こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「めまいに関する英語表現」。
「めまい」の診察と聞いて、「それ、得意な症状です!」と言い切れる医学生や医師は少ないのではないでしょうか?めまいの英語表現は多岐に渡りますし、HINTS や Dix-Hallpike test など、名前を聞くだけでも「めまい」が生じるような診察も存在します。
そこで今回はこの難しい「めまい」に関する英語表現をご紹介します。
そもそも dizziness って何?
まずは「めまい」dizziness に関する英語表現を確認しましょう。
「めまい」がある場合、患者さんは名詞を使って “I have dizziness.” のように表現したり、形容詞を使って “I feel dizzy.” のように表現します。
では、そもそもこの「めまい」dizziness とは何なのでしょう?
dizziness の定義は disturbed balance or spatial orientation です。ただこれだけだとよくわからないので、一般的には下記の4つの症状を総称して dizziness と呼んでいます。
• Vertigo: “spinning”
• Pre-syncope: “lightheadedness”
• Disequilibrium: “loss of balance”
• Non-specific dizziness: “giddiness”
患者さんが spinning などという表現を使って “I feel the room is spinning.” や “I feel I’m spinning in the room.” などと表現する場合、その dizziness は vertigo「回転性めまい」となります。
次に患者さんが lightheadedness/lightheaded という表現を使って “I have lightheadedness.” や “I feel lightheaded.” などと表現する場合、その dizziness は syncope「失神」の prodrome symptom「前駆症状」としての pre-syncope/presyncope「前失神」となります。そして pre-syncope の場合、 この lightheadedness という表現以外にも、患者さんは「気が遠くなる」「意識を失いそうになる」という意味で “I was going to faint/pass out.” や “I was about to faint/pass out.” のような表現も使います。
患者さんが使う表現がある程度限られている vertigo と pre-syncope に対し、「平衡障害」である disequilibrium には数多くの英語表現が使われます。平衡感覚に異常が生じるので、患者さんは loss of balance や imbalance などの表現を使いますし、「足元がおぼつかない」というイメージで unsteadiness や instability なども使います。患者さんは ataxia「運動失調」も伴った「酔っ払っているような感覚」も覚えるため、feeling of drunkenness や swaying などの表現も使われます。また disequilibrium は dysequilibrium というスペルで記述される場合もあります。
これら vertigo, pre-syncope, and disequilibrium 3つのいずれにも分類されない dizzinessっぽい症状を non-specific dizziness と呼称します。そしてこの non-specific dizziness には giddiness/giddy「クラクラする」や wooziness/woozy「フラフラする」のような多彩な英語表現が使われます。
さらに話をややこしくしているのが、医師によっては pre-syncope を lightheadedness と呼ばず、non-specific dizziness を lightheadedness と呼ぶ場合があるということです。この場合、dizziness は下記の4つの症状の総称となります。
• Vertigo
• Pre-syncope
• Disequilibrium
• Lightheadedness
以上が dizziness の定義に関するお話です。どうです?これだけで “I feel dizzy.” となった方もいるのではないでしょうか?
どう考えればいいの?めまいの診断
めまいの診断に関して、従来の医学教育では患者さんが訴えるめまいを下記の4つに分類し、それぞれの鑑別疾患を考えていくと教えていました。
• Vertigo
• Pre-syncope
• Disequilibrium
• Non-specific dizziness
つまり患者さんが “I have dizziness.” や “I feel dizzy.” と訴えた場合、“Could you describe the sensation without using the word dizziness or dizzy?” と尋ねて、その dizziness が上記4つの種類のどれに分類されるのかを確認し、そこから鑑別疾患を考えていくという方法です。
ただこの symptom quality や type of dizziness と呼ばれる患者さんからの情報は、「診断で用いるにはあまり信用できない」というのが問題になります。と言うのも本来なら pre-syncope を引き起こす疾患なのに、患者さんは自分の dizziness を vertigo のように表現したり、逆に本来なら vertigo を引き起こす疾患なのに、患者さんは pre-syncope のように表現する場合もあるからです。
そこでこの従来型の symptom quality/type of dizziness のアプローチ法に代わって提唱されているのが、New Diagnostic Approach to the Adult Patient with Acute Dizziness で紹介されている ATTEST というアプローチ法です。英語の attest には「証明」や「証明する」という意味があるのですが、ここでは下記の項目の頭文字となっています。
ATTEST
A: Associated symptoms
TT: Timing and Triggers
ES: Examination Signs
T: additional Testing as needed
このアプローチ法の詳細は後述しますが、ここでのポイントは Associated symptoms「めまいの随伴症状」の有無と、 Timing and Triggers「めまいのタイミングとトリガー」が診断において重要になるということです。
数多くの症状の診断を身につけなければいけない医学生にとって、それぞれの症状で診断のアプローチをコロコロと変えてしまうと、負荷を感じて診断に苦手意識を持つのではと個人的に危惧しています。しかしこの「医学英語カフェ」で繰り返し強調しているように、History of Present Illness (HPI)「現病歴」を丁寧に尋ねることでこの A + TT の部分もしっかりとカバーできるのです。こちらでも紹介しているように、どんな症状の場合でも HPI に関しては下記の3つのステップで尋ねていきましょう。
1. Open-ended questions: 開放型質問を使い「発症」「発症前」「発症後」の様子を詳細に語ってもらう。状況に合わせて質問を加え、適宜話を要約する。
2. Closed-ended questions: “pain’s OPQRST” や “SOCRATES” などをチェックリストとして使い、 聞き漏らしがないか確認する。
3. Associated symptoms: 鑑別疾患に伴う関連症状の有無を尋ねる。
こうすれば Open-ended questions と Closed-ended questions にて Timing & Triggers の情報が得られますし、Associated symptoms も医療面接の早い段階で尋ねることができます。このように「基本を徹底する」ことを意識すれば、dizziness のような診断が難しい症状にも応用することが可能となるのです。
この基本を徹底するとして、特に dizziness の HPI では Associated symptoms と Timing & Triggers の3つを重視して質問するようにしましょう。
• Associated symptoms: Do you have any other symptoms?
• Timing: Is the dizziness continuously present now?
• Triggers: Can anything trigger your dizziness?
どんな病気がある?めまいの鑑別疾患
では dizziness の鑑別疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?ここでは先ほどの ATTEST のアプローチ法を使って dizziness の鑑別疾患を考えていきましょう。
まずは Associated symptoms に着目し、その dizziness が general medical cause によって引き起こされているかを確認します。
これもこの「医学英語カフェ」では繰り返し伝えていますが、神経症状に対してはどんな場合でも下記の4つの Red Flags 「危険な疾患」を考えて、その随伴症状を尋ねるようにしましょう。
• Stroke 「脳卒中」
• Meningitis 「髄膜炎」
• Intoxication「(薬物やアルコールなどの)中毒」
• Metabolic conditions「代謝性疾患」
このように associated symptoms を尋ねて、そこで上記のような疾患が除外されたものを「前庭が原因で起こる病気っぽい」ということで vestibular syndrome と呼びます。
次に Timing に着目して、この vestibular syndrome を詳しく分類していきます。
診察時にも dizziness がある場合、それを acute vestibular syndrome (AVS) と呼び、そこからさらに診断を進めていきます。
診察時に dizziness がない場合、それを episodic vestibular syndrome (EVS) と呼び、そこからさらに診断を進めていきます。
そしてこの AVS と EVS をそれぞれの Triggers に着目し、トリガーのある場合とトリガーのない場合で考えていきます。
トリガーのある AVS の場合、多くは trauma や medications などによる AVS であり、これらは先ほどの associated symptoms の質問にて既に除外されています。問題なのはトリガーのない AVS であり、ここからはこれを AVS として診断を進めていきます。
EVS ではトリガーのある EVS とトリガーのない EVS をそれぞれ triggerable EVS (t-EVS) と spontaneous EVS (s-EVS) と呼称し、そこからさらに診断を進めていきます。
つまり Timing & Triggers の2つの項目によって、dizziness の原因は下記の3つに分類されるのです。
• (spontaneous) acute vestibular syndrome (AVS)
• triggerable episodic vestibular syndrome (t-EVS)
• spontaneous episodic vestibular syndrome (s-EVS)
ここから ATTEST のアプローチ法の Examination Signs である physical exam を使ってさらに診断を進めるのですが、まずはそれぞれの代表的な鑑別疾患を示しておきましょう。
• AVSの鑑別疾患: vestibular neuritis or posterior circulation stroke
• t-EVS の鑑別疾患: BPPV or orthostatic hypotension
• s-EVS の鑑別疾患: vestibular migraine, Menière’s disease or TIA
診察時にも dizziness が続いている acute vestibular syndrome (AVS) の場合、peripheral vertigo とも呼ばれる vestibular neuritis「前庭神経炎」か、central vertigo とも呼ばれる posterior circulation stroke「椎骨動脈の脳卒中」を考えます。
診察時に dizziness がない episodic vestibular syndrome (EVS) の場合、トリガーのある t-EVS では benign paroxysmal positional vertigo (BPPV)「良性発作性頭位めまい症」か、orthostatic hypotension「起立性低血圧」を考えます。
そしてトリガーのない s-EVS では vestibular migraine「前庭性偏頭痛」や Menière’s disease「メニエール病」、そして transient ischemic attack (TIA)「一過性脳虚血発作」を考えます。
以上をやや乱暴にまとめると、dizziness の診断の流れは下記のようになります。
1. 患者さんが dizziness を訴える場合、まずは Red Flag の有無を確認する
2. 診察時にも dizziness が続いている場合、vestibular neuritis か stroke かを鑑別する
3. 診察時に dizziness がなくてトリガーがある場合、BPPV かどうかを確認する
4. 診察時に dizziness がなくてトリガーがない場合、vestibular migraine や Menière’s disease などを考える
HINTS? Dix-Hallpike test? 難しいめまいの診察を理解しよう!
このように ATTEST のアプローチ法の Associated symptoms と Timing and Triggers を使えば、dizziness の原因を下記の3つに分類することが可能になります。
• AVS: vestibular neuritis or posterior circulation stroke
• t-EVS: BPPV or orthostatic hypotension
• s-EVS: vestibular migraine, Menière’s disease or TIA
このうち下記の鑑別は ATTEST の Examination Signs (ES) である physical examination で行うことができます。
• vestibular neuritis (peripheral vertigo) vs posterior circulation stroke (central vertigo)
• BPPV vs orthostatic hypotension
では、具体的にどのような身体診察で vestibular neuritis と strokeを区別し、そして BPPV かどうかを確認するのでしょうか?
まず末梢性である vestibular neuritis と中枢性である stroke の区別には、 HINTS exam と呼ばれる physical exam を用います。
この HINTS は Head Impulse, Nystagmus, and Test of Skew の頭文字を取った表現です。ただ実際に診察する際の順序は HI→N→TS ではなく、Head Impulse を最後に回す N→TS→HI の順に行い、下記の項目を確認します。
Vestibular Neuritis | Stroke | |
---|---|---|
Nystagmus | Unidirectional & Horizontal | Bidirectional & Vertical |
Test of Skew | No Vertical Skew | Vertical Skew |
Head Impulse | Corrective Saccade | No Corrective Saccade |
まず確認するのは Nystagmus「眼振」です。末梢性の vestibular neuritis の場合、一方向に限定された unidirectional な nystagmus がhorizontal に現れます。これに対して中枢性の stroke の場合、上下に方向が変わる bidirectional な nystagmus が vertical に現れます。
次に確認するのが Test of Skew です。英語の skew には「歪み」「歪める」「歪んでいる」のような意味があり、ここでは患者さんの眼が垂直方向に偏位するかどうかを確認します。具体的には下記の3つのステップで行います。
1. Ask the patient to look at your nose and subsequently cover one of their eyes.
2. Then, quickly move your hand to cover the patient’s other eye. During this process,
observe the uncovered eye for any vertical and/or diagonal corrective movement.
3. Repeat this maneuver on the other eye.
ここで vertical skew が生じれば central vertigo である stroke を考えます。
最後に行うのが Head Impulse test です。ここでは下記のようなステップで患者さんの顔(英語ではこの場合、face ではなく head と表現します)を左右に回旋させます。
1. Gently move the patient’s head side to side, making sure the neck muscles are relaxed.
2. Then ask the patient to keep looking at your nose whilst you turn their head left and right.
3. Turn the patient’s head 10-20° to each side rapidly and then back to the midpoint.
この head impulse test では、vestibular neuritis がある場合に異常所見が現れます。正常や stroke の場合、素早く顔を正面に回旋して戻しても眼は正面を向いたままです。しかし眼が行き過ぎた後に中央に戻れば、それを corrective saccade と呼び、異常所見として vestibular neuritis を示唆するのです。この saccade とは jerking movements「ガックンガックンとするような動き」という意味で、「サッカード」のように発音します。
そして BPPV かどうかを確認するためには Dix-Hallpike test と呼ばれる physical exam を行います。(この Dix-Hallpike は「ディックス・ホォゥパィク」のように発音します。)
BPPV は簡単に言うと、 otoliths「耳石」が semicircular canals「半規管」に迷入することで、誤った平衡感覚が脳に送られて vertigo が生じるという病気です。そしてこの Dix-Hallpike test では、otoliths が迷入した semicircular canal を特定することも可能となります。この Dix-Hallpike test でBPPV と診断され、otoliths の迷入部位が特定できたら、Epley maneuver と呼ばれる耳石置換法で治療します。
以上が ATTEST のアプローチ法による dizziness の診断です。どうでしょう?少しは皆さんの「めまい」も解消されたでしょうか?
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に dizziness の診断の流れをもう一度簡単にまとめておきます。
1. 患者さんが dizziness を訴える場合、まずは Red Flag の有無を確認する。
2. 診察時にも dizziness が続いている場合、vestibular neuritis か stroke かを HINTS exam で鑑別する。
Vestibular Neuritis | Stroke | |
---|---|---|
Nystagmus | Unidirectional & Horizontal | Bidirectional & Vertical |
Test of Skew | No Vertical Skew | Vertical Skew |
Head Impulse | Corrective Saccade | No Corrective Saccade |
3. 診察時に dizziness がなくてトリガーがある場合、BPPV かどうかを Dix-Hallpike test で確認する。
なければ orthostatic hypotension を疑う。
4. 診察時に dizziness がなくてトリガーがない場合、vestibular migraine や Menière’s disease などを考える。
TIAも忘れない
では、またのご来店をお待ちしております。
引用文献
Edlow JA, Gurley KL, Newman-Toker DE. A new diagnostic approach to the adult patient with acute dizziness. The Journal of emergency medicine. 2018 Apr 1;54(4):469-83.
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国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之