Dr.押味の医学英語カフェ

Menu 61 新学期から始めよう!ゼロから始める医学英語の学び方

こんにちは。「医学英語カフェ」にようこそ!

ここは「コーヒー1杯分」の時間で、医学英語にまつわる話を気軽に楽しんでいただくコーナーです。

本日のテーマは「新学期から始める医学英語の学び方」です。

いよいよ今月から新学期が始まります!

医学部新入生の方は「医学部に入ったら英語を勉強して、将来は英語を自在に使える医師になりたい!」と期待に胸を膨らませている方も多いことでしょう。そして2年生以上の医学生や医師、そして医療者や医療通訳者の方の中にも「新年度こそちゃんと英語を勉強しよう!」と気持ちを新たにしている方も多いのではないでしょうか?

そこで今月は、「新学期から始める医学英語の学び方」を医学部の学年別にご紹介したいと思います。

医学英語では「何」を「どのように」して学べばいいの?
まずは学ぶべき「医学英語」をしっかりと定義しましょう。

医師にとっての「医学英語」とは「医師としてのコミュニケーションを英語で行うことができる能力」です。具体的には「医療面接」「身体診察」「患者教育」といった患者とのコミュニケーションや、「カルテ記載」「症例報告」「論文読解」「論文執筆」「口頭発表」といった他の医師や医療者とのコミュニケーションを英語でできる能力を身につけることが、医学英語の学修内容となるのです。

医師以外の医療職の場合には、この「医師としてのコミュニケーションを英語で行うことができる能力」の「医師としての」の部分をそれぞれの医療職に変換して、「看護師としてのコミュニケーションを英語で行うことができる能力」のように定義すれば良いのです。また英語医療通訳者の場合には定義の幅が広がり、「あらゆる医療者が行う患者とのコミュニケーションを英語で行うことができる能力」を身につけることが、英語医療通訳者が学ぶべき医学英語となるのです。このように医療通訳者は実に広い範囲が学修内容となるのです。

これらの学修項目を身につけるためには、それぞれの医療職が学んでいる医学の内容を日本語だけでなく、英語でも身につける必要があります。そのために最も効率的な方法が「医学を英語で学ぶ」という方法なのです。これは外国語学修の分野では「内容言語統合型学修: Content and Language Integrated Learning (CLIL)」と呼ばれています。この CLIL は日本の小中高等学校での英語教育に導入するにはとても難しい方法なのですが、受験を通して基礎英語力が備わっている人には大変有効な学修方法です。

こう聞くととてもハードルが高いと感じる方が多いと思いますが、これまで CLIL を通して、「医療者としてのコミュニケーションを英語で行うことができる能力」を獲得した医学生や医療者をたくさん見てきました。これから医学英語を身につけたいと考えている方は、「医学を英語で学びながら医療者としてのコミュニケーションを英語で行うことができる能力を身につける」ということを指針として意識するようにしてください。

1年生は自分が描く「完成形」を意識しよう!
新入生が最初に学ぶべき医学の内容として「身体の名称」や「身体の機能」などが挙げられると思いますが、個人的にはそれらよりも優先すべきものがあると考えています。

国際医療福祉大学医学部では毎年新入生に3日程度のオリエンテーションを提供し、その期間に様々なアクティビティを行ってもらいます。その中の1つに Marshmallow Challenge という team building activity があります。詳細はリンクの動画を見てもらうとして、このアクティビティの目的は「prototype の重要性を理解する」ということなのです。

医学を学ぶためには長い時間が必要で、そのためには「基礎医学を学ぶ」「臨床医学を学ぶ」「臨床実習を経験する」などのステップが必要となります。しかし目の前のステップにばかり意識が向かってしまうと、「そもそも自分はどのような医療者になりたいのか?」という大切な視点が失われてしまいます。

そこで1年生に強くお勧めするのが、自分が描く「完成形」を意識する(「ロールモデル」を意識する)ということです。

医療職を目指す方であれば「将来は小児科医になりたい」「心臓血管外科医になりたい」「救急救命士になりたい」のような関心があると思います。まずは自分が関心を持つ医療職に関する英語の動画を見てみましょう。具体的には YouTube で “A day in the life of (medical specialty/healthcare professional)” と検索してみましょう。そうすることで「小児科医pediatrician であればこちらのような動画が、「心臓血管外科医cardiovascular surgeon であればこちらのような動画が、そして「救急救命士EMT paramedic であればこちらのような動画が見つかります。

このような動画を視聴することで、「医療者としてのコミュニケーションを英語で行うことができる」ことに関する「完成形」をイメージすることができます。大切なのは「この完成形に関する1年生なりの prototype を自分の中で構築し、学年が上がるにつれてそれを洗練させていく」という発想で勉強を進めていくことなのです。

もちろん「特に興味のある診療科はまだない」という学生さんもいらっしゃるでしょう。その場合にはこちらにある「診療科Medical Specialties の名称を確認し、それぞれに関する動画を視聴することで各診療科の動画で使われている表現を学びましょう。またこちらにある「医療職Healthcare Professionals の名称を確認し、それぞれの医療職に関する動画も視聴して、彼らが英語圏でどのような表現を使ってコミュニケーションを取っているかを学んでみましょう。

この他にも TED Talks を視聴して自分なりの prototype を構築していくこともお勧めします。

少し古くはなりますが、Stanford University の Abraham Verghese 教授が身体診察の重要性について語る “A Doctor’s Touch” と、Toronto の救急救命医である Brian Goldman 医師が医師の不完全性について語る “Doctors make mistakes. Can we talk about that?” という2つの TED Talks は、これから医学を学ぼうという方には必見の TED Talks と言えます。

また「今の自分が将来英語を使えるようにはとても思えない!」と思っている方は、山田悠史先生編著の「全く英語が話せなかった私のとっておきの医療英語勉強法」の書籍や、北原大翔先生が代表理事を務める Team WADA のサイトなどを見て「医学英語を身につけた先輩」の声に耳を傾けてみましょう。そうすることで自分なりの医師・医療者としての prototype を構築することができると思います。

基礎医学の学修では First Aid と Ninja Nerd を活用しよう!
大学によって生理学や生化学などの基礎医学を学び始める時期は異なると思いますが、基礎医学の学修が始まったら First Aid for the USMLE Step 1 を購入しましょう。

USMLE の詳細に関してはこちらをご覧頂くとして、個人的にはこの First Aid は「全ての医学部が医学用語の教科書として採用すべき教材」と考える程重要な教材です。

医学を日本語だけで学修していると「日本語のこの病気は英語で何と表現するのだろう?」という発想になります。しかしその発想で英語表現を学んでいると「英語圏では全く通用しない英語表現」を身につけてしまう危険性があります。「英語圏で通用する英語表現」を身につけるためには、「英語圏で制作された教材」を使う必要があります。まずこの First Aid for the USMLE Step 1 を購入して、自分が学んでいる基礎医学の内容に関する項目を First Aid でも確認することを習慣としましょう。そうすることで「英語圏で通用する英語表現」を自然に身につけることができるはずです。

また、現在は動画で医学を学ぶことが医学教育の主流になっています。

そこでお勧めするのが Ninja NerdDr. Matt & Dr. Mike などの教材です。オンライン医学教材としては LecturioOsmosis などの有料のものもありますが、自分が学修している項目を YouTube などで自由に検索して無料で視聴できる Ninja NerdDr Matt & Dr Mike の動画では、基礎医学や臨床医学に関するわかりやすい講義を無料で視聴できます。動画を視聴することで 、First Aid のような教材では身につけることができない医学用語の正しい発音も習得することができます。もちろん初めは難しいと思いますが、英語字幕もつけることができますし、視聴スピードも遅くすることもできます。英語では listening skills を最初に伸ばす必要があります。英語が苦手な方もこれらの動画を活用して listening skills も伸ばしていくことを強くお勧めします。

Patient Encounter の学修は早目に始めよう!
日本の医学部では、「臨床実習前 OSCEPre-Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination (Pre-CC OSCE) が3年次や4年次で実施されるためか、この試験の対象となる「医療面接Medical Interview/History Taking と「身体診察Physical Examination といった Patient Encounter の学修は、日本の医学部では3年次や4年次で行われることが多いようです。

しかしわかりやすい英語表現を使って患者さんとコミュニケーションを取るこの Patient Encounter のスキルは、一朝一夕で身につくものではありません。ですから一般英語能力も重要となるこの Patient Encounter の学修は、できるだけ早い時期に始める必要があります。

この Patient Encounter のスキルに関してはこちらにあるように、この医学英語カフェではこれまでに数多くの項目を扱っています。医学英語カフェの各 Menu で基本的な英語表現を確認したら、友人や教員に協力してもらう、AI を使う、などをして Patient Encounter を実際に経験してみましょう。

また、 Patient Encounter を学べる教材としては英国の医学生たちが作成している Geeky Medics というものが秀悦です。医療面接はもちろん、各身体診察の解説や模擬診察の動画なども豊富に用意されていますので、早い段階でこれらを使って学修を始めることをお勧めします。

臨床医学の学修では患者目線を重要視しよう!
大学で臨床医学の学修が始まったら、基礎医学学修と同様に First Aid for the USMLE Step 1 を使って、今自分が学んでいる臨床医学の内容に関する項目を First Aid でも確認するようにしましょう。この時期になると「英語圏で通用する英語表現」の蓄積も進み、First Aid を理解するスピードも速くなっているはずです。

そして臨床医学の学修では、「患者さんの目線で疾患を考える」ということを意識しましょう。昔は臨床実習が始まるまで、学んでいる疾患を持つ患者さんに会うことはできませんでした。しかし現在では、患者さんが自身の疾患について説明している動画も豊富に存在します。具体的には YouTube で自分が学んでいる疾患名に加えて “patient” や “experience” などの用語を加えて検索してみるのです。たとえばこちらの動画では、患者さんが自身の systemic lupus erythematosus (SLE/lupus) に関する体験談を語っています。このような「患者目線」の教材を活用することで皆さんの医師・医療者としての prototype のあり方を確認できる他、英語圏の患者さんがその疾患の signs and symptoms に関してどのような英語表現を使うのかも学ぶことができます。このような方法は「臨床実習clinical clerkship で実際に患者さんを担当している際には特に有用ですので、是非試してみてくださいね。

症候学の学修では Case Presentation を重要視しよう!
臨床実習clinical clerkship が終わると、その学修成果を確かめるために「臨床実習後 OSCEPost-Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination (Post-CC OSCE) が実施されます。この Post-CC OSCE の詳細はこちらをご覧頂くとして、ここでは各症状から診断を考える症候学の知識の他、医療面接身体診察症例報告の技術が評価されます。

この時期には「医学教育モデル・コア・カリキュラム」にある症状を英語でも診断できるように準備し、それらの症候に対する医療面接身体診察症例報告を英語でもできるように学修することが、医学英語学修としても効率的です。

この医学英語カフェの常連さんであればご存知だと思いますが、このカフェでは「医学教育モデル・コア・カリキュラム」にある各症状に関して、英語で診断医療面接身体診察症例報告ができるような内容をご紹介しています。ですから「咳・痰」に関してはこちらを、「嚥下困難」に関してはこちらをご覧頂ければ、それぞれの症状に対して英語で診断医療面接身体診察症例報告ができるようになっています。

ただ医療面接・身体診察・症例報告の中でも特に難しいのが、「症例報告(プレゼンテーション)Case Presentation のスキルです。こちらに関しては「基礎編」と「中級編」でその対策をまとめてあります。この Case Presentation のスキルは獲得するのに時間がかかりますので、是非早目に取り掛かるようにしてくださいね。

海外臨床実習で学んだ医学英語を実践しよう!
ここまで紹介してきた医学英語のスキルと並行して、各種試験対策も重要となります。この医学英語カフェではこれまでにも医学生にとって重要な各種試験対策を紹介していますので、まだ読んだことのない方は是非ご一読ください。

医学生の TOEFL ITP 対策
医学生の OET 対策
医学生の USMLE 対策

特に OET は、米国臨床留学を考えている人にとっては USMLE Step 1 & Step 2 CK よりも高い障壁となりかねませんので、早目に対策を始めることをお勧めします。

また臨床医学とは別に研究医学の分野として、「論文読解」「論文執筆」「口頭発表」などの Academic English Skills も重要となっています。これら Academic English Skills に関しても医学英語カフェでは「英語論文抄読会」「出版倫理」「ポスター発表」などの切り口でご紹介しています。これら Academic English Skills に関しては各大学で「研究室配属」を行う時期に合わせて、「実際に論文を読む」「実際に論文を書く」「実際に口頭発表をする」という経験を通して身につけるようにしましょう。

最後に5年生の春休みから6年生の1学期にかけて、多くの大学では選択臨床実習の一環として「海外臨床実習Clinical Clerkship Overseas を推奨しています。大学によっては定員があって全員が参加できるわけではないのですが、個人的にはこのコラムを読んでいる方全員に「勇気を持って海外臨床実習に参加する」ということを実践してもらいたいと思っています。

海外臨床実習に関してはこちらでご紹介しているように、参加前に様々な準備が必要となります。しかし海外臨床実習はそれまでに身につけた医学英語を実践できる貴重な機会です。また母国にいれば母国語で事足りるし、文化や習慣で困ることもありませんが、海外に行けば母国で majority であったとしても、必ず minority の立場を経験することとなります。このように get out of your comfort zone ということを経験することで、それまでとは異なる視点で世界を見ることができるようになります。

これを読んでいる方で「自分には海外臨床留学なんて無理!」と思っている方がいらっしゃったら、もう一度考え直してみてください。ご自身の成長のためにも心よりお勧めいたします。

さて、そろそろカップのコーヒーも残りわずかです。最後に今回ご紹介した医学英語の学び方の概要をもう一度まとめておきます。

 一般教養を学ぶ時期:自分のロールモデルを英語で学ぶ
 基礎医学を学ぶ時期:基礎医学を First Aid と Ninja Nerd などの動画で学ぶ
 臨床医学を学ぶ時期:臨床医学を First Aid と患者目線の動画で学ぶ
 Pre-CC OSCE の準備をする時期:Pre-CC OSCE を Geeky Medics などで学ぶ
 研究室配属の時期:実践を通して Academic English Skills を学ぶ
 臨床実習の時期:Post-CC OSCE を英語でもできるように準備する
 海外臨床実習の時期:勇気を持って海外臨床実習に参加する

では、またのご来店をお待ちしております。

「Dr. 押味の医学英語カフェ」では皆さんから扱って欲しいトピックを募集いたします。こちらのリンクからこのカフェで扱って欲しいと思う医学英語のトピックをご自由に記載ください。

国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 教授 押味 貴之

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