在宅医療には病院医療ではなかなか味わえない醍醐味がいくつかありますが、その一つに患者さんが望むゴールの実現に大きな役割を果たせるということがあります。もちろん、病院医療においても、死を避けることができないケースはありますが、在宅医療のそれとは随分と差があり、将来ある若い先生方にも、医師としての醍醐味として味わってほしいと考えています。
医療法人社団 貞栄会 理事長 内田貞輔 先生
2015年、静岡市内に静岡ホームクリニックを開設。2016年には医療法人社団貞栄会を設立、同法人理事長に就任。2019年に三田在宅診療クリニック(東京都港区)、千葉在宅診療クリニック(千葉市)、2022年にはなるみ在宅診療クリニック(名古屋市緑区)を開設。“在宅は生活をみること”という独自のコンセプトにより在宅診療の底上げを図り、普及活動にも精力的に取り組む。
支援の評価が最期の瞬間に現れる
患者さんが望むゴールはさまざまです。ただ、病院医療にはないゴールを挙げるとすると、それは看取りだと思います。私はこの看取りを、自分たちが提供した医療や支援が正しかったのかを計る、いわば通知表だと考えています。
そもそも、自宅で最期を迎えたい人は、医療的な処置が最大の目的ではないはずです。大切なご家族と一緒にいたい、慣れ親しんだ環境で過ごしたいと願うのは、家庭が患者さんにとって安らぎ、温かい場所だからです。
だからこそ、私たちは患者さんやご家族が何を求めているのかという視点で在宅の在り方を考え、可能な限りそのゴールを叶えられるよう支援することが必要です。
“笑いのある看取り”こそ、理想のゴール
私は、“笑いのある看取り”が在宅医療の理想でありゴールだと考えています。 ここでいう“笑い”とは、患者さん本人はもちろん、“命を受け継ぐ”ご家族が最期の瞬間を、いかに心穏やかに迎えられるかという、心の安寧を含めた広い意味です。
こうした意味のある最期は医療スタッフの力だけで叶うものではなく、最も大切なのは、そこに至るまでのご家族の心境の変化です。
在宅医療を謳っているクリニックでも、終末期になっても定期訪問だけというところもあるように思えます。しかしそれでは、朝を迎えるのが怖いといったご家族の不安を払拭することはできません。不安を解消するような支援ができないと、“他の方法があったのでは”という後悔ばかりがご家族に残り、“笑いのある看取り”が叶うことはないのです。
となると、私たちがすべきことは明白です。ご家族でも可能なケアや夜間コールへの判断基準などをアドバイスして、“チームの一員”としてご家族に役割を与え巻き込むべきです。私たちの役割は “患者さん本人やご家族と対話すること”であり、家族間の対話が増えるよう導いてあげることだとさえ思うのです。
そのようにご家族との信頼を築き、“心の距離”を縮められるかというのが、私たちへの評価基準だと考えています。
ただ、笑いのある看取りの実現には時間と手間がかかります。それゆえに私たちがなすべきことは多く、いくら医療行為を行ったところで、理想の最期の瞬間を叶えてあげられなければ、私たちの支援は失敗だと思います。
私たちが一緒に積み重ねていった行為の結果が、最期の患者さんとご家族の表情となって現れるのです。すべてのケースにおいて成功するわけではありませんが、私たちは常にその結果と真摯に向き合う必要があります。
無駄に見える行為こそ、意味がある
私のクリニックには、「誇りと尊厳に溢れる人生を全うし、ご家族が命を受け継ぐ」という理念があり、在宅医の端くれとしての私の信念です。
患者さんの死を単純に一つの死として捉えるのではなく、お互いに「できることはしたな」と後悔が残らず、「こんな楽しい思い出があるよね」と家族が笑顔で語り合える看取りを実現させることが、命を受け継ぐことだと考えています。その実現のために、私たちはいるはずです。
“わざわざ足を運び、一緒に悩んだ”という行為にこそ理想の看取りを実現させる力があり、医療とは直接関係のない行為や言動が理想につながると信じています。
私たちは患者さんやご家族への支援を怠らず、“笑いのある看取り”を実現するための努力を惜しんではいけないと思います。そして、ご家族と同じゴールに立てた時こそ、在宅医療最大の醍醐味を味わえるのです。
そんな醍醐味を、若い方々にもぜひ味わってもらいたい、というのが今の私の願いです。
- 【第1回】在宅医療の本質とその魅力 ~プロローグ~
- 【第2回】理想の在宅医療とは ~在宅医として欠かせない視点と魅力~
- 【第3回】患者・家族から学び医師として成長する
- 【第4回】在宅医療が実現すべき理想のゴール ~患者が望むゴール(看取り)に与える医師の影響力~
- 【第5回】在宅医療のプロとしてあるべき姿~エピローグ~ 在宅医療の神髄は、すべての医療に通じる基本的資質
医療法人社団 貞栄会について
患者様の治療に必要な各専門領域のスペシャリストが、患者さんのもとまで「うかがう」、総合病院を目指した取り組みを行っています。「動く総合病院にしよう」「お看取りまでしっかりと」という2つのコンセプトを、心がけています。
患者様一人一人が誇りと尊厳に満ちた人生を送ることができるよう、地域に根ざした医療の提供に努めています。家族がその命を受け継ぐ一助となれるように、その人の人生の最期まで責任を持って寄り添えることが在宅医療であり、これこそが私たちの目指す医療です。
医療法人社団 貞栄会
貞栄会では、医師の皆様の見学や研修を、随時受け入れております。
ご興味のある方は、下記リンクよりご連絡ください。
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