こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ。
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんで頂くコーナーです。
本日のテーマは「歩行障害に関する英語表現」です。
医学教育モデル・コア・カリキュラムにおける「診療の基本」として身につけるべき35の症状として「歩行障害」gait disturbance がありますが、具体的にどのような種類の gait abnormalities があるのか、またそれらにはどのような鑑別疾患があり、そしてそれらの有無をどのような英語表現で尋ねたら良いのか、難しいと感じる方も多いことでしょう。
また「かかとで歩く」「つま先立ちで歩く」「足踏みする」「よろめく」など、歩行に関する基本的な英語表現に関しても自信がないという方も多いのではないでしょうか?
そこで今月は「歩行障害に関する英語表現」をご紹介いたします。
「よろめく」は英語で何と言う?
まずは「歩く」walk という動作に関する英語表現を確認しましょう。
「歩く」には walk の他にも go on foot のように on foot という表現が使われます。ですから「徒歩で何分かかりますか?」は How long does it take on foot? と表現するのです。
「ゆっくり歩く」は walk slowly が一般的ですが、slow は副詞にもなるので walk slow とも表現されます。ただ「速く歩く」の場合、fast が副詞となり walk fast となります。そして「キビキビ歩く」は walk briskly となります。
足首を「背屈」dorsiflexion してもらい、「かかとで歩く」ことを walk on heels と表現します。これとは逆に「底屈」plantarflexion してもらい、「つま先立ちで歩く」ことを walk on tiptoes と表現します。前者はL5 の障害で、後者は S1 の障害でそれぞれ影響を受けます。また診察の際には「その場で足踏みしてください」という指示も使いますが、これを英語では “Please march in place.” や “Please step in place.” のように表現します。
「足を引きずる(びっこを引く)」としては limp という動詞が最もよく使われます。「脚全体を引きずる」場合には drag one’s leg という表現が、足首を背屈することができない「足下垂」foot drop が原因で「足先を引きずる」場合には drag one’s foot という表現が使われます。
「よちよち歩く」ことを toddle と表現するので、1歳から3歳までの小児のことを英語では toddler と表現します。この toddle と似た表現で totter というものがありますが、これは足腰が弱くて「よろよろと歩く」というイメージの表現です。そして身体をゆすりながら「ふらふら(ぐらぐら)と歩く」場合には wobble という動詞が使われます。外的要因で「つまずく」場合には stumble と表現しますが、「足がもつれる」場合には trip over oneself という表現を使います。
身体のバランスを崩して倒れそうになることを「よろめく」と言いますが、これを stagger と表現します。ただ日本語の「よろめく」には様々な意味が含まれるので、先述した totter, wobble, and stumble も「よろめく」として使われる場合があります。それぞれ意味が異なりますので、区別して使えるようにしてくださいね。
動画を見て確認しよう!歩行障害の種類
「歩行」は英語では gait となり、症候名としての「歩行障害」は gait disturbance となります。そして観察対象となる様々な種類の「歩行異常」のことを gait abnormalities と呼びます。
ここからはこの gait abnormalities をそれぞれ具体的に見ていきますが、これらを理解するのに役立つ教材として、私も個人的に敬愛する Stanford University の Abraham Verghese 教授 が作成した Gait Abnormalities というサイトをお勧めします。このサイトの動画では、Verghese 教授が下記の8つの gait abnormalities を実演しながら解説しています。
- • Hemiplegic Gait
 - • Diplegic Gait
 - • Neuropathic Gait
 - • Myopathic Gait
 - • Choreiform Gait
 - • Ataxic Gait
 - • Parkinsonian Gait
 - • Sensory Gait
 
これらの gait abnormalities を理解するには、実際の歩行をしっかりとイメージできることが大切です。まずはこの9分程度の動画を見て、8つの歩行の特徴を視覚的に捉えてください。
押さえておきたいそれぞれのGait Abnormality の特徴と鑑別疾患
ではここからそれぞれの gait abnormality を見ていきましょう。
• Hemiplegic Gait「片麻痺性歩行」
「脳梗塞」cerebral infarction/ischemic stroke や「脳出血」cerebral hemorrhage/hemorrhagic stroke などで片側の「錐体路」pyramidal tract が障害されると、反対側の上肢は flexion hypertonia「屈曲痙縮」を、下肢は extensor hypertonia「伸展痙縮」を呈します。麻痺側の足は伸展して硬くなり、足先が下がる「下垂足」foot drop が生じます。患者は足を上げられないため、脚を外側に円を描くように振り出して歩くという circumduction of the foot を示します。軽症の場合は麻痺側の「腕の振り」arm swing が減るだけのこともあります。
診察の際には “Do you drag one leg when you walk?” のような質問をしましょう。
• Diplegic Gait (Spastic or Scissor Gait)「両麻痺性(痙性)歩行」
両側の錐体路障害により、両下肢の筋緊張が著しく高くなる adductor spasm と extensor spasm が起こるため spastic gait とも呼ばれます。adductor spasm によって脚を交差させながら歩くので scissor gait「はさみ歩行」と呼ばれる他、extensor spasm により、かかとをつけずにつま先で歩く tiptoe walking「つま先立ち歩行」とも呼ばれます。重症では歩幅が極めて狭くなり、両脚が擦れるように歩きます。主な原因疾患は「脳性麻痺」cerebral palsy です。
診察の際には “Do both of your legs feel stiff or cross when you walk?” のような質問をしましょう。
• Neuropathic Gait (Steppage or Equine Gait)「神経障害性歩行」
「末梢神経障害」peripheral neuropathy や「L5神経根障害」L5 radiculopathy などで「下垂足」foot drop を生じると、歩行時に足先が床に引っかかるようになります。そのため患者は膝を高く持ち上げる「高踏み歩行」steppage gait を行います。鶏の歩き方に似ているために日本語では「鶏歩」と呼ばれますが、英語では「馬」equine が足を上げるような動作に似ているとして equine gait と呼ばれます。両側性の場合には「糖尿病性神経症」diabetic neuropathy が主な原因となります。
診察の際には “Do your toes catch on the floor when you walk?” のような質問をしましょう。
• Myopathic Gait (Waddling Gait)「筋原性歩行」
「骨盤帯筋群」pelvic girdle muscles の筋力が低下すると、片脚で体重を支える際に、筋力が低下した側の反対側の骨盤が下がる「トレンデレンブルグ徴候」Trendelenburg sign を呈します。これを代償するため、患者は体幹を左右に傾けながら歩く「動揺歩行」waddling gait を示し、両側性の場合にはアヒルのように体を左右に揺らしながら歩きます。また膝を手で押しながら立ち上がる Gowers sign も特徴的です。代表的な疾患としては「筋ジストロフィー」muscular dystrophy が挙げられます。
診察の際には “Do you sway from side to side when you walk?” のような質問をしましょう。
• Choreiform Gait (Choreic or Hyperkinetic Gait)「舞踏運動性歩行」
歩行の際に「不随意運動」involuntary movements の一つである「舞踏症」chorea が出現すると、立位や歩行のリズムが乱れて体幹や四肢に「不規則で突発的な動き」irregular jerky movements を伴う歩行となります。このような「舞踏症に典型的な歩行」を choreic gait と、そして「舞踏症のような歩行」を choreiform gait と表現します。chorea の原因としては「ハンチントン病」Huntington’s disease と「リウマチ熱」rheumatic fever によるSydenham’s chorea を覚えておきましょう。chorea の他にも dystonia や athetosis などの involuntary movements を伴う歩行の場合、筋緊張が高まっているため hyperkinetic gait や dyskinetic gait などと呼ばれます。
診察の際には “Do you have jerky movements when you walk?” のような質問をしましょう。
• Ataxic Gait (Cerebellar Gait) 「失調性歩行」
「小脳出血」cerebellar hemorrhage や「小脳梗塞」cerebellar infarction などの小脳障害では「運動失調」ataxia が現れるので、ataxic gait と呼ばれる歩行が現れます。体幹のバランス制御が失われるので、立つ際には足を大きく広げる broad/wide-based stance が見られます。閉眼した際に体幹が前後左右に揺れるのは「深部感覚」proprioception が障害される際に認められる positive Romberg sign ですが、小脳障害の場合には開眼していても体幹が前後左右に揺れる「体幹の動揺」titubation が認められます。「よろめく」stagger ことを伴いながら歩行するので、この ataxic gait は staggering gait とも呼ばれています。
診察の際には “Do you feel unsteady when walking?” のような質問をしましょう。
• Parkinsonian Gait (Shuffling & Festinating Gait) 「パーキンソン歩行」
「パーキンソン病」Parkinson’s disease や「パーキンソニズム」parkinsonism では「姿勢反射障害」postural instability が見られるため、「前傾姿勢」stooped posture となり、また腕の振りも減って reduced arm swing を伴う歩行となります。踵ではなくつま先を「こする」shuffle ように歩く「小刻み歩行」shuffling gait や、前傾姿勢のまま「突進する」festinate ように歩く「突進歩行」festinating gait などが特徴的です。また歩き出しも遅く、difficulty initiating steps も認められます。
診察の際には “Do you take small steps or have trouble starting to walk?” のような質問をしましょう。
• Sensory Gait (Stomping Gait)「感覚性失調歩行」
「深部感覚」proprioception が障害されると、足が地面に触れた感覚が得られないため、「足を地面に強く打ちつける」stomp ことで感覚を確かめるように歩く stomping gait が現れます。この sensory gait は、閉眼すると Romberg sign と同様に悪化することも特徴です。主な原因としては深部感覚が障害される「ビタミンB12欠乏」vitamin B12 deficiency の他に、neuropathic gait も引き起こす「糖尿病性神経症」diabetic neuropathy を押さえておきましょう。
診察の際には “Do you stomp your feet when you walk?” のような質問をしましょう。
Shopping Cart Sign って何?
以上が代表的な gait abnormalities ですが、これ以外にも「痛み」が原因で起こる gait abnormalities があります。
• Antalgic Gait「疼痛回避性歩行」
足や脚に「痛み」algos があると、患者は無意識にその脚が地面に接している時間である「立脚期」stance phase を短くします。その結果として「立脚期の短縮」shortened stance phase と「患側への荷重回避」avoidance of weight bearing が起こり、痛みを避けるためにびっこを引くような pain-induced limping を呈します。これを「疼痛回避性歩行」 antalgic gait と呼びます。「骨折」fracture などの外傷の他、痛みを伴う「変形性関節症」osteoarthritis や「関節炎」arthritis などで見られます。
診察の際には “Do you feel any pain when you walk?” のような質問をしましょう。
• Claudication「跛行」
歩行中に下肢に痛み・痺れ・脱力などが出現し、休息することでこれらの症状が軽快する現象を「跛行(はこう)」 claudication と言います。この「跛」の訓読みは「びっこ」であり、「末梢動脈疾患」peripheral arterial disease (PAD) などで起こる「間欠性跛行」intermittent claudication と、神経根や馬尾が圧迫されて起こる「神経性跛行」neurogenic claudication に分けられます。
基本的にはどちらも歩行をやめて休息すると軽快するのですが、neurogenic claudication は「脊柱管狭窄症」spinal stenosis や「椎間板ヘルニア」herniated intervertebral disc、そして「脊椎すべり症」spondylolisthesis のように「神経根」nerve root や「馬尾」cauda equina の圧迫によって生じるので、「前かがみ」bending forward にならないと症状が改善しにくいという特徴があります。
このため「普通に歩いていると痛みが出るが、ショッピングカートを押すような前屈姿勢だと痛みが出ずにそのまま歩くことができる」という現象を shopping cart sign と呼ぶのです。
診察の際には “Does the pain go away when you stop walking?” や “Does leaning forward make the pain better?” のような質問をしましょう。
さてそろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後にもう一度、それぞれの gait abnormality を尋ねるための質問表現をもう一度確認しましょう。
- • Hemiplegic Gait: “Do you drag one leg when you walk?”
 - • Diplegic Gait: “Do both of your legs feel stiff or cross when you walk?”
 - • Neuropathic Gait: “Do your toes catch on the floor when you walk?”
 - • Myopathic Gait: “Do you sway from side to side when you walk?”
 - • Choreiform Gait: “Do you have jerky movements when you walk?”
 - • Ataxic Gait: “Do you feel unsteady when you walk?”
 - • Parkinsonian Gait: “Do you take small steps or have trouble starting to walk?”
 - • Sensory Gait: “Do you stomp your feet when you walk?”
 - • Antalgic Gait: “Do you feel any pain when you walk?”
 - • Intermittent Claudication: “Does the pain go away when you stop walking?”
 - • Neurogenic Claudication: “Does leaning forward make the pain better?”
 
ではまたのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では、読者の皆さまがこの連載で取り上げてほしい医学英語のトピックを募集しています。こちらのリンクよりご希望のトピックを自由に記載してお送りください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 
押味 貴之
										

