
こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「学会に関する英語表現」です。
学術集会・学術大会(学会)に参加して最新の知見を学ぶことは、医師として必須の行為ですが、そもそも学会にはどのような種類の企画があり、それらがどのような目的で行われているのか、医学部の授業で教えてくれることは稀です。
また発表や質問における「作法」に関しても、「先輩から言われた通りにしているだけ」という方も多いのではないでしょうか?
そこで今月は、医学生や医師にとって有用な「学会参加の際に役に立つ英語表現」をご紹介したいと思います。
Society と Association って何が違うの?
そもそも団体としての「学会」を英語では何と言うのでしょう?
「学術目的のための団体」としての「学会」の英語表記は、多くの場合で Society となります。ですから「日本内科学会」の英語表記は The Japan Society of Internal Medicine となり、「日本外科学会」の英語表記は Japan Surgical Society となっています。
「日本内科学会」では The Japan Society of Internal Medicine のように of が使われていますが、「日本医学教育学会」では Japan Society for Medical Education のように for が使われています。皆さんはこの理由がわかりますか?
「内科学」は「確立した学術分野」ですが、このような学術分野での学会は「確立した学術分野の専門家集団」ですので、society of という表現が使われます。これに対して「医学教育学」は「(医学教育への)活動支援が主目的となる学術分野」であり、このような学術分野での学会は「活動支援のための専門家集団」ですので、society for という表現が使われるのです。ですから私が理事を務める「日本医学英語教育学会」の英語表記も、Japan Society for Medical English Education のように for を使っているのです。
この society によく似た表現として academy, college, and association というものもあります。
Academy とは「卓越した専門知識の教育・表彰を行う団体」です。代表的なものとして American Academy of Pediatrics (AAP) や、European Academy of Allergy and Clinical Immunology (EAACI) などがあります。
College とは「専門職の教育・認定を行う団体」です。代表的なものとして英国の Royal College of Physicians (RCP) や、米国の American College of Cardiology (ACC) などがあります。
Association とは「社会貢献・教育・政策提言などを目的とした職業団体」です。代表的なものとして American Heart Association (AHA) や American Medical Association (AMA) などがあります。また「日本医師会」の英語表記も Japan Medical Association となっています。
Conference とCongress って何が違うの?
次に、学術集会としての「学会」を英語で何と言うのかを見ていきましょう。
「学術集会」としての「学会」の英語には、meeting, conference, and congress などが使われます。
Meeting は「定期的に行われる(学術)集会」という意味であり、「学術集会」として最も一般的に使われる表現です。日本内科学会が主催する「年次学術集会」も The Annual Meeting of the Japan Society of Internal Medicine と表現されます。
Conference は「meeting よりも規模の大きな(学術)集会」という意味であり、「複数の発表や討論が行われるような中規模以上の学術集会」として使われる表現です。具体的にはWorld Conference on Lung Cancer (WCLC) のようなものがあり、meeting と比べて「構成がより整理されていて、参加者が学びやすいように設計されている学術集会」という印象を与えます。
Congress は「meeting や conference よりも大規模かつより国際的な(学術)集会」という意味であり、「多くの国から多様な分野の専門家が集まり、全体会議や複数の分科会を通じて幅広いトピックが議論される最大規模の学術集会」として使われる表現です。具体的にはWorld Congress of Neurology (WCN) のようなものがあり、conferenceと比べて「学術的な議論に加えて展示やネットワーキングなども重視される祭典としての学術集会」という印象を与えます。開催頻度も毎年ではなく、数年に一度というのが一般的です。
この他に Convention という表現もありますが、これは「多数の人が共通の関心を持って集まる大規模な会合や大会」という意味であり、医学の学術集会としてはあまり使われません。日本でも Comic-Con「コミコン」が盛況ですが、これは Comic Convention の略であり、「多数の人がコミック文化という共通の関心を持って集まる大規模な会合」という意味なのです。
このように「学術集会」としての「学会」の英語には、meeting, conference, and congress などが使われます。日本国内の学術集会の英語表記はそれほど厳密ではなく、The Annual Meeting of the Japan Society of Internal Medicine の実態は、Conference と呼ぶべき規模や内容と言えます。しかし海外の学術集会の場合はその英語表記と実態が合致していることが多いので、自分が参加しようとしている国際学会の英語表記を見て、それがどのような規模の学術集会なのか、事前にイメージしてみると良いでしょう。
Symposium とPanel Discussion って何が違うの?
ではここから、学会における様々な Sessions「企画」の英語表現を見ていきましょう。
Plenary Session とは「参加者全員が参加する講演や議論の場」であり、学会の初日や最終日に設けられることが多く、学会全体の方向性を示す内容などが取り上げられます。この plenary には「全員出席の」や「完全な」という意味があり、「プリナリィ」のように発音されます。
Keynote Presentation とは「学会の開幕時に行われる基調講演」であり、学会のテーマを象徴的に示す役割を担います。演者はその分野で国際的に著名な研究者が外部から招待されることが多く、学会全体の keynote「主旋律」を提示する役割を担います。Plenary Session と同様に全体講演ではありますが、Keynote Presentation の方がより象徴的・理念的な内容になる傾向があります。
Symposium とは「特定のテーマに関して複数の専門家が順に発表し、その後に議論を行う企画」です。通常は3〜5人程度の演者がそれぞれの立場や専門性から知見を発表し、最後に演者全員で質疑応答や総合討論が行われます。特定の研究領域や技術について参加者の知識を深めたい場合に多く用いられる企画です。
Panel Discussion とは「特定のテーマに関して複数の専門家が相互に意見を述べて討論する企画」です。多くの日本人がこの panel を「厚紙のポスターのようなもの」と思い込んでいるようですが、この場合の panel とは「討論に参加する専門家グループ」という意味です。そして「討論に参加する個別の専門家」は panelist となります。日本語には「パネラー」という表現もあるようですが、paneler という英語は存在しないのでご注意を。Symposium と異なり個別の発表はなく、moderator が司会となって議論を進めます。議論を要する問題について多様な意見を聞かせ、参加者の考察を促したい場合に多く用いられる企画です。
Workshop とは「参加者が実際に手を動かしながら学ぶ企画」です。実技・実践的スキルの習得を目的とするものが多く、講義形式というよりは少人数で双方向的に進められる点が特徴です。この Workshop と混同されがちなものとして Seminar や Hands-on Session がありますが、Seminar は双方向的であるものの講義中心の形式であり、Hands-on Session は医療機器や技術の模擬体験・操作実習に特化した実践的な企画となります。
Oral Presentation とは「スライドを使って研究成果を発表する企画」です。演題ごとに発表時間が割り当てられ、chair/chairperson「座長」が質疑応答の司会をします。採択の競争率が高く、質の高い研究演題しか採択されないのが一般的です。
Poster Presentation とは「1枚のポスターを使って研究成果を説明・応答する企画」です。割り当てられた時間に研究者がポスターの前に立ち、発表者はポスターの前を自由に通行する聴衆と双方向でのコミュニケーションを取ることが求められます。採択の競争率が低いので、多くの学生や若い医師にとって最初の研究発表となる企画と言えます。
Reception とは「軽食やドリンクを伴う立食形式の交流会」です。参加の敷居が低く、服装に関する dress code もありません。これに対して Banquet は「晩餐会」であり、semi-formal という dress code が求められます。さらに Gala Dinner は「祝賀晩餐会」ですので、dress code も formal や black-tie となります。日本で行われる学術集会での dress code は business casual や semi-formal がほとんどですが、海外での学術集会に参加する場合、それぞれの交流会の英語表記を事前に確認して、それぞれの場面に相応しい dress code を準備してください。
そんなに違いがあるの? Oral Presentation と Poster Presentation での発表方法
Oral Presentation では、指定された発表時間内に 1) Introduction 2) Methods 3)Results 4) Discussion の順でスライドを使って説明し、chair「座長」のもとで質疑応答も行われます。
これに対して Poster Presentation では、聴衆との双方向のやりとりが求められます。ですから Poster Presentation では elevator pitch と呼ばれる短時間での説明が求められるのです。その際には「3分」「1分」「30秒」という3つの elevator pitch を用意し、必要に応じてそれら3つを使い分けるようにしましょう。
3分の elevator pitch
- 1. Opening: 最初の「掴み」
- 2. Explain the key word: 研究のキーワードの説明
- 3. Describe the issue: 研究が解決する問題の説明
- 4. Research question: 研究が解明する疑問
- 5. Methods: 方法
- 6. Results: 結果
- 7. Take-home messages: 結論
1分の elevator pitch
- 1. Describe the issue: 研究が解決する問題の説明
- 2. Research question: 研究が解明する疑問
- 3. Methods: 方法
- 4. Take-home messages: 結論
30秒の elevator pitch
- 1. Research question: 研究が解明する疑問
- 2. Take-home messages: 結論
Poster Presentation については「Menu 20. 国際学会のポスター発表で優秀賞を取る方法」でも詳しく紹介しておりますので、こちらも是非ご確認ください。
知らないと失礼?質問する際の作法とは?
発表者に質問する場合、一般的な学術集会では質問者はホールの中央や通路に設置されているマイクに自発的に並びます。質問時間には制限がありますので、並んでいる人数が多い場合、chair は全員に質問をさせることはしません。ですからどうしても質問したい場合には、質疑応答の時間を予測して早目にマイクの前に並ぶようにしてください。
状況によっては座席から手を挙げる場合もありますが、その際には手をまっすぐと高く挙げるようなことは避けましょう。そのようなジェスチャーは、欧米では「ナチス式敬礼」と見做される可能性があるからです。どうしても挙手が必要な場合、指を2・3本軽く挙げて、chair とアイコンタクトを取るようにしましょう。
実際に質問をする場合、必ず「名前」と「所属機関」を述べた後、一言「感謝の言葉」を述べましょう。医学部何年生であるとか、どこの都市の大学などの情報はここでは一切不要です。以下のように簡潔に述べるように心がけましょう。
学生の場合
“My name is (Your Name), and I’m a medical student at the International University of Health and Welfare in Japan. Thank you for your excellent presentation.”
医師の場合
“I’m Dr. (Your Surname) from the International University of Health and Welfare in Japan. Thank you for your excellent presentation.”
このように at や from の他、of や with も所属機関を述べる際に使うことができます。
卒業生・医局員の場合
“I’m a graduate of the International University of Health and Welfare.”
“I’m a member of the Department of Cardiology at IUHW.”
研究グループの一員・医局員の場合
“I’m with the research team at the International University of Health and Welfare working on public health.”
“I’m with the Department of Emergency Medicine at IUHW.”
このように「名前」「所属機関」「感謝の言葉」を述べてから質問をするように心がけましょう。その際には “I have a quick question about…” と述べて、簡潔な質問を一つだけするように心がけましょう。複数の質問をすることは他の人の質問時間を奪うことになります。他の人の時間を奪って質問をしているという自覚を持ち、追加の質問がある場合には後で個人的にするように心がけてください。
また「学会での質疑応答を乗り切るテクニック」に関しては、こちらに詳しく紹介していますので、是非ご確認ください。
初めての国際学会では、誰に話しかければいいの?
初めて参加する国際学会では、海外から参加する多様な参加者の中で「誰に話しかければいいのか」で悩む方も多いと思います。
そのようなときにお勧めするのが「自分の発表と同じ Session で発表する他の演者」です。彼らは自分と同じ分野の研究者であり、なおかつお互いの発表を聞いているため共通の話題も多く、自然な形で会話を始められます。そのような方に下記のような英語表現で話しかけると良いでしょう。
Session前に話しかける場合
“Hi, I believe we’re presenting in the same session. I’m (Your Name), a medical student at the International University of Health and Welfare in Japan. Nice to meet you.”
Session後に話しかける場合
“Thank you for your presentation. I found your study on (topic) very interesting. I’m also working on (related topic).”
また他人の発表に対して「良い質問をした参加者」に話しかけるのも効果的です。良い質問をしたという事実だけで優秀な参加者とも言えますし、自信を持って質問をする人はその学会である程度の地位を築いた人であることが多いので、その「良い質問にコメントをする」という形で下記のように声をかけると交流のいいきっかけとなるでしょう。
良い質問にコメントをする場合
“I really liked your question in the previous session.”
医師になってから参加する国際学会では、海外の大学院留学を通して人脈を築いた方とそうでない方とでは、人脈に大きな差があります。しかし短期間で同じ目的に沿って活動すれば、その作業を通して海外の研究者と短い時間で人脈を築くことも可能です。そこでお勧めするのが「Workshopを企画・運営するための Task Forceというチームに参加する」ということです。準備作業を通して海外の研究者と意見交換する技術と、型に縛られない英語力も身につくはずです。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後にもう一度、学術集会での一般的な企画をまとめておきます。
- • Plenary Session 「参加者全員が参加する講演や議論の場」
- • Keynote Presentation 「学会の開幕時に行われる基調講演」
- • Symposium「複数の専門家が順に発表し、その後に議論を行う企画」
- • Panel Discussion 「複数の専門家が相互に意見を述べて討論する企画」
- • Workshop 「参加者が実際に手を動かしながら学ぶ企画」
- • Oral Presentation「スライドを使って研究成果を発表する企画」
- • Poster Presentation 「1枚のポスターを使って研究成果を説明・応答する企画」
- • Reception 「軽食やドリンクを伴う立食形式の交流会」
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では、読者の皆さまがこの連載で取り上げてほしい医学英語のトピックを募集しています。こちらのリンクよりお送りください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
押味 貴之