こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「社会歴に関する英語表現」。
現在、ほとんど全ての医学部で医学英語教育の一環として、「英語での医療面接」 History Taking in English を指導していることと思います。この中でも多様な英語表現が使われる「社会歴」 Social History は、多くの方が苦手としているようです。
そこで今月は、医学部ではあまり教えてくれない、 Social History に関する英語表現をご紹介します。
Domestic violence に関してはどう尋ねる?
「社会歴」 Social History を尋ねる際には、最初に “Now I would like to ask you about your lifestyle.” という transition を伝えます。
この Social History では幅広く患者さんの社会的な背景を尋ねていきますが、一般的には、 Home Situation, Occupation, Travel History, Alcohol, and Smoking といった項目を尋ねます。米国など英語圏ではこれらに加えて Illicit Drugs and Sexual History という項目も必須となります。
まずは Home Situation に関する質問です。最初は “Do you live alone or with somebody else?” と尋ねましょう。ここで誰か他の人と一緒に住んでいる場合には具体的に “Who do you live with at home?” と尋ねます。
もしも intimate partner violence/domestic violence の可能性を感じたら、まずは “How are things at home?” のような open-ended question を使います。そして会話を進めるうちに確認が必要と判断したら、遠回りせず単刀直入に “Have you ever been physically hurt by someone at home?” と聞くことも重要です。
次に Occupation について尋ねます。この occupation という単語ですが、「生活を占めるもの」というイメージの表現で、必ずしも「職業」というわけではなく、「学生として勉強していること」もこれに含まれます。具体的に occupation を尋ねる際には最初に “Are you working now?” と尋ね、もし働いている場合には “What do you do for a living?” と尋ねましょう。
職業の種類には無数ありますが、仕事着の襟の色から生まれた blue collar jobs と white collar jobs という区分が有名です。前者は「肉体労働」 manual labor に従事するため、症状によっては “Have you ever been exposed to fumes, dust, radiation, or loud noise at work?” のような質問が重要になります。後者は desk work に従事することが一般的で、「座ってばかりの生活様式」 sedentary lifestyle のリスクが高まります。
Travel History の質問としては、 “Have you traveled recently?” という表現を一般的に使います。また Alcohol と Illicit Drugs の質問としてはこちらに詳しくまとめてありますので参考にしてください。
「タバコ」の英語は tobacco でいいの?
次は Smoking に関する表現です。「喫煙」というのは、「葉タバコ」tobacco から作った「燃焼式タバコ」 combustible tobacco products を燃焼させ、そこから生まれる「煙」 smoke を吸い込む行為のことで、英語では smoking と呼ばれます。したがって一般的に「タバコを吸いますか?」と聞きたい場合、英語では単純に “Do you smoke?” と表現します。日本語で一般的に使われている「タバコ」という表現は、「葉タバコ」tobacco から作られた「紙巻きタバコ」のことであり、英語では cigarette と言います。ですから「1日に何本のタバコを吸いますか?」は “How many cigarettes do you smoke per day?” のように tobacco ではなく cigarette(s) を使って表現します。
この combustible tobacco products には、 cigarette 以外にも「葉巻」 cigar や、葉巻ほど温度や湿度の管理が不要な「細い葉巻」cigarillo、そして刻みたばこを入れて喫煙する「パイプ」pipe などがあります。そして、これら combustible tobacco products の代表である cigarette は、後述する「電子タバコ」との比較から combustible cigarette や classic cigarette、もしくは analog cigarette などと呼ばれています。
中東では清涼感が高い「水タバコ」が普及していますが、その際に使われる特殊に加工されたタバコを「シーシャ」 shisha と言い、その喫煙に使用される特殊なパイプのことを「フーカ」 hookah と呼びます。この「水タバコ」は water pipe とも呼ばれますが、状況によってはwater pipe という英語はmarijuana の吸引に使用される bong という器具の意味にもなるので気をつけましょう。
葉タバコを使った製品には、上記のような smoke を伴わない smokeless tobacco products も存在します。最近では少なくなりましたが、「噛みタバコ」 chewing tobacco や「嗅ぎタバコ」 snuff がこれに相当します。皆さんも解剖学で学んだ「解剖学的嗅ぎタバコ入れ」 anatomical snuff-box は、その名の通り、この snuff を入れる部位なのです。ちなみにこの anatomical snuff-box は、手首の骨折として重要な「舟状骨」scaphoid の骨折の際に圧痛が認められる部位となります。そしてこの scaphoid fracture の原因となる「手首をついて転倒することによる外傷」は、 Fall Onto an Out-Stretched Hand injury の略語を使って FOOSH(「フーシュ」のように発音)injury と呼ばれます。
「電子タバコ」にも smoke という動詞は使えるの?
この「燃焼式タバコ」を燃焼させずに「加熱」して使用する「加熱式タバコ」を heat-not-burn (HNB) tobacco products、もしくは heated tobacco products と呼びます。この代表的な商品が、日本でも販売されている米国製の IQOS です。日本語では「アイコス」と発音されますが、英語で発音する際には「アィクォス」のような発音になります。これ以外にも日本製の Ploom TECH や、英国製の Glo、米国製の Pax などが HNB tobacco products として有名です。また、この HNB tobacco products は tobacco を使用しているので、定義上 tobacco を使わない「電子タバコ」には含まれませんので注意してください。
では、最近普及が進んできた「電子タバコ」は英語ではどのように表現するのでしょう?この「電子タバコ」は electronic cigarette を省略した e-cigarette、もしくはこれを短縮した e-cig と呼ばれるのですが、実際には、 tobacco でも cigarette でもありません。また、燃焼させて smoke を発生させるわけでもないので、その使用は smoking とは表現されず、「蒸気」 vapor を吸い込むことから vaping と表現され、一般的にはこの vaping という表現がそのまま e-cigarette の意味としても使われています。(ただし紙巻きタバコに似た形状の電子タバコを e-cigarette、それ以外の電子タバコを vaping products や vaping devicesと呼んで区別する場合もあります。)したがって「電子タバコを使用していますか?」と尋ねたい場合には単純に “Do you vape?” と表現します。ちなみにこのvapor を吐き出した際の「煙」は喫煙に伴う smoke ではなく、 clouds と区別されて表現されるのでご注意を。
これらの「電子タバコ」では e-liquid と呼ばれる香料やニコチンを含んだ液体を 、atomizer という部品で「蒸気」vapor に変換して吸い込みます。この atomize という動詞は、「これ以上切れないくらい細かくする」という意味で、「原子化する」「液体を霧状にする」というイメージで使われます。そしてこの e-liquid は e-juice とも呼ばれ、フルーツやスイーツ系の様々なフレーバーがあり、海外ではこの e-liquid にニコチンを含んだ electronic nicotine delivery systems (ENDS) が販売されていますが、日本ではニコチンを含まない electronic non-nicotine delivery systems (ENNDS) のみが販売を許可されています。最近ではニコチンの濃度が高い JUUL(「ジュール」のように発音) という製品が米国の若者を中心に人気となり、動詞として juuling のように使われるほど普及してきたため、社会的にも大きな関心を集めています。
従来の combustible cigarette に比較して、健康被害が少ないと言われていたこの vaping ですが、近年は E-cigarette or Vaping Product Use-Associated Lung Injury が報告されて大きな話題となっています。そしてこの略語である EVALI(「イヴァリ」のように発音)も、最近ではよく使われるようになってきているので、これを機会に覚えておいてくださいね。
正しく理解しておきたいSexuality とGender の違い
では次に Sexual History に関する表現を確認しておきましょう。日本の医療面接ではあまり尋ねることはありませんが、英語圏では reproductive-aged patients の場合、必須の質問項目となります。ここでは “Are you currently sexually active?” という質問から始め、必要に応じて “How many sexual partners have you had in the past 12 months?” という質問を加えていきます。
日本でも普及してきた感のあるLGBT という表現ですが、英語圏では LBGTQ+ (plus) という表現の方が一般的です。これは Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer/Questioning, and Others の略語です。LGBTは知っていても、この LGBTQ+ は初耳という方も多いと思います。
まずは最初の LGB を確認しましょう。lesbian は women who have sex with women のことで、医学の文献では WSW のように表記されます。同じく gay は men who have sex with men のことで、MWM のように表記されます。ただ lesbian も gay も名詞ではなく、形容詞として使われるのが一般的です。ですから “He is a gay.” ではなく、必ず “He is gay.” のような表現になりますので注意してください。またこの gay という単語は lesbian も含めて使われる “umbrella term” です。ですからlesbian の患者さんも “I’m gay.” のように lesbian という単語を使いませんし、女性同士の結婚も lesbian marriage ではなく gay marriage と呼ばれます。
LGB の B である bisexual は women who have sex with women and men (WSWM)もしくは men who have sex with men and women (MSMW) のことで、これを含む straight, lesbian, gay, and bisexual のことを「性的指向(「嗜好」ではありません!)」 sexual orientation 、もしくは単純に sexuality と言います。この sexual orientation について患者さんに尋ねる場合には、 “Do you have sexual intercourse with men, women, or both?” という質問表現が使われます。
この sexuality とは異なり、自分自身の「性同一性」 gender orientation(もしくは単純に gender)に関するのが transgender です。「女性から男性への transgender」は female to male (FTM)、「男性から女性への transgender」は male to female (MTF) と表現され、近年では日本語でも「エフ・ティー・エム」や「エム・ティー・エフ」という発音で普及してきています。また transgender で行われる手術には、 sex reassignment surgery (SRS) もしくは gender reassignment surgery (GRS) という医学的な表現の他、文脈によっては “the op” のような慣用表現も使われています。
日本ではまだそれほど普及していない queer という表現は、元々差別用語として使われていましたが、現在は「sexuality や gender について保留している人」という questioning という意味で使われています。そして + (plus) である others は「LGBTQのどこにも分類されない性的多様性を持つ人」という意味で使われています。具体的には「transgenderでありbisexual」という方や、「性的関係には興味がない」 asexual といった方が自身の sexuality やgenderを表現する際に使います。
英語圏では “I am an ally.” というメッセージを、 sexual diversity のシンボルマークである rainbow flag (虹色の旗)を背景にして事務所などに貼ってある場合があります。この ally とは「支持者」を表す英語で、「アラィ」のように発音します。この場合の ally は straight ally の略で、 “I am an ally.” というメッセージは、「私は異性愛者であるが、性的少数者の社会的権利の獲得を支持します」という意味になり、このようなサインは「このサインが貼ってある場所ではLGBTQ+の人でも安心して coming out してください」というメッセージも持っています。もう日本語にもなっている coming out ですが、これは元々 coming out of the closet という表現で、「LGBTQ+ の方々がクローゼットから出てくるように、自身の sexuality や gender について周りの人に伝える」という意味の表現なのです。
また男性が女性の服装をする女装、そして女性が男性の服装をする男装のことを一般的な英語では cross-dressing と言い、学術的には transvestic fetishism と言いますが、これらは今回紹介した LGBTQ+ とは全く異なるものですので混同しないようにしてくださいね。
“the clap” って何?知っておきたい STI の慣用表現
最後に「性行為感染症」 sexually transmitted infections (STIs) に関する表現をご紹介します。
「避妊具」 contraceptives の使用については、 “What kind of contraceptive do you use?” と尋ねますが、STI の既往を確認する場合には “Have you ever had any sexually transmitted disease?” のように STI ではなく、 sexually transmitted disease (STD) という一般的な表現を使って尋ねましょう。
STI には色々な種類がありますが、大まかに parasitic STIs, bacterial STIs, and vital STIs と整理するとわかりやすいでしょう。
寄生虫による parasitic STIs には、「毛ジラミ」 pubic lice や「疥癬」 scabies、そして「トリコモナス」 trichomoniasis などがあります。中でも pubic lice は形が「カニ」に似ているために “crabs” と呼ばれ、 trichomoniasis は省略して “trich” と呼ばれます。
細菌による bacterial STIs には「クラミジア」 chlamydia、「淋菌・淋病」 gonorrhea、「梅毒」 syphilis、「軟性下疳」 chancroid などがありますが、 gonorrhea には “the clap” という俗称があるので覚えておきましょう。
ウイルスによる viral STIs には「B型肝炎」 hepatitis B (略語では HBV ですが口語では “Hep B” と呼ばれます) や human papilloma virus (HPV) が引き起こす “genital warts” の他、human immunodeficiency virus (HIV) などがあります。USMLE では特に HIV は重要なトピックですので、Step 2 Clinical Skills では “Have you ever been tested for HIV?” という質問も重要になります。
ただ患者さんによっては、「性器カンジタ症」 “yeast infection” や「股部白癬・いんきんたむし」 “jock itch” などを STD だと誤解している方もいるので、注意してくださいね。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に Social History で尋ねる質問表現をまとめておきます。
Transition:
• “Now I would like to ask about your lifestyle.”
Home Situation
• “Do you live alone or with somebody else?”
• “Who do you live with at home?”
Occupation
• “Are you working now?”
• “What do you do for a living?”
Travel History
• “Have you traveled recently?”
Alcohol
• “Do you drink alcohol?”
• “What type of alcohol do you drink?”
• “How many drinks do you have a week?”
Smoking (Vaping)
• “Do you smoke or vape?”
• “How many cigarettes do you smoke a day?”
• “How often do you vape a day?”
• “How long have you been smoking/vaping?”
Illicit Drugs (only when necessary)
• “Have you ever used any recreational drugs?”
• “What type of drugs do/did you use?”
Sexual History (only when necessary)
• “Are you currently sexually active?”
• “How many sexual partners have you had in the past 12 months?”
•“Do you have sexual intercourse with men, women, or both?”
• “What kind of contraceptive do you use?”
• “Have you ever had any sexually transmitted disease?”
• “Have you ever been tested for HIV?”
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之