こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「体重減少と体重増加に関する英語表現」です。
一般的には食事や運動の増減で生じる「体重減少」と「体重増加」ですが、その背後には何らかの病気が潜んでいる場合もあります。
またこの2つの症状は「発熱」や「全身倦怠感」と同じく「全身症状」であり、その鑑別疾患は多岐に渡ります。そして「肥満」や「るいそう」といった表現に関しても、それらの正しい英語表現を知っている方は決して多くないという印象があります。
そこで今月は「体重減少と体重増加に関する英語表現」をご紹介します。
“160 pounds” って何キログラム?
「体重減少」weight loss と「体重増加」weight gain を考える前に、まずは「体重」body weight に関する英語表現を確認しましょう。
体重について具体的に尋ねる場合、“When was the last time you weighed yourself?” 「最後に体重を計ったのはいつですか?」のような質問が便利です。また「体重計」は英語では scale となりますので、“When was the last time you weighed yourself on a scale?” と尋ねても良いでしょう。この質問で患者さんは具体的な体重を言及してくれると思いますが、それでも言及してもらえなければ “How much did you weigh at that time?” のように具体的に質問しましょう。
もし患者さんが米国やカナダ出身の場合、“I weighed myself last week, and I weighed 160 pounds at that time.” のように pound(日本語の「ポンド」ではなく「パゥンド」のように発音)を使って体重を表現することでしょう。
ご存知の方も多いと思いますが、米国とカナダでは gram や kilogram ではなく、pound という単位を用いて重さを表現します。正確には 1 pound (lb) = 0.453592 kilograms (kg) という関係があるのですが、「ポンドの半分の9割(45%)がキログラム」と覚えておくと便利です。ですから 160 pounds と言われたら「160ポンドの半分の80キログラムの9割 = 72キログラム程度かな?」と認識すれば良いのです。実際に計算すると 160 pounds は約 72.6 kilograms ですから、この法則で考えてもかなり近い値を類推できます。とても便利な覚え方ですので、知らなかった方は是非使ってみてください。
また、gram と kilogram にはそれぞれ g と kg という略語が使われますが、この pound には lb という略語が使われます(lb は略語ですので複数形の pounds であっても 160 lb のように単数形にするのが正しい使い方なのですが、慣例として 160 lbs のように複数形でも使われます)。そしてこの lb は「天秤」を意味する libra というラテン語から派生した表現であり、英国通貨の pound にはこの libra の頭文字を使った £ が使われているのです。ただ lb も £ も読み方は pound(s) となりますので注意してくださいね。
「肥満」の英語表現は obesity で正しいの?
では次に、体重の区分に関する表現を見ていきましょう。
体重の区分には広く body mass index (BMI) が用いられており、WHO は下記の区分を提唱しています。
BMI | Nutritional status |
---|---|
< 18.5 | Underweight |
18.5 – 24.9 | Normal weight |
25.0 – 29.9 | Pre-obesity |
30.0 – 34.9 | Obesity class I |
35.0 – 39.9 | Obesity class II |
> 40.0 | Obesity class III |
しかし「肥満」obesity の区分は国や地域によって異なり、日本肥満学会では BMI 25 以上を「肥満」obesity と定義しています。
ここで問題になるのが obesity という表現です。英語圏では WHO の区分を使うので、obesity という表現は BMI 30 以上の区分にしか使われません。ですから、日本の区分に従って BMIが 25 – 30 の区分となる英語圏の方に obesity や obese という表現を使うと、「自分は obese と言われる程太っていない!」と思われてしまうのです。
WHO の区分では BMI 25 – 30 の場合、pre-obesity という表現が使われていますが、これを一般的には overweight と表現します(この overweight は名詞だけでなく形容詞としても使われます。)。「健康診断」health checkup などで BMI が 27 の場合、日本の医療者は「やや肥満ですね」のように表現すると思いますが、これをそのまま “You are a little bit obese.” のように表現せず、“Your BMI is 27. This falls into the overweight category.” と表現すると印象が良くなります。印象良くするためのポイントとしては「患者さんではなく BMI を主語にすること」と、「BMI が 30 未満の場合には obese/obesity ではなく overweight という表現を使うこと」が挙げられます。
また現在では使用はあまり推奨されていませんが、obesity class I は mild obesity や moderate obesity と、obesity class II は severe obesity と、そして obesity class III は morbid obesity とも呼ばれていました。ですから患者さんの BMI が 32 の場合には、 “Your BMI is 32, which falls into Class I obesity, also known as mild obesity.” のように表現することもできるのです。
このように患者さんが英語圏出身の場合、日本の定義に従って BMI 25 – 30 の区分に対して obesity/obese という表現を使うことは適切とは言えません。その場合には WHO の定義に従って pre-obesity や overweight という表現を使いましょう。もちろん BMI が 30 以上の場合には obesity/obese という表現を使っても問題ないのですが、その場合にも “You are obese.” のように表現するのではなく、 “Your BMI is 32, which falls into Class I obesity.” のように BMI を主語にして表現すると印象が良くなります。
Emaciation? Cachexia? Sarcopenia? 何が違うの?
ここまで overweight や obesity に着目して来ましたが、ここから少し underweight に関する表現もご紹介しましょう。
「やせている」を意味する形容詞としては、 slim(「脂肪が少ない・体幹が細い」というイメージ)や slender(「脂肪が少なく(体幹が細く)手足も長い」というイメージ)の他、lean(「脂肪が少なく引き締まっている」というイメージ)や fit(「脂肪が少なく心肺機能も高い」というイメージ)などがあります。これらは概ねポジティブな意味で使われますが、thin や skinny には「ガリガリ」のようなイメージがあり、どちらかと言うとネガティブな印象を与えます。いずれにしても体型に関して言及することは英語圏ではタブー視されていますので、上記の形容詞を使う際には十分に注意をしてください。
BMI が 18.5 未満の場合、underweight と区分されますが、これがさらに 17 を下回ると emaciation(「エメィシエィション」のように発音)「るいそう」と呼ばれます。(動詞の emaciate には「やつれさせる」というイメージが、そして形容詞の emaciated には「やつれている」というイメージがあります。)
そして BMI の区分とは別に、cachexia と sarcopenia という表現もあります。
cachexia(「カケクシィア」のように発音)は abnormal loss of muscle and fat due to chronic illness のことで、古くから「悪液質」という訳語があります。悪性腫瘍などの慢性疾患によって「病的に痩せた状態」というイメージを持つ表現です。
sarcopenia(「サァコピィニィア」のように発音)は age-related decline in muscle mass and strength「加齢による筋肉量の減少および筋力の低下」のことで、日本語ではカタカナを使って「サルコペニア」と呼ばれています。
どれも abnormal thinness のように「雑」に理解されがちですが、emaciation, cachexia, and sarcopenia はそれぞれ異なる意味を持つ表現ですので、ここで正しく理解しておきましょう。
Weight Loss & Gain の診断はどう考えればいいの?
ではここから、weight loss & weight gain の診断を考えていきましょう。
「発熱に関する英語表現」でもご紹介しましたが、weight loss & gain のような全身症状であっても、history taking において最も重要なのは「現病歴」history of present illness (HPI) を下記の3つのステップを使って丁寧に尋ねることです。
- 1. Open-ended questions: 開放型質問を使い、体重減少・増加の「発症」「発症前」「発症後」の様子を詳細に語ってもらう。状況に合わせて質問を加え、適宜話を要約する。
- 2. Closed-ended questions: 閉鎖型質問を使い、体重減少・増加に関して詳細な情報を得る。
- 3. Associated symptoms: 鑑別疾患に伴う関連症状の有無を尋ねる。
そして全身症状のように鑑別疾患が多くなりがちな症状の場合、review of systems (ROS)「システムレビュー」を丁寧に尋ねることも重要になります。
こちらでも詳しく解説していますが、この ROS はその名が示す通り、「臓器系統」である body systems を review「振り返る」ことであり、weight loss & gain 以外の重要な情報を広範に得ることで診断を助けてくれます。
英語には semantic qualifiers という表現がありますが、これには「臨床的な意義を与える医学英語」という意味があり、これを weight loss & gain と組み合わせることで診断を思いつくことができるのです。
Weight loss + Semantic Qualifiers = Diagnosis
例えば、weight loss を訴える患者さんが palpitations「動悸」と heat intolerance「暑がり」という semantic qualifiers を伴う場合、その診断として hyperthyroidism「甲状腺機能亢進症」が思いつきます。
Post-CC OSCE でも全身症状が課題となると、パニックになる方も少なくないことでしょう。しかし鑑別疾患が多い全身疾患であっても、「現病歴を丁寧に尋ねる」ことと「システムレビューを丁寧に尋ねる」ことを意識すれば診断に辿り着けるはずですので、全身症状が主訴の場合でも焦らずに対応しましょう。
Weight Loss の鑑別疾患は?
ではここから、具体的な鑑別疾患を見ていきましょう。
臨床的に問題となる Weight Loss「体重減少」とは、 unintentional/unexplained weight loss のことであり、具体的には unintentional weight loss of 10 lb (4.5 kg) or more, or 5% of body weight over a period of 6 to 12 months となります。
Fever の鑑別疾患では下記のような分類を紹介しました。
Fever Causes
- • Infections
- • Malignancies
- • Autoimmune Disorders
- • Embolism
- • Drugs
- • Miscellaneous
症状別に新しく分類を考えていくと記憶するための負荷が増えますので、unintentional weight loss に関しても fever と同じような分類を使って考えてみましょう。
Weight Loss Causes
- • Infections (tuberculosis)
- • Malignancies
- • Autoimmune Disorders (rheumatoid arthritis)
- • Endocrine (hyperthyroidism & diabetes mellitus)
- • Depression
- • Miscellaneous (anorexia nervosa, bulimia nervosa, COPD, and IBD)
感染症で忘れていけないのは tuberculosis「結核症」です。これは malignant lymphoma「悪性リンパ腫」と同様に、 unintentional weight loss, high grade fever, and drenching night sweats という B symptoms「B症状」を引き起こします。
「自己免疫性疾患」rheumatic diseases では、rheumatoid arthritis (RA)「関節リウマチ」など様々な疾患が鑑別に挙げられます。
Embolism は Endocrine に置き換えて覚えましょう。内分泌疾患で代表的な鑑別疾患としては hyperthyroidism「甲状腺機能亢進症」と diabetes mellitus「糖尿病」が挙げられます。
Drugs は Depression に置き換えて、depression や anxiety を思い出しましょう。
最後の Miscellaneous「その他」として忘れていけないのは、anorexia nervosa「神経性食欲(思)不振症」や bulimia nervosa「神経性過食症」などの eating disorders の他、chronic obstructive pulmonary disease (COPD)「慢性閉塞性肺疾患」や inflammatory bowel disease (IBD)「炎症性腸疾患」などです。もちろんこれら以外にも鑑別疾患は複数ありますが、まずはこれらを思い出せるようにしておきましょう。
Weight Gain の鑑別疾患は?
次に Weight Gain「体重増加」を見ていきましょう。食べ過ぎや運動不足などでも weight gain は生じますが、臨床的に問題となる unintentional/unexplained weight gain は、unintentional weight gain of 10 lb (4.5 kg) or more, or 5% of body weight over a period of 6 to 12 months と理解しておきましょう(ただし weight gain ではこれらの数値はあまり重視されません)。
この unintentional weight gain の鑑別疾患も、上記と同様の分類を使って考えてみましょう。
Weight Gain Causes
- • Cardiac (CHF)
- • Renal (renal failure)
- • Endocrine (hypothyroidism, Cushing syndrome, and PCOS)
- • Drugs (steroid & insulin)
- • Miscellaneous (smoking cessation)
感染症や悪性腫瘍では体重増加は起きにくいので、この2つは Cardiac と Renal という2つの重要項目に置き換えましょう。そしてここでは体液が増加する congestive heart failure (CHF)「うっ血性心不全」と、renal failure「腎不全」の2つを押さえておきましょう。
自己免疫性疾患でもある内分泌疾患としては hypothyroidism「甲状腺機能低下症」の他、Cushing syndrome「クッシング症候群」や polycystic ovarian syndrome (PCOS)「多嚢胞性卵巣症候群」などが挙げられます。
薬剤としては steroid や insulin などが挙げられます。そして miscellaneous としては smoking cessation「禁煙」も思い出せるようにしておくと良いでしょう。
この他にも weight gain では、abdominal distension「腹部膨隆」が認められる場合もあります。この abdominal distension の原因としては 6 Fs という mnemonics「語呂合わせ・暗記法」が便利です。
6 Fs of Abdominal Distension Causes:
- • Fat: Accumulation of abdominal adiposity
- • Fluid: Presence of excess fluid, as in ascites
- • Flatus: Buildup of gas in the intestines
- • Feces: Impaction or accumulation in the intestines
- • Fetus: Pregnancy-related distension
- • Fatal Tumor: Malignant growths that can cause enlargement
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後にもう一度、体重減少と体重増加の鑑別疾患を確認しておきましょう。
Weight Loss Causes
- • Infections (tuberculosis)
- • Malignancies
- • Autoimmune Disorders (rheumatoid arthritis)
- • Endocrine (hyperthyroidism & diabetes mellitus)
- • Depression
- • Miscellaneous (anorexia nervosa, bulimia nervosa, COPD, and IBD)
Weight Gain Causes
- • Cardiac (CHF)
- • Renal (renal failure)
- • Endocrine (hypothyroidism, Cushing syndrome, and PCOS)
- • Drugs (steroid & insulin)
- • Miscellaneous (smoking cessation)
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之