これまで4回にわたり、私なりに在宅医療の魅力についてお伝えしてきましたが、結局のところ、病院医療では体験しにくい、医師として最も大切な“人を診る”ということが最大の魅力だと思います。
一人の人間として患者さんやご家族と接することは、医師としても、人としても成長できる貴重な体験となると考えています。
医療法人社団 貞栄会 理事長 内田貞輔 先生
2015年、静岡市内に静岡ホームクリニックを開設。2016年には医療法人社団貞栄会を設立、同法人理事長に就任。2019年に三田在宅診療クリニック(東京都港区)、千葉在宅診療クリニック(千葉市)、2022年にはなるみ在宅診療クリニック(名古屋市緑区)を開設。“在宅は生活をみること”という独自のコンセプトにより在宅診療の底上げを図り、普及活動にも精力的に取り組む。
在宅には柔軟な発想が不可欠
だからこそ面白い
病院医療と在宅医療には、それぞれ役割があります。ただ、診察や検査の結果に基づいて医療が提供される病院医療に対し、在宅医療では医療以外のことも大切にしなければなりません。在宅には、“生活を診る”という大きな役割があるからです。
在宅医療では医療行為が最大の正義という考え方は当てはまらず、患者さんが一度入院すれば、その後に何が起こり得るのかも想像して対応を決めなければなりません。入院により治療が完了したとしても、認知症が進行したり筋力が衰えたりして、自宅に戻れても患者さんの生活は消えていたというのでは、どれほどの意味があったのか疑問です。
在宅では、可能な限り状態をコントロールし、家庭で過ごせる時間をいかに確保できるかがより重要で、それが私のモットーである“在宅入院”という考え方です。患者さんごとに対応が異なり、生活を含めた総合的な判断が求められるからこそ“オーダーメイド医療”なのであり、それは病院医療では味わえない魅力です。
また、私たちは患者さんの生活を直接変えることができ、症状の悪化や身体の衰えを未然に防ぎ、入院が避けられるよう対処します。そうして点で在宅医療は予防医学でもあるのです。
こうした対応を煩わしいと思うか否かで、やりがいは大きく変わりますが、たとえ病院の医師になったとしても、患者さんの生活に目を向けることは、医師として欠かせない資質です。特に若い方々には、このような医療を実際に体験できる機会をぜひ持ってほしいと考えています。
すべてはコミュニケーション
在宅はそれを学べる絶好の環境
ただ、生活を診るにしても、患者さんやご家族との円滑なコミュニケーションがあって初めて実現できます。そもそも、医学の世界で学んできた話し方はその世界でのみ通じるもので、患者さんやご家族に対しては通用しないことを理解しておかなければなりません。
在宅では、いくら医学的正義を振りかざしたところで、入院のように管理することは不可能です。だからこそ、患者さんやご家族からの信頼が重要で、会話を通じて一緒に、可能な範囲での最良な医療というものを探っていく必要があります。
以前に紹介した、糖尿病患者さんが息子と一緒にステーキを食べたという話も、患者さんにとって大切な出来事であることを理解できていれば、対応は違っていたはずです。その人が望む人生をサポートし実現させることも在宅医の大きな役割であり、魅力だと思います。
在宅医療では病院医療よりも広範囲なチームが存在します。その中にはケアマネジャーなどの介護・福祉の専門職も含まれますが、医師としてのプライドが邪魔をして、そうした人々の意見に耳を傾けないことがあります。そうした方々ともフラットに接することができなければ“生活を診る”ことは叶わず、仲間たちの不信を生むようでは、この先どのような世界で医師になろうと、うまくいくことはないと想像します。
未来ある若い先生たちにこそ
在宅で人間力を養ってほしい
終末期ともなると、医師が傍にいるだけで痛みが和らぎ、話せるだけで安心につながるものです。煩わしい雑務と思われる方もいるかもしれませんが、患者さんが何に不安を覚え、どうしたいのかを確認し、亡くなるまでを一緒にサポートしていくのが、真の終末期医療だと考えています。
それができるかどうかは医師という以前に、人間としての想像力の問題であり、病院医療だから、在宅医療だからという垣根を越えた、医師としての人間力の問題です。
在宅医療は“入院医療の劣化版”などでは決してなく、患者さんの人生を支える“オーダーメイド医療”です。初期研修では必然的に地域医療を経験するはずですが、将来有望な若い先生方にはぜひ、それ以外の機会も利用して、真の在宅医療を体験し、医師として欠かせない大切なものを掴んでほしいと思います。
もちろん、私も在宅専門医・指導医として、そうした体験ができる環境を提供していますので、興味を覚えた方は何なりとご相談ください。
最後となりましたが、先生方の今後のご活躍を祈念しております。
医療法人社団 貞栄会について
患者様の治療に必要な各専門領域のスペシャリストが、患者さんのもとまで「うかがう」、総合病院を目指した取り組みを行っています。「動く総合病院にしよう」「お看取りまでしっかりと」という2つのコンセプトを、心がけています。
患者様一人一人が誇りと尊厳に満ちた人生を送ることができるよう、地域に根ざした医療の提供に努めています。家族がその命を受け継ぐ一助となれるように、その人の人生の最期まで責任を持って寄り添えることが在宅医療であり、これこそが私たちの目指す医療です。
医療法人社団 貞栄会
貞栄会では、医師の皆様の見学や研修を、随時受け入れております。
ご興味のある方は、下記リンクよりご連絡ください。
https://teieikai.com/contact/
- 【第1回】在宅医療の本質とその魅力 ~プロローグ~
- 【第2回】理想の在宅医療とは ~在宅医として欠かせない視点と魅力~
- 【第3回】患者・家族から学び医師として成長する
- 【第4回】在宅医療が実現すべき理想のゴール ~患者が望むゴール(看取り)に与える医師の影響力~
- 【第5回】在宅医療のプロとしてあるべき姿~エピローグ~ 在宅医療の神髄は、すべての医療に通じる基本的資質