こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「発熱に関する英語表現」。
COVID-19 の影響でかなり身近な症状となった「発熱」ですが、もちろんその原因は COVID-19 や Influenza だけではなく、実に多岐に渡ります。そのため Post CC OSCE においては苦手意識をもつ学生さんが多い症状とも言えます。
そこで今月は「発熱」に関する英語表現と、Post CC OSCE において「発熱」という症状をどのように考えていけば良いかをご紹介したいと思います。
fever と hyperthermia の違いとは?
ではまず「発熱」とは何なのかを確認しましょう。
「発熱」は一般英語では fever となり、医学英語では pyrexia となります。この pyr– には fire という意味がありますので、「解熱剤」は antipyretic と呼ばれます。
この fever の定義は “elevated core body temperature regulated by the thermoregulatory center in the hypothalamus”「視床下部内の発熱中枢の制御によって体温が上昇すること」です。病原体が身体に侵入すると視床下部内の発熱中枢が体温の閾値を高め、脳は「今の体温では寒い」と感じ、筋肉を収縮させて体温を上昇させることで身体に侵入した病原体を殺そうとします。
したがって fever が生じる前には必ず chills「悪寒(おかん)」が生じます。ちなみにこの chill には「冷たい」や「冷たくさせる」というイメージがあります。ここから動詞の chill out には calm down や relax という意味があり、「先週末は家でゆっくりしたよ」は、英語では “I chilled out at home last weekend.” のように表現します。そしてこの chills に伴って身体が震えることを「悪寒戦慄」と言いますが、これを一般英語では shaking chills や shivering と表現し、医学英語では rigors と表現します。そしてこの rigors は「ゥリィガァズ」のように発音されます。
fever も pyrexia も名詞ですが、「熱がある」という意味の形容詞は febrile となります。(逆に「熱がない」は afebrile となります。)小児が高熱を出して痙攣する「熱性痙攣(けいれん)」を英語では febrile seizures と表現しますが、こちらでも紹介しているように seizure とは本来 “a sudden surge of electrical activity in the brain” を意味する表現で、日本語では「てんかん発作」となります。したがって febrile seizures も、本来であれば「熱性てんかん発作」と呼ぶべきなのかもしれません。
この fever とよく似たものとして「高体温症」を意味する hyperthermia がありますが、皆さんはその違いを説明できますでしょうか?
hyperthermia とは “elevated core body temperature due to failed thermoregulation” 「体温調整が上手くいかないことが原因で体温が上昇すること」であり、「熱中症」heat disorders などによって引き起こされます。ちなみにこの heat disorders には、比較的軽症の「熱失神」heat syncope や中等症である「熱疲労」heat exhaustion、そして重症の「熱射病」heat stroke/heatstroke のような区分があります。そして anesthesiologist’s worst nightmare「麻酔科医にとっての悪夢」として知られる「悪性高熱症」は malignant hyperthermia となります。
何度以上の体温が fever なの?
fever の定義は “elevated core body temperature regulated by the thermoregulatory center in the hypothalamus” であると述べましたが、体温が何度以上になれば fever となるのでしょうか?
意外なことに、 fever の目安となる体温は国や地域で異なります。
日本では「37.5°C以上」が発熱とされていますが、米国の多くの医師は “higher than or equal to 100.4 °F = 38°C” を fever と認識しています。つまり「日本では37.5°C以上、米国では38°C以上を発熱とする」 ということなのです。
また low grade fever や high grade fever の定義も文献や医師によって異なるのですが、これまでの私の経験から下記のように覚えておけばそれほど困ることはないと考えます。
Low grade fever: <38°C (100.4°F)
High grade fever: >40°C (104°F)
米国の多くの医師は「発熱とは言えないが通常よりも体温が高い状態」を low grade fever と呼び、「40°C = 104°Fより高い発熱」を high grade fever と呼んでいます。これを読んでこの定義に異論がある方もいらっしゃると思いますし、感染症や総合診療を専門としている医師には異なる定義を使っている方もいらっしゃると思います。ただ発熱の診断を専門としていない米国の医師の多くは、上記のような認識を持っていると私は感じています。
また米国では「摂氏」Celsius ではなく、「華氏」Fahrenheit が使われますが、この2つ単位の変換に苦労されている方も多いと思います。臨床場面では 「100°F が 37.8°C」となり、「104°F が40°C 」となるという2つに加え、これらの周辺の温度では「 1°F が 0.5°C」となるということだけを覚えておけば、誰でも簡単に変換ができるようになります。つまり、100°F から 1°F 高い 101°F が摂氏何度になるかを考えるには、37.8°C から 0.5°C 高い 38.3°C になると考えれば良いのです。これは、体温付近の温度に関してほぼ正確に変換できる便利な法則ですので、是非覚えておいてください。
ちなみに100°F は “one hundred degrees Fahrenheit” と読み、37.8°C は “thirty seven point eight degrees Celsius” と読みます。どちらも degrees と複数形になり、また数字と単位の間には半角スペースは入りませんのでご注意を。
fever の現病歴で注意したいこと
では fever を主訴とする患者さんが来院した場合、どのようにして history taking を進めていけば良いのでしょう?
この医学英語カフェでは繰り返し伝えていますが、history taking において最も重要なのは「現病歴」history of present illness (HPI) です。そしてこのHPI には以下の3つのステップでアプローチします。
1. Open-ended questions: 開放型質問を使い、発熱の「発症」「発症前」「発症後」の様子を詳細に語ってもらう。状況に合わせて質問を加え、適宜話を要約する。
2. Closed-ended questions: 閉鎖型質問を使い、発熱に関して詳細な情報を得る。
3. Associated symptoms: 鑑別疾患に伴う関連症状の有無を尋ねる。
こちらでご紹介しているように、まずは open-ended questions を使って発熱の「発症」「発症前」「発症後」の様子を皆さん自身がイメージできるように詳細に尋ねていきましょう。
次に closed-ended questions を使って発熱に関する詳細な情報を尋ねます。皆さんお馴染みの “Pain’s OPQRST” は痛みの場合に有効ですが、これは下記のように fever にも応用することができます。
Onset: Abrupt onset? Gradual onset?
Provoking & Palliating factors: Exacerbating factors? Relieving factors?
Quality: Sustained fever? Intermittent fever? Remittent fever?
Region: Central nervous system infections? Gastrointestinal tract infections?
Respiratory tract infections? Urinary tract infections?
Severity: Low grade fever? Moderate grade fever? High grade fever?
Timing: Duration?
Quality はこの場合、fever characteristics/types と解釈しましょう。
sustained fever 「稽留(けいりゅう)熱」は日内変動が1°C以内であり、なおかつ38°C以上の熱が1日中続く発熱です。continuous fever とも呼ばれます。
intermittent fever「間欠(かんけつ)熱」は日内変動が1°C以上ありますが、低い時には平熱まで体温が下がる発熱です。高熱と平熱が交互に現れます。
remittent fever「弛張(しちょう)熱」は日内変動が1°C以上ありますが、低い時でも平熱にはならない発熱です。この remittent は fluctuating 「上がったり下がったりする」というイメージの表現で、日本語では「弛んだり張りつめたりする」という表現が訳語に使われています。
Region はこの場合、感染症の部位として活用しましょう。
fever の原因が infections の場合、それが CNS infections/GI tract infections/Reparatory tract infections/UTI のどれに相当するのかを関連症状と共に考えてみましょう。
Timing では fever の duration を意識して尋ねましょう。これは先述の Quality と似ていますが、ここではその持続期間に注目しましょう。
特に 101°F = 38.3°C以上の発熱が3週間以上続き、医療機関を受診してもその原因が不明の場合、その fever は fever of unknown origin (FUO) 「不明熱」と呼ばれます。
Post CC OSCE では多くの症状に対処できるように準備する必要があります。そのためにはできるだけ汎用性の高い戦略を使って準備することが重要です。Pain’s OPQRST はそのままでは fever に対して有効ではありませんが、上記のように使えば fever にも応用できる語呂合わせと言えます。
fever の診断はどう考えればいいの?
では最後に Post CC OSCE で fever を主訴とする患者さんの診断を考える際にどのように考えれば良いのか、私なりのアドバイスをお伝えします。
教科書や参考書、そして皆さんが各大学で受けている「診断学」や「臨床推論」の授業では様々な診断手順が紹介されていると思います。もちろん自分なりに fever の診断手順が確立されている場合には問題ないのですが、多くの学生さんは「授業で紹介された複雑なやり方は自分にはできない!」と感じているのではないでしょうか?
そこで私がお勧めするのはまず下記のような簡単な分類で考えるということです。
Fever Causes
• Infections
• Malignancies
• Autoimmune Disorders
• Embolism
• Drugs
• Miscellaneous
赤字で記した最初の4つは red flags と呼ばれる生命に関わる可能性がある疾患です。ですからまずはこの4つの疾患群を意識するようにしましょう。
そして忘れていけないのが drug fever です。特に医学生の皆さんはこの drug fever を見落としがちですので注意してください。
もちろんこれら以外にも様々なものがありますが、それらはとりあえず miscellaneous「それ以外」と分類しておきましょう。
では上記のような疾患群を想定したとして、具体的にどのように診断に迫れば良いのでしょうか?
そのための最適な方法は、 review of systems (ROS) 「システムレビュー」を丁寧に尋ねるということです。こちらでも詳しく解説していますが、この ROSはその名が示す通り、「臓器系統」である body systems を review「振り返る」ことで患者の医療情報を包括的に理解する質問です。ですからこの ROS を尋ねることで fever 以外の重要な情報を得ることができ、結果として fever の診断がつくことが多いのです。
英語には semantic qualifiers という表現がありますが、これには「臨床的な意義を与える医学英語」という意味があり、これを fever と組み合わせることで多くの場合、診断に到達することができます。
Fever + Semantic Qualifiers = Diagnosis
例えば high grade fever を訴える患者さんが drenching night sweats「盗汗」と unintentional weight loss「意図しない体重減少」という semantic qualifiers を伴う場合、これらは通称 “B symptoms” として知られ、 その診断として Hodgkin lymphoma/non-Hodgkin lymphoma や tuberculosis が思いつきます。
high grade fever + drenching night sweats & unintentional weight loss = Hodgkin/Non-Hodgkin lymphoma or tuberculosis
また sustained fever を訴える患者さんが diarrhea と relative bradycardia「比較的徐脈」という semantic qualifiers を伴う場合、その診断として typhoid fever「腸チフス = チフス熱」が思いつきます。
sustained fever + diarrhea & relative bradycardia = typhoid fever
他にも low grade fever を訴える患者さんが hiking in Minnesota をした後に bull’s eye skin rash に気がつくという semantic qualifiers を伴う場合、Lyme disease「ライム病」が思いつくはずです。
low grade fever + history of hiking in Minnesota & bull’s eye skin rash = Lyme disease
もちろんこういった snapshot diagnosis をするためには各疾患の知識は必須ですし、実際の診療にはこのような snapshot diagnosis ができないことがほとんどです。ただ英語で “When you hear hoofbeats, think of horses, not zebras.”「蹄(ひずめ)の音を聞いたら、シマウマではなくウマだと思え。」と言うように、「稀な疾患(シマウマ)ではなく、まずは頻度の高い疾患(ウマ)を考えろ。」ということが大切です。
FUO の診断として familial Mediterranean fever「家族性地中海熱」や Castleman disease「キャッスルマン病」といった zebras を診断できるようになることももちろん大切なのですが、まずは pneumonia「肺炎」や pyelonephritis「腎盂腎炎」といった horses をしっかりと英語でも診断できるようにしましょう。それが私からのアドバイスです。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に fever の鑑別疾患の分類と、ROS で尋ねる項目のリストをご紹介します。
Fever Causes
• Infections
• Malignancies
• Autoimmune Disorders
• Embolism
• Drugs
• Miscellaneous
Review of Systems (ROS)
• General symptoms
• Mental symptoms
• HEENT
“MR DICE RUNS”
• Muscular system
• Respiratory system
• Digestive system
• Integumentary system
• Circulatory system
• Endocrine system
• Reproductive system
• Urinary system
• Nervous system
• Skeletal system
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之