」arthritis とはならないはずですが、これに該当する代表的な疾患である「変形性関節症」には、 osteoarthritis (OA) のように arthritis という名称が与えられています。ご存じのようにこの疾患は、「関節軟骨cartilage が「擦り減るwear and tear ことによって生じる疾患なのですが、英語圏では non-inflammatory arthritis という矛盾した(?)呼び名が与えられています。

話が少し長くなりましたので、ここで一度「関節痛」の鑑別疾患を簡単にまとめておきましょう。

Joint Pain の鑑別疾患
   Trauma: 外傷

   Inflammatory Arthritis: 5 Cardinal Signsのある関節炎
    o Acute Monoarticular Arthritis: 急性単関節性関節炎
         Bacterial Infection & Gout
: 細菌性感染 & 結晶性関節炎

    o Acute Polyarticular Arthritis: 急性多関節性関節炎
         Bacterial & Viral Infection
: 細菌性 & ウイルス性感染

    o Chronic Monoarticular Arthritis: 慢性単関節性関節炎
        Tuberculosis Arthritis
: 結核性関節炎

    o Chronic Polyarticular Arthritis: 慢性多関節性関節炎
        Rheumatic Disorders
: リウマチ性疾患

   Non-Inflammatory Arthritis: 5 Cardinal Signsのない関節炎
        Osteoarthritis
: 変形性関節症

英語での手根骨の覚え方
「関節痛」の原因が「外傷trauma の場合、その原因は実に多様ですが、ここでは頻度の高い手首の外傷を一つご紹介しましょう。

転倒する際に手をつくputtioug out a hand to break the fall ことで手首を痛めることがありますが、これによる外傷を Fall Onto an Outstretched Hand injury の略語を使って FOOSH injury と呼びます。そしてこの FOOSH injury による「関節痛」の原因としては「手根骨carpals の骨折が重要になります。

8つある「手根骨carpals の名前と部位を覚えるのはどこの国の医学生にとっても苦痛以外の何物でもありません。そこで役に立つのが “So Long To Pinky. Here Comes The Thumb.” という「語呂合わせによる記憶方法mnemonic です。これは自分の手を眺めながら、近位4列の手根骨を親指 thumb から小指 pinkyにかけて “So Long To Pinky” と唱えて、 Scaphoid, Lunate, Triquetrum, Pisiform という4つの近位側の手根骨を覚えます。次に遠位4列の手根骨を小指 pinky から親指 thumb にかけて “Here Comes The Thumb” と唱えて “Hamate, Capitate Trapezoid, Trapezium” という遠位側の四つの手根骨を覚えるのです。「手根骨なんてもう覚えていない!」という読者の方もこれを機会に是非英語で覚え直してみてください。

So Long To Pinky
   Scaphoid: 舟状骨
   Lunate: 月状骨
   Triquetrum: 三角骨
   Pisiform: 豆状骨

Here Comes The Thumb
   Hamate: 有鉤骨
   Capitate: 有頭骨
   Trapezoid: 小菱形骨
   Trapezium: 大菱形骨

8つある carpals の外傷で、FOOSH injury の原因として圧倒的に多いのが「舟状骨骨折scaphoid fracture です。この scaphoid は血流が遠位側から供給されるために回復しにくく、「偽関節false joint を形成しやすいので注意が必要です。

ライム病に関する英語表現
次に acute arthritis の原因を見ていきましょう。
acute monoarticular arthritis の場合には、「痛風gout や「偽痛風pseudogout といった「結晶性関節炎crystal arthritis が重要な鑑別疾患となりますが、細菌性やウイルス性の感染症の可能性もしっかりと考慮しましょう。


acute arthritis を引き起こす感染症は数多くありますが、ここは医学英語を学ぶカフェですので、米国で多い「ライム病Lyme disease に関する英語表現を紹介したいと思います。

これは Borrelia burgdorferi(「ボリィア バァフェラィ」のように発音)という細菌によって起こる感染症です。この Borrelia burgdorferi は「スピロヘータ」の一種なのですが、英語の spirochete は「スィロキィ」のように日本語とは全く異なる発音になるので注意してください。

そしてこの Borrelia burgdorferi という細菌は「マダニtick によって媒介されます。米国では Lyme disease の vector として、 blacklegged tick(別名 deer tick )という黒い足のマダニが有名です。ちなみに「マダニtick と「ダニmite は英語では名称が大きく異なるため、英語圏の一般の方はこれらを全く異なる生き物と捉えています。またこれらを「シラミ」や「ノミ」と混同される医学生も多くいるので、ここでこれらの英語名をまとめてご紹介しておきましょう。

   Tick: マダニ
   Mite: ダニ
   Lice: シラミ
   Nits: シラミの卵
   Flea: ノミ

このLyme disease では、最初に blacklegged tick に刺された部位に「射的」のような bulls-eye skin rash が現れます。そしてこの同心円状の皮疹は時間経過と共に形を変えるので、医学的には「遊走性紅斑erythema migrans と呼ばれます。そして細菌が全身に広がると「関節炎arthritis の他、「顔面神経麻痺facial nerve paralysis や「房室ブロックatrioventricular block なども引き起こします。Lyme disease の Lyme は果物の「ライムlime と同じ発音です。ですからこの Facial nerve paralysis, Arthritis, Cardiac block, and Erythema migrans を覚えるために、lime を使った「キーライムパイ」 key lime pie を顔にぶつけることをイメージした “A Key Lime Pie to the FACE” という mnemonics が米国の医学生にはよく使われています。

「膠原病内科」って英語で何と言うの?
次にchronic arthritis ですが、それが chronic monoarticular arthritis ならば「結核性関節炎tuberculosis arthritis を考えましょう。そしてそれが chronic polyarticular arthritis ならば、様々な「リウマチ性疾患rheumatic disorders/diseases を原因として考えます。

この rheumatic disorders/diseases は「結合組織疾患connective tissue disorders/diseases や「膠原病collagen disorders/diseases などとも呼ばれますが、その使い分けはあまり厳密ではありません。つまり「英語圏の医師もあまり意識して使い分けてはいない」というわけです。この rheumatic diseases と collagen diseases のように「ほとんど同じ」というものを、英語では “six of one, half a dozen of the other”「12個入りの1パックの卵のうちの6個か、もう一方の半パックの卵か」と表現します。これは「厳密に言えば違いはあるのだろうけどが、ほとんど同じなのでどっちでもいいもの」という意味の慣用表現で、省略して “six of one” などとも表現されます。

ただし「膠原病内科」の英語圏での表現は rheumatology であり、「膠原病内科医」も rheumatologist と呼ばれます。英語での immunologist は「免疫学者」であり、allergist は「アレルギー専門医」です。これらは rheumatologist とは明確に区別されて使われていますので、混同しないように注意してくださいね。

シェーグレン症候群は英語でどう発音されるの?
では次に、数多くある rheumatic diseases の英語表現を見ていきましょう。

全身性エリテマトーデスsystemic lupus erythematosus の略称には、英国や豪州では日本と同様に略語の SLE が使われますが、米国では一般的に lupus と呼ばれます。様々な症状をきたすこの SLE/lupus は他の疾患との鑑別が難しく、英語では the great imitator とも呼ばれています。日本でも人気の「ドクター・ハウス」 “House, M.D.” では鑑別疾患」の一つとしていつも名前が挙がるため、このドラマをある意味で象徴する疾患となっています。

シェーグレン症候群Sjögren’s syndrome はスウェーデンの医師、そして「ベーチェット病Behçet’s disease はトルコの医師の名称からついた病名です。それぞれの言語での発音は、日本語の「シェーグレン」や「ベーチェット」に近いと思われますが、英語圏の方はそれらを「英語風」に「ショーグレン」や「ベチェッツ」のように発音しますので注意してください。

これ以外にも rheumatic diseases として数多くの疾患が存在します。それぞれの正しい発音や、関連する英語表現を身につける最も効率的な方法は「動画教材」を使うことです。Johns Hopkins大学の膠原病内科が、患者さんや一般の方を対象とした Johns Hopkins Rheumatology というYouTube チャンネルを公開しています。ここではそれぞれの rheumatic disease のOverview, Signs & Symptoms, Diagnosis, Treatment, and Lifestyle Options を網羅的に紹介しています。慢性の経過を取るrheumatic diseases では patient education が重要ですので、皆さんもこれらの動画を視聴して、英語で患者さんに説明できるように練習してみてくださいね。

   Rheumatoid Arthritis
   Systemic Lupus Erythematosus
   Scleroderma Associated Myopathy
   Polymyositis
   Dermatomyositis
   Sjögren’s Syndrome
   Ankylosing Spondylitis
   Vasculitis

ボタン穴変形って英語で何と言うの?
最後に rheumatic diseases に関する重要な英語表現をいくつかご紹介しましょう。

慢性の経過を取る rheumatic diseases には、「症状がますます悪くなる」という「増悪ぞうあく)」 flare と、「症状が落ち着く」という「寛解かんかい)」remission という時期があります。そしてこの flare は、 flare up のように動詞としても使われます。

また rheumatic diseases の多くは、他の人から見ると「病気には見えない」「健康に見える」ために患者さんは周囲の理解不足に苦しむことが多いため、invisible illness などとも呼ばれます。

SLE/lupus の特徴的な sign として有名な「蝶形紅斑」ですが、この英語として多くの日本人が使うbutterfly rash は一般英語です。英語圏の医学生や医師が使う医学英語はこのbutterfly rash ではなく、「頬骨紅斑」を意味する malar rash となります。

関節リウマチrheumatoid arthritis (RA) では手指に特徴的な所見が現れます。このうち「スワンネック変形」の英語は、そのまま swan-neck deformity となりますが、屈曲した PIP joint の骨が腱に「ボタン穴」のような穴を開ける「ボタン穴変形」は、英語では buttonhole deformity ではなく、boutonniere deformity と呼ばれます。英語では「ブートニィァ」のように発音される boutonniere の本来の意味は「(上着の襟の)ボタン穴」なのですが、そこから転じて現在は「上着の襟のボタン穴につけるアクセサリー」という意味で使われていて、日本語でも「ブートニエール」という表現で定着しています。いずれにしても英語では buttonhole deformity という表現はほとんど使われず、boutonniere deformity という表現が使われています。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回ご紹介した「関節痛」の鑑別疾患をもう一度まとめておきます。

Joint Pain の鑑別疾患
   Trauma: 外傷

   Inflammatory Arthritis: 5 Cardinal Signsのある関節炎
    o Acute Monoarticular Arthritis: 急性単関節性関節炎
       Bacterial Infection & Gout
: 細菌性感染 & 結晶性関節炎

    o Acute Polyarticular Arthritis: 急性多関節性関節炎
        Bacterial & Viral Infection
: 細菌性 & ウイルス性感染

    o Chronic Monoarticular Arthritis: 慢性単関節性関節炎
       Tuberculosis Arthritis
: 結核性関節炎

    o Chronic Polyarticular Arthritis: 慢性多関節性関節炎
       Rheumatic Disorders
: リウマチ性疾患

   Non-Inflammatory Arthritis: 5 Cardinal Signsのない関節炎
       Osteoarthritis
: 変形性関節症

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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