
こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「麻酔に関する英語表現」です。
英語の numbness の日本語訳を「麻痺」と勘違いされている方、そして「表面麻酔」の英語表現を正しく言えない方、意外と多いのではないでしょうか?
また手術前後に患者さんに英語で話しかける場合、どのような英語表現を使ったら良いかわからないという方も多いのではないでしょうか?
そこで今月は「麻酔」に関する英語表現を色々とご紹介したいと思います。
Numbness の正しい意味は?
「麻酔」の医学英語は anesthesia です。これは「無い」を意味する an– と「感覚」を意味する esthesia が組み合わされてできた表現です。ですから「麻酔の学問 = 麻酔科」は anesthesiology となりますし、「麻酔の状態を作るもの = 麻酔薬」は anesthetic となるのです。
そして、この anesthesia の一般英語表現が numbness なのです。「麻痺」とは「筋肉を動かせなくなる状態」ですので、この numbness の日本語訳は「麻痺」ではなく、「麻酔 = 感覚が失われた状態」のことであり、日本語では「しびれ」や「しびれ感」のように表現されます。ですから患者さんが “My hands feel numb.” と表現した場合、それは「両手が動きません」ではなく、「両手の感覚がありません」という意味になるのです。
感覚が低下すると「ピリピリする」「チクチクする」といった「感覚異常」も現れます。日本語ではこの「感覚異常」も「しびれ」や「しびれ感」として表現されますが、英語では feeling tingling や feeling pins and needles のように numbness とは区別して表現されます。そしてこの「感覚異常」の医学英語は、「異常」を意味する para– に esthesia を組み合わせた paresthesia となります。
ちなみに「筋肉を動かせなくなる状態 = 麻痺」の医学英語は paralysis であり、「正常よりも筋力が落ちた状態 = 筋力低下」の医学英語は paresis となります。どちらも numbness と混同されがちな表現なのですが、しっかりと区別して覚えておいてくださいね。
「表面麻酔」の英語表現は?
次に麻酔の種類を見ていきましょう。
痛みを感じさせなくするだけでなく、手術のために意識を失わせる「全身麻酔」は general anesthesia と言い、主に麻酔の「導入」induction に用いられる「静脈麻酔」intravenous anesthesia と、主に麻酔の「維持」maintenance に用いられる「吸入麻酔」inhalation anesthesia に分けられます。
これに対して痛みを感じさせなくするための麻酔としては、「区域麻酔」regional anesthesia と「局所麻酔」local anesthesia の2種類があります。
このうち「区域麻酔」regional anesthesia は一定の区域の感覚を無くすための麻酔であり、くも膜下腔に麻酔薬を入れることにより短時間で強い効果が期待される「脊髄くも膜下麻酔」spinal anesthesia と、硬膜の外にカテーテルを留置して麻酔薬を入れることでより持続的な効果が期待される「硬膜外麻酔」epidural anesthesia、そして神経が「叢(くさむら)」のように束になっている部位に麻酔薬を入れることで腕や脚の麻酔が可能となる「神経叢ブロック」nerve plexus block の3つに分類されます。
これに対して「局所麻酔」local anesthesia はより小さな局所の感覚を無くすための麻酔であり、麻酔薬を塗布する「表面麻酔」topical anesthesia と、局所的に麻酔薬を注射する「浸潤麻酔」infiltration anesthesia、そして神経の近くに麻酔薬を注射する「神経ブロック」nerve block の3つに分類されます。このように topical には「表面で作用する」というイメージがあるので、「塗り薬」の英語表現は topical medicine となります。
以上を簡単にまとめると下記のようになります。特に regional と local の違いを知らなかった方は、その違いを意識して覚えてくださいね。
• General anesthesia「全身麻酔」
- • Intravenous anesthesia「静脈麻酔」
- • Inhalation anesthesia「吸入麻酔」
• Regional anesthesia「区域麻酔」
- • Spinal anesthesia「脊髄くも膜下麻酔」
- • Epidural anesthesia「硬膜外麻酔」
- • Nerve plexus block「神経叢ブロック」
• Local anesthesia「局所麻酔」
- • Topical anesthesia「表面麻酔」
- • Infiltration anesthesia「浸潤麻酔」
- • Nerve block「神経ブロック」
絶対に忘れない「腕神経叢」部位の覚え方とは?
腕や手の手術では regional anesthesia の nerve plexus block として、「腕神経叢ブロック」brachial plexus block が必要となります。解剖の授業では「腕神経叢」brachial plexus の各部位を暗記することが求められますが、臨床現場でその知識を活用する場面の一つがこの brachial plexus block なのです。
brachial plexus とは、頸部の5本の脊髄神経が腕や手に分布する5本の末梢神経に分岐する際に形成する「叢(くさむら)」のような神経の束であり、近位から遠位に向けて下記の5つの部位から形成されます。
- • 5 Roots (C5, C6, C7, C8, and T1): 神経根
- • 3 Trunks: 幹
- • 6 Divisions: 分岐
- • 3 Cords: 束
- • 5 Branches (Musculocutaneous, Axillary, Radial, Median, and Ulnar Nerves): 末梢神経
各部位の数の覚え方はそれほど難しくはありません。5本の神経根が上・中・下の3本の幹になり、それらがそれぞれ前・後に分かれて6本の分岐となります。その分岐がさらに外・後・内側の3本の束に収束した後、「筋皮神経」「腋窩神経」「橈骨神経」「正中神経」「尺骨神経」という5本の末梢神経に分かれるのです。つまり「5本で始まり5本で終わる。その間は 3 → 6 → 3」と覚えれば良いのです。
ただ、各部位の名称を正しい順序で覚えることは簡単ではありません。そこで役に立つのが下記の mnemonics「暗記法・語呂合わせ」です。
Remember To Drink Cold Beer!「冷たいビールを飲むのを忘れずに!」
5 Roots
3 Trunks
6 Divisions
3 Cords
5 Branches
こちらの動画では国際医療福祉大学医学部(IUHW)の学生さんたちが、私が IUHW で担当している USMLE Seminar の感想を語っています。彼らが語るように、このセミナーでは米国の医学生が使っている mnemonics をたくさん紹介しています。その中でも腕神経叢の格部位を覚えるこの mnemonics は IUHW の学生さんからの評判も良く、記憶の定着率も高いと感じています。
そして腕や手の手術が必要な場合、麻酔をかけたい部位によってそれぞれ異なる brachial plexus block を行います。
Brachial Plexus Block の種類
- • Interscalene Block「斜角筋間ブロック」Roots と Trunks を麻酔
- • Supraclavicular Block「鎖骨上ブロック」Trunks を麻酔
- • Subclavicular Block「鎖骨下ブロック」Cords を麻酔
- • Axillary Block「腋窩ブロック」Branches を麻酔
shoulder や upper arm の手術の場合、roots と trunks のレベルで麻酔薬を注入する interscalene block「斜角筋間ブロック」が有効です。この場合 phrenic nerve「横隔神経」もほぼ100%の確率でブロックするため、片側性の diaphragmatic paralysis「横隔膜麻痺」を引き起こします。
shoulder を除いた upper arm の手術では、trunks のレベルで麻酔薬を注入する supraclavicular block「鎖骨上ブロック」が、そして elbow, forearm, and hand の手術では、divisions の下の cords のレベルで麻酔薬を注入する subclavicular block「鎖骨下ブロック」が使われます。どちらも pneumothorax「気胸」のリスクがあります。
そして forearm や hand に限定した手術の場合、branches のみに作用する axillary block「腋窩ブロック」が使われます。ただこの部位は血管が豊富なため、local anesthetic systemic toxicity (LAST)「局所麻酔薬中毒」のリスクがあります。
このように brachial plexus block において “Remember To Drink Cold Beer!” は大いに役立ちます。皆さんも是非この mnemonics を使って brachial plexus を覚えてください。
麻酔薬の「強さ」は英語で何と言う?
では最後に「麻酔薬」anesthetics の名称を確認していきましょう。
regional anesthesia と local anesthesia ではどちらも「局所麻酔薬」local anesthetics が使われます。そしてこの local anesthetics は、どれも名称に –caine がつきます。
このうち「血漿」plasma にて分解される「エステル型」esters(「エスタァズ」のように発音)には下記のようなものがあります。
- • Cocaine「コケィン」
- • Benzocaine「ベンゾケィン」
- • Procaine「プロケィン」
- • Tetracaine「テトァケィン」
そして、「肝臓」liver にて分解される「アミド型」amides(「エァマィヅ」のように発音)には下記のようなものがあります。お気づきのようにその名称に –caine がつくだけでなく、 2つの i が入るのが特徴です。
- • Lidocaine「ラィドケィン」
- • Mepivacaine「メピヴァケィン」
- • Bupivacaine「ブピヴァケィン」
General anesthesia の「吸入麻酔薬」inhalation anesthetics の名称にも法則があり、最後に –ane がつきます。
- • Desflurane「デスフルレイン」
- • Halothane「ハロセイン」
- • Enflurane「エンフルレイン」
- • Isoflurane「アイソフルレイン」
- • Sevoflurane「セボフルレイン」
- • Methoxyflurane「メソキシフルレイン」
そして、これら inhalation anesthetics は「悪性高熱症」malignant hyperthermia を引き起こす可能性があるため、事前に “Has anyone in your family ever had a severe reaction to anesthesia?” のような質問をする必要があります。
これに対して「静脈麻酔薬」intravenous anesthetics には、特に名称に関する法則がありません。
- • Barbiturates「バービチュレイツ」
- • Benzodiazepines「ベンゾウダイアゼピンズ」
- • Ketamine「ケタミン」
- • Propofol「プロポフォール」
- • Opioids「オゥピオイズ」
opioids には様々な種類がありますが、最も「弱い」weak ものが codeine です。これに対して最も「強い」potent ものが、今米国で深刻な問題となっている fentanyl(「フェンタノゥ」のように発音)です。このように麻酔薬の「強さ」は strength ではなく、potency と表現します。
私はこちらのプログラムの引率で San Francisco を訪れていますが、市内にある Tenderloin という地区はこちらのような深刻な状況となっています。この fentanyl はごく僅かな量でも呼吸抑制を引き起こし死に至るため、拮抗剤である naloxone を迅速に投与する必要があります。そしてこの naloxone の商品である NARCAN Nasal Spray は、米国では「市販薬」over-the-counter (OTC) drug として手に入ります。使い方はこちらの動画で紹介されていますので、是非確認しておいてくださいね。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に手術前後に患者さんに話しかける際の英語表現をお示しします。
1. Preoperative Visit
- • Hello, I am (your name), one of the OR nurses. I will be assisting with your surgery today.「こんにちは、手術室の看護師の(名前)です。本日の手術のサポートを担当します。」
- • I am here for your preoperative check. Let’s go over a few questions.「術前の確認のために来ました。いくつか質問をさせて頂きますね。」
- • Do you have any allergies to medications or latex?「薬やラテックスにアレルギーはありますか?」
- • Have you had anything to eat or drink since midnight?「昨夜の深夜以降、何か食べたり飲んだりしましたか?」
- • Are you wearing any jewelry, contact lenses, or dentures?「アクセサリー、コンタクトレンズ、入れ歯はつけていますか?」
2. Entering the Operating Room on the Day of Surgery
- • Good morning, we are going to take you to the operating room now.「おはようございます。これから手術室へ移動します。」
- • We will transfer you to the operating table. Please try to stay relaxed.「手術台に移動します。リラックスしてください。」
3. Patient Identification
- • Could you please confirm your full name and date of birth?「お名前と生年月日を教えてください。」
- • What procedure are you scheduled for today?「今日はどの手術を受ける予定ですか?」
- • Do you have any known allergies?「アレルギーはありますか?」
4. Checklist Verification
- • Let’s go through the surgical safety checklist.「手術の安全チェックリストを確認します。」
- • Is the surgical site correctly marked?「手術する部位は正しくマーキングされていますか?」
- • Have antibiotics been administered?「抗生物質は投与されましたか?」
- • Are all necessary surgical instruments and equipment ready?「必要な手術器具や機材はすべて準備できていますか?」
5. Before Induction of Anesthesia
- • We will now start preparing for anesthesia.「これから麻酔の準備を始めます。」
- • You will feel a little cold as we clean your skin.「皮膚を消毒するので少し冷たく感じるかもしれません。」
- • We will place a small tube in your back to deliver pain medication.「背中に小さなチューブを入れて、痛み止めを投与します。」
- • Please curl up into a fetal position, like a baby in the womb.「赤ちゃんがお腹の中にいるような姿勢で丸くなってください。」
- • You may feel some pressure. Let me know if you feel any sharp pain or discomfort.「少し圧迫感を感じるかもしれません。鋭い痛みや不快感があればすぐに教えてください。」
- • I will place an oxygen mask over your nose and mouth. Please take deep breaths.「酸素マスクを鼻と口に当てますので、深呼吸してください。」
- • You may start to feel sleepy soon.「もうすぐ眠くなります。」
6. Extubation Check
- • Squeeze my hand if you can hear me.「聞こえたら私の手を握ってください。」
- • Can you open your eyes for me?「目を開けられますか?」
- • We are about to remove the breathing tube.「これから気管チューブを抜きます。」
- • Take a deep breath in and try to cough.「大きく息を吸い込んでから咳をしてください。」
- • You might feel a little sore throat, but it should improve soon.「少し喉の痛みを感じるかもしれませんが、すぐによくなります。」
7. Before Leaving the OR
- • Everything went well. We will now transfer you to the recovery room.「手術は無事に終わりました。これから回復室へ移動します。」
- • You may still feel a bit drowsy.「まだ少し眠いかもしれません。」
- • Do you feel any pain or discomfort?「痛みや違和感はありますか?」
- • We will continue to monitor you closely.「引き続き慎重に経過を観察しますね。」
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では、読者の皆さまがこの連載で取り上げてほしい医学英語のトピックを募集しています。こちらのリンクよりお送りください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
押味 貴之