Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 51 便秘・下痢に関する英語表現

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「便秘・下痢に関する英語表現」。

便秘constipation と「下痢diarrhea は誰もが経験したことがある頻度の高い症状ですが、その「定義」となると自信を持って答えられる人は少ないのではないでしょうか?またこれらの症状では「大便stools に関して詳細に尋ねる必要がありますが、その際にはどのような英語表現を使うべきなのでしょうか?

そこで今月は「便秘・下痢」に関する英語表現と、これらの鑑別疾患をどのように考えていけば良いかをご紹介します。

患者さんに使える「大便」の英語表現は?
まずは「大便」の英語表現から見ていきましょう。

背もたれのない椅子」のことを英語で stool と言います。「洋式トイレflush toilet では便をする際には「背もたれのない椅子」に腰掛けます。そこから転じて stool は「便」という意味でも使われます。本来この stool の意味には「椅子に座って排泄するもの」として「大便」だけでなく「小便」も含まれていたのですが、現在では「大便」として使われています。患者さんに大便のことを尋ねる際にはこの stool という表現が最も一般的ですので、まずはこの表現を覚えておきましょう。

患者さんと会話する際にはこの stool が使われますが、症例報告など他の医師とのコミュニケーションでは feces という表現も使われます。医学英語で「失禁」は incontinence となり、「尿失禁」は urinary incontinence と、そして「(大)便失禁」は一般的な表現である stool を使った stool incontinence ではなく、医学的な表現である fecal を使った fecal incontinence となります。

この他にも「排泄物」を意味する excrement という表現もありますが、これには urine「尿」 も含まれます。

そして「大便」には数多くの慣用表現が存在します。ここから先は少し「汚い」表現が並びますのでご注意ください。

まずは皆さんもよくご存知の shit です。ただこれは vulgar slang下品なスラング」ですので、ご自身で使うことは避けてください。この shit を使った bullshit (BS) も vulgar slang ですが、こちらは「デタラメ」や「ふざけんな!」という意味になります。

この他にも dump/crap/turd といった vulgar slangs があります。これらは全て患者さんに使うには不適切な表現ですので、ご自身で使うことは避けてくださいね。

患者さんに使える「排便」の英語表現は?
では次に「排便」の英語表現を見ていきましょう。

排便する」は医学英語で defecate となり、「排便」は defecation となります。どちらも英語母国語話者であれば一般の方にも理解してもらえる表現ですが、英語が母国語でない方には通じない場合があります。

日本語にも「お通じ」という婉曲表現がありますが、これに相当する英語の表現が bowel movement です。「腸の動き」というわかりやすい表現なのですが、bowel の発音が「ゥル」のようになるので注意してください。ここから「お通じがある」は、 have a bowel movement という表現になります。患者さんと会話をする際には日本語でも「お通じ」という表現が好まれるように、英語でもこの bowel movement という表現が好まれますので、患者さんとの会話ではこの bowel movement を使うのが無難と言えます。

そして、この「排便」にも当然のように数多くの慣用表現が存在します。

Menu 36でも紹介したように、日本語の「」と「」に匹敵するのが、英語の number onenumber two です。実際にこの表現を大人が使うことはあまりないのですが、人前で小さな子供に「どっちがしたいの?」と聞く時には、 “Do you need a number one or number two?” のように使います。

サイコロの2の目やトランプの2の札を英語では deuce と言います。前述の number two から派生したのかは定かではありませんが、英語で drop a deuce と言うと「排便する」という意味になるのです。もちろんこれは患者さんに使うには適切なものではありませんので、皆さん自身は使わないようにしてくださいね。

Tenesmus? Dysentery? 覚えておきたい便に関する重要な医学英語
大便」と「排便」の英語表現を理解したところで、便に関する重要な医学英語も押さえておきましょう。

血便」は医学英語で hematochezia となり、「黒色便」は melena となります。これらの有無を患者さんに尋ねる際には “Have you noticed any change in the color of your stools?” のような開放型の質問を使うと良いでしょう。そして hematochezia の有無を具体的に尋ねる際には、 “Have you noticed any bright red blood in your bowel movements?” のように、そして melena の有無を具体的に尋ねる際には、 “Have you noticed any dark, black, or tarry stools?” のように尋ねると良いでしょう。

便秘や下痢に関する重要な医学英語としては、これ以外にも tenesmusdysentery などがあります。

tenesmus とは persistent feeling of needing to pass stool, even after having a bowel movement のことで、日本語の「しぶり腹」に相当します。この tenesmus は「テズマス」のように発音します。

dysentery とはa gastrointestinal infection that causes severe diarrhea containing blood or mucus のことで、日本語の「赤痢」に相当します。この dysentery は「ディスンテリィ」のように発音します。

また便秘と下痢を考える上で、大便の形状を7段階で記載する Bristol Stool Chart も極めて重要と言えます。

Type 1: Separate hard lumps
Type 2: Sausage-shaped, but lumpy
Type 3: Like a sausage but with cracks on its surface
Type 4: Like a sausage or snake, smooth and soft
Type 5: Soft blobs with clear cut edges
Type 6: Fluffy pieces with ragged edges, a mushy stool
Type 7: Watery, no solid pieces, entirely liquid

一般的に Type 1 & 2constipation と考え、Type 6 & 7diarrhea と考えます。Type 4が健康的な大便であり、Type 3 が硬め、Type 5 が柔らかめ、と覚えておくといいかもしれません。

ここで注意していただきたいのが、この chart で使われる英語の表現です。

lump は「」ですが、医療現場では「しこり」という意味でも使われます。そしてType 1 の大便は rabbit droppingsウサギの糞」とも形容されます。

crack は「ひび割れ」であり、「毛髪骨折hairline fracture においても have a crack in the bone「骨にひびが入る」のように使われます。

blob は「ドロっとした塊」のようなイメージの表現です。Type 5 の大便は食物繊維の摂取が少ない時に生じるもので、英語では chicken nuggets とたとえられます。

fluffy は「毛羽だった」のようなイメージの表現です。そして mushy には「ドロドロの」というイメージがあります。ですから Type 6 は英語では porridge「オートミールを煮たおかゆのような食べ物」に、そして Type 7 は gravy「(ローストビーフにかける)グレービーソース」にたとえられるのです。

そして、このような大便の形状を尋ねる表現が “What is the consistency of your stool?” というものです。この場合の consistency とは「つながり具合」というイメージで、Bristol Stool Chart で大便の形状を尋ねるのによく使われます。

また、大便の形状においては caliber という表現も重要です。これは大便の「太さ・直径」を意味するのですが、「結腸直腸癌colorectal cancer などでは decreased stool caliber が重要な症状となります。ですからこういった疾患を想定している場合、患者さんには “Have you noticed any changes in the size or shape of your bowel movements? For example, have your stools been narrower or wider than usual?” と尋ねる必要があります。そして colorectal cancer で decreased stool caliber がある場合、患者さんは “My stools are pencil-like in shape.” や “I’ve been having ribbon-like stools.” のような表現を使うことが多いので、これらも是非覚えておいてくださいね。

Constipation の定義と鑑別疾患
ではここから、「便秘constipation について詳しく見ていきましょう。

constipation の定義は様々ですが、英語圏の primary care の場面でよく使われているのが infrequent bowel movements less than 3 per week というものです。そしてこれだけでなく、harder stoolsstraining といった症状を伴うことが一般的です。ちなみにstraining とは「強くいきむこと」であり、「怒責(どせき)」とも呼ばれます。

constipation のある患者さんは “I have constipation.” の他、 “I have been constipated.” や “I have been clogged up.” のような表現も使います。

constipation のhistory of present illness (HPI) ではその duration も重要ですので、 “How long have you been having constipation?” と質問しましょう。一般的に < 3 monthsacute constipation と、そして ≥ 3 monthschronic constipation となります。

「医学教育モデル・コア・カリキュラム」には、constipation の鑑別疾患として次の7つの疾患(病態)が記載されています。
   Parkinson’s disease「パーキンソン病」
   hypothyroidism「甲状腺機能低下症」
   functional constipation「便秘症」
   irritable bowel syndrome (IBS)「過敏性腸症候群」
   bowel obstruction「腸閉塞」
   colorectal cancer「大腸癌」
   drug-induced constipation「薬剤性便秘症」

それを病態生理的に大別すると下記のようになります。(太字のものがモデル・コア・カリキュラムに記載されているものです。)

Causes of Constipation
  Decreased Peristalsis: functional constipation, irritable bowel syndrome
  (IBS), drug-induced constipation, hypothyroidism,
and Parkinson’s disease

  Hard Stools: low-fiber diet and dehydration
  Obstruction: bowel obstruction

この peristalsis は「蠕動(運動)」で、多くの鑑別疾患がこの peristalsis を阻害することで constipation を引き起こします。drug-induced constipation としては opioids や iron supplements が代表的です。

Menu 13 でもご紹介しましたが、「腸閉塞」の英語には注意が必要です。

日本では「イレウス」を「腸閉塞」という意味で使い、「機械性イレウス」や「麻痺性イレウス」のような表現を使いますが、英語圏では「腸閉塞」のことを bowel obstruction と表現します。そして日本で言う「機械性イレウス」のことを mechanical bowel obstruction と、「麻痺性イレウス」のことを ileus もしくは paralytic bowel obstructionpseudo-obstruction と表現するのです。つまり英語で ileus(「イィリァス」のように発音) と言ったら、それは日本で言うところの「麻痺性イレウス」になってしまうので、十分に注意してください。

また、便秘の際に使われる「下剤」は英語では laxative となりますので、知らなかった方はこちらも覚えておいてください。

Diarrhea の定義と鑑別疾患
では最後に「下痢diarrhea について詳しく見ていきましょう。

diarrhea の定義は constipation と同様に様々ですが、英語圏の primary care の場面でよく使われているのが frequent loose bowel movements more than 3 per day というものです。(constipation と同様に 3という数字が重要な目安となっています。)そしてこれだけでなく、softer stoolsurgency といった症状を伴うことが一般的です。ちなみに urgency とは「便意切迫」のことで、「排便をした後でも便意が強くある」という tenesmus とは意味が異なります。

diarrhea のある患者さんは “I have diarrhea.” の他、 “I’ve had the runs.” のような表現も使います。

diarrhea のhistory of present illness (HPI) ではその duration も重要ですので、 “How long have you been having diarrhea?” と質問しましょう。一般的に < 2 weeksacute diarrhea と、2-4 weekspersistent diarrheaと、そして ≥ 4 monthschronic diarrhea となります。

「医学教育モデル・コア・カリキュラム」にはdiarrhea の鑑別疾患として次の5つの疾患(病態)が記載されています。
   hyperthyroidism「甲状腺機能亢進症」
   acute gastroenteritis「急性胃腸炎」
   inflammatory bowel disease (IBD)「炎症性腸疾患」
   irritable bowel syndrome (IBS)「過敏性腸症候群」
   drug-induced diarrhea「薬剤性下痢症」

それを病態生理的に大別すると下記のようになります。(太字のものがモデル・コア・カリキュラムに記載されているものです。)

Causes of Diarrhea
  Increased Peristalsis: irritable bowel syndrome (IBS), drug-induced
  diarrhea,
and hyperthyroidism

  Inflammatory: acute gastroenteritis, inflammatory bowel disease (IBD),
  and celiac disease

  Malabsorption: drug-induced diarrhea and lactose intolerance

irritable bowel syndrome (IBS) は、 peristalsis を低下させて constipation を引き起こすだけでなく、亢進させて diarrhea も引き起こします。そして前者を IBS with constipation (IBS-C) 、後者をIBS with diarrhea (IBS-D) と呼びます。これ以外にも IBS with alternating constipating and diarrhea は mixed IBS (IBS-M) 、そして defecation によって abdominal pain が改善しない IBS を unsubtyped IBS (IBS-U) と呼んでいます。

この IBS は略語だけで見ると「炎症性腸疾患」の IBD とよく似ていますが、IBDinflammatory bowel disease の略であり、IBS とは全く異なる疾患です。そしてこの IBD である Crohn’s disease (CD) 「クローン病」と ulcerative colitis (UC) 「潰瘍性大腸炎」の鑑別は臨床的に極めて重要になります。

薬剤によっては peristalsis を亢進させるものや malabsorption を引き起こすものがありますので、drug-induced diarrhea には注意が必要です。

日本語では「セリアック病」と呼ばれる celiac disease ですが、これは gluten と呼ばれるタンパクによって引き起こされる自己免疫疾患で、当然ですが belly「お腹」に症状が現れます。英語の celiac は元来この “belly” を意味するところから celiac disease と呼ばれています。

乳糖不耐症」である lactose intolerance で用いられる intolerance は、cold intoleranceheat intolerance のようにも使われます。日本語ではこれらを「寒冷不耐症」や「温暖不耐症」とは表現せず、単に「寒がり」や「暑がり」のように表現します。

また、下痢の際に使われる「下痢止め・止痢剤」は英語では antidiarrheal となりますので、知らなかった方はこちらも覚えておいてください。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に constipation と diarrhea の鑑別疾患の分類リストをもう一度まとめておきます。

Causes of Constipation
  Decreased Peristalsis: functional constipation, irritable bowel syndrome
  (IBS), drug-induced constipation, hypothyroidism,
and Parkinson’s disease

  Hard Stools: low-fiber diet and dehydration
  Obstruction: bowel obstruction

Causes of Diarrhea
  Increased Peristalsis: irritable bowel syndrome (IBS), drug-induced
  diarrhea,
and hyperthyroidism

  Inflammatory: acute gastroenteritis, inflammatory bowel disease (IBD),
  and celiac disease

  Malabsorption: drug-induced diarrhea and lactose intolerance

では、またのご来店をお待ちしております。

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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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