医師インタビュー

パリオリンピック副団長Dr.土肥美智子 ~五輪日本代表を支えるスポーツドクターのキャリア形成術~

第一線で活躍し続けるスポーツドクターの土肥美智子先生。パリオリンピックでは、医師として初めて日本選手団の副団長に任命された。同大会ではチーフメディカルオフィサーも兼務し、医療部門を統括。今回は、土肥美智子先生から見たパリオリンピックと、スポーツドクターとしてのキャリアの積み重ね方を聞いた。

【プロフィール】
土肥美智子

日本スポーツ協会公認スポーツドクター。立教大学スポーツウエルネス学部スポーツウエルネス学科特任教授。放射線診断専門医。医学博士。
2024年開催パリオリンピックで日本オリンピック委員会(JOC)TEAM JAPANに帯同。医師として初めて副団長に任命される。チーフメディカルオフィサーも兼任し、「医療チーム」「ウェルフェアオフィサー」など医療部門全体を統括。
過去、夏季オリンピック(北京、ロンドン、リオデジャネイロ、東京)日本選手団のスポーツドクターとして複数回帯同。男子・女子サッカー日本代表チームドクターとしても活躍しており、ワールドカップ2018ロシアにはハリルホジッチ監督(当時)の指名でチームドクターとなり、選手を支えた。

著書『サッカー日本代表帯同ドクター(時事通信社)』

「セーヌ川の水質」「性別問題」「SNSの誹謗中傷」

数々の課題と向き合うスポーツドクターの役割とは

── パリオリンピックでは副団長として参加なされたのですね。どのような仕事にあたっていたのでしょうか

  私の他、井上康生さん(シドニー五輪柔道男子100キロ級金メダリスト)ら3名でTEAM JAPAN副団長に任命されました。日本選手団で医師が副団長になるのは、私が史上初のことでした。3名の副団長にはそれぞれ異なる役割が与えられていて、私の役割は選手のサポートや応援、医務関係の管理の他、記者会見に出席して医師の観点から説明することなどでした。

── 同時にチーフメディカルオフィサーも兼任なされていますが、このポジションはどのようなことをするのでしょうか

  私が夏季オリンピック日本選手団に帯同したのは、パリオリンピックで5度目のことです。東京オリンピックまでは、一人のスポーツドクターとして選手たちのサポートをしていました。
 チーフメディカルオフィサーに就任したことで、選手への直接的なサポートから離れ、2つの医療に関する組織を統括したのです。その2つの組織は、スポーツドクター4名(内科系専門医2名、外科系専門医2名)とトレーナー2名からなる「医療チーム」、スポーツドクター1名(精神科専門医)、臨床心理士2名、IOC(国際オリンピック委員会)公認のセーフガーディング1名からなる「ウェルフェアオフィサーチーム」です。それに加え、サッカーなどチームドクターを別途帯同させている競技もあります。医療に関して何か必要であれば、競技ごとのチームドクター10名ほどとも連携をはかるようにしていました。

井上康生氏(シドニー五輪柔道男子100キロ級金メダル)、谷本歩実氏(シドニー、北京五輪柔道女子63キロ級金メダル)とともに3名で日本選手団の副団長を務めた土肥美智子先生。写真は谷本歩実氏と土肥美智子先生。

── ウェルフェアオフィサーは日本ではあまり聞きなれませんが、どのようなことを行うのでしょうか

  ウェルフェアオフィサーの仕事は、「選手たちの心のケア」です。そちらをお話しする前に、まず「医療チーム」の役割を説明します。医療チームのスポーツドクターは、選手のコンディションのサポート、ケガの予防や応急処置、ドーピング検査対応、感染症対策など幅広い仕事があります。内科系専門、外科系専門のスポーツドクターとトレーナーで分担して、選手を手助けしています。
 対して、「ウェルフェアオフィサー」は選手間の人間関係の悩みや、試合前のプレッシャーのケアの他、近年問題視されているSNSの誹謗中傷の対処など、メンタル面のサポートをします。大会を通じて、選手からウェルフェアオフィサーへの相談件数は10件以上ありました。

── 土肥先生もSNSの誹謗中傷に関して、記者会見で言及なされていましたね

  SNSはアスリートが直接発信したり、自身をブランディングしたりと、競技生活を豊かにする反面、使い方を誤ればコンディションを低下させます。それに、競技生活を脅かす誹謗中傷もあるのが実情です。なかには選手個人では対処が困難な悪質な誹謗中傷もあります。
 ウェルフェアオフィサーのセーフガーディング担当者は、SNSをくまなくチェックしています。アスリート保護の観点で、度が過ぎた誹謗中傷を見つけたらプラットフォームに対して削除の要望を出すなどの対応をはかります。
 私は記者会見で、SNSにおける誹謗中傷への対処についてコメントしました。メディアで取り上げられたので、その報道を目にした方がいるかもしれませんね。
 ウェルフェアオフィサーは、競技者のパフォーマンス低下を防ぐためにSNSとの向き合い方をアドバイスしたり、誹謗中傷を受けた選手のメンタルケアをしたりしています。

── パリオリンピックでは議論を呼ぶ話題が数多くありました。「セーヌ川の水質」について、日本選手団のスポーツドクターはどのように対処したのでしょうか

  問題にした国がいくつかあったので、われわれも念入りな対策を講じました。一例としては、パリ2024オリンピック組織委員会のチーフメディカルオフィサーとの緊密な連携です。水質検査のレポートを見せてもらうなど、選手への影響を慎重に検討しました。トライアスロンやマラソンスイミングの日本代表選手は大きな問題もなく無事に戦い抜くことができました。

開会式直前の日本選手団。背後にはセーヌ川が写る。

── 「性別問題」はスポーツの枠を超えて、世界各国の政治家や医療関係者を巻き込んでの議論となっています。この問題について、どのようにお考えでしょうか

  パリオリンピック以前から盛んに議論されている問題ですね。個人的には、ロンドンオリンピック(2012)から議論が一層盛んになったように感じています。性別の論争に関しては、われわれ医師だけでなく、社会学やジェンダーの専門家などと一緒に議論を進めなければなりません。
 オリンピックと性の多様性。医療従事者として、選手には競技の公平性と安全性を保ち、納得できるような場を提供したいという思いがあります。

── 東京オリンピックは新型コロナウイルスが引き起こしたパンデミックの最中で開催しました。対してパリオリンピックは「アフターコロナ」の開催でした。感染症対策の変化や発展はいかがでしたか

  オリンピックは、世界中から選手や関係者が集まる世界最大の祭典の一つ。南半球などの選手は、母国がインフルエンザピーク期に渡航してきますから、実はコロナだけではなく、さまざまな感染症のリスクは常にあります。私たち医療従事者はコロナだけではなく、このような感染症の対策を常時実施しています。

 前回開催の東京オリンピック。新型コロナウイルス陽性者の競技出場は難しい状況でした。対してパリオリンピックは、アフターコロナでの開催となりました。パリオリンピックでは、新型コロナウイルス陽性者への厳格な制限は設けられていません。つまり、新型コロナウイルスに感染しても、競技に参加可能ということです。
スポーツドクターとしての新型コロナウイルス陽性者への対応として、陽性者のマスク着用指示、隔離など。感染拡大の防止に努めていました。試合出場の可否に関しては、「あくまで選手のコンディション次第。競技団体の判断で構わない」と伝えていました。

── 選手村の段ボールベッド、室内のエアコン未設置なども各種報道で取りざたされました。体調不良を訴える日本人選手はいませんでしたか

  幸い、選手から体調不良の報告はありませんでした。実は段ボールベッド、エアコンなどの設備面については、専門の部署が別にあって、そちらで対応していました。ちなみにエアコンは、日本選手団に限るとあらかじめ手配し、選手の居室に設置していたので問題になっていません。
 段ボールベッドは、東京オリンピックでも採用されていましたが、個人的な意見にはなりますがマットレスがあって、しっかりした印象でした。SDGsの観点でも取り組みは素晴らしいと思います。

── パリオリンピックで日本のメダル獲得数45と過去最多(海外大会)。この好成績の要因はどこにあるとお考えでしょうか

  どの競技も練習環境の向上や、育成が実を結んでのことと思います。メダル獲得数が最多となったのは一朝一夕のものではなく、何十年の月日をかけた成果だといえます。今後、私を含め、JOC(日本オリンピック委員会)で詳しく分析します。好調の要因をなるべくは明らかにしたいですね。

 副団長、チーフメディカルオフィサーとしての個人的な意見を述べると、日本選手団の雰囲気が非常によかったと思います。これが、なんらかの好影響をもたらしたのではないでしょうか。メダルに固執しすぎず、競技を越えて選手団が一丸となっていました。過去の日本選手団とは、明らかにひと味違ったものでした。
 例えば、「レスリングが金メダルを獲ったぞ!自分たちも続こう!他の選手もみんなで応援しようよ」みたいな一体感。パリオリンピックでも、もちろんメダルの目標がありました。しかし過度なプレッシャーを出すのではなく、盛り上げるような形で目標に向き合っていたように思いますね。あくまで私の感想なのですが、このような雰囲気は、日本選手団の好成績の一因ではないでしょうか。

立教大学での教え子で、7人制ラグビー女子日本代表・西亜利沙選手。



時代と国で異なるスポーツドクターの役割

金メダル獲得数1位の中国選手団は東洋医学も活用

── オリンピックにおけるスポーツドクター。どのような仕事をするのでしょうか

  メダルなどの結果も大切ですが、第一に考えるのは“選手が競技の場に立つ”。それが最重要事項です。選手が出場した瞬間は、他にはない達成感も得られます。
 選手を無事競技に送り出すためには、オリンピック開始前のメディカルチェックは欠かせません。病気やケガがあれば、本番までに治せるよう各所と相談しながら最善を尽くします。
 その他、オリンピック開始前から終了まで、感染症やケガの予防、ケガの応急処置、メンタルケア。時差や暑さ、月経コントロールといったコンディション調整もサポートします。ドーピング検査への対応もわれわれスポーツドクターの仕事の一つですね。

── パリオリンピックは5度目の帯同でいらっしゃいますが、現在に至るまでのスポーツドクターの周囲の理解度の違いや設備の進化などはありますか

  スポーツドクターは時代の流れとともに求められることも変わります。暴力、暴言、差別などの「ハラスメント問題」や、先ほども挙げた「ジェンダー問題」「SNS等の誹謗・中傷への対応」「未知の感染症」。こういった課題・問題が続々と登場します。スポーツドクターは取り残されず、しっかり対応していかなければなりません。
 競技の進化にも適応する必要があります。例えばセーリングです。セーリングは、観客を意識してスピードが増す種目に変更となりました。エキサイティングな競技となって人気が増えるのはいいことなのですが、ケガのリスクは高まりました。競技の進化とそれに伴うリスクの変化もしっかり把握しておかなければなりません。
 近年ではeスポーツもオリンピック種目になる動きがあります。実はeスポーツにも、スポーツドクターとしての知見が求められています。eスポーツでは、選手らの視力や姿勢を保っている部位に負担がかかりますから、そちらに精通したスポーツドクターの必要性を訴える声が出てくるようになりました。

パリオリンピック「セーリング混合470級」銀メダルを獲得した岡田奎樹選手と吉岡美帆選手。土肥先生自身も学生時代にセーリングで国体に出場。現在は日本セーリング連盟の副会長であることから選手と交流がある。

── スポーツドクターを統括するチーフメディカルオフィサー。役割や仕事内容をお聞かせいただけないでしょうか

  医療チームとウェルフェアオフィサーの統括の他、彼らからとどいたメディカル面の問題点や課題を、国際オリンピック委員会(IOC)や日本オリンピック委員会(JOC)に報告・調整をはかることもチーフメディカルオフィサーの仕事です。いわば、コーディネーターの役割ですね。
 このような立場だったので、私自身はパリオリンピックで、スポーツドクターとしてほとんど現場には立っていません。

── オリンピックに参加した各国のスポーツドクターから、刺激を得る機会はありましたか

  パリオリンピックの日本選手団の選手は400名ほどと世界有数の大規模選手団です。それもあって、日本のスポーツドクターの質は世界にも引けを取っていません。アメリカやオーストラリアのようなスポーツが盛んな国は、スポーツドクターの理解、役割分担も進んでいます。しかし日本も十分誇れるレベルにあります。
 選手団に帯同するスポーツドクターにはお国柄のようなものもあって、例えば中国には東洋医学を専門としたスポーツドクターが帯同していることもあるようです。それにメンタルケアを重要視し、早い時期から精神科専門のスポーツドクターを帯同させる国もありましたね。

オリンピック開催期間中のエッフェル塔とヴェルサイユ宮殿(撮影:土肥美智子先生)。



第一線で活躍するスポーツドクターが教える

世界で活躍するためのキャリア形成術

── スポーツドクターになるにはどのようなプロセスが必要でしょうか

 日本でスポーツドクターの「認定・公認」資格は3種類あります。次を参考にしてみてください。
1つ目は「日本医師会認定健康スポーツ医」。4日間の講習会を受講して資格を取得。研修医でも受講資格があります。
2つ目は「日本スポーツ協会公認スポーツドクター」。単位取得に最低2年はかかります。4年以上の臨床経験が必要で、加盟団体(体育協会や競技団体など)から推薦を受けなければ受講ができません。ちなみに私は、この公認スポーツドクターです。
3つ目は「日本整形外科学会」認定スポーツドクター。学会への出席と多くの研修を要します。整形外科専門医しか取得できません。

── スポーツドクターを取得する年齢や医師歴の目安はありますか

 たまに「早くスポーツドクターの資格を取った方がいいですか?」と聞かれることがあります。結論から申し上げると、年齢や取得年数はキャリアにあまり影響がありません。スポーツドクターの資格を取得してすぐにオリンピックなどの国際的な大会に呼ばれることもあります。肝心なのは、専門を決めたら、しっかり研鑽を積むことです。医師としての専門性の高さや実績が認められれば、スポーツドクターとしてチャンスが広がる傾向にあります。
 ちなみに、パリオリンピックのスポーツドクターも、40代、50代ばかりです。私が初めてオリンピックに帯同した年齢は42歳でしたね。

── スポーツドクターとしてトップアスリートと一緒に夢を追いたい医師は多いと思います。第一線で活躍する土肥先生にお伺いします。輝かしいキャリアを積み重ねる秘訣はなんでしょうか

 私のスポーツドクターのキャリアの第一歩は1991年。医師歴1年目までさかのぼります。当時、東京で世界陸上が開催されることになっていて、私の恩師がこの大会に関係していました。その恩師から、「選手村の医務室をお願いできないか?」と打診がありました。興味があった私は、夏休みを返上し、無償で医務室の仕事を頑張りました。それが契機となって、国立スポーツ科学センターから声がかかったのです。
 1990年代の時代背景として、女性の日本代表選手が増え続けていました。オリンピックに帯同するメディカルドクターの何名かは国立スポーツ科学センター所属のスポーツドクターから選出されます。当時所属していた内科系の女性スポーツドクターは私だけ。女性アスリートのドーピング検査対応や、女性ならではの不調の相談に女性スポーツドクターが適任との判断があって、北京オリンピックから帯同するようになったのです。
 キャリアの秘訣というと大げさかもしれませんが、アドバイスとしてはいろいろなところに顔を出すということでしょうか。お金にならない案件もあると思いますが、何がキャリアのステップになるかはわかりません。チャンスを広げるために積極的に活動してはいかがでしょうか。

── スポーツドクターの働き方や勤め先について教えてください

 私の勤め先は、立教大学のスポーツウエルネス学部スポーツウエルネス学科。こちらで特任教授をしています。私は大学に所属しながら、オリンピックやサッカーの日本代表に帯同するスポーツドクターもしています。
 他にも整形外科のある病院で、アスリート、スポーツ外傷などを診るスポーツドクターもいます。整形外科を専門としたスポーツドクターとしては、この働き方が一般的。勤務医だけでなく、整形外科の開業医もできるスポーツドクターですね。ただ、病院・クリニックとのスケジュール調整が難しく、長期間チームに帯同するのが難しい点がデメリットといえるでしょう。

── スポーツドクターは整形外科医が多い印象があります

 アスリートのケガは試合出場の可否においてインパクトがあるので、整形外科医のイメージが強いかもしれません。実際、日本では整形外科を専門とするスポーツドクターが多い傾向にあります。
 しかし前述のように、スポーツ全体に求められる医療従事者の役割は、時代とともに変化しています。性別に関する対応やメンタルケアは、今後さらにスポーツドクターに求められるでしょう。
 海外に目を向けると、オーストラリアでは整形外科を専門とするスポーツドクターばかりではありません。ジェネラル・プラクティス(総合診療医)にプラスして外傷の知識を持ったスポーツドクターが一般的です。

── スポーツドクターはどのような診療科が専門でも目指せるのでしょうか

 はい。どのような専門でもスポーツドクターになれます。私は放射線診断専門医です。日本スポーツ協会の公認スポーツドクターは専門も多種多様。婦人科、小児科、眼科、皮膚科などが専門のスポーツドクターもいます。
 海外遠征や大会においては、トップスリーの疾患があります。
1つ目は新型コロナウイルスなど感染症による呼吸器系疾患。
2つ目は腸炎などの消化器系疾患(衛生状態が悪い国では特に注意)。
3つ目は蕁麻疹や虫刺されなどの皮膚系疾患。
 これら疾患は、帯同するスポーツドクターが対応するため、幅広い知識が求められているのです。
 少し私自身の話をします。私が医師になった当時はMRIが出たばかり。画像診断は、スポーツ医学の世界で必要とされ、スポーツ外傷・障害の診断学が大きく前進すると思いました。スポーツドクターとして帯同した際は、専門が放射線診断専門医ということもあって、スポーツ外傷の画像診断を任されることもあります。
 さらには、私はアジアサッカー連盟の医学委員でもあるのですが、放射線診断専門医の経験が活きています。年齢別の大会において、年齢詐称や戸籍制度が不十分な国に生まれて実年齢が不確かなケースがあり、それに対応するため、MRIの画像から骨年齢を判定する方法が開発されました。この研究に協力できているのは、私の専門だからです。

スポーツドクターは認定資格を取得してすぐに国際大会に呼ばれることもあるという。

── 海外ではスポーツドクターが国家資格になっていることもありますが、現在の日本では認定となっています。今後の発展などはどのようにお考えでしょうか

 需要に関しては、私がスポーツドクターを目指したときに比べると確実に増えています。サッカー日本代表は、何十年も前からスポーツドクターを帯同させていますし、その他団体競技でも帯同の動きはあります。それに医学部と体育系学部があるような筑波大学、東海大学、順天堂大学、東京大学などでは、スポーツ医学研究が盛んな模様。
 スポーツ医学についてですが、古くは“スポーツ”は、「気分を晴らす」という意味でした。その言葉からもわかるように、トップアスリート以外にもスポーツドクターは必要です。ご高齢の方々のフレイルやロコモティブシンドローム対策のための自立できる身体活動。このような健康づくりの運動で、障害を起こさないためのサポートもスポーツドクターの役割になりつつあります。同様に運動不足の子どもたちのサポートもわれわれの仕事と考えています。

── 土肥先生はサッカー日本代表「SAMURAI BLUE」「なでしこジャパン」のチームドクターとして、ワールドカップやアジアカップに帯同もなされていますね。サッカー日本代表のチームドクターになるために大切なことはありますか

 まず、サッカー経験は必要ありません。私自身、学生時代にはバスケットボールやセーリングをしていましたが、サッカーは経験していません。もっと言うと、スポーツの経験すらなくても問題なくやれます。中途半端な知識や経験は邪魔になることもあり得ます。ただやはり、スポーツやサッカーへの興味は必要だと思います。興味がないと、選手と話す上で困るでしょうし、ケガの発生状況の理解が難しくなります。
 あとはカリスマドクターやトレーナーは、サッカー日本代表には選ばれにくい傾向にあります。チームドクターの影響力が強すぎると所属チームに戻った際に混乱をもたらすのです。サッカー日本代表のチームドクターに求められるのは、ハイスタンダード。専門と外傷などの知識を高いレベルで備えておくようにしたいですね。

女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)の選手たちとの一枚。国際サッカー連盟(FIFA)、アジアサッカー連盟(AFC)における女子大会のメディカルオフィサーとして活躍。そのこともあって、選手からの信頼も厚い。

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