医師インタビュー

なぜ優秀な医師・コメディカルが定着するのか?その経営戦略を医療法人理事長・総帥の北城雅照医師に聞いた

【答えてくれる先生】
北城 雅照先生/医療法人社団円徳 理事長・総帥

(医療法人社団円徳 公式HP:https://adachikeiyu.com/
<経歴>
2009年 北里大学医学部卒業 / 2011年 慶應義塾大学医学部整形外科学教室入局 / 2018年 医療法人社団円徳(旧:新潮会)理事長就任 / 2019年 足立慶友整形外科院長就任/ 2024年 足立慶友整形外科総帥就任
<認定資格・所属学会>
◎日本整形外科学会認定整形外科専門医  ◎日本整形外科学会認定リウマチ認定医 ◎日本整形外科学会 ◎日本再生医療学会 ◎日本メディカルAI学会

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医師とコメディカルが積極的に働く環境

「一緒に楽しく働こう」経営心理士として環境を整備

北城医師は、「一緒に楽しく働こう」との考え方を持つ。
自分はもちろん、スタッフも仕事が楽しくなければ、パフォーマンスが向上しない。
「一緒に楽しく働こう」
そんな組織づくり実現のために取り入れているのが、彼の経営心理士としての知見だ。
経営心理士をごく簡単に言えば、「リーダーシップを持ち、組織のマネジメント・モチベーションの向上によって、人と組織の熟成を担う資格取得者」。
北城医師は、自ら経営心理士の資格を取得。資格取得の過程で、働く人たちの欲求を学んだ。
医療現場のスタッフが安心して働く上で、次の3つの欲求を満たすことが大切だという。

生存欲求

従業員が生きるために、最低限必要なものを求める欲求。 給料や労働環境が見合わないと、この欲求は満たされない。

成長欲求

従業員が苦手なことを克服したい、もっと得意なことを伸ばしたいと願う欲求。

貢献欲求

患者や、ともに働く仲間など、「誰かの役に立つ仕事をしたい」と願う欲求。

それぞれの欲求を満たすため、北城医師が行う取り組みいくつか紹介しよう。

①生存欲求

生存欲求を満たす取り組みとして、相場よりできるだけ高い給与を設定し、シフト制も導入。希望通り休める環境を目指す。

②成長欲求

成長欲求を満たすため、年間3万円まで学習補助を出すなどスタッフの向上心を大切にする。また、興味と直結する仕事を生み出し、勤務時間内に行えるよう調整。

③貢献欲求

貢献欲求は、やや特殊。医療従事者は、自分の仕事が患者の貢献に直結する。普段通り働くだけで貢献欲求が満たされる。実際、医療業務以外の仕事の割合が増えた医療スタッフがいると、「患者さんと関わる仕事は続けたい」との希望を出す傾向にある。その際、本人の希望に沿って、医療業務とそれ以外の仕事をバランスよく続けられるよう配慮している。

「また来たい」そんな病院を目指して

北城医師は生存欲求、成長欲求、貢献欲求の3つ欲求を満たすため、理念を活用している。理念は楽しい職場を生み出し、結果的に患者が信頼できる病院をつくる。北城医師はそのように考えている。
法人の理念は以下の3本柱だ。

理念1

患者さんを健康にし、
人生を豊かにする。

理念2

患者さんの受診体験を
最高のものにする。

理念3

関わる人全てが笑顔に
なれる場所を創る。

クリニック・病院は、基本的には自分から進んで何度も行こうと思う施設ではない。なぜなら、健康で病院と無縁に越したことはないからだ。
しかし予防医学の観点では、病院に頻繁に通い、検査・指導を受けなければ健康を保てない。事実、「なぜここまで悪くなるまで放っておいたのか」。予防の意識を欠き、体調を悪くする患者は大勢いる。そうならないため、患者が気軽に通える病院を目指したい。それが北城医師の願いである。
残念ながら「医療は上から目線」という言葉がある。
「冷たい」「説教臭い」と感じる病院には、行きたくない。それでは、予防ができない。まずスタッフが笑顔で働き、患者も上から目線を感じず、笑顔になって欲しい。みんなが笑顔で、あたたかい気持ちになれる医療施設を築き上げるため、理念が礎となっている。

スタッフの笑顔のために院内SNSを導入

スタッフの笑顔をつくるために院内SNSも採用している。このSNSは、「ありがとう」の気持ちを相互にポイントで送りあう。ポイントは、1ポイント1円の金銭的価値を持つ。スタッフ間で頻繁にポイントを送りあうことで、「ありがとう」の気持ちが目に見えて行き交う。
他、北城医師個人の取り組みとして、誕生日のスタッフに、Amazonギフトカードをプレゼントしている。北城医師自らが手渡しをして、「誕生日おめでとう」と祝う。こういった取り組みが、成長欲求や貢献欲求を刺激するのだ。
北城医師は1on1(ワンオンワン)の面談も大切だと考えている。法人が拡大してスタッフが増加したため、やむを得ず中断していた時期もあるが、中断すると、やはり理念の浸透が遅く、行きわたり方も不十分にもなることを実感した。そのため北城医師は、2024年の7月よりスタッフとの1on1を再開し、全てのスタッフと年に1回は直接話す時間を確保するようにした。
法人には新卒スタッフも多い。1on1では、単に「理念はこうだから、このようにして欲しい」と強制するのではなく、対話によって相手の意見も重要視。せっかく新卒で入ってもらえたのだから、より丁寧なサポートをしたい。フォローしないのは失礼というのが北城医師の持論だ。

SNSで大活躍の理学療法士

ここで、新卒で北城医師の病院に入った理学療法士の男性を紹介する。北城医師が彼と出会ったのは、北城医師がまた別で開催している医療者向けのプログラミングスクールだった。理学療法士の男性は、プログラミングだけではなく、動画編集にも興味と適性を持っていた。理学療法士として新卒で北城医師の病院で働くことになった後も、動画編集のスキルがみるみる向上。北城医師はそんな彼の成長をみて、「病院のSNSをやってみないか?」。自然とSNSの動画を任せる流れができた。彼は当初、理学療法士が9割で、SNS関連の仕事は業務全体の1割に過ぎなかった。だが結果が徐々に表れ、働き方が変わる。動画の仕事が実を結び、現在は理学療法士6割、動画編集4割の割合で仕事をしている。北城医師は彼のためにSNSを活用する会社も立ち上げ、現在はプロダクトマネージャーにも就任。別の従業員に仕事を受け渡す立場として活躍中だ。
動画編集で独り立ちできるまでスキルを磨いた彼だが、「これからも患者さんの役に立ち続けたい」と希望。現在も、北城医師のもとで理学療法士として活躍中である。法人では、本職に限らず、興味がある分野の技術を磨き、伸ばせる環境になっているのだ。

改善をくり返し、よい職場環境を維持

現在、医療法人社団円徳で働くスタッフは、結婚や引っ越しなど、やむを得ない理由以外の退職はほぼゼロ。不穏な雰囲気や深刻な人手不足もない。だが北城医師の就任当初は、コメディカルをはじめ、スタッフの離職が相次いでいた。1日で辞めた看護師もいた。スタッフの退職理由を一つ一つ真摯に受け止め、改善を試み続けた。
理念をつくり、浸透し、改善を続けた。その甲斐あって、現在のような職場環境を生み出せたという。