Dr.押味の医学英語カフェ

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こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「海外臨床実習に必要な準備」です。

読者の中にも、6年次の4月から行われる選択臨床実習を海外の医療機関で行うという方もいらっしゃることでしょう。そんな海外臨床実習を直前に控えている方は「海外の臨床実習ではどんな英語力が求められるのだろう?」と心配でしょうし、将来海外臨床実習を考えている低学年の方は「今からどんな準備をしたらよいのだろう?」という不安を抱えていることと思います。

そこで今月は海外臨床実習に必要な準備を具体的にご紹介します。

「履歴書」の英語は resume? それとも CV? どっちが正しいの?
臨床目的や研究目的に関わらず、海外留学をする際に準備する必要があるのが英語での「履歴書」「志望動機書」「推薦状」という3つの書類です。

この中で最も重要となるのが「履歴書」なのですが、これを英語では何と表現するのでしょうか?

英語圏には日本の「履歴書」に相当するものとして resumecurriculum vitae (CV) の2つが存在しますが、この2つは異なります。

resume とは A4サイズ1枚の書類で、日本でアルバイト応募の際に提出する「履歴書」に近いものと言えます。ただこの resume は英語圏では医師や研究者のような「専門職」の採用で使用されることはほとんどありません。医師や研究者のような専門職の採用に関しては、日本で言うところの「業績書」に近い curriculum vitae(「カキュラム ヴィタイィ」のような発音)である CV というものが使用されます。ですから医学生が「履歴書」として準備しなければならないのは A4サイズ1枚の resume ではなく、CV という書類であるということをまず認識しておいてください。(北米では CV の要約版である resume を作成・提出する場合もありますが、その場合でも CV は必須です。)

留学生の選考において最も重要な書類であるこの CV に高いデザイン性は一切求められません。保守的な考え方の人が読むことを想定して、保守的なデザインで仕上げましょう

CV の大きさは A4サイズで、枚数は 3枚から 5枚程度となります。必ず白の背景黒の文字を使うようにしましょう。フォントも Times New RomanCambria といった一般的なものしか使わず、大きさも11か12 ポイントで統一します。またページ下の中央には必ずページ番号をつけ、各項目は箇条書きで表現します。その際の動詞は具体的な行為を表す action verb を使い、その時制は必ず過去形にしましょう。

学生さんの中には「先輩が作った英語での履歴書のフォーマットをそのまま使う」という方が多いのですが、これには注意が必要です。その先輩が「英語圏で作られた CV を参考にして作成した」という場合であれば問題はないのですが、その先輩も「他の日本人が作った英語の履歴書を参考にした」という場合、「あまり良くないお手本を帰納法的に使い続けている」という可能性があります。まずはこちらのような「英語圏で作られた CV 」をお手本にして、自分自身で英語の CV を作成することをお勧めいたします。

CV の項目に関しては絶対的な基準があるわけではありませんが、下記の項目が一般的です。

  Personal Information
  Education
  Clinical Experiences
  Research Experiences
  Publications & Presentations
  Volunteer Experiences & Extracurriculars
  Awards & Scholarship
  Optional Sections

最後の Optional Sections ですが、ここでは一般的に所属学会(学生でも学会に所属することは珍しいことではありません!)や使える言語(このコラムを読んでいる方であれば「日本語」です)、そして人事において評価されやすいリーダーシップマネジメントに関する経験を記載することが求められます。

これを見て「自分は部活ばかりやっていたから research とか volunteer とか全く書くことないんですけど…」と思われた方も多いことでしょう。

しかし受け入れ先となる海外の医学部では、「research とか volunteer とかやらずに運動ばかりやっている医学生なんて見たことがないんですけど…」と思われます。

課外活動としては運動系の部活動しかしていない」ということが悪いわけではありませんが、「海外の医学生の多くは自分の CV を洗練させることを意識して学生生活を送っている」ということは覚えておいてください。そして「今は低学年だけれども高学年で臨床留学を計画している」という学生さんは、「海外の医学生の多くは自分の CV を洗練させることを意識して学生生活を送っている」ということを忘れずに、早目に自分の CV 作成に着手して、後悔のない学生生活を送ることをお勧めします。

“Show me! Don’t tell me!” とは?志望動機書の上手な書き方
この CV の情報に「この候補者がなぜこのプログラムに応募してきたのか」という「物語」を加えるのが「志望動機書personal statement です。これは A4サイズ1枚800 words 程度で書かれた essay のことで、下記の3つの内容を書くことが求められます。

1. Why this program? (数ある大学・病院のプログラムの中でなぜこの大学・病院のプログラムを選んだのか:志望動機)
2. Why you are a good fit for the program? (数ある候補者の中でなぜ自分が最適なのか:自己アピール)
3. Future career plans (この留学を通して何を学びたいのか・そしてそれが将来の自分の目標とどのように関連しているのか)

そしてこの personal statement では “Show me! Don’t tell me!” ということが重要になります。つまりこれは “I am diligent.” 「私は勤勉です。」のように tell するのではなく、具体的なエピソードを記述することで自分が勤勉であるということを show することが必要だということです。

質の高い personal statement を書くためには、質の高い personal statement をたくさん読む必要があります。これまで英語の personal statement を読んだことがない人は、こちらのリンク先に掲載されているサンプルをたくさん読んでみてください。ただ「正解」が大好きな日本の学生さんは「上手な人の essay を参考にしてそのフォーマットをそのままコピーしよう」と考えがちですが、そんなことをしても全く評価されません。リンク先のサンプルにあるように personal statement には実に多様な書き方があり、学生本人の「独自性」が重要となります。まずは質の高い personal statements を数多く読み、それらを参考に留めて自分なりの personal statement を作成してください。

そしてこれら CV と personal statement の作成において最も重要なのがスペルや文法、そしてスペースやピリオドの使い方といった句読法punctuation の間違いがないことです。(ちなみに英語では「スペルミス」のことを typographical error の略である typo と表現します。)日本人はこの typos や punctuation mistakes を「そんな些細なことは誰も気にしないよ」と考えがちですが、英語圏では「こんな簡単な間違いも自分で訂正できない人間は無能に違いない」と考えます。特に現在では 書類作成ソフトのスペルチェック機能に加え Grammarly のような自動校閲サービスも利用できるので、CV や personal statement のような重要な書類を提出前には「絶対に間違いのない」書類を作成するように心がけてくださいね。

誰に書いてもらう?「誠実」であることが条件である英語の推薦状
この CV と personal statement は皆さん自身が準備する書類なのですが、もう一つ重要な書類として「推薦状letter of recommendation (LOR) があります。

そしてこの LOR には次の2種類の目的があります。

  犯罪経歴犯罪の経歴がないことや身分の証明
  候補者の推薦

犯罪経歴証明書」と聞くと何だか物騒な感じはしますが、長期間海外に滞在する際にはこういった書類の提出を求められることが一般的です。しかし医学生は「犯罪の経歴がない」ことが一般的ですので、医学生が所属する大学の教員が執筆する LORでこれを代替するのです。

日本では自分のことを個人的によく知らない「学長」や「医学部長」にこの LOR を依頼する学生さんがいますが、その場合の LOR の効果は「犯罪の経歴がないことの証明」もしくは「この候補者は本当にその大学の医学生であるということの証明」程度にしかならないと思ってください。

また学生自身が自分の強みや特技などを記載したものを自分のことをよく知らない教員に渡し、それを元に教員が LOR を書くという場合もありますが、そのような LOR には推薦者の熱意が感じられず、残念ながら「候補者の推薦としては機能しません英語圏で LOR が「候補者の推薦」として機能するためには、その LOR が「その医学生についてよく知っている人物」によって熱意を込めて執筆される必要があるのです

また日本の推薦状では社交辞令的に学生のことを賛辞する傾向がありますが、英語圏の LOR では学生について「誠実honest に記述することが大原則です。つまりその学生が「極めて優秀」「優秀」「それ以外」のいずれかであることがはっきりと伝わるように執筆するのが英語圏での LOR なのです。

学生の目線から考えると「それは酷だ!」と感じると思いますが、誠実ではない LOR を受け取る側の立場になって考えると、「LOR で描かれていた学生とは全く異なる学生じゃないか!」ということになり、LOR を執筆した推薦者も信用を失ってしまいます。そうならないためにも英語での LOR は「嘘偽りない誠実なもの」であることが求められるのです。

競争率がそれほど高くない海外臨床実習プログラムであれば LOR は必要ではないかもしれませんが、競争率の高いプログラムへの応募には LOR による応募者への援助は必須です。そして米国での residency program に応募する際には、米国人医師による strong LOR が絶対に必要となります。

こう聞くと大学での成績があまり良くない学生さんは絶望してしまいがちですが、対策はあります。皆さんの良さ(強み)をよく理解している人で、なおかつ皆さんのことを心から応援してくれている人に LOR を書いてもらうのです。人間誰しも強みはあり、応援してくれる人もいるはずです。そしてそれは自分の大学の教員である必要はありません。課外活動を通して皆さんの強みを理解し、なおかつ応援してくれる人(可能であれば医師が良いでしょう)に LOR を執筆してもらうように頼んでみましょう。そういう医師に誠実に熱意を込めて執筆していただく LOR の方が、社交辞令的な LOR よりも「候補者の推薦」としては機能するはずです。

海外臨床実習に必要な3つのスキルとは?
では次に海外臨床実習で必要な3つのスキルを見ていきましょう。

この3つのスキルの前提として「英会話」の能力は必須となります。

英国や米国といった英語圏の医療機関で参加型臨床実習をする場合には CEFR C1 Level上級の英語力が必須となりますが、英語圏以外の国での参加型臨床実習をする場合には CEFR B2 Level中上級以上の英語力が目安となります。ただそこまでの英会話能力はなくても、「周囲から自分に何をするように求められているのかがわかる」ことができて、「自分が伝えたいことを何とか伝えることができる」のであれば、(周囲に負担はかかるでしょうが)海外での参加型臨床実習を(何とか)乗り越えられるとも言えます。英会話の能力は現地に入ってからも(ある程度は)向上するので、現時点での英会話の能力が十分ではないこと(だけ)を理由に海外臨床留学を諦めないでください。

では、海外臨床実習で必要な3つのスキルとは何なのでしょうか?

それは下記の3つです。

  英語での医療面接
  英語での症例報告
  英語でのカルテ記載

それぞれのスキルの詳細は上記のリンク先をご覧頂くとして、日本の医学生にとって最も難しいと言えるのが「英語での症例報告」です。これは留学する前に何度も練習が必要なスキルと言えます。次回 2023 年 4 月公開の医学英語カフェにて「英語での症例プレゼンテーション:中級編」もご紹介しますので、そちらもどうかチェックしてください。

また上記の 3 つ以外にも「医学論文を読んでその内容を発表する」という Journal Club Presentation のスキルも重要になります。その方法もこちらでご紹介していますので、留学前に是非確認しておいてください。

実り多い海外臨床実習にするために必要な心構えとは?
では最後に、海外臨床留学を充実させるために必要な考え方をいくつかご紹介しましょう。

留学先では「自分が母国代表である」と自覚する
皆さんが留学生を受け入れた際、その留学生の母国について色々と尋ねたりするのと同様に、皆さんも留学先では自分の母国について色々と尋ねられます。日本から留学する場合には日本のこと、そして自分の大学のことがたくさん尋ねられると考えて準備しておきましょう。そして留学先の人々が抱く皆さんの母国への印象は、皆さんの立ち居振る舞いや語る内容で決まります。留学先では常に「自分が母国代表である」と自覚して行動してください。

また日本の医学部から留学する場合、留学先へのお土産としてはやはり「日本的」なものが喜ばれます。荷物にならない「抹茶」や「折り紙」といった定番のお土産の他、個人的には「日本の文房具(特に ジェットストリーム、ユニボールワン、フリクションボールのような高性能のボールペンなど)」がお勧めです。これまで日本の文房具を贈った人たちからは「あれからずっと使っています!」と言って喜ばれています。

受け入れ先のスタッフ全員の顔と名前を覚える
人間は自分が大切にされていると感じたら、相手のことも大切にする傾向があります。ですから留学初日から皆さんがお世話になる人たち全員の顔と名前を覚えることで、彼らの皆さんへの対応も必ず良くなります。

私は毎年 4 月に入学する 140 名の国際医療福祉大学医学部新入生全員の顔と名前を 1 週間以内に覚えます。よく色々な人から「押味先生はよくそんなに学生の名前を覚えられますね。私は名前を覚えるのが苦手だから無理ですよ。」と言われるのですが、私だって人の名前を覚えるのは苦手です。私は学生さんの顔と名前を試験」だと考えて本気で覚えようとしているから(何とか)覚えられるのです。皆さんも受け入れ先のスタッフ全員の顔と名前を「留年がかかった重要な試験」だと考えて、本気で覚えようとすれば(ある程度は)覚えられると思います。そうすることで皆さん自身への対応も必ず変わってきます。

「助けられ上手」になる
わざわざ外国にお金をかけて留学をする究極の目標は “To get out of your comfort zone.” とも言えます。

母国にいれば母国語を話せるし、文化や習慣で困ることもありません。しかし海外に行けば母国で majority であったとしても、必ず minority の立場を経験することとなります。このように get out of your comfort zone することで、それまで経験したことがない視点で世界を見ることができるのです。

海外に行けば初めはバスの乗り方もわからないでしょうし、ネットが繋がらなくなったり、部屋の電気が突然止まったりするようなトラブルも経験することでしょう。そこで大切なのが「助けられ上手」になるということです。

日本で医学生として生活していれば、日常生活の中で周りに助けを求めることは多くないかもしれません。しかし海外で生活する時には小さなプライドが邪魔をして周囲に助けを求めることができないと、問題解決に困るだけでなく、新たなことを学ぶ機会も少なくなります。本来の性格に関わらず、留学先では「助けられ上手」のキャラになりきることが大切なのです。

必ず質問をする
日本の医学生に “Do you have any questions?” と聞いても全く質問が出ないことが多いのは皆さんも良くご存知だと思いますが、欧米では「何も質問をしないのは何も学んでいないということ」「授業を受けて何も質問をしないのは講師に対して失礼である」「何も質問をしない者は頭が悪い」という認識があります。

ですから海外臨床実習では「常に質問を考える」という習慣が必要になります。国際学会の場面でも良い発表をするだけでなく、良い質問をすることでも学会の中での評価は高まります。特に現代は「答を見つける」ことよりも「良い問いができる」ことの方が高い価値を持ちます。日本では同調圧力に負けて質問を控えていた方も、海外臨床実習では「必ず質問をする」という習慣を身につけてください。

“Do you wanna give it a try?” に対して常に “Yes!” と答える
海外臨床実習では指導医から様々な手技などに関して “Do you wanna give it a try?” 「やってみるかい?」と尋ねられる機会が多いと思います。指導医の立場からは「本人の意思を確認しよう」と思っての発言なのですが、ここで皆さんが一度でも “No.” と回答すると「この学生は積極的ではなさそうなので、あまり無理はさせないでおこう」と判断されます。指導医も時間があるわけではないので、一度そのように判断された学生には2回目以降のチャンスを与えることは少なくなります。

こう言うと極端に聞こえるかもしれませんが、 “Do you wanna give it a try?” に対しては常に “Yes!” や “Of course!” のように答えましょう。

何事も経験を 0 から 1 にすることは大切です。これは臨床実習に限った話ではなく、見慣れない現地の食べ物や行ったことのない観光地へのお誘いにも “Yes!” と言い、自分の経験を 0 から 1 にしてみましょう。

この医学英語カフェでも繰り返しお伝えしている「物事の上達の秘訣」は “Fake it till you make it.” 「できるようになるまでできるフリをする」ということです。指導医は医学生にできそうもないことはさせません。指導医から “Do you wanna give it a try?” と尋ねられた場合、 “Fake it till you make it.” と自分に言い聞かせて、 “Yes!” と答えるようにしてくださいね。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。

最後に海外臨床実習に必要な準備の要点をもう一度まとめておきます。

  英語の「履歴書curriculum vitae (CV) を用意する
  英語の「志望動機書personal statement を用意する
  英語の「推薦状letter of recommendation (LOR) を用意する
  周囲から自分に何をするように求められているかがわかる」リスニングスキルを身につける
  自分が伝えたいことを何とか伝えることができる」スピーキングスキルを身につける
  英語での医療面接ができるようにする
  英語での症例報告ができるようにする
  英語でのカルテ記載ができるようにする
  留学先では「自分が母国代表である」と自覚する
  受け入れ先のスタッフ全員の顔と名前を覚える
  助けられ上手」になる
  必ず質問をする
  Do you wanna give it a try?” に対して常に “Yes!” と答える

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 准教授 押味 貴之

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