こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!
ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。
本日のテーマは「英語での Post-CC OSCE」。
2023年7月2日(日)に東京の神保町にて開催された「第26回日本医学英語教育学会学術集会」にて、 “Preparing English OSCE: Challenges in training and evaluating history-taking skills in English” というシンポジウムを担当させていただきました。その中で私が教鞭を取る国際医療福祉大学医学部にて「Post-CC OSCE の大学独自課題として、英語での医療面接・症例報告・カルテ記載という3つの課題を出している」というお話をさせていただいたところ、「本当にそんな鬼畜なとんでもないことをやっているのか!」という声をたくさん頂戴しました。
そこで今月は国際医療福祉大学でこの「英語での Post-CC OSCE」をどのような形で行い、そこから我々がどんなことを学んでいるのかを読者の皆さんと共有していきたいと思います。是非コーヒー片手にリラックスしてお読みください。
そもそも Post-CC OSCE って何?
この Post-CC OSCE とは Post–Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination の略語であり、日本語では「臨床実習後客観的臨床能力試験」となっています。その名の通り「臨床実習の後」に行いますので、6年次の7月から10月頃に行われるのが一般的です。
この Post-CC OSCE では、「共用試験実施評価機構(CATO)」による全大学共通の「機構課題」として3課題、各大学が独自に設定する「独自課題」として3課題、合計6課題が出題されます。
このうち全大学共通の「機構課題」では、「主訴から病態を推測し、そのための医療面接を行い、医療面接で得た情報をより鑑別診断につなげるための身体診察を行い、その思考過程を過不足なく指導医に報告できる」という能力を評価しています。
具体的には12分間で「医療面接(約7分間)」と「身体診察(約5分間)」を行い、4分間で「上級医への症例プレゼンテーション(症例報告)」を行います。この合計16分間の課題を3症例行います。
機構課題で対象となる主訴は「医学教育モデル・コア・カリキュラム」にある全37症候のうち、外来での医療面接が困難な「ショック」と「心停止」を除いた35の症候です。ただし、モデル・コア・カリキュラムは令和4年にこちらのように改訂されており、2024年度の入学者からこれまでの35の症候から若干変更されることとなります。
この機構課題では下記の4つの能力が重要になります。
1. 臨床推論の能力・鑑別疾患の知識 (Clinical Reasoning Skills)
2. 症状に合わせた医療面接の能力 (Focused History Taking Skills)
3. 症状に合わせた身体診察の能力 (Focused Physical Exam Skills)
4. 症例報告の能力 (Case Presentation Skills)
この中でも「臨床推論の能力」は特に重要であり、「35の症候に対してどのように診断を進めるべきか」ということをしっかりと準備する必要があります。この「臨床推論の能力」が十分ではないと「どのような質問をするべきなのか」「どのような身体診察をするべきなのか」「症例報告で何をどのように述べるべきなのか」もわからなくなります。
機構課題の対策としては、臨床実習前から「35の症候」に関する臨床推論の整理をしておき、同級生たちと時間配分を意識した練習を重ねることをお勧めします。特に「症状に合わせた身体診察」と「症例報告」は経験が少ないためか苦手意識を感じている学生さんが多いので、この2つを特に意識して練習することをお勧めします。
「英語でのPost-CC OSCE」 では具体的に何をやっているの?
この機構課題3つに加え、Post-CC OSCE では各大学が独自に設定する独自課題が3つ出題されます。
一般的には「採血: blood draw/phlebotomy」や「縫合: suturing」などの手技が独自課題として設定されていますが、国際医療福祉大学医学部では下記の3つを独自課題として設定しています。
• 英語での医療面接
• 英語での症例報告
• 英語でのカルテ記載
なぜこの3つなのかというと、これらが「海外臨床実習で必要な3つのスキル」だからです。国際医療福祉大学医学部では6年次に全員が海外臨床実習を経験します。そのためこの3つのスキルが学生全員にとって重要なのです。
対象となる症状はモデル・コア・カリキュラムの35の症候のうち、2年次の「医学英語」という授業で扱う下記の16の症状です。
1. Chest Pain
2. Abdominal Pain
3. Headache
4. Jaundice
5. Constipation & Diarrhea
6. Hematemesis & Hematochezia
7. Hematuria
8. Weight Loss & Gain
9. Menstrual Abnormalities/Abnormal Uterine Bleeding
10. Low Back Pain (2020年度入学の4期生からは この代わりに Dysphagia)
11. Memory Loss
12. Paresis & Paralysis
13. Fever
14. Dizziness
15. Syncope
16. Tremor/Convulsions
リンクがついている症状に関しては、この「医学英語カフェ」にて「その症状に対してどのように診断を進めるべきか」「その症状に対してどのような質問をするべきなのか」「その症状に対してどのような身体診察をするべきなのか」をまとめています。
この2年次の「医学英語」という120時間の科目では下記の項目を扱っています。
• 16の症状に関する臨床推論:各症状に対してどのように診断を進めるべきか
• 症状に合わせた医療面接
• 症状に合わせた身体診察
• 症例報告
• カルテ記載
つまり「医学英語」という科目自体が Post-CC OSCE の独自課題の準備として構築されており、この「医学英語カフェ」もその科目の解説として機能しているのです。
「英語でのカルテ記載」 での注意点は?
ではそれぞれの独自課題をどのようにして実施し、そこからどのようなことがわかったのか、ご紹介していきましょう。
2日間のPost-CC OSCE のうち、初日は機構課題2つと「英語でのカルテ記載」を行います。
この「英語でのカルテ記載」の試験時間は60分で、受験生はCBTも実施している Computer Room の PC を使い、Microsoft Word ファイルに Patient Note を作成していきます。
それぞれの PC はインターネットに接続されていませんが、Wordのスペルチェック機能は使用することができます。
本来であれば受験生が自分で医療面接と身体診察をして、その結果を Patient Note として作成することが理想的なのですが、そうすると Patient Note の技術だけを独立して評価することはできなくなります。そこで実際の試験ではこちらにあるような History Taking と Physical Exam の結果を紙で読み、その情報を使って Patient Note を書いていきます。
評価では「医学英語」の担当教員が下記の7項目を評価していきます。
1. Components of Patient Note
2. Comprehensiveness of History of Present Illness
3. Pertinent Positives & Negatives in History Taking & Physical Exam
4. Comprehensiveness of Summary
5. Differential Diagnosis
6. Medical Terms & Grammar
7. Global Rating
この評価項目の詳細も含めて「英語でのカルテ記載」に重要な点はまとめてありますので、是非お読みください。そこでも書いてありますが、下記の点には特に注意が必要です。これから「英語でのカルテ記載」に挑戦しようと思っている方は、特に注意を払うようにしてください。
• History of Present Illness (HPI)「現病歴」に十分な情報を記載する
• pertinent positives と pertinent negatives を記載して鑑別疾患を想起させる
• 鑑別疾患を想起させる Summary を書く
• Wordのスペルチェック機能を使う
「英語での症例報告」 での注意点は?
2日目は機構課題1つに加え、「英語での症例報告」と「英語での医療面接」を行います。
「英語での症例報告」も本来であれば受験生が自分で医療面接と身体診察をして、その結果を Case Presentation として行うことが理想的なのですが、そうすると Case Presentation の技術だけを独立して評価することはできなくなります。そこで実際の試験ではまず15分間でこちらにあるような History Taking と Physical Exam の結果を紙で読み、その情報を使って Case Presentation の準備をします。
その後、別室に移動して5分間で2名の評価者に向かって Case Presentationを行います。この際、History Taking Part 1 という冊子はCase Presentationの部屋に持ち込むことができません。History Taking Part 2とPhysical Examを含んだ冊子は Case Presentationの部屋に持ち込むことができます。これは15分間で全ての History Taking と Physical Exam の情報を書き写すことができないからです。しかし Case Presentation において最も重要な History of Present Illness だけは自分でメモを作る必要があると判断し、このような試験形式としています。
評価では「医学英語」の担当教員の他、英語圏への留学経験がある教員が下記の7項目を評価していきます。
1. Components of Case Presentation
2. Comprehensiveness of History of Present Illness
3. Pertinent Positives & Negatives in History Taking & Physical Exam
4. Comprehensiveness of Summary
5. Differential Diagnosis
6. Medical Terms & Grammar
7. Global Rating
この評価項目の詳細も含めて「英語での症例プレゼンテーション:基礎編」と「英語での症例プレゼンテーション:中級編」に重要な点はまとめてありますので、是非お読みください。そこでも書いてありますが、下記の点には特に注意が必要です。これから「英語での症例報告」に挑戦しようと思っている方は、特に注意を払うようにしてください。
• 症例報告の項目に抜けがないように意識する
• History of Present Illness (HPI)「現病歴」で十分な情報を述べる
• pertinent positives と pertinent negatives を述べて鑑別疾患を想起させる
• 鑑別疾患を想起させる Summary を述べる
• バイタルサインを含めた身体診察所見を具体的に述べる
試験後のアンケートを見ると、85%の受験生が「3つの独自課題の中で英語での症例報告が最も難しい」と感じていました。短時間での情報処理に加え、英語で簡潔に表現する能力、さらに非言語コミュニケーション能力など、複合的なスキルが求められるこの「英語での症例報告」は、英語を母国語としない医学生にとって、最も難しい医学英語スキルと言えるのかもしれません。
「英語での医療面接」 での注意点は?
2日目のもう1つの独自課題が「英語での医療面接」です。
機構課題では12分間で医療面接と身体診察を行いましたが、「英語での医療面接」では12分間で外国人模擬患者を相手に医療面接だけを行います。
評価では外部の評価者(英語圏の医学部教員)が録画した映像を視聴し、こちらの評価項目を使って評価します。
この評価項目のうち、外部の評価者の Global Rating 2という最も重要な評価項目に対して、下記の4項目が影響を与えていることがわかりました。
• L3: Appropriateness of Language
• L4: Resources of Grammar & Expression
• C4: Information Gathering
• M3: Comprehensiveness of HPI
この評価項目の詳細も含めて「英語で現病歴を上手く尋ねるコツ」と「英語での医療面接のコツ」に重要な点はまとめてありますので、是非お読みください。そこでも書いてありますが、下記の点には特に注意が必要です。これから「英語での医療面接」に挑戦しようと思っている方は特に注意を払うようにしてください。
• 最初の「自己紹介」「患者の承諾」「患者確認(フルネーム・生年月日)」の部分をスムーズに、
かつ相手が理解できる程度ゆっくりと話す
• 全体の半分の時間は History of Present Illness に使う
• HPI では follow-up questions を意識する
• Severity では “How does it affect your daily activities?” のような質問もする
• Review of Systems で新たな症状が陽性の場合、その症状についても詳しく尋ねる
• Summary をした後、下記の3つの質問をする
o “Did I understand you correctly? (Is that correct?)”
o “Do you have anything to add? (Anything to add?)”
o “Do you have any questions? (Any questions?)”
ここで言う follow-up questions とは、患者さんのコメントに対して深掘りする質問です。この follow-up questions をしっかりと尋ねている方は、学生自身の英語力(TOEFL ITPのスコアなど)に関係なく、英語での医療面接で高評価となっていました。安易にOPQRSTなどの質問を尋ねる前に、この follow-up questions を尋ねる意識を持ち、また HPI の最後に “Is there anything that you are particular concerned about?” のような patient’s concerns を尋ねる質問もすると良いでしょう。
Review of Systems では general symptoms からそれぞれの system に関する症状を尋ねていきますが、もし陽性となる症状がある場合、その症状を新たな症状として認識して、素早くその症状に関する追加の質問をしていきます。患者さんに倦怠感や体重減少などがあった場合、その症状についても深掘りする質問をしてみましょう。すぐに次の症状を尋ねるようなことはしないように意識しましょう。
いかがでしたか?
Post-CC OSCE の独自課題として「英語でのカルテ記載」「英語での症例報告」「英語での医療面接」という難しい課題を出していますが、その経験を通して我々教員もたくさんのことを学ばせてもらっています。今後もその学びから見つけたことを読者の皆さんの医学英語学修に還元していきたいと思います。
さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に「英語でのカルテ記載」「英語での症例報告」「英語での医療面接」での注意点をもう一度まとめておきます。
「英語でのカルテ記載」の注意点
• History of Present Illness (HPI)「現病歴」に十分な情報を記載する
• pertinent positives と pertinent negatives を記載して鑑別疾患を想起させる
• 鑑別疾患を想起させる Summary を書く
• Wordのスペルチェック機能を使う
「英語での症例報告」の注意点
• 症例報告の項目に抜けがないように意識する
• History of Present Illness (HPI)「現病歴」で十分な情報を述べる
• pertinent positives と pertinent negatives を述べて鑑別疾患を想起させる
• 鑑別疾患を想起させる Summary を述べる
• バイタルサインを含めた身体診察所見を具体的に述べる
「英語での医療面接」の注意点
• 最初の「自己紹介」「患者の承諾」「患者確認(フルネーム・生年月日)」の部分をスムーズに、
かつ相手が理解できる程度ゆっくりと話す
• 全体の半分の時間は History of Present Illness に使う
• HPI では follow-up questions を意識する
• Severity では “How does it affect your daily activities?” のような質問もする
• Review of Systems で新たな症状が陽性の場合、その症状についても詳しく尋ねる
• Summary をした後、下記の3つの質問をする
o “Did I understand you correctly? (Is that correct?)”
o “Do you have anything to add? (Anything to add?)”
o “Do you have any questions? (Any questions?)”
では、またのご来店をお待ちしております。
「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之