在宅医療専門医という働き方【第1回】在宅医療の本質とその魅力 ～プロローグ～｜医療法人社団 貞栄会

理想の医師となるべく、皆さんは日々、研修に励んでいらっしゃることと思います。私もそんな研修医時代を思い返し、今は何事もがむしゃらに吸収し、これからの人生を支えてくれる土台をしっかりと築いてほしいという思いです。一見、自分が目指す道とは無関係に思われる内容もあると思いますが、そうした知識や経験が役立つ日が来ると、少し先輩である私は信じています。

中には、まだ進むべき医療の道が定まっていないという方もいらっしゃるでしょうが、私としては少しでも参考になればとの思いで、医師として、そして“人”として大切なことを学べた在宅医療の魅力を、応援メッセージとして送りたいと思います。

在宅医療への誤解、そしてあるべき姿

皆さんは在宅医療について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
医学教育は病院医療を中心に学ぶので、在宅医療もシステマチックに行い、緊急時には病院に搬送すればいい、といったイメージを持っている方も多いのではないかと思います。いわば、“入院治療の劣化版”というイメージです。

実際、医学教育では患者さんの“生活”という視点での教育はなされていないのが現実のようです。
例えば、癌の末期では薬を処方して痛みを抑えられれば、医学的には正しい対処です。後は最期の時に往診に行けばいい、そう考えるのは、ある意味当然かもしれません。

しかし、私のクリニックが地域で信頼されている理由は、こうしたやり方ではない部分にあり、逆に、そうした在宅医療では確実に淘汰されてしまうだろうと私は考えています。

在宅医療のプロフェッショナルとして、私が追及しているのは“在宅で長く過ごせる”を現実化させることで、そこに在宅医療の最大の使命があり、医師としての大きな魅力があると確信しています。

オーダーメイド医療だからこそのやりがい

患者さんそれぞれに生活があり、ご家族の思いもあります。そのため、こうした思いをどれだけ汲み取れるかが、在宅医の技量だと考えています。

在宅でしかできないことがあるからこそ訪問する価値があり、それは医療行為に限ったことではありません。医療の知識を生かして患者さんの生活をサポートし、悩みを聞いてあげるといった行為全体に価値があるのです。
それこそが、在宅医療の原点だと思うのです。

こうした観点で在宅医療をみると、患者さん本人の希望を実現させるために医療と掛け合わせるという行為を、患者さんやご家族と一緒に積み重ねていく、カスタマイズしていくことが必要です。
そういう意味で在宅医療は “オーダーメイド医療”であり、病院医療では経験できないやりがいがあると思っています。

在宅医は医師として、そして“人”として成長できる

主に高齢者を対象とする在宅医療では、医療による成果＝患者さん・ご家族の希望、とは限りません。残された時間を自宅でご家族と一緒に過ごしたい、と望まれるのは当然のことですが、日本ではその望みが叶っていない患者さんが大半を占めています。

そうした希望を叶えてあげられる最も身近な医師が在宅医であり、叶えることが在宅医の使命です。最後の時間を意味のあるものにできるかどうかは在宅医の技量にかかっており、その人の人生に大きな影響を与えるというのは責任重大です。

一方で、ご本人はもちろん、ご家族からも感謝される“笑いのある看取り”を実現できることは、在宅医として何事にも代えがたいやりがいだと思っており、その経験は必ず自身の“人”としての成長につながると信じています。
“人生に寄り添えるかどうか”が在宅医療の根本であり、そこに大きな魅力があるのです。

こうした在宅医の使命ややりがいについて、2回目以降はさらに踏み込んで、皆さんにお伝えしたいと思います。

• 【第1回】在宅医療の本質とその魅力 ～プロローグ～
• 【第2回】理想の在宅医療とは ～在宅医として欠かせない視点と魅力～
• 【第3回】患者・家族から学び医師として成長する
• 【第4回】在宅医療が実現すべき理想のゴール ～患者が望むゴール（看取り）に与える医師の影響力～
• 【第5回】在宅医療のプロとしてあるべき姿～エピローグ～ 在宅医療の神髄は、すべての医療に通じる基本的資質

医療法人社団 貞栄会について

患者様の治療に必要な各専門領域のスペシャリストが、患者さんのもとまで「うかがう」、総合病院を目指した取り組みを行っています。「動く総合病院にしよう」「お看取りまでしっかりと」という2つのコンセプトを、心がけています。
患者様一人一人が誇りと尊厳に満ちた人生を送ることができるよう、地域に根ざした医療の提供に努めています。家族がその命を受け継ぐ一助となれるように、その人の人生の最期まで責任を持って寄り添えることが在宅医療であり、これこそが私たちの目指す医療です。