こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ。
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんで頂くコーナーです。
本日のテーマは「血液透析に関する英語表現」です。
日本政府観光局によると、2025年の年間訪日外客数は過去最多となる約4,268万人を記録しました。日本を訪れる外国人旅行者が増える中、travel dialysis「旅行透析」に関する問い合わせを受ける医療機関も増えていることでしょう。しかし hemodialysis「血液透析」の現場で使われる具体的な英語表現となると、英語に自信のある方でも意外と知らないものが多いのではないでしょうか?
そこで今月は、臨床現場で役に立つ血液透析に関する英語表現をご紹介いたします。
dialysis と diagnosis の dia- とは?
腎臓に代わって血液中の老廃物や余分な水分を取り除き、電解質や酸塩基のバランスを調整する治療を「透析」と呼び、英語では dialysis と表現します。
この dia- には「通して」「隔てて」という意味が、-lysis には「緩める」「分離する」という意味があります。したがって dialysis はもともと「あるものを通して物質を分離する」というイメージを持つ表現なのです。
「診断」を意味する diagnosis にも、同じ dia- が使われています。diagnosis はこの dia- に「知ること」を意味する gnosis が加わった表現で、「他のものと見分けて知ること」を意味します。
また「対話」として皆さんご存知の dialogue の dia- も同じものです。monologue との対比から「2人の会話」が語源だと誤解されがちですが、dialogue は dia-「通して」と logos「言葉」から生じた表現で、「言葉が人と人との間を通って行き交うこと」というイメージを持ちます。そのため、dialogue は必ずしも2人だけの会話を意味するわけではないのです。
そしてこの dialysis には大きく分けて hemodialysis「血液透析」と peritoneal dialysis「腹膜透析」の2つがあります。
hemodialysis は患者さんの血液を体外に取り出し、dialyzer と呼ばれるフィルターを通して浄化する方法です。一方、peritoneal dialysis は、患者さん自身の peritoneum「腹膜」を利用して行う透析です。
したがって患者さんが “I’m on dialysis.” と言っただけでは、どちらの透析なのかは分かりません。確認する場合には、 “What type of dialysis are you on?” と尋ねる必要があります。
hemodialysis「血液透析」、peritoneal dialysis「腹膜透析」、そして kidney transplantation「腎移植」は、いずれも kidney replacement therapy (KRT)「腎代替療法」に含まれます。従来は renal replacement therapy (RRT) という表現が広く使われていましたが、近年では患者さんにも分かりやすい kidney を用いた kidney replacement therapy (KRT) という表現が推奨されています。
どんな病気で hemodialysis が必要になるの?
腎臓の構造や機能の異常が3か月以上続く状態を chronic kidney disease (CKD)「慢性腎臓病」と呼びます。そして CKD が進行して腎機能が高度に低下した状態を kidney failure「腎不全」と呼びます。従来は end-stage renal disease (ESRD) や end-stage kidney disease (ESKD) という表現も使われていましたが、近年では患者さんに配慮した表現として、end-stage や renal を避け、kidney failure を使うことが推奨されています。
この kidney failure の原因となる疾患には様々なものがありますが、代表的な疾患は次の通りです。
- • diabetic kidney disease「糖尿病関連腎臓病」
- • hypertensive nephrosclerosis「高血圧性腎硬化症」
- • chronic glomerulonephritis「慢性糸球体腎炎」
- • polycystic kidney disease (PKD)「多発性嚢胞腎」
diabetic kidney disease は、従来 diabetic nephropathy「糖尿病性腎症」と呼ばれていた疾患を、より幅広く捉えている表現です。また「常染色体顕性多発性嚢胞腎」の英語表現は autosomal dominant polycystic kidney disease であり、その頭文字から ADPKD と略されます。
ただしこういった疾患と診断されれば即透析導入となるわけではなく、症状、電解質異常、酸塩基平衡、体液過剰などを総合的に評価して判断されるということは忘れないでくださいね。
hemodialysis はどのような流れで行われるの?
ではここからは、外国人患者さんが日本の医療機関を訪れ、hemodialysis を受ける場面に沿って、そこで使われる英語表現を見ていきましょう。
血液透析の流れは、大きく次の5つのステップに分けることができます。
では、それぞれのステップで日本の医療者が知っておきたい英語表現を見ていきましょう。
Step 1: Pre-dialysis Review
travel dialysis では、患者さんが普段通院している医療施設から、事前に診療情報を送ってもらう必要があります。
ここで重要となる表現が dialysis prescription です。
この dialysis prescription とは薬剤の処方箋ではなく、透析時間、血流量、透析液流量、使用する dialyzer、抗凝固薬、目標体重、除水量などを含む「透析条件」を意味します。
患者さんには次のように依頼できます。
“Could you ask your dialysis center to send us your dialysis prescription and recent medical records?”
また dialysis は基本的に不可算名詞として扱われます。したがって「週に3回透析を受けています」は、“I have dialysis three times a week.” と表現します。一方、1回ごとの透析を数える場合には dialysis session を使い、“I have three dialysis sessions a week.” と表現することもできます。
Step 2: Pre-dialysis Assessment
患者さんが透析施設に到着したら、まず体調、血圧、脈拍、体温、そして体重を確認します。
血液透析を受けている患者さんでは、透析と透析の間に体内へ余分な水分がたまります。そこで pre-dialysis weight「透析前体重」と dry weight「ドライウェイト」を比較し、その日にどのくらいの水分を除去するのかを決めます。
この dry weight とは、余分な水分がたまっていない状態での「目標体重」を意味し、target weight とも表現されます。ですからこの dry weight を患者さんに尋ねたい場合には、“What is your usual dry weight?” のように表現しましょう。そして透析前の体重が dry weight より2キログラム多い場合には、 “You’re two kilograms above your dry weight.” と表現します。
この余剰となっている水分を取り除くことを「除水」と言いますが、英語ではこれに remove fluid や take off fluid という表現を使います。ですから 2リットルの除水を行う場合には “We’re going to remove about two liters of fluid today.” や “We’re going to take off about two liters of fluid today.” と表現しましょう。
体内にたまった水分を「量」や「物質全体」として捉える場合、この fluid は不可算名詞となります。一方で、水、お茶、コーヒーなどの飲み物を個別のものとして捉える場合や、複数の輸液を意味する場合には、“Please limit your fluids.” や “Are you receiving any IV fluids?” のように複数形としての fluids が使われますので注意してくださいね。
Step 3: Access Check and Cannulation
日本の透析医療では、透析に使用する血管をまとめて「シャント」と呼びます。しかし現在の英語圏の透析現場では、これを vascular access や dialysis access と、または単に access と表現します。
日本語の「自己血管内シャント」に相当するのが arteriovenous fistula で、AV fistula または AVF と略されます。Fistula は「本来つながっていない組織や臓器の間にできた通路」を意味する「瘻孔(ろうこう)」のことで、「フィストゥラ」ではなく「フィスチュラ」のように発音します。血液透析では、動脈と静脈を手術でつないで作ることから、この名称が使われています。
日本語ではこれを「内シャント」とも呼びます。かつては動脈と静脈に入れた管を体外でつなぐ external AV shunt「外シャント」が使われていました。しかし感染や血栓などの問題があり、その後、皮膚の下で動脈と静脈をつなぐ「内シャント」が普及しました。つまり「内シャント」という表現は、外シャントと区別していた時代の名残なのです。
英語では、自己血管を用いたものを AV fistula と、人工血管を用いたものを AV graft と、そして透析用カテーテルを dialysis catheter または dialysis line と呼びます。
ですから「シャントはありますか?」を英語で表現する場合には “Do you have a fistula, a graft, or a catheter?” と言いましょう。また fistula の位置を確認する場合には “Which arm is your fistula in?” という英語表現を使いましょう。
次にこの vascular access が正常に機能しているかを確認します。AV fistula や AV graft では、血流によって皮膚の上から触れる「振動」を thrill と、聴診器で聞こえる「血管雑音」を bruit と呼びます。ただし患者さんには、専門用語の thrill ではなく、“Does the vibration feel the same as usual?” のように尋ねる方が分かりやすいでしょう。
この vascular access に問題がないことを確認したら、穿刺部を消毒して針を刺します。この「穿刺(せんし)」は英語で cannulation と呼ばれます。
血液透析では、血液を体外へ取り出す arterial needle と、浄化した血液を体内へ戻す venous needle という2本の針を使います。ただし AV fistula では、通常どちらの針も動脈ではなく、動脈とつなぐことで太くなった静脈に刺します。ここでの arterial と venous は、針を刺す血管の種類ではなく、透析回路における血液の流れる方向を表しています。
医療者同士では「穿刺する」という意味で cannulate という動詞を使いますが、患者さんへの説明では “I’m going to insert two needles into your fistula.” のように Insert や put in を使う方が分かりやすいでしょう。
なお一般的な double-lumen dialysis catheter では、1本のカテーテル内に血液を取り出すための腔と戻すための腔があるため、fistula のように2本の針を刺す必要はありません。
Step 4: Dialysis and Monitoring
患者さんを透析装置に接続すると、血液はチューブを通って体外へ送られ、フィルターで浄化されてから体内へ戻ります。
この場面で混同しやすいのが dialysis machine、dialyzer、and dialysate という表現です。
dialysis machine は血流量、回路内圧、透析液、除水速度などを管理する透析装置全体を意味します。一方、dialyzer は血液を浄化するフィルターです。そして dialysate は透析液のことで、dialysis fluid とも表現されます。
余分な水分は ultrafiltration「限外濾過」によって除去されますが、患者さんへの説明では、この専門用語よりも先ほど紹介した remove fluid や take off fluid を使うとよいでしょう。
透析中には血圧が低下し、dizziness「めまい」、lightheadedness「頭がふわっとして失神しそうな感覚」、nausea「吐き気」、muscle cramps「筋肉のつり」などが現れることがありますので、“Let us know right away if you feel dizzy, lightheaded, nauseated, or have any muscle cramps.” のように声がけするといいでしょう。
また透析後の強い疲労感を“I feel washed out.”と表現する患者さんもいます。この washed out は「洗い流されてスッキリした」ではなく、「疲れ切った」「ぐったりした」という意味になるので注意してくださいね。
Step 5: Rinse-back and Post-dialysis Care
透析が終了したら、回路と dialyzer に残っている血液を生理食塩水で患者さんの体内へ戻します。
この「返血」を英語圏の透析現場では“We’re going to rinse your blood back now.” のように表現します。rinse は「すすぐ」、back は「元へ戻す」という意味ですので、「回路をすすいで血液を戻す」というイメージの表現です。
ただしこの rinse back(名詞では rinse-back)は、英語が母国語ではない患者さんには伝わりにくい場合があります。その場合には、“We’re going to return the blood in the tubing to your body.” のようにシンプルに説明するようにしましょう。
透析装置から患者さんを外したら、針を抜き、穿刺部を圧迫して止血します。
圧迫する際には日本語の「押す」から push を使いたくなりますが、止血のために一定の場所を圧迫する場合には press を使い、“Please press firmly on the sites until the bleeding stops.” のように伝えます。ここでの sites は、2本の針を抜いた needle sites「穿刺部」を意味します。
また「圧迫を続けてください」と伝える場合には、keep pressing や hold pressure を使い、“Please hold pressure for a few more minutes.” のように表現します。
止血を確認したら、post-dialysis weight「透析後体重」と血圧を測定し、立ち上がった際にめまいやふらつきがないかを確認します。その際には、“Please stand up slowly in case you feel dizzy.” のように伝えるとよいでしょう。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回ご紹介した表現の中から、日本の医療者が外国人患者さんに対して使う重要な英語表現を、透析の流れに沿ってもう一度お示しします。
- • “What is your usual dry weight?”
- • “How much fluid do you usually have removed?”
- • “Do you have a fistula, a graft, or a catheter?”
- • “Which arm is your fistula in?”
- • “Does the vibration feel the same as usual?”
- • “I’m going to insert two needles into your fistula.”
- • “Let us know right away if you feel dizzy, lightheaded, nauseated, or have any muscle cramps.”
- • “We’re going to return the blood in the tubing to your body.”
- • “Please press firmly on the sites until the bleeding stops.”
では、またのご来店をお待ちしております。
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授
押味 貴之


