ナンバー内科&たすきがけのなか「年度ごとの症例を全て印刷して管理」J-OSLERを計画的に終わらせた女性医師
【答えてくれる先生】
タカゾノ サチコ先生(仮名)
<経歴>
2018年 某国立大学医学部(西日本エリア) 卒業/
2018年 某国立大学医学部附属病院 初期研修(マイナー診療科志望→内科志望)/
2020年 某国立大学医学部附属病院 内科専門研修/
2024年 某国立大学大学院 在学中
研修医2年目6月に内科志望を決め80症例を満遍なく集めることに成功
2023年度に合格! その秘訣は!?
「2023年度第3回 内科専門医資格認定試験」に合格したタカゾノ サチコ(仮名)です。
私は医学部卒業後、母校の大学病院に残り、初期研修と内科の専門研修を受けました。
「内科の専門医になろう」
そう決めたのは、初期研修2年目6月と遅め。効率よくJ-OSLERの症例を集めるために、いくつかの工夫がありました。
結果、初期研修で持ち越せる最大数の80症例を登録し、病歴要約作成時にも最大限活用することに成功。
そんな私の内科専門医試験とJ-OSLERの症例集め。
これから内科専門医を目指す後輩の先生方に、ささやかなアドバイスを送らせていただきます。
タカゾノ先生の内科専門医認定証
初期研修2年目6月に内科専攻医の道へ進むことを決意
J-OSLERの症例登録で苦戦する先生は多いと思います。冒頭でお話しした通り、私は初期研修で持ち越せる最大数の80症例を登録し、病歴要約作成時に最大限活用することができました。
もともと、私は某マイナー診療科を希望していましたが、初期研修の開始当初から、専門研修の進路変更の可能性はゼロではないと考えていました。
そのことから、1年目のローテート時から内科の症例は、頭の片隅で意識だけはしていました。
しかしながら、内科専攻を決めたのは2年目6月。
初期研修開始時から症例集めを行う先生に比べると、出遅れた感はありました。
専門研修で集まらない症例を先回り
私が専門研修で志望したのは、内科系でも比較的、臓器横断的な診療科でした。
そのため、幸い専門研修開始後でもたいていの臓器の症例は集めることができそうでしたが、一部、「専攻医になったらあまり扱いそうにないな」
そんな臓器・分野がいくつか思い浮かびました。
いろいろな診療科を回れる初期研修では、そのような症例を重点的に集めようと考え、指導医に事情を話し、先回りして症例を受け持たせてもらえるようにお願いしていました。
ちなみに、私が初期研修と後期研修を受けた母校の大学病院は、いわゆる「ナンバー内科」の制度を採用しています。第1内科、第2内科、第3内科と複数にわかれてはいるものの、科ごとの垣根は低く、比較的交流しやすい環境です。
もし症例集めが順調ではない研修医や専攻医がいれば、ローテーターとして互いの科を行き来することもできました。
加えて、私が働く大学病院は、ローテートのスケジュールについては研修医本人の希望が反映されやすい仕組みでした。そんな環境や仕組みに助けられ、初期研修から順調に各分野の症例が集まりました。
研修医時代の症例集めのアドバイスとしては、専門研修先の診療科や病院で集めにくい症例を意識しておくことでしょうか。
集めにくい症例は、循環器系、消化器系、市中病院or大学病院など、どこで専門研修を受けるかで異なると思います。個々に将来を見据えつつ、初期研修から計画的に症例集めをしておくとよいかと思います。
前の病院で持った症例は後から確認が難しい
J-OSLERの症例集め。自分が受け持った症例は、しっかりデータ管理しておきたいところですね。
私の初期研修は、たすきがけプログラムでした。初期研修1年目が某市中病院、2年目が母校の大学病院。それに、3年目以降の専門研修も医局人事のため毎年勤務先が変わる予定でした。
症例集めで、重要となるのがサマリーです。勤務先が変わると、電子カルテのデータベース上にあるサマリーを見返すことが困難になります。
「あの病院で働いていたとき、どういう症例を持っていたかな」
専門研修後半にそんな事態に陥るのは避けたいところ。
後輩の先生方のなかには、私のように毎年勤務先が変わる方もいるでしょう。
私が行った対策としては、年度末にその年度に受け持った症例のサマリーを、全て印刷していました。もちろん、個人情報に関連する項目は黒塗りします。
そして必要な症例と病歴要約の一覧表と、自分の印刷したサマリーを毎年見比べ、不足分を洗い出すようにしていました。
この作業は、J-OSLER対策で非常に有効なものとなりました。
指導医の症例登録もひと癖あり
J-OSLERの症例登録と病歴要約。勤務先の内科指導医の承認登録をお願いする必要があります。私の場合、病院をちょくちょくと異動していたので、複数の指導医から承認登録をしてもらいました。
この承認登録も、指導医によって登録までの日数、差し戻しとなる基準など、個人差がありました。スムーズに登録してくださる先生がいる一方で、多忙でなかなか承認作業に取り掛かれないお忙しい先生も。
いろいろなタイプの先生がいるので、余裕を持って作業しておいたほうがよいでしょう。ときどきは「○件ほど症例を出したので、そろそろ確認をお願いします」と話せる関係性も大切ですね。
病歴要約に関して、二次評価では査読委員からの差し戻しも経験。力作のサマリーが戻ってきたときはショックでした(笑)。私の同期は「すぐ通ったよ」と言っていたので、この点も差はあると思います。
専攻医と一緒に受け持った症例は避けた
研修医と専攻医が同じ症例を一緒に受け持つ症例。J-OSLERの症例集めにおいて、患者さんの担当期間が分かれていれば研修医と専攻医、ともに症例を使えると聞いたことがあります。
とはいえ、複数の研修医・専攻医で受け持った症例は使えるかどうかわからず管理も大変。
そのような、使えるかわからない症例に関して、症例管理が大変なことを見越し、あえて避けていました。
しかしながら、数例は使わなければならず、その際は先輩に「こちらの症例を使いますか」と早い段階でお伺いし、トラブルを回避するよう心掛けました。
余談ですが「剖検」は、解剖を希望するご遺族が少ないため、所属先の病院に症例が潤沢ではありません。そのため、専攻医同士で早い者勝ち状態でしたね。病院によると思いますが、だいたいの内科専攻医が剖検症例の確保に苦労しているようです。
剖検は初期研修のころから意識しておくことをオススメします。
以上が私のJ-OSLERの工夫です。
試験対策は本番3カ月前に開始
私の内科専門医試験の勉強法もお話します。2023年6月初旬の内科専門医試験。勉強を始めたのは、約3カ月前の2023年2月後半のことでした。
教材は、内科専門医試験に関する紙の問題集2冊です。2冊とも一般的な書店で見かけるポピュラーな教材です。1冊につき7000円前後だったと思います。
2冊とも本の問題集として活用できるだけでなく、ウェブと連動したオンライン学習の機能も付属していました。
スマホやタブレットを用いて、まずは2冊の問題集を進めました。
加えて、試験2カ月前には動画教材も問題集と併せて活用。問題集と動画教材を、診療、通勤、家事の合間に使っていました。
合格した先輩内科専門医の試験対策を踏襲
2冊の問題集と動画教材。どちらも2022年度の内科専門医試験に合格した先輩から勧められた教材です。
先輩オススメの教材と、勉強期間から大きく外れないよう学習を進めました。
教材は凝れば凝るほど、いろいろなものが見つかります。目移りすると勉強に集中できません。効率よく試験対策するためには、ある程度絞るのも必要だと感じました。
多忙な毎日……。ノルマは「1日10問」!すき間時間にコツコツ勉強
内科専攻医は多忙。勉強時間が限られます。
まとまった時間に集中して勉強できる医師国家試験と同じ試験対策は通用しないと思います。
私も時間の捻出には苦労しました。それに、日々の診療があるので、勉強のための体力管理も悩みどころでした。
そこで、「1日10問題」とノルマを決めて試験対策することに。
昼食時、休憩時間、通勤時間などのすき間時間を活用し、コツコツとノルマをこなす日々でした。
平日はすき間時間にノルマを進め、休日は2~3時間まとまった時間をとって勉強しました。
結果的に、問題集は2冊を1周。不正解の問題をさらにもう1周しました。
試験対策時に感じたこととして、J-OSLERの症例登録、病歴要約作成の作業そのものが試験対策になっていたことでしょうか。サマリーを書くには、調べ物が必須です。
サマリー作成中に知識が蓄えられ、結果的に内科専門医試験に必要な基礎を強固にしてくれたように思います。
内科専門医試験2カ月後に「合格」の通知が届いた
内科専門医試験から2カ月後、「合格」の通知が届きました。
ホッとしました。
内科専門医試験の通知書には、合否とあわせて専門分野別成績の全体平均値と個人別成績値が項目ごとに記されています。
項目は以下の10種。
「消化器」「循環器」「内分泌・代謝」「腎臓」「呼吸器」「血液」「神経」「アレルギー・膠原病」「感染症」「総合内科」
私の成績を専門別に見ると「内分泌・代謝」「血液」がいまひとつで、「アレルギー・膠原病」「循環器」「腎臓」が高得点でした。
私が希望するサブスペシャルティと相性がよい領域が、成績に反映されているようでした。
承認されたばかりの新しい薬も問題に登場
2023年度の内科専門医試験。
「これは初めてみるな」
そんな難問もありました。
新しい薬もいくつか出題されています。私の領域でも、数年前に承認されたばかりの新しい薬が選択肢に入っていました。私は専門中の専門だったので解けましたが、他領域の内科専攻医は「難しかった!」とお手上げだったようです。
逆に、専門外の領域では、「これはなんだろう。初めて見るな」とお手上げ状態の難問も出題されていました。
専門医手当てを支給される
内科専門医を取得後、月数千円ですが勤務先から専門医手当が支給されています。今のところ、それ以外に変化はありません。
本年度、私は大学院生になりました。スポットのアルバイト案件もいくつか目を通してはいますが、専門医必須の仕事は少なく、この点でも恩恵はまだ感じていません。
とはいえ、内科専門医は技量の信頼性に関わります。
「内科専門医」の資格。
「内科医であれば持っていることが当たり前」
今後はそんな時代になっていくでしょう。その意味でも、専門医資格は必須だといえますね。
後輩へのアドバイス
もし私が内科専門医試験をやり直すとしたら。
問題集をもう1周しておけばよかったかなと思います。そうすればもっと理解が深まり、点数もよかったのではないでしょうか。
J-OSLERの160症例の登録。その作業には非常に時間がかかります。
コツコツ進め、早めにめどを立てておきましょう。あとあと焦らなくて済みます。
ためすぎると、J-OSLERの症例登録と内科専門医試験の勉強を並行しなければなりません。
精神衛生的にも、なるべく前倒しでやっておいた方がよいのかなとは思います。